《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

男女の友情が破綻した告白後は、男同士の友情で作品追放を免れる当て馬の処世術。

スパイスとカスタード(7) (フラワーコミックス)
宇佐美 真紀(うさみ まき)
スパイスとカスタード
第07巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

なまらめん恋!修学旅行編in北海道だよ~。高校2年生になったタマ達は北海道の函館・洞爺湖に3泊4日の修学旅行へ!赤レンガ倉庫と八幡坂に牧場、最終日には洞爺湖での花火。こ、これは、チカくんと最高の思い出をつくる二度とない大チャンス!! だけど偽カレの翼くんが、修学旅行に合流!? カモフラージュだったハズなのに、タマに本気モードでアタックしてきて――!? ナイショのきゅん恋、リアル彼氏VS偽カレでバレる寸前??北の大地で愛を叫ぶ、第7巻!!

簡潔完結感想文

  • ツーショットを撮りたい彼女の気持ちを察して「小うるさい委員長」が策を練る。
  • タマが したいことを的確に察する翼は理想的な彼氏だが、タマが好きなのは別の人。
  • 翼に続き えみる も自分の「好き」を告白し、全員が嘘のない、本物の友情を築く。

の気持ちも ゆっくりと温められて孵(かえ)っていく 7巻。

これまでずっとヒロイン・タマの与り知らないところで繰り広げられてきた三角関係だが、今回 翼(つばさ)がタマに告白したことでタマも三角関係を認知し、そして その決着が付く。結果は明白だから告白の行方にはドキドキしなかったが、自分の気持ちを保留にせず きちんと伝える勇気を持ったタマと、男性たち2人が それぞれに取った行動が素敵だった。

いい加減ではない自分の好きを発見した翼の今後の人生は もっと豊かなものになるだろう。

特に翼は振られたのにも関わらず、彼の格好良さが際立つ場面となっていて、ここで彼のことを大好きになった人も いるのではないか。約1年間 想い続けた人に失恋して頭が真っ白になったり、自暴自棄になってタマとチカの交際を大々的に発表するほど暴走したりしても おかしくないのに、彼は頭の回転の速さを利用して自分が悪者になった。その「泣いた赤鬼」行動をしてから笑顔で別れ、彼らの前途を祝福できる翼は本当に素敵だった。ともすれば単調になりがちな幼なじみ同士の恋愛を面白くしてくれたのは間違いなく彼の功績である。
そして作品へのカムバックの仕方も彼らしいもので笑ってしまった。翼なら自分の心の傷や痛みを周囲に見せることなく、これまで通り、いや これまで以上の友情関係が構築できると信じられる。彼の行動力は、このグループの関係継続や集団行動において欠かせないものだろう。いてくれなくては困る。


してチカもまた翼に負けないぐらいの成長を見せているのが良かった。相変わらず嫉妬や独占欲をエネルギーにしているものの、今回 初めてタマの前で彼女への想いを素直に口に出来ている。これまでは翼との男性同士しか認識していない三角関係においてチカはタマへの独占欲を語ってきて、タマの前では恥ずかしさが勝ってしまっていたが、翼の本気の告白を目の当たりにして、彼にタマを奪われないように自分の愛を叫んだのが印象的だった。

いつもなら喜びで昇天しかねないタマだが今回は自分が誰かを振るというストレスの大きい行動があり、それも ずっと友達だと思っていた翼で、彼との関係が もう終わってしまうのではないかという不安もあり喜べずにいる。しかも この直後に別方向の心配事が出てきたためチカに愛を再確認することなく話は進んでいる。このタマの喜びは いつか爆発するのだろうか。

このタマの心配事というのが えみる がチカを好きなんじゃないかという疑惑。悠月(ゆづき)は えみる との交流開始直後から抱いていた疑念だが、今回 えみる が初めてチカと翼の絡み(?)を見てチカへの思いを爆発させたことで問題が再燃する。このチカと翼の絡みも彼らが恋のライバルではなく改めて友情を構築しようとしたことから始まっていて、話の流れが自然だ。

そして この一件を通して えみる はタマたちに自分の趣味をカミングアウトすることになる。これは翼に続いて秘めていた「好き」を誰かに打ち明けることになり、これで登場人物の間に秘密は なくなり、そして誰も その人の「好き」を否定するような人はいなかった。以前も書いたけれど、変態でも変人でも どんな形でも寛容に受け入れられる世界観が本書の魅力だと思う。そして えみる の一件は、まず悠月との一年生ペア、そこから学年の違うタマたちとの秘密の共有という二段階に分かれているのが良かった。

この『7巻』でチカは男になり、そして増えていったキャラたちとの関係の到達点がある。恋愛面で心配が何もなくなった ここから どんな面白い展開が繰り広げられるのか楽しみだ。


校2年生の5月は修学旅行。行き先は3泊4日で北海道。出発前、自分が不在でも1年生2人で手芸部の活動をすることにタマは感動する。男子校の翼も同じ日程で北海道にいる、という少女漫画あるある が予告されつつ出発。

遠出してもタマはチカと交際していることは内緒で写真が一緒に撮れない。なので自撮りの振りをした盗撮や集合写真で隣に並んで どうにか一緒に写っている写真をゲットしようとする。
しかしチカを追いかけようとしてタマは足を痛めてしまい生徒たちの流れから外れる。そこにチカが やって来て、この後の工程を周れないタマのために写真撮影を提案し、タマはチカの隣で写真を写ることが出来た(律もいるけど)。しかも その後に教師の目を盗んでチカは自撮りでタマと2人きりの写真を撮ってくれる。話の流れもスムーズだし、チカの優しさが素直でスマートで嬉しくなる話である。


ぎ要員のチカの入浴シーンを挿んで、2日目は自由行動。ここでタマは翼と合流し、強引な翼に連れられてタマは牧場に連れられて行く。扉絵ではタマとチカが仔牛と楽しそうにしていたが、現実は翼と一緒。

翼のタマの趣味を把握したプランは ずっと楽しい。この2人は趣味や好みが本当に似ている。タマにチカという幼なじみがいなければ本当に交際していただろうか。
タマと同じく、恋をする翼だって好きな人とのツーショットを撮りたい。だから翼はタマとの写真を望む。この時、翼がタマの過去の発言(初めては全部チカがいい)を覚えていて、ちゃんと断りを入れているところに彼の成長を感じる。チカとのツーショットは済んだものの、タマは翼が好きな子じゃなくて自分なんかと写真を撮っていいものか考える。タマの その発言を聞いた翼は、他者のことも大事に考えるタマに改めて惹かれ、初めて きちんとタマに好きだと伝える。

その発言をチカは後方から聞いてしまう。チカは連絡のつかないタマを心配して、クラスメイトとのグループ行動から離脱を宣言。入手した情報を基にタマたちが いる場所に当たりをつけて駆けつけていたのだ。


うしてタマは三角関係を初めて認知する。予想外の翼の発言に驚き、そして自分の すぐ後ろにはチカがいることに驚愕する。チカの存在もあってタマは純情を証明しようとするが、翼は答えを保留にしてもらう。そして本気の自分の気持ちに どう応えるかをタマに考えさせる。そしてチカとは違い、自分ならオープンな交際が出来るとメリットを強調し、一緒に行動できないチカを置いて、タマを再び連れ去ってしまう。

チカとは修学旅行中は話し合いも叶わないが、彼は ちゃんとタマの心境を理解し安心させてくれる。大人になったものだ。
しかも3日目の夜の花火鑑賞の際、再び合流した翼にタマが連れ去られそうになった時もチカは間に割って入る。皆が花火に夢中になっている中、チカはタマの異変は目敏く発見してくれた。そして これまでなら翼の前でしか言わなかったようなことを、今回はタマの前で、彼女に聞こえても全く恥ずかしがらず、自分にとってタマが どれだけ大切かを感情を剥き出しにして発言する。タマは翼の件がなければ修学旅行中ずっと宙に浮いて戻ってこなかっただろう。

やがて3人の動きは生徒たちから注目を集めてしまうのだが、偽装交際の嘘やタマとチカの特別な関係が発覚する前に翼がアドリブで乗り切ってくれた。しかも自分を悪者にしてタマと別れることを周囲に分かるように伝える。笑顔で別れる翼は やっぱり悪い人ではない。


学旅行の最後は少し苦い思い出になったが、それが終わると翼は いつも通り、チカの実家のケーキ屋でバイトに精を出す。今生の別れのような雰囲気を出していたが、それは恋愛面での けり だけにして、全員との友人関係の継続を翼は望んだようだ。相手の事情なんて お構いなしにグイグイくるのは、律に対するタマと同じで迷惑な人間の系譜である。

女性ライバルと違い当て馬の作品残留率は高いが、翼は抜け目なく友情を結ぶ相手を変える。

そんな「親友」2人の姿を目撃した腐女子・えみる は心が震える。翼×チカで妄想する えみる はチカの彼女の有無をタマに確認し、いない という虚偽報告に手を合わせて感謝する。その様子を見たタマは えみる がチカを好きになったと随分 遅れて心配を始めるのだが、事情を知っている悠月は真相を言うに言えないで困る。

そこから勘違いを重ねるコントが始まり、全員が真相を告白しなければいけない破目になる。えみる は妄想を楽しみ続けるようで、誰も傷つかないカミングアウトになった。こうして1年生と2年生の全体交流がされた ということなのか。

巻末の番外編は、ややシリアスだった本編では少なかったタマの暴走が見られて楽しい。でも もう出禁になっても あっという間に元サヤに戻るので、出禁の効力も薄いだろう。将来 2人で暮らしたらチカの独占欲が爆発して外出禁止の「出禁」とか言い出しそうだ。