《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

君と過ごす季節が また1つ増える幸福。でも同時にそれは別離へのカウントダウン。

好きです鈴木くん!!(3) (フラワーコミックス)
池山田剛いけやまだ ごう)
好きです鈴木くん!!(すきですすずきくん!!)
第03巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

爽歌、輝、ちひろ、忍、4人は同じ中学に入学した新入生。輝と爽歌がひかれあっている…。そのことに気づいたちひろは自分の気持ちを隠して2人の恋を応援。やがて、お互いの気持ちに気づいた輝と爽歌は、クラスみんなの前で堂々の「つきあってる」宣言! そして日曜日、2人は初デート!一方、ちひろが心配な忍は偶然を装って、ちひろの家へ…!?4人の恋模様が大きく動き出す!!

簡潔完結感想文

  • 気落ちした女性に対して優しい気遣いが出来る2人の鈴木くんとの1日デート。
  • 関係性がプラトニックからセクシャル方面に推移。男性の「生理」を描く。
  • 制服は嘘みたいに生地がペラペラだし、見たくない場面は絶対に目撃する。

1日デートの思い出で9か月は飯が食える、の 3巻。

おそらく作者にとって実験的な内容で、描いたことがないから早く描きたい場面は15歳の別れ以降だろう。だから中学時代における爽歌(さやか)と輝(ひかる)の交際模様は全てが準備。そこにページを費やし過ぎると とんでもない大長編になってしまうから、駆け足の速度で進行する。
その進行の速さが よく出ているのが、中学1年の夏休み前の1日デートの後は時間が経過して、中2の春になっている。最終回でもないのに作中で9か月も時間が跳躍する作品は なかなか無いだろう。初めてのデートが終わったら、それ以降の似たようなイベントは割愛して、次の大事なイベントやターニングポイントまで物語が進む。この大胆な構成によって10代という1年ごとで直面する問題が違う時期のキャラたちの変化が よく出ている。

中学1年生の総決算が夏休み前の1日に到来。これ以上のイベントは中1では起きない。

ただ これまでの作品に比べると大事な部分だけを つまみ食いしている感覚が拭えず、壮大な構成と引き換えにエピソードが大雑把・大味になっているような気もする。長編4作目の作者が これまで出来なかったような連載に挑戦してみたい気持ちは理解できるが、私は こういう作品は最初で最後だったらいいな、と思った。駆け足進行だから偶然が多かったり、伏線を張るための話が多い気がした。

また中1の夏休み前に気まずい関係となった ちひろ と忍(しのぶ)が9か月経っても状況に変化がないというのも、忍の性格を考えると無理があるような気がする。変化がないと言うことは ちひろ は忍と向き合わず逃げ回っていたということで、彼女は そういう人だっけ?と首を傾げる。10代の数か月は永遠と言えるほど長いと思うが、それを一瞬で片付けるのは少し乱暴である。


だし今回のように9か月間の時間跳躍があることによって描けることもある。
『3巻』で描かれていたのは輝の性的な成長だった。作中で1年が経過することで輝が異性に対して、1年前とは違う気持ちや欲求が芽生えてきたことが描かれる。例えば中学の入学式の日の出会いから爽歌の制服のスカートが風に舞ってめくれてしまっていたが、中2になった輝は そこに興奮を覚えてしまう。本当に純粋に相手を好きだという気持ちに性欲が混じることで、輝は上手に爽歌と接することが出来なくなる。

これまでは内気な爽歌が輝に対して上手く気持ちを伝えられずに戸惑うばかりだったが、ここまで どんな爽歌も受け止めてきた器の大きい輝が自分自身に戸惑って関係性が ぎくしゃく してしまう。いつも気持ちの良い性格の輝だから、2人の交際は問題が起きないと思っていたけれど、思わぬところで落とし穴があって、彼らは上手くいかない。たった数か月でも確実に大人になり、時に相手のことより自分のことの悩みが大きくなるのが10代前半の彼らの日々なのである。

同じように ちひろ も自分の中に汚い気持ちを見つけて自己嫌悪に陥っている。輝と同様、正しい自分でありたいと願いながら理想通りに生きられない苦しみがある。爽歌は内気だがスターの素質があり、輝との交際も おおよそ順調であるのとは反対に、ファンは多いけれど一番 大切な人に愛されることのない ちひろ。そんな彼女の悩む姿に共感する読者も多いだろう。ダブルヒロイン体勢だから対照的な生き方が描けている。

そして この幸福な日々は不幸の前触れであることが予告されている。だからこそ読者は この日々が愛おしく思える。未熟だけれど相手を好きで好きでたまらなかった日々。読み返してみると、前半は思い出のアルバムを めくっているような気持ちになる。


だ以前の作品でも書いたが、作者の描くラブコメは表現が古い。2009年の時点で古いのだから、2024年に読むと尚更 古い。おそらく作者の根底には、自分が子供の頃から読んでいた1980年代前後の「少年漫画」があって、そのエッセンスを入れたくなってしまうのだろう。だからヒロインの お色気シーンが多い昭和の時代の破廉恥な内容となっている。私は作者の作家としての力を信じているから最初の嫌悪感は薄れてきたけれど、慎みのない下ネタで、こんな内容と作家名だから男性疑惑が出てしまうのだろう。作者の、直近で見たアニメや子供の頃の愛読書のエッセンスを自分の作品で表現できるのは作者の強みだけれど、この部分は改善して欲しい。

特に『3巻』は輝の「お年頃」を描くために「エッチ」なシーンが増量されていて、その連発に頭が痛くなった。制服はお腹が出るほど丈は短いし、スカートは すぐに風で めくれるなど昭和ラブコメの匂いがする。これは平成以降の少女読者に刺さらない。この部分をアップデートしないと どんどん読者とのズレが広がるばかり。この2024年も活躍している作者だが この辺の要素は最新作で どうなっているのか気になるところ。


と爽歌の交際を ちひろ は遅れて知る。当然ショックを受ける ちひろ だが、心配する忍に対し 彼女は気丈に振る舞る。
夏休み前に輝がデートすることを知っても ちひろ は場所選びのアドバイスをしたり、デートに向かう輝の身なりを整えたり「お姉さん」としての役割を果たす。このデート当日の輝の行動は あざとく、無自覚ヒロインのようである。

2人で初デートをすることになった輝たち。デート用の服を買いに行った輝が同じ目的の爽歌を目撃し、彼女が自分のために着飾り、そして自分のいない所でも自分を褒めて惚れてくれていることを知り輝は舞い上がる。それにしても偶然の遭遇が多いなぁ。

当日、輝たちは爽歌が失敗をしても輝が寛大に許すという いつものパターン。2人で一緒にいる時間が長いと、それだけ相手の色々な表情が見えてくる。この日、爽歌は、これまで学校生活を支えてくれた輝への感謝の印としてリストバンドとタオルを贈る。


ート先から帰ると雨が降っており、輝は自宅に爽歌を招待する。そこでハプニングがありつつも輝は両親に爽歌を紹介する。騒がしくも幸せいっぱいの鈴木家を見て、爽歌は自分の家の静寂さを思い出す。輝がいない間に母親は爽歌に息子のアルバムを見せるが、多くの写真に ちひろ が一緒に写っていることが爽歌は気になり、そして彼がバスケを始めたキッカケも ちひろ であることを知る。

輝が爽歌を送る帰り道、彼は爽歌へのプレゼントを渡す。それは花のヘアクリップ。彼が自分のために品物を選んでくれた事実で爽歌の不安は吹き飛ぶ。そして彼らは想いを重ねるようにキスをする。

この日は ちひろ が落ち込んでいると踏んだ忍が彼女の家に来訪し、お家デートのように まったり過ごす。途中 ちひろ は忍が自分を心配して駆けつけてくれたことを知る。だが忍の帰宅時、ちひろ は自宅前の道路で輝のキスを目撃してしまう。そこで溢れ出る涙で、口では応援すると言いながら、それを納得できていない自分の嫌な部分に気づく。そんな自己嫌悪に陥る忍は励まし、そして可愛いと評価する。その勢いで ちひろ にキスをして忍は自分の想いを伝える。忍は ちひろ の気持ちは痛いほど分かっている。それでも彼女への気持ちを貫き通し、いつか振り向かせると忍は宣言する。
この劇的な1日を最後に13歳は終わる。


いて14歳の季節。2年生となった4人。爽歌は演劇部の中心メンバーになり、輝も身長が10cm近く伸びて爽歌と ほぼ同じになる。変声期を迎え、男性としての特徴が起こり始め、そこに爽歌はドキドキする。それは輝も同じ。女性として花開いていく爽歌に見とれ、そして彼女の身体を求めるようにスキンシップが激しくなり、性的な夢を見るようになる。その後ろめたさもあって輝は爽歌と上手く距離感が掴めない。性愛も含めた恋愛に変わっていくことで戸惑いが生まれる。

この中学校は2年生で修学旅行があるらしく、クラス替えて同じクラスになった4人は くじ引きによって同じグループになる。ちひろ は半年以上、忍と気まずい関係だが彼の方は積極的に変わらない気持ちをアピールしている。


同じグループになったことで爽歌と ちひろ は これまで以上に会話を交わす。爽歌と ちひろ は お互いが輝の一番であることが羨ましい状況ではあるものの、互いに相手の良いところを知っていき(仮想)ライバルでありながら心を通わせていく。

だが2人だけで行動している際、ちひろ が万引きを咎めた高校生グループの襲撃に遭ってしまう。襲撃直前の電話で悲鳴を聞いた輝は忍を連れて、大事な人を助けるために京都の町を駆け巡る。

高校生グループは ちひろ たちに恥辱を与えようと服を脱がそうとする。最初に爽歌が狙われるが、ちひろ は自分だけが犠牲になることを決める。それは爽歌への友情ではなく、爽歌が悲しむことは輝の悲しみに繋がると考えてのこと。この時点では まだ女性2人に真の友情が芽生えたわけではない。

爽歌は ちひろ のピンチを見て、今度の演劇部で演じる新撰組沖田総司を自分の中に降臨させる。殺陣を練習していたこともあり彼女は高校生たちを打ち倒していく。その姿に ちひろ も感化され、自分も立ち上がる。

しかし この修学旅行中に爽歌が役作りに没頭して真剣な顔になるのだけれど、その顔が男顔すぎる。真面目なシーンなのに女装しているように見えて笑いが込み上げてしまう。男性役だから顔も演技してるってことなのか!?

「役者の顔」というより おっさんの顔。作画に力を入れると かえって顔に違和感がある。

「番外編 好きです忍くん!!」…
忍の自宅での俺様ぶりと、彼を矯正させようとする執事・高橋(たかはし)の攻防が描かれる。この番外編で一番 重要なのは、忍は「嬉しい時に耳が動く」という高橋からのタレコミを ちひろ が聞いたことだろう。これによって ちひろ は随分と、口とは裏腹な忍の心情が分かるようになった。