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本当に庶民になってしまっても私は王子といる学校生活を あきらめたくない。

王子が私をあきらめない!(3) (ARIAコミックス)
アサダ ニッキ
王子が私をあきらめない!(おうじがわたしをあきらめない!)
第03巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

絶え間なく降り注ぐ学園の王子・初雪からの愛に、ついに恋心を自覚し始めた庶民・小梅。しかし、夏休みを目前に小梅に突然の転校の危機が!! なんとか力になりたい初雪だが、かえって小梅を傷つけてしまう。さらに学園に謎の美少女が現れて…!? 超ハイスペック王子×THE・平凡女子の超愛され格差ラブコメ、大波乱の第3巻!

簡潔完結感想文

  • 庶民が本当に庶民に転落することで、自分の価値観と優先順位を考える。
  • 小梅がネガティブ思考なのは願ったら傷つくかもしれないことを恐れて。
  • 王子の横に並ぶに相応しい姫が帰還。いよいよ当て馬の沈黙が破られる!?

終回みたいなクライマックスから第2章に突入、の 3巻。

吉田 小梅(よしだ こうめ)は あきらめが悪い。『1巻』で自分の気持ちを認め、『2巻』で初雪(はつゆき)の気持ちを受け入れた と思われた小梅だが、彼女は未だに抵抗する。ちょっとだけ「恋愛リセット」が作動しているようだ。それでも初雪の真剣な表情と大仰な言葉には少しの嘘もないことは小梅にも分かっている。

そんな恋愛の膠着状態を飽きさせないために『3巻』で作者は2つのイベントを用意した。小梅の転校騒動があり、そして2学期から物語の第2章突入である。まるで この転校騒動で小梅が自分の中の初雪と離れたくないという気持ちを自覚し、石に かじりついてでも このセレブ校生活を全うするという覚悟が完了したのを見届けての新展開のように思えた。
神にも等しい初雪は天候をも操るが、庶民の小梅には転校すら操れない話なのだろうか。

そして その2つの事件に共通するのはセレブの庶民への「施し」だろうか。
小梅のピンチに初雪は援助を申し出るが、それは小梅のプライドを傷つけるもので初雪は彼女を助けたいがあまりに手法を間違える。そこからの斜め上の救済法方法が本書の面白いところで、初雪クラスのヒーローになるとヒロインの助け方に豊富なバリエーションがあるなぁ と感心してしまった。

この騒動で小梅は これまで通り頑固なところを見せるし、天邪鬼なところも見せている。特に転校の危機に際して、彼女は平気な振りをしている。むしろ日常が回復して せいせいすると彼女は嘯(うそぶ)くが、その反面、バイトを3つ掛け持ちしている。これは家計を助ける意味もあるだろう。しかし転校危機の原因である親は彼女に働くことを矯正していない。居住は確保しているし、生活が すぐに困窮する訳ではなさそう。別の高校でなら普通の日常が送れるのだが、小梅は自分で働きに出て、生活費の足しと切り詰めを考えている。

それは なぜか。それは小梅は決して言わないが あの学校に通いたいのである。小梅は冒頭の一文とは ちょっと違う意味で あきらめが悪い。例え自分のアルバイト代の全てが1か月の学費にもならなくても、学校に在籍する時間を少しでも伸ばしたい。そして小梅にとって学校に通うことは初雪に会うことと同義であろう。

天邪鬼な小梅だから なかなか認めないが、彼女はもう自分から初雪に歩み寄り始めている。今回の遠距離恋愛騒動で判明したのは、天井知らずの初雪の才能と、小梅の初雪を想う気持ちではないか。図太いと思われている彼女は実際に神経が太いところはあるだろう。だけど何もかも平気な訳じゃない。

周囲に助けを求められない不器用さを、初雪だけは察知して助けようとしてくれるところが溺愛漫画の溺愛を満たすエピソードだと感じた。小梅にとっても初雪は なくてはならない人なのである。

転校危機に初雪と疎遠が重なり、自分の精神がギリギリになって初めて小梅は涙を見せる。

うして満天の星空の次は、満開の花火を見た2人だが、2学期から物語が大きく動き出す。初雪が王子と称されるならば、その相手となる姫がいる。その姫が1年間の留学から帰ってきたという設定で作品に登場する。

だが その姫=あかり はナチュラルに上から目線で小梅に施しを授ける。初雪と同じ天性の高貴な者のオーラを纏いながら、初雪とは違う選民思想を持っている人。

初雪が小梅を助けるための施しは拒絶する理由があったが、あかり の施しは誰も傷つけないが、真綿で首を締めるような部分が同居している。あかり の悪意なき行動は初雪でも制御できない。そうして彼女は天衣無縫に自分にとって心地良い関係性を紡いでいく。
小梅は初雪の空気を読まない、規模の大きな迷惑行為に悩まされていたが、姫は王子とは種類の違う ありがた迷惑な行動に出ている。

少女漫画としてもヒロインに悪意や害意を持って接するような者は排除される運命にあるが、あかり はライバル女性として取り締まられるようなことを一つもしていない。そういう一番 性質(タチ)の悪い方法で近づくのが あかり と言えよう。
悪い人ではないが決して良い人とも言えない彼女の暗躍は続く。

そして あかり という第三者の登場によって、好意を肯定したけど「眠れる当て馬」だった椿(つばき)のスタンスに変化を与えているのだろう。あかり の登場により椿の当て馬としての役割が始まりそうだ。


休みが近づく。しかし その直前に小梅の父親が株に大金をつぎ込み、そして大損をしてセレブ校・王冠学園(おうかんがくえん)の学費が払えない状況になってしまった。祖父のレアアース畑の資金は孫の学費のためなのに、父親は お金に目が眩んだということか。

こうして小梅は いよいよ本物の庶民に転落する。初雪とのバカンスどころではなくなり、彼と別行動を取り、夏休み中は近所の定食屋をはじめとして3つのバイトを掛け持ちすることになる。そうして夏休み中 働いても王冠学園の学費の1か月にも満たないのが現実。住まい は社宅に住み続けていたため確保できるが、転校は待ったなしの状況に追い込まれる。


梅は高校1年の1学期だけで王冠学園を去らなくてはならない。それは元の生活に戻るだけ。でも 小梅は恋をした。だから初雪の声が聞きたくて、彼に連絡をする。けど助けられるのは嫌いな小梅は何も話さず通話を切る。

それでも初雪は彼女の居場所を突き止めて 駆けつける。初雪が歩くと庶民の町に数々の奇跡を起こしているのが笑える。やはり神か。通常なら夏休み中、秘密にするようなことも初雪の異常な行動力によって すぐに共有されてしまう。

事情を知って初雪は資金援助を申し出る。通常なら御曹司は親の金を勝手に使用する展開になり説得力がないのだが、人知を超えた初雪は既に自分で稼いだ資産が莫大だと思われる。
たとえ初雪本人の資産であっても小梅は受け入れられない。庶民の家庭が1つ傾いてしまうような財産を気軽に人に渡してしまえる人と価値観が合う訳がない。

歩み寄って、助けたい初雪だが 助けたいがあまりに人の心を無自覚に傷つけた。そうして初雪は姿を見せなくなる。その後は四天王も人払いして屋敷に籠っているという。


うして初雪が不在になると現れるのが当て馬。椿は夏休みに小梅と一緒にバイトをする。名目上は小梅を重い荷物から助けて、初雪を安心させるためだという。そして小梅に対して、初雪は同じ学校にいられなくなったぐらいで心変わりする人ではないと評する。

だが小梅は自分を冷静に観察していた。セレブ学校の中の庶民。その希少な存在が自分。そこを出てしまえば彼らこそダイヤモンドで自分は石ころだという普通の価値観に戻るだけ。初雪にはダイヤモンドの方が似合うと小梅は涙を流す。そんな彼女を椿は抱き寄せる。椿は妹みたいで放っておけないと何とか誤魔化しているが…。
椿は同じような身分だから弱みを見せられるぐらい何でも相談できる。しかし傷ついた女性を見ると助けたくなるのが男性。椿への恋愛相談は同時に彼を苦しめていると言えよう。


食屋が盆休みの間は四天王の一人・桃太郎(ももたろう)先輩の実家の病院で泊まり込みのバイト。嫌がらせは受けるが、大した仕事をしないままバイト代が入るのは、桃太郎の厚意だろう。

しかし お盆明け、小梅がバイトする必要がなくなる。父親が投資した製薬会社の株価が爆上り。全てが元通りになる。その高騰の裏には「匿名希望の謎の天才」が「とんでもない新薬を開発」したという背景があった。

だが その謎の天才は傘下の製薬会社ではなく、無関係の会社で新薬を開発したことで親族会議にかけられていた。小梅のために斜め上の発想で彼女を間接的に助けた。これによって資産による格差が問題にならず、金銭の授受を持ち出すことで2人に主従関係が結ばれないことは良かった。

親族会議を経ても、これまでの初雪の多大な功績によって最終的には不問になる、というのが桃太郎の見解。本来なら親族会議のこと自体、小梅には伝えられる情報ではなかった。だから小梅は学園に残れることを無邪気に喜べばいい。


雪もまた下手な嘘をつき通す。自分は夏風邪で寝ていた間に、小梅の転校は免れた、というのが彼の中のストーリーのようだ。

こうして変則的に会わない期間が生まれ、2人は久々に再会する。浴衣指定で出向いてみると、初雪は小梅のために花火を上げさせていた。それが初雪が資金ではなく小梅に贈れるもの。そういう心意気が小梅には嬉しい。

小梅が予想していた、初雪は自分を あきらめる という想像は、本当は考えたくない最悪の展開。だから彼が変わらずに小梅を想っていてくれることが涙が出るほど嬉しい。そして小梅も彼の行動への感謝を素直に告げる。一緒に並んで花火を見られる時間こそプライスレスなのだ。

その後、初雪は一族から謹慎処分を言い渡され、夏休みの終盤は別行動となる。これは章と章のインターバルといったところか。そして柿彦は2学期に何かが起こることを匂わせている。


彦の忠告通り、2学期から1年間の欧州留学から帰ってきた花橘あかりが初登場する。学園の姫と名高い、初雪の婚約者。初雪に四天王がいるように、あかり には不知火(しらぬい)兄弟がいる。どんどん登場人物が増えていくのは白泉社っぽいが、本書の場合 彼らで最後ぐらいだろうか。

それは誰が見てもお似合いの2人。初の女性ライバルの登場に小梅に再度 注目が集まり、彼女は教室に居づらい状況となる。
小梅は初雪の婚約者の存在を知らなかったし考えたことが無かった。本心を隠すのが上手い小梅だから平然として見えるが、胸中には嵐が吹き荒れていた。小梅に初雪の能力が備わっていたら、一瞬にして暴風雨が吹き荒れていただろう。

様子を心配してきてくれた初雪にも可愛くない態度を取ってしまう。だが初雪はちゃんと誤解や不安を解こうと歩み寄ってくれる。婚約は幼い頃の親同士の口約束で形骸的なもの。絶対に結婚をしなければならない義務ない。
そして初雪は小梅が あかり の存在で少しでも心を乱してくれたら嬉しいと思ってしまう。そんな彼の発言を聞き小梅は また初雪を拒むことを あきらめたように見える。


かり が小梅を待ち受けていたため早々に2人きりの時間が設けられる。だが あかり は小梅に敵対心や対抗心を持ち合わせていない。そこに小梅は初雪にも似た高貴な者のオーラを感じる。

だが あかり は絶対的に自分が高い位置にいることをキープし続ける。そして初雪とは違い小梅を同じ立場として扱わない。彼女にとっては小梅は気まぐれに拾われた犬(ペット)。それに対して腹を立てないだけなのである。

その後も あかり は自分を「本妻」、小梅を「愛人」と定めて小梅に施しを与え続ける。そこに悪意や敵意はないが、有無を言わさぬプレッシャーがある。初雪は小梅の心労を取り除こうと あかり に持ち掛けるが、あかり は仲を深める作業だと初雪の手出しを やんわりと断る。

初雪を やんわりと牽制できるのが、あかり が王子と並び立つ姫たる ゆえん ではないか。

また護衛の不知火兄弟は柿彦を始めとした四天王が小梅を受け入れ始めている事実を指摘する。そして不知火兄弟は あかり がしない小梅への牽制を開始する。途中で椿・桃太郎の四天王に間接的に守られるが、小梅は これまでにない排除の意思を向けられる。

しかも不知火兄弟は四天王の空中分解も企んでいた。椿の恋心も調査済みで、彼を焚きつけることによって、初雪が小梅から遠ざかるように動かそうとする。あかり の登場の波紋で波風が立たなかった三角関係が揺れ始める、のか?