《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

意味ありげに登場させた芸能人たちを宇宙へポーイ! やっぱ初期メン まじ尊い!

オレンジ チョコレート 11 (花とゆめコミックス)
山田 南平(やまだ なんぺい)
オレンジ チョコレート
第11巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

律のスキャンダル騒ぎの中、右近は律に変化し落ち込むちろを遊びに連れ出してしまう!やっと2人を見つけた律と左近を前に、右近はとんでもない宣言を!? さらに見慣れない神使がちろの前に現れて…!?

簡潔完結感想文

  • 4巻使ったドラマ撮影が呆気なく終了。人気アイドルも単なるスキャンダルの道具。
  • 芸能界編が雑に終了して和風ファンタジーの冒険譚の始まり。紅茶の国 突入と同じ。
  • 既存のキャラを捨てて仕切り直した感じが否めない。これがベテラン作家の作品か??

報:芸能界編 マジで不要だった、の 11巻。

作者の代表作『紅茶王子』とは違うファンタジー作品をやるつもりが、どうしても『紅茶王子』に引っ張られてしまう、そんな展開となる終盤が始まろうとしている。

これまでも書いてきた通り、「入れ替わり」や様々な経験が千尋ちひろ)と律(りつ)の関係を単なる幼なじみから生涯を一緒に歩く人へと変えている、のは分かる。そのために これまでの10数年の人生とは全く違う1年がある。

梨絵は女性ライバルでもないのに役割を果たしたら即 いなかったことに。

…が、この2人を描くために世界があるかのような作品の姿勢が どんどん悪目立ちしている。『11巻』では特に女性アイドル・梨絵(りえ)の切り捨てっぷりが一周まわって清々しい。ここまで4巻に亘って律に接近してきた梨絵だが、作者はトップアイドルとのスキャンダル疑惑を出すことを目的としているだけで、梨絵に何の興味もないことが判明する。だから『11巻』における彼女の出番はドラマのクランクアップの場面だけ。もう律や千尋と一緒にいることさえ許されないのか。
そんな仕打ちは律が千尋との時間を削ってきた月9ドラマも同じ。あれだけ心血を注いできた作品の撮影は呆気なく終わる。リアルな読者に楽しんでもらおうと派手なキャラを用意したけれど、結局 作品的には何の意味もないキャラだったということか。そういう作者の考えなしの展開と、キャラへの愛情の薄さが読んでいて悲しくなるほどだ。

梨絵の切り捨て方によって、芸能界編は本当に こんなにも意味がないのかと落胆するばかり。ハルや梨絵といった華やかなライバルたちの登場によって恋愛模様が多彩に咲き誇る訳でもなく、主にハルによる入れ替わり疑惑の追及もないまま、作品は芸能人たちを切り捨てていく。スキャンダルも三角関係も予感だけ漂わせて尻すぼみになって自然消滅する。そうやって読者の期待を何度も裏切るから、ここまでの中盤は読んでいて失望に変わっていく。

そして ここからの終盤は結局『紅茶王子』の二番煎じのような展開を見せて、いよいよ読者は作品を見限るだろう。この作風の狭さが露呈することで、ここまで絵で誤魔化されてきた部分が大きいのではないかと思ってしまった。

千尋と律も ここまでダラダラと入れ替わりを受け入れてきたが(少なくとも強い拒絶や問題解決に動かなかった)、ここにきて問題の本質に迫ろうとしている。芸能界編という寄り道で巻数を稼げたから、特に大きな動機やキッカケなしに解決に向けて動き出す。ハッキリ言って『4巻』あたりから、すぐに この展開が始まっても問題は無い。なぜなら芸能人なんて この作品に いないも同然だから。どうも作者は連載回数や巻数を増やすこと自体を目的にしていたのではないかと疑ってしまう。そう思ってしまうほど全体的な構成が美しくないから私の評価は低い。幼なじみの2人が尊ければ、他の要素は飾り。そんな作品の姿勢に読者は納得できない。


近(うこん)は律に成り済まして千尋と出掛ける。ここで千尋が気づかないのは律と会えた嬉しさで舞い上がっているから、ということに しておこう。

それにしても これまで律は大層な芸能人であったはずなのに、誰にも注目されないし電車移動。後者は右近だから仕方ないにしても、相変わらず作中の律のスタンスが分からない描写だ。しかも この後、本物も電車移動しているし。何のためのホテル軟禁なのか、スキャンダルとは何だったのか、作者の集中力の無さに落胆する。

律(偽物)の目的地がスーパー銭湯だったことで千尋は律が右近の成り済ましだと気づく。しかし彼のペースに乗せられて一緒に水着エリアに行くことになる。

その間、律は左近(さこん)と一緒に、千尋を拉致した右近を追う。この時、虱潰しに温浴施設を巡ったようだが、律も入浴したようだけど、やっぱり渦中の芸能人という危機感に欠ける。

そして ようやく合流した律に対し、千尋は水着姿のまま駆け寄って律を困惑させる。水着姿で遊んで慣れてしまったのだろうが、白泉社ヒロインは いつだって無自覚という面もあるだろう。ヒロインから知性を抜くことで純粋な人間を表している。


流しても別行動をして、そこで右近は千尋に入れ替わりを「なかったことにする」妙案があると言い出す。それが御霊様(ごりょうさま)への直談判。その内容に工夫をして右近は乗り切ろうとしているようだ。しかし それは2人だけの秘密とする。

こうして入れ替わりが始まった御霊稲荷(ごりょういなり)に帰ってきた4人。右近は早速、作戦を切り出すが、それは自分が千尋を嫁にする というものだった。右近の中では、自分たちの願いごとの未達成も、千尋の入れ替わりの決別も一遍に叶えるのが、この提案だった。千尋を嫁にして人間ではなく御霊様の眷属という身分を与えれば、入れ替わりの願いが消滅するという。しかも右近は千尋から「だいすき!」と言われたことも根拠にしていた。
その右近の提案に怒髪天を衝いたのが律。彼は千尋に近づく「男」を許さない。


局、御霊様は何も応えてくれないが、右近は前向きに千尋と接する。けれど いつまでも自分の千尋への態度で、彼女が笑ってくれないと知り、右近は力で千尋を押さえつけようとする。そこに恐怖を覚えた千尋は右近から去る。千尋が妖精的な存在だった右近が いきなり男になって困惑するのも無理はない。ただし右近は この1年間で千尋と律の距離感は広がるばかりで(少なくとも一緒に居る時間は激減した)、千尋に笑って欲しいという思い遣りが根底にある。悪い人じゃないという言い訳が成立するので、千尋の友達として右近は存在を許されるのだろう。

それでも右近と2人きりになりたくない千尋は律に助けを求める。千尋が右近を避けるために退避していたのは図書館。そこで御霊稲荷について調べていた。

そこに描かれていたのは素性の知らないイケメンと ホイホイと結婚し、後に相手が狐だと分かる女性の話。実家に逃げ帰った女性を知った村人は、逃れた一匹を残して狐を撲殺する。けれど女性は やがて衰弱し、その死の間際に狐を二匹 産み落としたという。その狐は最後の一匹と同じように森の中に消えた。

「理解力」の律は これが異類婚姻譚の一種だと理解する。そして女性が異界の者と結婚する際は、結末が不幸なことが多いと傾向を分析する。それは今、右近という異界の者と結婚話が出た千尋の背筋を凍らせる。


が右近に直接 話をつけに御霊稲荷に向かい、その後を千尋を追う。千尋が出会ったのは不思議な、明らかに人間ではない雰囲気の男性で、彼は強制的な入れ替わりを実施して、それで千本参りの願を叶えたことにする。その言葉通り、今回の入れ替わりは右近でも左近でも解除できない。そもそも心身の距離が近くないときの入れ替わりはイレギュラーなのだ。

仲良しになって10巻分 入れ替わりを達成できていない右近・左近に代わる第3の狐登場

それを実行したのは右近たちと同じ神使(しんし)の中(あたり)。右近たちの先輩で上位の存在だが、彼らも中の素性はよく分からないという。

実際、今回の入れ替わりは協力で、これまでのように寝て起きたら戻っているということもなく、ドラマ撮影の最終日に千尋は律を演じながら、役を演じることになる。
しかも24時間が経過しても元に戻らない。この際、左近が心配して2人の幸せに繋がるとは思えないと言っているが、その入れ替わりを実現したかったのが左近ではなのか。左近のスタンスがブレているのは後に右近に指摘される。

そして律が お風呂に入っていないことが判明。律は まだまだ千尋の身体に慣れないらしい。順応力の違いと、思春期男性の心は繊細なのだろう。

入れ替わりが長期化することで千尋の心にストレスがかかり、律の姿で泣く。それを見た律の兄・鎮(しずか)によって心の病気を疑われる。いよいよ家族も異変には勘付いたようだ。こうして人間2人には限界が、左近には正義感が、そして右近は我欲が再び顔を出す。ここから唐突に新展開が始まる。