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少女漫画と小説の感想ブログです

私が/僕が 一緒に暮らすんだい!と男性たちが始める 幼女を巡る綱引き大会

明治緋色綺譚(5) (BE・LOVEコミックス)
リカチ
明治緋色綺譚(めいじひいろきたん)
第05巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

鈴(すず)の生き別れの兄・春時(はるとき)が現れたことで、鈴と津軽(つがる)の心に距離が生まれていく。津軽に突き放されたと感じた鈴は、兄・春時の手を取ってしまい、その判断が二人の距離をさらに離していくことに。鈴の知らないところで、春時の策略がゆっくりと動きはじめていた。一方津軽は、鈴と離れて過ごすことで初めて鈴の存在を考えはじめ――!?

簡潔完結感想文

  • 引き離されて再会して引き離される。変わりやすい天候がメロドラマを一層 演出する。
  • お互いを かけがえのない同居人として認めて、それぞれに自分から相手の元に動き出す。
  • 鈴の捜索勝負は さがしもの屋の津軽に分がある。しかし津軽の無力化中に状況リセット。

ロインのトロフィー化は読者の喜び、の 5巻。

一部の人を除いて(笑)、9歳の鈴(すず)が青年の恋愛対象になるまでには あと5~6年の時間が必要であると作中で何度も言及されている。作者も9歳の鈴が活躍する『明治緋色綺譚』と、5年後の世界の『明治メランコリア』に作品を分けている。

だから津軽(つがる)が鈴に求めるのは一緒に暮らす人だけで、それ以上の感情はないのだけど、今回 鈴と出会ってから初めて遠距離状態となって津軽が自分の中に占める鈴の大きさに気づくのは一つの大きな進展のように思える。現段階では絶対に恋心ではないのだけれど、恋心に変容し得る熱情を津軽に見られることが読者は嬉しい。一度、強制的に、それが良いと納得してしまう状況が生まれて離れてみて、そこから自分にとっての相手を見つめ直す話の流れが自然だ。

本当に春時(はるとき)の鈴の唯一の肉親という設定は よく出来ている。津軽が鈴を狭い世界から外に連れ出して生きる喜びを与えたのと反対に、春時は鈴を狭い世界に閉じ込めることで大事にしよう(もしくは絶望させよう)としているという対比も素晴らしい

外の世界は鈴の居心地の悪い世界だと洗脳してグルーミングを図る変態おにいさん

そういう感情の変化のエネルギーが少女漫画の推進力に変換されるし、今回は上述の通り遠距離状態になるため物理的な移動や場面転換などがダイナミックになっていて読者を飽きさせない。鈴が単独で一夜を過ごすことになった時も、以前のキャラをスポット参戦させ身の安全を確保しているのも上手い構成だった。

軽と春時、どちらの男性が鈴と一緒に暮らすのか、という疑似三角関係が描かれるのも読書の満足度を高める。鈴がトロフィー化することで2人の男性の鞘当てが起こり、また鈴が自分で動くタイプの人だから行方不明騒動が起こり、彼女を どちらが捜し出せるかという知恵比べの勝負になっている。その勝負で津軽がアドレナリンが出まくって限界まで動き続けていたという事実も読者の頬を緩めさせる。

作者が あとがき で「この物語は たぶん… メロドラマです。」と描いているようにジャンルが初期のミステリ色の強かった内容からメロドラマに移行している。それは長編化するのに最適な変化だし、メロドラマは想定の読者層が好むジャンルだろうから、この変化は大きな拒否反応なく受け入れられたはずだ。1話完結のミステリ短編集では やがてネタ切れを起こし、読者も飽きてしまっただろうけれど、そうなる前にメロドラマの大きな流れを創出したことに力量の高さを感じた。

春時のポジションを作ったことが作品のジャンルも内容も決めた。津軽の身内は全員 出してしまって、彼の方に問題は作れないから、鈴に当初は存在が語られなかった兄を、とびきりの設定を盛り込んで与えた。これによって鈴が話の中心にいられるし、男性たちの鈴を巡る対決にもなる。
不遇や切なさの権化となる春時で、読者人気が高いのも分かる。でも作者の方からも春時への偏愛を感じるのが私は ちょっと苦手だったのだけれど、春時のお陰で作品が更に深化して、連載の継続にも繋がった。春時は作品の救世主なのだから作者が好ましく思うのも当然だろうか。逆に万能だからこそ津軽が動かしにくいのも何となくわかる。


女が すれ違ったタイミングを見計らって現れるのが当て馬の役割。春時は鈴と津軽の関係にヒビを入れた後、彼女を慰撫する役割を担うことで鈴を自宅に誘導する。動機も実行方法もロリコン誘拐犯である。

春時の自宅は横浜。この物理的な距離に鈴は不安になる。けれど兄妹という家族愛を春時に持ち出されると上手に反論できない。次に学校を理由に津軽の家に帰ろうとしても、学校はもう鈴の快適な場所ではない。鈴は実質 軟禁状態になるけれども、それでも人とのコミュニケーションが上手く、逆境にも笑顔でいる。しかし春時は鈴の笑顔を奪うように軟禁から監禁へと物理的・精神的に鈴を一層 縛る。それは津軽と会うまでの外の世界を奪われた不自由。息が詰まる鈴は機転を利かせて安全な方法で外に出る。外の空気を吸いたかっただけだが、やがて自分の歩く道が津軽の家に通じていることを思い出す。

春時は何もかも往時に戻したい。本当は欲しくないけれど爵位を取り戻すことを目標とし、残された家族の鈴も戻そうとする。


軽には鈴の要望で春時と暮らすことになったと伝えられる。だから津軽は飽くまで鈴の意思を尊重しようとするが、鈴の家は広く淋しい。津軽は春時が3年で津軽が親に借金をした身請けした金額を払えるまでになったことが疑問だった。だから春時の会社の裏側、彼の人脈の繋がりに思案を巡らせる。そして鈴が身内といるから幸せではないと考え始め、彼女を迎えに動く。

鈴は歩き出したものの馬車でも4時間かかる津軽の家までの道のりを踏破するのは困難を極める。しかも不運が重なり津軽が乗った馬車と すれ違ってしまう。しかも鈴は往来に飛び出した際、馬車に轢かれそうになる。その馬車が偶然 曲馬団「三雲一座」のもので、『1巻』に登場した叶(かのえ)との再会を生む。それにより安全な一宿一飯を与えられ、落ち着いた鈴は何と言われても津軽と一緒にいる道を望む。

津軽は春時の家に到着するものの門前払いを受ける。春時は鈴は外出中だと言い張り、津軽が再訪する明朝までの時間を稼ぐ。どちらが鈴を早く捜せるか、の勝負のようにも思える。

鈴は知恵と度胸があるから自分から動くが、それが単独行動のリスクを高める

朝、鈴は叶と一緒に横浜に馬車で戻る。そこで河内の姿を発見し、津軽が この街で鈴を捜索中だと聞いて、思考を巡らせ津軽が行く場所を推測する。そのお陰もあって広い見知らぬ街で2人は再会する。津軽は鈴に生まれて初めての淋しさを感じたことを伝える。そして津軽は鈴に家にいて欲しいと初めて自分の感情を表に出す。鈴も自分の気持ちを吐露し、かけがえのない人だと確かめ合うはずが、実は3日不眠不休で心身ともに疲労困憊だった津軽は倒れ込んで眠ってしまう。鈴が目の前にいる安心感が最後の緊張を解いたのだろう。

知恵比べのような鈴捜索対決は津軽に軍配が上がる。しかし津軽が目を覚ます前に、単独行動をした鈴は津軽たちが宿泊するホテルで佐之次(さのじ)に拉致されてしまう。この行動は佐之次の独断。ここで鈴を逃すと春時が鈴を再確保するのは困難になると後先を考えず佐之次は強硬手段に出た。


は昏倒する直前に佐之次の声を聞いており、その状況から佐之次と春時の繋がりを予感する。春時が鈴に執着するのは嫌悪することばかりの実家から出されて過酷な環境に身を置いたはずの鈴が今も笑っているから。その笑顔を春時は歪ませたい。姉の推測通り、春時は浪費家の父が大金を手に入れるために娘たちを遊郭に売る手段を囁いた。自分を汚いものと扱った あの家の全てに春時は復讐したいようだ。

煙のように消えた鈴の行方は春時が知っていると津軽は春時への再アタックを敢行する。その道すがら、津軽は河内に鈴の家は父親の女遊びがひどく、正妻以外から生まれた認知された庶子(しょし)がいることが家庭問題を複雑にしていると考えていた。散らばったピースは どう組み合わさるのか。