池山田剛(いけやまだ ごう)
好きです鈴木くん!!(すきですすずきくん!!)
第16巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★★(6点)
長い時と大きな試練を乗り越えて、絆を深める爽歌と輝。スキャンダルにさらされ、世間のバッシングを受ける爽歌。そんな逆境の中でも爽歌と輝は周囲の人々にも支えられ、愛を貫く。「たとえ世界中を敵に回しても君さえいれば何いらない」2人の心も体も、ついに結ばれる時が・・・!!
簡潔完結感想文
- 熱愛スキャンダル。自分のことより まず相手を心配する心が美しい。
- いつだって爽歌のピンチを救うのは輝の大きな愛。その到達点が描かれる。
- 記者会見はヒロイン様の自分語り。最後の輝の登場は青臭くて恥ずかしい。
交際後の波乱も結局、同じように乗り切る 16巻。
注目の女優・サヤカの熱愛スキャンダルによって、輝(ひかる)と爽歌(さやか)に大きな試練が到来する。それを2人の絆で乗り切るまでを描いたのが『16巻』。スキャンダルに翻弄されながらも、2人は まず相手のことを心配するから心に不調を きたしたり、禁じられても会いに行きたくなる。
爽歌が芸能人である限り、どうしても世間からの注目が集まり、2人の交際は平坦な道を進めない。近い将来 絶対に2人の交際は発覚する。それならば交際直後の10代の内に済ませてしまおうと言うのが作者の狙いだろう。今のサヤカが そこまで世間の注目を集めるか?と首を傾げるような過激な報道合戦などの描写もあるのだけれど、最初を最大の試練とすることで、この経験で2人の愛を深めようとしたみたいだ。
問題解決は いつも通り。輝は最初から最後まで無敵のヒーローなので彼と話し合えば すぐに問題は解決してしまう。輝が最強だと分かってからは本書で何が起きても心配にならない。それが最強ヒーローの弊害だろう。
ただし今回 良かったのは爽歌も多少の無茶をして行動を起こしたこと。守られるだけじゃなく、爽歌が行動することで2人の立場が同等になった。そして2人が どんな困難が待ち受けていても進み続ける覚悟を決めることで、関係性も進展する。輝に愛されている確証が欲しかった爽歌は これで無敵になり、この後の記者会見も演技合戦にも胸を張って挑戦できる。『16巻』は2人の愛の到達点で、それ以降は爽歌の物語に偏っていく。輝のヒーロー行動も ここまでか。
気になったのはバッシングばかりのマスコミに対して爽歌が開いた記者会見の最後に輝が登場したこと。その前の爽歌の自分語りも辟易したが、輝の登場で2人が勘違いカップルのように見えてしまった。リアルな対象年齢の読者なら手に汗を握る展開かもしれないが、この辺は現実感の無さや、爽歌が まるで世界の中心にいるかのような描き方で冷めてしまった。1か月後には誰も興味のない若手女優の熱愛報道だろうに、一般人の輝がキリっとした顔で登場する勘違いっぷりが痛々しい。今の輝は究極形態なんだろうけど、10代らしからぬ態度と表情で可愛げがない。ここまで急激に大人にしなくても、と どうしても過去の幻影を追ってしまう。
爽歌と輝の両想いまでを描いた第2部までは連載当初から構想があって、その構想を過不足なく描き切るために慎重さと描写の抑制があったように思うが、この第3部は物語が爽歌と輝を頂点とした世界観になってしまっている気がしてならない。作者のキャラへの過剰な愛が、悪い意味でキャラからナルシシズムを発生させている。
割と序盤から添え物のような扱いになっている ちひろ と忍(しのぶ)。『16巻』のラストで忍の ある秘密が明かされて、彼もまた輝と同じように一人の女性しか愛せない愚直な人間であることが判明した。
ダブルヒロイン体制の爽歌と ちひろ は男性を裏切るという大きな罪に共通点があり、それが2年の空白を生んでいたが、対するダブルヒーローは それでも初恋を貫く共通点があった。私はやっぱり本書の、2組の共通点や類似性、彼らを同列に扱おうと言う意思が見える部分が好きだ。
どうも後半になるにつれ爽歌と輝が1番手になって、ちひろ たちが2番手という順手が確定しているのが好きになれない。特に第3部は もうちょっと ちひろ にページを割いても良かったのではないか。
爽歌の熱愛報道をマスコミが巧(たくみ)との二股交際だとスキャンダラスに報じたため、一般人の輝もマスコミに追われる日々を送る(プライバシーなどない)。清純派女優のサヤカの熱愛報道でCM契約がキャンセルされたり、事務所内は 大わらわ。そして爽歌には輝との接触の禁止が言い渡される。
爽歌は自分の責任だと思う一方で、輝と会えないことに不安を抱いていた。だが そんな彼女の心の揺らぎを輝は受け止め鎮める。2人で乗り越えるという展開になってはいるが、最初から変わらない輝の大きな器が機能している。
輝の家は特定されマスコミだけでなくファンや、この騒動に乗じる者たちによって家族にまで危険が及ぶ。その情報を知った爽歌はストレスから失声してしまう。日が暮れてから その一報はニュースとして報道される(以前の記憶回復時の昏倒したニュースの時といい、テレビで速報として伝える内容じゃないと思うが…)。
輝は爽歌が入院したと知って病院に駆けつけようとする。それによって家族に迷惑が掛かっても輝は今、爽歌を支えてやりたい。そんな輝を両親、そして ちひろ たちが支えてくれる。
どこから調達したのか分からない制服と かつら によった身内と忍で輝の身代わりをする作戦。こうして輝は爽歌の病院に一直線(なぜ今回も どこの病院なのか分かるのか…)。
爽歌も助けられるばかりでなく、自分で輝に会いに行く努力をする。その行動力は偉いが、お前が動くことで事務所を心配させ、マスコミに餌を与えるようになるだろうと言いたい。こうして それぞれに無茶をした2人は巡り合う。マネージャーは爽歌の心労を低減するためにも輝が必要だと考え、2人は事務所が用意したホテルで暮らす。
バッシングと声の不調で仕事が次々にキャンセルされ、出演していた大河ドラマも降板の危機となる。そして声を失うことは演技を奪われることと ほぼ同義。爽歌は将来の不安に押しつぶされそうになる。
ただ輝は女優でなくなっても爽歌の価値は変わらないと力強く告げる。そんな輝の優しさに触れて、2人は肌を重ねることを決意する。
そして心から満たされることで爽歌は声を取り戻す。何があっても2人なら大丈夫。その自信が心に平穏を取り戻させたようだ。また輝の他にも、彼を通じて広がった爽歌の世界が、彼女を支えてくれていることに気づかされ、爽歌は立ち上がる。何より輝は どんなことがあっても爽歌と一緒にいることを覚悟してくれている。たった一人、味方がいてくれれば人は無敵になれる。
だから爽歌は記者会見で全てを話す決意を固める。反感を持つ人が出るのを恐れるのではなくて、理解してくれる人がいることを信じる。そして仕事を通じて結果を出すことで信頼を取り戻そうとする。
記者会見は爽歌を叩こうとするマスコミの悪意に包まれて始まる。そこから始まるのは爽歌の自分語り。それは『1巻』1話から これまでの振り返りでもある。爽歌は記憶喪失と、その間の巧との交際も包み隠さず話す。数奇な運命は同情を買う一方で、長い長い悲劇のヒロインの責任回避とも取られるだろう。
だが そんな異論は爽歌は仕事で証明すると言い切る。この頃の作者が夢中になっていたAKBメンバーの2011年の名言を改変した言葉も飛び出す(掲載は2012年年初)。うーん、まるでパロディみたいで安っぽいと言うか、作者の言葉じゃないのが残念。自分の好きなものを作品に昇華できるのが作者の強みだと思うが、ここまで あからさまに影響を受けていると冷める。
記者会見終了時に輝が登場するのも少女漫画っぽい自己陶酔な展開。世間が そんなに爽歌に興味があると思えず、一時的なバッシングなのに、一般人の輝が しゃしゃり出てきて格好つけているのが恥ずかしい。ここでの輝の登場は不必要だったのではないか。偏見かもしれないが、性行為を経験したからなのか輝が余裕たっぷりの表情を浮かべていることに腹が立つ(笑)急に大人になっちゃったと言うか、輝の こういうキャラに慣れない。
ちひろ は、騒動を経た爽歌と輝の雰囲気から性行為を経験した2人の確かな絆と余裕を感じる。だから今度は自分の番だと知識を詰め込み、恐怖を乗り越え、忍との関係を進めようとする。この ちひろ の焦りは、自分と再会するまでの2年間で忍が恋愛経験を積んでいると思って、その不均衡を解消しなければという思い込みがあったから。
だが忍は ちひろ が焦燥と恐怖と戦っていることを知り、自分も未経験者だと白状する。ちひろ に裏切られてから実際に女性とコトに及ぼうとしても真面目な忍が顔を出し、意気消沈してしまったらしい。愚直なほどに一途なのが本書のダブルヒーローなのである。
ただし この初体験を巡る ちひろ の知識の吸収や、忍の描写は池山田作品らしい品の無さである。爽歌と輝も一度 空回りして互いの言いたいことを言っていて、その後に完遂したので、ちひろ たちも今回 腹を割ったことで いよいよ その日が近いのだろう(残りの話数も少ないし)。