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少女漫画と小説の感想ブログです

新キャラ男性の性格や内情調査のため鈴には1巻以上の男性宅滞在が義務付けられる

明治緋色綺譚(8) (BE・LOVEコミックス)
リカチ
明治緋色綺譚(めいじひいろきたん)
第08巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

遠峰(とおみね)による侵食が進む――。再び津軽(つがる)と離れてしまった鈴(すず)。一方、春時(はるとき)は鈴を欧州へ向かわせるため佐之次(さのじ)に鈴を託す。だが、その行動が遠峰の興味を鈴へと向かせることとなり――? 緊迫する状況の中、鈴の恋心が大きく動き出す! 鈴の告白に津軽は――!!<<

簡潔完結感想文

  • 遊郭という幼女には安全な聖域から出てしまった鈴を守るために今度は渡航を命じる兄さん。
  • 鈴は遠峰家の内情を内側から、津軽は外側から探る。共通の敵を確実に叩く反目する2人が共闘。
  • 少女漫画で当て馬がゾンビ復活するように、サスペンスでは裏切り者が何度も暗躍。冷める…。

クープ! 毎巻のように男性宅を転々とする幼女ヒロイン、の 8巻。

これまでに比べると感情面や事件の起伏が少なく間延びした印象を受ける。
単独行動した瞬間に新たな事件に巻き込まれるのは少女漫画ヒロインの宿命とも言えるけれど、鈴(すず)の居候状態も飽きた。こうすることでしか鈴を当事者に出来ないのも分かるけど、春時(はるとき)の家に軟禁されていた鈴は津軽(つがる)によって波風を立てずに数日間 家に戻ることが出来た。けれど今回は遠峰(とおみね)の家に滞在する。男の家を渡り歩く不埒なヒロインに見える。

万能感に支配されている遠峰だけどラスボスの魅力がなく小粒という読者の評価

場面がコロコロ変わることで物語にスピード感が生まれ、鈴は男性キャラの真意や性格を確かめる調査員になれる。でも遠峰に興味が湧かないし、遠峰の鈴への興味も春時の執着に比べれば何百分の一で物語の必然性に乏しい。
物語が遠峰という巨悪を用意することで、これまで反目ばかりしていた津軽と春時の共闘の場面が生まれ、2人が協力したから遠峰にも対抗できるのは分かる。2人のイケメンキャラが鈴を助け出そうとしていることは読者の喜び。それも分かるんだけど、似たような場面が多く、そして興味のない遠峰が黒だという証拠を掴むまでの描写が長い。

また一般的な少女漫画における当て馬のゾンビ復活と同様にサスペンスにおける身内の裏切りは回数制限を1回にして欲しい。同じようなことを繰り返すのは作品にも読者にもメリットがない。※ネタバレになるけれど今回、佐之次(さのじ)の裏切りは驚愕よりも呆然とするばかり。これは平和な津軽、過去を語り尽くした春時に対して、既存のキャラで裏切る背景を創出できる余地があるのが佐之次しかいなかった、という後ろ向きな理由によるものとしか思えない。佐之次の裏切りによって春時が孤立し、津軽との共闘を考えるまで追い込まれるという流れは自然だ。でも後付け丸出しの設定で佐之次の株を下げてしまうデメリットも大きい。

全体の構成は良く出来ているのだけど、いかんせん話が遠大になり過ぎている。
遠峰という巨悪で虚無の存在は実は同じように虚無に見えかねない津軽のために生み出されたのかもしれない、と思った。津軽は「チート(作者の言葉)」すぎて春時のように不器用に執着を見せたりしない。だから春時の登場で津軽が薄情に見えかねない恐れが生まれ、その読者の心証を軽減するために遠峰のような本物の虚無が生まれたようにも思える。ただ遠峰が虚無だから物語を引っ張るだけの力が不足していて、魅力的ではないラスボスに全員で立ち向かうという やや滑稽な状況が生まれてしまっている。早期の遠峰の退場が望まれるけれど、それが連載の終了と同義になりかねないので引っ張るだけ引っ張ろうと言う人気連載になったからこその悩みが生まれている。序盤は1巻内の構成が大変素晴らしかった作品は長期連載と引き換えに その切れ味を失うジレンマを抱えているように思えた。


服屋の放火の実行犯は何者かに唆(そそのか)された奉公人。描かれていないことだけど人の良い呉服屋だけど さすがに この奉公人は罪に問うのだろう。津軽は教唆した人物に当てがある。けれど証拠不十分で追い詰める材料が足りない。津軽は放火の計画も新聞記事のリークも遠峰によるものだと考えていた。そんな時、鈴が奪還されたことを知る。

鈴は血が繋がらないことが判明した兄・春時によって海外行きが告げられる。兄が呉服屋に放火した犯人側ではないことは分かったけれど、強制的に事件から身を引かされること、津軽に心配をかけてしまうことが心残り。
翌朝、春時ではなく佐之次の案内で港に向かうと そこにいたのは遠峰(とおみね)。佐之次は鈴の身柄を遠峰に渡して去る。佐之次の二度目の裏切りだろうか。


の佐之次は遠峰側の要求を持って春時の前に現れた。遠峰は自分に反抗しようとする春時に再度 上下関係を叩き込むために鈴を脅迫材料にする。佐之次は最初から遠峰の支配下にあった。その証拠写真もある。

以前も少し語られていたが佐之次は春時が拾った。何らかの事件か事故で重傷を負った佐之次は死を願ったが、春時の治療により助かったことで命を春時に預けた。春時が面倒を見たのは味方が欲しかったから。しかし今の春時には、生まれる前から味方のはずの鈴も、自分が味方に選んだはずの佐之次もいない。佐之次は自分に出会う前に誰かの支配に会った。

春時が孤独になった状態だから津軽は春時が口を開くと考えていた。佐之次の情報を集めて春時と情報交換を望む。

春時の真意を理解した津軽は彼の味方になろうとする。それは最悪かつ最強の味方

峰は春時にとって鈴が愛情の対象だと見抜いた。だから愛情を知るためにも彼らの仲を引き裂いて観察しようとしている。
鈴が連れてこられた遠峰の家には彼の妻と2人の息子がいた。遠峰は妻子にも愛情を抱いたことがない。鈴は そんな自分より小さい息子たちと交流することになる。遠峰は春時のように縛り付けることで鈴が反発しないようにするためか かなりの自由を鈴に与える。だから鈴は遠峰の息子たちに案内を頼み、屋敷の裏事情を少しずつ探る。

鈴への監視は緩く、春時の家と違って脱出は簡単そうに思える。けれど今の鈴は佐之次のことを知りたいという心理的な抑制があり、自分から外に出る選択肢を消去する。脱走して津軽に会う展開だと以前との重複が生まれてしまうのだろうけど、鈴の思考も理解しがたい。取り敢えず身の安全の確保が津軽のためではないか。

この家に留まることを決めた鈴は この家で出来る限り情報収集をしようとし、入手した情報を屋敷側が出す手紙だと偽装して河内(かわち)経由で津軽に伝える。そして鈴は この屋敷の中で阿片(あへん)を吸う者がいることを突き止める。


軽との情報交換で春時は遠峰が すべてを玩具だと思っている性格を話す。自分が引き起こした事象が自分の想像の中で収まるのか、それとも思わぬ反応が起こるのか、そうして神のような視点で人を観察する。その遠峰から独立し鈴を守るために春時は牙を磨いていた。しかし そこに津軽が鈴の身請けをしたことで鈴が一般社会に戻ってきてしまった。それにより遠峰は鈴の存在を知り興味を引かれてしまった。その発端が春時が鈴を変態紳士のもとに送らないように画策した『7巻』の賭場場。この時の春時の心理状態を見抜き、遠峰は鈴が春時の大事なもの、情をかけている存在だと知ってしまった。

津軽は春時が鈴を苦しめる存在じゃないと理解し共闘を持ち掛ける。そして津軽は調べ上げた佐之次の過去を伝える。佐之次の家は元々遠峰の分家。本名を音和 六郎(おとわ ろくろう)という佐之次は8歳の時に遠峰の家に預けられ、16歳頃に失踪するまで遠峰家にいた。そのことを春時は佐之次を自分の完全な味方だと思い込みたくて敢えて調べなかった。

ここで春時と死の直前の実母の顛末が回想される。実母は桐院(とういん)の家を追い出されたことから世間の全てを呪っていた。残された希望は春時が あの家を支配することだったが、春時は桐院の家を嫌い、家督を継がない意思を見せた。それは自分の存在の否定だと感じた実母は脳に毒が回っていたこともあり、春時が自分を忘れないように彼に母親を刺した感触を残す。命懸けの呪術と言っていいだろう。


峰の家で下の息子が誤って阿片を口に含む事故が発生。遠峰は秘密保持のために医者を呼ぶことを止め、次男の命は命運に任せるとする。これもまた彼の中では余興なのだろう。遠峰なら秘密保持を約束する医師の一人や二人いそうだけど、それを呼ぶこともないという判断なのだろう。
そのまま家を出た遠峰に代わり、鈴は息子が助かる道を模索し、阿片に詳しい秘密の温室の住人を引っ張り出す。こうして命は助かるが遠峰は報告を事務的に受けるだけ。

阿片と遠峰、遠峰と春時、そして佐之次と頭を悩ます問題に直面する鈴の前に津軽が現れる。鈴が送った遠峰家の情報をもとに門から堂々と乗り込んできた。使用人から隠れるために密着した際、鈴の中に津軽への思慕が溢れ出す。こうして しっかりと好意を口にするのは初めてだろうか。2人は久しぶりに探偵と助手となり遠峰家を調べ上げることにする…。