アサダ ニッキ
王子が私をあきらめない！（おうじがわたしをあきらめない！）
第10巻評価：★★★☆（7点）
総合評価：★★★☆（7点）
超ハイスペック王子の異常で過剰な愛情が止まらない！王子×庶民の溺愛系ハイパー格差ラブコメ！ 小梅たちを守るため、学園を去った初雪をさらって駆け落ちをしようとした小梅。そんな小梅のまっすぐな想いに応えるため、初雪は、ある“わがまま”を通す覚悟を決める。そしていっそう絆が深まった２人の次に待っているのはーーープロポーズ!? ますます盛り上がり絶好調！ラブの嵐が吹きあれる第１０巻!!
簡潔完結感想文
- 初雪の留学から、不知火兄弟の退学騒動まで王冠学園の生徒流出問題。
- 1人で小梅との問題を解決しようとする初雪と、2人でいる意味を考える。
- 相手にとって大切な人の存在を認められない婚約者は かつての あかりの姿。
庶民は姫をあきらめない！ の 10巻。
表紙通り、2人の気持ちが再び重なり合う。
そして また学期が変わり、新年度に突入する。2年目の1学期は小梅（こうめ）と初雪（はつゆき）が同じ速度で歩いて、2人の問題を2人で解決しようという意識が見られた。特に護衛と称して2人で手を繋いで歩いて帰るシーンは象徴的だった。3学期の交際直後から破局が起こり、落ち着いて恋人らしい時間が取れない2人の、普通の恋愛模様を微笑ましく思った。私は小梅と同じで、嫉妬を素直に認めるとか 恋人繋ぎの機会を虎視眈々と狙っていたとか そういう10代男性の初雪の姿が好きだ。
そして新年度は彼らの恋愛だけではなく、その周囲の人たちにも視点が移る。それが あかり の新・婚約者騒動である。かつて初雪と婚約状態にあった あかり は彼との婚約の解消を親に申し出た。そうなると次の婚約者を家は用意する。そこに あかり の意思や意向は考慮されない。
まだ話の途中であるが、おそらく初雪の次は、彼と同じ格である あかり が自分の生き方を模索し、選択することになるのだろう。そして あかり編で重要なのが不知火（しらぬい）兄。中盤以降、滲み出ていた あかり への思慕。その想いを彼が伝えるのかどうかも見所の一つとなる。
これは小梅・初雪とは逆パターンとなる。王子が庶民を あきらめないのではなく、庶民が姫を あきらめない。しかし格差の問題など現実的な問題は小梅の時よりも重いと言えよう。その よりハードな障害を どうやって乗り越えていくのだろうか。
新・婚約者は あかり の ひとまわり年上の男性で、同級生の初雪に比べると「ロリコン変態野郎」という疑惑が まず浮かぶ。初雪よりも良いところが浮かばない人だが、最大の問題は その性格。あかり が友人だと紹介した小梅らを学園での質の悪い生徒呼ばわりをしたり、無礼な人間のように描かれ、読者から好かれないタイプである。
しかし その婚約者の姿は かつての あかり を彷彿とさせるものであった。自分は人の上に立つ人間だという自負と、その自負に由来するナチュラルな見下し発言など、婚約者の発言は かつての あかり なら言いかねない内容である。
おそらく かつての自分の姿が目の前にあることで あかり が自分がどう変わったのかを再確認する対象になるのではないか。そんな自分の過去と決別することで あかり が変化・成長したことを描くために、露悪的なタイプを婚約者に用意したのだと思われる。
そして あかり が初雪の周辺にいる小梅を不快に思ったように、婚約者は あかり の側にいる不知火兄弟を邪魔に思う。『3巻』で あかり が小梅に言った発言ではないが、「婚約者が気まぐれに拾った犬」という言葉が不知火兄弟にはピッタリという他ない。そういう2つの事柄の対応する部分が本当に よく出来ている。
もし2学期の序盤までに あかり が この婚約者と出会っていたら2人は意気投合したかもしれない。でも きっと今の あかり とは価値観が合わない。小梅との人間的な交流が あかり を変えた。
その他『10巻』では人の配置を変えることで生まれてくる面白さを改めて堪能した。それが小梅の護衛に不知火兄弟が就くという展開。かつての敵が小梅を守る行動をして、味方としては とても頼もしい存在になるという展開を楽しく読んだ。いたずらに新キャラを増やすばかりでなく、こういうキャラの配置の変化だけで新しい化学反応を生むのは作者ならではの技巧だと思う。その代表格は柿彦（かきひこ）だろうか。小梅の継母・姑（しゅうとめ）みたいなポジションでありながら、最大の味方でもあるという美味しい役どころである。
初雪は小梅と逃避行をする。しかし今回の一件は小梅だけでなく四天王も自分の救出に動いたことを知り、初雪は覚悟を決める。
だから自ら芹生（せりお）の前に戻る。それが愛する人たちを守る行動だから。そこで初雪は自分が不幸を恐れて行動していたと反省する。それは現実からの逃避行動と言える。大事なものが出来たから初雪は恐れを知った。神のような初雪だが経験値は足りない。
初雪も恐怖に立ち向かう道を選び、四天王や小梅を一時的に不自由な思いをさせても、全能力をもって いずれ全員を幸せにする。そう初雪は宣言する。彼のカリスマ性は それが信じるに足りる言葉だと皆に思わせ、四天王の許可を得て、初雪は一文字家と対峙する。
その覚悟と初雪の考えを芹生は尊重する。初雪の成長を、彼の本当の願いを芹生は引き出したかったのかもしれない。そして それは一文字家の「御前」である初雪の祖父も同じ。芹生に憎まれ役をやらせたのは彼の意向である。これは一文字側からの試練であった。
こうして初雪の留学騒動は収束する。
一つ謎だった不知火（兄）の初雪の留学先での処遇を知り過ぎていた件は、芹生が不知火（兄）を呼び出して教えたものだった。仕組まれた一文字家側の試練に全員 巻き込まれた、ということだろう。本人も含めて迷惑な一族である（笑）
こうして初雪は愛を取り戻し、しばらく出番のなかったバラは作中で舞い続ける。そして小梅への感謝を一生のものにするために動く。そこからの騒動は本書らしいもの。この日常が戻って来た感じが嬉しい。
3学期は交際からの破局、そして復縁と忙しい期間となった。そして この1年の初雪の心を象徴する品が、例のアレなのだろう（笑）
新年度となり進級した2人だが、初雪は多忙を極め、小梅と会う時間さえ作れない。その理由は次期当主として足場を固め、小梅との交際に口出しをさせないためだった。その情報を教えた あかり は、無茶をしようとする初雪を小梅が制御する責任があると言う。
そこで小梅は手作り弁当で彼の健康面を支える。そして並んで座り、一緒の景色を見るぐらいの余裕を取り戻させる。小梅のためなら新薬開発など無茶をし過ぎる初雪は、目的のために没頭し過ぎて自分を壊しかねない。
初雪が未来を見据えた行動をする中、元婚約者となった あかり に新しい婚約話が舞い込む。相手は名門一家の一人息子で、あかり より ひとまわりほど年上。
その話を聞いた小梅は、初雪との結婚が叶わなかった あかり の自暴自棄な行動と考えるが、それは彼女の選択を不幸と決めつける勝手な判断だと初雪が たしなめてくれる。小梅への迷惑以外は ちゃんと視野が広い人なんだよなぁ…（笑）
それでも自分の存在が あかり の人生を変えたことを気に病み、小梅は あかり を調査する。すぐに不知火（兄）に見つかり、彼から婚約者が決してロリコン変態野郎ではないと教えられ、これ以上の追及をしないよう警告される。相手が初雪でも新しい婚約者でも家同士の政略結婚に変わりないかもしれないが、不知火（兄）は あかり の護衛として生きる以上のことを望まない。
しかし お節介ヒロインの小梅は桃太郎（ももたろう）から あかり のデート情報を掴み探偵業を続ける。一見、良い雰囲気だが、人の本質や本心を捉えることに長けている小梅は あかり の表情に嘘を感じる。しかし警告を無視して あかり の周囲を嗅ぎまわっていたため、不知火兄弟に捕獲され、あかり の前に突き出される。
小梅たちを あかり は学校の友人だと紹介するが、婚約者は王冠学園にも質の良くない生徒がいるから友人は選ぶべきだと優しくも嫌味な忠告をする。そして友人なら自分が用意すると告げ、更に その範囲は護衛の不知火兄弟にも及び、あかり の世界を整えようと勝手に話を進める。
新・婚約者によって新しい護衛（女性）たちが揃えられ、不知火兄弟は護衛でなくなったため目的を失い、退学を考え始める。婚約者が あかり の護衛に同性を揃えたのは、万が一にも自分の婚約者や妻が護衛と過ちを起こすことのないようにという意向だろう。
彼らに（特に兄）に無念を感じ取った初雪は、近頃マスコミに追われる小梅の護衛に彼らを指名する。こうして かつての敵が味方になる。小梅のバックに不知火兄弟がいるという斬新な光景は読者にとって嬉しい ご褒美。
だが やはり異性の護衛というのは初雪でも気に入らないらしく、小梅に気安く触る不知火（兄）に嫉妬を隠せない。そんな等身大の初雪を見られて小梅は嬉しそうである。自作自演の脚本でバラを飛ばしている気がいてならないが…（笑）
初雪の嫉妬による措置と、あかり が新しい護衛を学園内に入れないため、不知火兄弟は学園内では これまで通り あかり の護衛として動く。そして変わりゆく関係の中で、不知火（兄）は これまで以上に あかり に踏み込んでいく。
だが彼らの聖域をも婚約者の護衛たちが踏み込み、度を超えた忠誠は執着だと不知火（兄）を遠ざけようと動く。その動きに対して不知火（兄）は そこに婚約者様の余裕の無さや後ろ暗さを揶揄すると、婚約者の秘書の女性は本当に余裕をなくして平手打ちをしようとする。そこに小梅が割って入り、自分の護衛の無礼を詫び、その場を収める。ここで不知火（兄）が騒動を起こすと致命的なので、小梅グッジョブ。
だが この一件で あかり側の護衛が増える。そして不知火兄弟は あかり との接触が禁じられる。以前、小梅に対して動かない椿（つばき）を けしかけたのは不知火（兄）だったが、今回は椿が彼の話を聞く。そして兄は ずっと隠していた本心を椿には言えるようだ。
