《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

1000㎞の距離があっても2年弱の月日が流れても、ずっと君のことが好きです星野さん。

好きです鈴木くん!!(7) (フラワーコミックス)
池山田剛いけやまだ ごう)
好きです鈴木くん!!(すきですすずきくん!!)
第07巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

ドラマは急展開!いよいよ高校生編、スタート!!
爽歌・輝・ちひろ・忍の4人は中学3年生に。そこで突然決まった爽歌の転校。落ち込む爽歌を励まそうと輝がデートを計画。出かけた海で、愛と別れの寂しさを体いっぱいで感じた2人。そして学校では爽歌の最後の舞台。全生徒が注目する中、急に演技ができなくなった爽歌に、客席からの輝の愛の告白で自分を取り戻し、爽歌は最高の演技を披露する。引っ越し当日、たくさんの想い出を胸に結婚の約束をして別れた爽歌と輝…。しかしそれが輝が爽歌を見た最後の夏になった…。そして2年後、17歳の季節が始まる。

簡潔完結感想文

  • 性行為は未遂に終わるが、同じ愛情と悲しみを確認して満たされる。
  • 自分が子供だということを理解した上での精一杯の言葉に嘘はなかった。
  • ぎりぎりバランスを保っていた四角形が崩壊し、全ての関係がリセット。

のいない1年はオレにとって1話分に満たない。それが体感速度、の 7巻。

中学生編である第1部の終了直前に、第1部で起きた全てのことをリセットした作者の大胆さに唸らされる。また『7巻』の始まりと終わりは、連載だけじゃなく単行本単位でも次を読みたいと思わせる構成で作者の自在さを感じた。そういえば爽歌(さやか)が歌手設定じゃなくなったのや、引っ越しのタイミングも掲載誌での設定や展開の被りを回避するためだった。そうやって臨機応変に話を変更したり作ったり出来るのが作者の能力の高さなのだろう。

まず読者を引きつけたのは冒頭の性行為である。高校生でもなく15歳の中学生での行動に戸惑うが、そこに彼らの切実さと幼さが出ている。15歳では(2022年の民法改正前であっても)男女どちらも結婚が不可能。まだ将来的な約束も社会的な契約も出来ない2人だから、彼らは その時の自分が一番早く大人になれる(と思った)手段を採った。それが性行為。彼らが欲しかったのは体験ではなく記憶。この人と結ばれた、何もかもを曝け出せる関係になった、また自分の初めてを相手に捧げることで将来の不安を相殺しようとしたのではないか。

幼いからこそ大胆なことをして、その体験で これからの相手が不在の日々を乗り越えようとした。それが彼らの出来る精一杯の行動だった。たとえ達成されても それは性欲とは違う儀式のような行為だったはずだ。性行為が未知のことだからこそ、それをすることが大人への入口になり得るのだ。

まるで卒業式のように2人で思い出巡り。君のいない学校(=世界)は意味なんてなくなる。

して巻末の衝撃も忘れられない。この真相を確かめないでいられる人はいないだろう。

遠距離恋愛を前にした、あの夏の日、何もなかったが一夜を共にして、これからの日々への勇気を持てた2人。しかし彼らの関係は呆気なく終了する。そこが まず衝撃的だった。そして輝(ひかる)・爽歌(さやか)・ちひろ・忍(しのぶ)、この4人が揃っていて、互いを認める関係だったからこそ四角関係はバランスを保っていた。だが この1年半、爽歌が姿を消したことで、4人の関係は連鎖的に崩壊する。

本来、ちひろ は輝たちと別の高校に行くことで、輝から卒業しようとしていた。でも爽歌を失った輝を支えることを選んだ。このまま「順調に」いけば忍への愛を育めたかもしれない。でも不測の事態が起きて、そこで自分の本当の心を、忘れようと努めていた心に気づいてしまう。忍にとって これ以上ない手痛い裏切りである。彼もまた初登場からの俺様キャラを卒業しようとしていた。

中学3年生で誰もが何かから卒業しようとしていた4人だが、その誰もが何も卒業できなかった。高校という新天地に行っても彼らは中学時代を引きずっている。ここから爽歌が不在の2年弱の時間が埋まるのか気になって仕方がない。

これまでのことは全て前振りだとばかりに関係性リセットして第二部から作者の企みが存分に機能し始める。


れから遠距離恋愛になる不安を払拭する確かな証として肉体の交わりを望む爽歌。肌と肌が触れ合う感覚を感じながら、2人は恥ずかしながら裸になっていく。爽歌の背中には『6巻』ちひろ を窓ガラスから守った時に付いた傷がある。それは爽歌にとって誇り。輝も その傷の形が天使みたいだと そこに口づける。いつも優しすぎる輝の言葉に爽歌は涙するが、爽歌の言葉で別れが目前にあることを思い出し輝も泣いてしまう。
輝は爽歌の前では自分の悲しみを我慢していたが、悲しみは抑えられない。2人して大泣きして、その疲れで そのまま寝てしまう。肉体的な交わりは未遂のまま終わったけれど、2人は相手が同じぐらい一生懸命に恋をしていることを知り精神的に繋がる。朝帰りに爽歌の父親は激怒するが、それでも娘がスッキリした表情で戻って来たことに安堵していた。

学校生活の残りの時間を2人は惜しむように一緒に過ごす。そして爽歌の演劇部の最後の舞台には両親も初めて最初から観劇する予定となっている。


後の舞台、爽歌は幸せに微笑んで永遠の愛を誓うはずが、私情が混じり涙してしまう。爽歌が ここまで役から逸脱したのは初めて。爽歌の心情を察知した輝は客席から爽歌への愛を叫ぶ。その愛は爽歌の胸を打ち、彼女は幸せに微笑み、演技に戻っていく。そしてアドリブで劇中の相手に言いながら、客席にいる輝に自分の覚悟を話す。

ちひろ は爽歌との思い出作りに、忍たちと4人で遊園地で遊ぶことを計画する。忍が このダブルデートの提案に乗るのは彼の方が爽歌に借りがあるから。ちひろ との友情を確かめたり、輝と忍が協力してナンパを撃退したりと楽しい一日を過ごす。


して出発の日。爽歌は私服のまま学校に来て、輝と会った最初の思い出である屋上に向かう。すると そこに輝も現れ、まるで入学式の再現となる。2人で校内を巡り、出会いからの中学の思い出を振り返る。

空港で改めて ちひろ と親友宣言をしたり、爽歌の両親が輝に家族に良い影響を与えてくれたことへの感謝を述べる。孤独な世界に生きていた爽歌は輝との出会いで公私ともに恵まれた日々を過ごせた。やはり爽歌は輝への感謝の気持ちが溢れ出す。
最後に輝は爽歌を「星野」ではなく爽歌と呼び、指輪を渡し、結婚の意思を示す。それに爽歌も笑顔で応じ、輝の名を呼びキスを交わした。空港のゲートに向かう爽歌の姿が、輝にとって彼女の最後の記憶となる…。


休みに空港で爽歌を見送ってから3か月、爽歌からの連絡がない。それで輝は受験勉強に身が入らない。だから彼は夜行バスを利用して九州に爽歌を探しに行くという。その話を聞き自分も捜索に参加すると ちひろ が立候補する。爽歌が不在だと ちひろ の中に輝への気持ちが再燃する。現地で何の手掛かりも得られないのに無理して笑おうとする輝が ちひろ は心配。忍は ちひろ が爽歌を純粋に心配しただけではない、と考える。

その予感通り、ちひろ は忍と一緒に受けるはずだった名門高校への推薦を断る。爽歌の不在は ちひろ と忍の関係にも影響を与えた。ちひろ は輝に想いを伝える気はない。だけど寂しそうな輝の そばにいたい。それは忍への気持ちよりも勝るものなのである。

そう間接的に表明され、忍のプライドは切り裂かれる。ずっと待つことを変わらぬ愛の証明とするはずだったが、彼の精神は限界を迎えた。屈辱の涙を流す忍を見て、ちひろ は自分が彼を裏切ったことを痛感する。そして忍も胸の痛みに耐えきれず、もう誰も好きにならないと己に誓う。こうして繋がりかけた4人の関係はバラバラになり、そのまま彼らは中学を卒業する。


して時は移ろい2年後の高校2年生となる。ちひろ は登校前に輝を迎えに行くような、幼なじみとしての立場に戻っている。それでも輝は爽歌のことばかり考え、ちひろ は そんな輝に切ない視線を送るだけ。そして忍は ちひろ が輝の隣に立っていることを通学の車内から見つける。爽歌の不在を除けば『1巻』1話のようなリセット具合である。

輝を卒業するはずだった ちひろ は幼なじみポジションに逆戻り。全ては4年前にリセット。

この春、輝たちの通う高校に新入生として入学してきたのが女優・葵(あおい)エリカの弟・ハルカ。他にも高校の新キャラは登場するが、あまり活躍しない。爽歌がメインになり過ぎて、ちひろ や忍だって おまけ程度になったりしているので、他のキャラが入る余地が少ない。高校で久々に輝がバスケをするシーンが描かれ、ちひろ はまたマネージャーとして活動している。

輝はハルカを見て忍を連想するのだが、それを ちひろ に直接言うということは、輝は彼らに何が起きたか全く把握していないということか。丁度 爽歌の転校や行方不明でゴタゴタしていたので、ちひろ と忍の関係性の変化に気づかない時期なのか。更に輝は無邪気に この2年間、どれだけ ちひろ に助けられたかを感謝する。その言葉は ちひろ にとって嬉しく、爽歌が不在の現在は彼への気持ちを抑えるのが難しくなりつつある。

突然、輝の目に飛び込んできたのは街中の大型ビジョンに映る爽歌に とてもよく似た女優の出演するCMだった。