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少女漫画と小説の感想ブログです

藤原くんは どうかしている。いじられキャラのヒツジは道化している。©アサダニッキ

藤原くんはだいたい正しい(1) (フラワーコミックス)
ヒナチなお
藤原くんはだいたい正しい(ふじわらくんはだいたいただしい)
第01巻評価:★★★★(8点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

松本ヒツジは「着ぐるみちゃん」のあだ名で親しまれ、学校中の人気者。でもその人気はあくまで“キャラ”としての人気であって、男子からも女子からも“女の子扱い”されていないことに気づいてショック! そんな時、生徒会長の藤原くんから「女子扱いされたいなら、そうされるように振る舞え」とキツーいお説教をくらう。藤原くんの教えの下、脱キャラを目指すヒツジは、果たして恋愛対象女子になれるの--!?

簡潔完結感想文

  • いじられキャラ女子がイケメン生徒会長に人生相談したら 当然そうなるよね までが1巻。
  • 藤原くんは体育館の壇上からでもヒロインの不自然さを見抜く。その能力は彼女限定?
  • たとえ玉砕しても それが ちゃんと恋になったのは彼のお陰。藤原くんはときどき優しい。

立された個性の消失は つまりは凡庸ということ、の 1巻。

ヒナチなお作品は一目で作者が分かるのが強みだろう。絵はポップで可愛らしく個性がある。吹き出しまで工夫があるのもいい。吹き出しの形だけでなく、吹き出しの中にトーンを使うなどして、まるで その人の声色が聞こえるような感情表現をしている。人物の描き方・漫画表現に磨きがかかっていて読んでいて単純に楽しい。特に この『1巻』は どんな世界が、未来が待っているのかワクワクする気持ちに溢れている。

…が、その一方でヒナチなお作品は至って普通である というのが2作を読んだ上での私の感想。前作『恋するハリネズミ』に続いて訳ありヒーローの匂いが ぷんぷんする。そして前作とは違い、本書の連載は初めから ある程度の期間が保証されたものだったと推測するが、スタートダッシュは良かったが、中盤以降は既視感たっぷりの展開となってしまった。せっかく1ページでヒナチなお作品だと分かる個性を持っているのに、お話の方は それに見合うだけの個性を出せていない。『1巻』におけるヒロイン像、ヒーロー像が良かっただけに、その彼らの特徴が没個性化していくのを見るのは忍びなかった。おそらく多くの人が本書は もっともっと面白くなるような予感と期待を持ったと思う。そこに応えられていないことが残念な部分だった。
大変 厳しい言い方になるが、ヒロインの名前に合わせて言えば羊頭狗肉かな、と思ってしまった。


れはヒロイン・松本 ヒツジ(まつもと ヒツジ)の キャラ変と深く関連している。ヒツジは周囲から「着ぐるみちゃん」と呼ばれ、学校のマスコット的存在としてキャラを確立している。だが実はヒツジにとって それは不本意なキャラで本当は好きな男の子に女子扱いして欲しいという乙女心を持っている。

ヒツジが周囲が望むキャラから自分が願うキャラへと変貌していくのに重要な役割を果たすのが だいたい正しい藤原くんである。正確には名を藤原 和仁(ふじわら かずひと)という。この時に辛辣な藤原くんに指導されて、ヒツジは自己変革を始めるのが物語の始まりである。この2人の関係性は佐藤ざくり さん『マイルノビッチ』を思い出した。

耳の痛い内容でも藤原くんはだいたい正しい。逆に彼が まれに間違える場面を早く見たい。

そのヒツジの成長こそ本書の見所だと思うのだが、では女子扱いして欲しい一風変わったヒロインが、じゃあ本当に女子になったらどうなるか。正解は つまらない女になる、である。ここが作品が抱える最大の矛盾であろう。女子に目覚め、恋に悩むヒツジだが、最初の一歩は大きく踏み出した彼女なのに、その後の成長は見られない。物語もヒツジも典型的な少女漫画展開に呑み込まれて、作品も初期のような切れ味の良さが全く見られなくなる。せっかく読者が応援したくなるタイプの個性を持ったヒロインだったのに、どんどん普通の人になってしまった。これは「俺様ヒーロー」の出オチ感や息切れ感にとても似ている。藤もも さん『恋わずらいのエリー』ぐらい最後までヒロインの個性が死なない物語を期待していただけに、この失速が大きな失望に変わった。

個性の死滅は藤原くんの方も同じで、序盤の彼はヒツジの思考が読める能力を有していた。ヒツジは考えていることが全て顔に出るタイプで、その顔に浮き出た言葉を藤原は解読し、時にヒツジの先回りをしたり、時にピンチを助けたり、叱咤激励したりする。そういう藤原とヒツジの知能の差による何気ないフォローが楽しかったのに、いつの間にかに藤原に先読みや先回りの能力は消えていく。よく読めば そうなる理由もあるのかもしれないが、前作同様 恋愛の成就を先延ばしにするために、藤原は察しが悪くなったようにしか見えない。

残念ながら再読してみて思ったのは序盤って こんなに楽しかったんだ、だった。2024年07月時点では もう次の作品も完結し、その次も描いておられる作者。これだけ絵に特徴があるのだから是非 お話作りの一層の向上を願うばかりである。


校の人気と生徒に覇気がないことを憂う教師たちが一計を案じて企画したのが、「人気者コンテスト」。しかも投票後、全校生徒に人気No.1生徒のブロマイドを配布するというエサまで用意していた(肖像権無視)。こうして女子生徒の得票は無愛想な藤原 和仁(ふじわら かずひと)、そして王子様系の白滝 スグル(しろたき スグル)、そして彼らの取り巻き・岩田 俊哉(いわた としや)に集まる。

学校内トップ3の男子生徒と学校一の無害な女子生徒が最強生徒会を運営する逆ハーレム完成。

だが その人気者コンテストの実態が生徒会選挙であることが医薬品の注意書きのように小さい文字で書かれており、そのせいで藤原は生徒会長になってしまう。白滝が書記・会計、岩田が副会長である。これは岩田の方が得票数が多いのか、それとも適材適所なのか。
しかし この投票方式だと全生徒の半分は いるであろう男子は女子生徒に投票するのが必然で、そうなると生徒会メンバーも男女半々になるのが自然だ。なのに生徒会の初期メンバーは上述の男子3人だけ。ヒツジの友達の鈴谷 カレン(すずや カレン)が男子生徒に人気なのに票が集まらないのは なんか不自然だ。
これは投票用紙に どれだけ名前を書いてもいいという投票制度の不備が原因なのだろうか。それにしても男子生徒も全員 藤原のブロマイドを貰ったのだろうか…。

この人気者コンテストで生徒会メンバーを作り、それを学校の人気の回復に繋げようと言うのが教師陣の考えである。そして作品的には この新生徒会の発足を描くことで学校のトップ3(実質トップ2か?)の男子を一挙に紹介できる便利なシステムとなっている。


校内で「着ぐるみちゃん」と言われてマスコット的な立ち位置で動いている高校2年生の松本 ヒツジ(まつもと ヒツジ)。しかし全校生徒から愛される一方、このキャラは ほとんどの男子から恋愛対象外と言われているのと同義で、ヒツジは女としての自信をなくしていた。

ヒツジに唯一 距離を詰めてくるのがクラスメイトの冬也(とうや)という男子生徒。1年生の時から気軽にスキンシップしてくる彼にヒツジは片想いしている。学校帰りにも2人で遊ぶ仲で、ヒツジは彼から告白される可能性を考え胸が高鳴る。だが その日はUFOキャッチャーで羊の ぬいぐるみを取ってくれただけで冬也は帰ってしまう。

ヒツジちゃんは ほとんどモテない。例外は この冬也だが、藤原の慧眼は彼の本質も見抜く。

その場面を生徒会として巡回していた藤原に見つかる。ヒツジにとって藤原は遠い存在。だが藤原はヒツジを「モジャ子」と呼び、彼女に目をつけ顔を覚えていた。ヒツジの片想いや ぬいぐるみ に辛辣な言葉を重ねる藤原に腹を立て、ヒツジは彼から ぬいぐるみ を奪還する。しかし勢い余って ぬいぐるみ はゲームの筐体の下に入ってしまう。
予想に反して、ぬいぐるみを無価値だと断定した藤原は その捜索に協力的。筐体の下に手を突っ込んだせいで藤原の服が汚れることを危惧したヒツジは後日 自分で探そうと考え、藤原を解放する。しかし翌日、藤原はヒツジを呼び出し、彼女に ぬいぐるみ を渡す。藤原には考えていることが顔に出やすいヒツジの思考など お見通し。こういう先回りの優しさは良い。

考えてみれば この ぬいぐるみ がヒツジに似ているというのは、彼はヒツジを「着ぐるみちゃん」としてしか思っていない証拠であり、藤原が それを否定するということは彼はヒツジをそう思ってはいないという考えも出来る。まぁ藤原は完全に ぬいぐるみ を人生に不必要なもの、と考えているだけだろうが。


子生徒3人で発足した新生徒会だが人手が足りないため、追加で1人募集することになり、その説明のため藤原が各クラスを回る。

ヒツジのクラスで男子生徒から推薦されたのがカレンだった。だが藤原を狙う女子生徒がカレンの存在をやっかみ、立候補したい訳でもない彼女は微妙な立場に立たされる。そんな時に声を上げたのは冬也。彼はカレンを助けるために、ヒツジを生徒会のマスコットに仕立て上げようと目論む。ヒツジならぬ山羊(ヤギ)のスケープゴートである。

冬也にまで女子扱いされないことにヒツジはショックを受けるが、マスコットとして それを隠し笑顔で対応する。この空間の中でヒツジの顔色を読むことが出来る存在は藤原だけ。だから彼はヒツジを教室外に連れ出し、泣きそうな彼女を救う。

だが藤原が救ったのは教室内で泣くことだけ。ヒツジが周囲から望まない扱いを受けるのは、ヒツジ自身が それをキャラとして受け入れているためで、着ぐるみであることを拒絶しなかったヒツジには泣く資格はないと藤原は一刀両断する。現状が変化しない安易な同情を一切しないのが藤原の現実主義のようだ。

そしてヒツジにも藤原の言っていることが正しいことが分かっている。だからヒツジは着ぐるみを脱ぎ捨てて、中の人が顔を出し、女の子として生きたいと願う。

結局ヒツジは生徒会役員の指名によって追加メンバーに選ばれる。内心ではキャラに苦しむヒツジだが、少女漫画的には学校のトップ3の中の紅一点というヒロインらしい立ち位置を手に入れる。ここまでが1話目となる。


子生徒のトップ3が集合している生徒会入りを果たし、ヒツジは女子生徒を敵に回したと恐れおののく。だが女子生徒もまたヒツジを女子として認識していないため、彼女は自分たちの敵ではないと柔和な態度を取る。

冬也はヒツジをスケープゴートにしながら まだ彼女との距離は近いまま。そんな冬也に幻滅するどころか希望を見い出すヒツジだったが、その心の動きも藤原には丸分かり。そして藤原からすると冬也は「好かれてたい けど 付き合う気はない」「ずるい男」。おそらく藤原くんはだいたい正しい。またも藤原から辛辣な言葉を投げつけられ、ヒツジは自分を変革しようとする。

冬也に近づいて見ると、藤原の忠告を聞いたからか彼の「ずるい」部分が目に入るようんある。だけど ここで尻込みしていたら何も変わらないとヒツジは一歩 踏み込み、冬也の彼女になりたいと告げる。
結果は玉砕。言葉を選んでいるものの やはり冬也にとってもヒツジは「女の子」ではなかった。そして その後も冬也は「ずるい」部分を見せて、自分たちの関係を気軽に継続させようとする。
そこに登場するのが生徒会メンバー。藤原は冬也にも正論を突きつけ、彼を沈黙させる。

彼らと一緒に下校する際、ヒツジは涙を堪えていた。だが頑張ったヒツジは泣いていいと藤原が言ってくれ、ヒツジは自分が自分で「女の子」になったことを認めてあげられる。

その後4人はカラオケに行く。ヒツジは当初の予定に巻き込まれただけのように見えるが、藤原が間接的にヒツジのために この場を設けたとも言えよう。そんな彼にヒツジは吹っ切れたような笑顔で感謝を述べ、藤原も一瞬 口角を上げて笑うのだった。

帰りの電車内で藤原は泣くことの効用について理解を示すが、自分の話は壁を作って拒否する。藤原にも語れない彼の本心があるように見える。


生徒会の最初の大仕事は体育祭の運営となる。
この学校では「体育祭のリストバンドを交換すると両想いになる」というジンクスが あるらしく、女子生徒は交換は望まないまでも、リストバンドに藤原からメッセージが欲しいという。これを利用すれば活気のない体育祭が盛り上がるのではとヒツジは考え、彼女たちのリストバンドを預かる。だが藤原にも白滝にも言いだせないまま、ヒツジはリストバンドの代筆をしてしまう。

女子生徒たちを騙し、藤原たちにも迷惑をかける行為になるリスクを考えるヒツジの前に藤原が現れる。様子のおかしいヒツジの言動に すぐに引っ掛かるのが藤原の眼力である。
そこでヒツジは体育祭が盛り上がり、自分が生徒会に役に立つことで3人と仲良くなりたかったことを正直に話す。でも そんな感情論に流されないのが現実主義者・藤原。リストバンドの件は保留のまま、その日は解散となる。

翌朝、女子生徒たちに囲まれるヒツジは正直に自分が書いたことを伝えるが、女子生徒たちが失望する前に、藤原が「オレらが書いたってことにしてくんね?」とフォローを入れて、ヒツジの頑張りが報われるようにしてくれた。

その後、ヒツジは藤原から電話番号が書かれたリストバンドを渡され、今後は すぐに連絡するように言われる。渡されたリストバンドの代わりにヒツジのを交換することになるのだが、それでジンクスが成立してしまうことにヒツジは一人でドキドキするのだった。


育祭当日はヒツジのコスプレの提案も受け入れられ、楽しい催しになりそうな予感を覚える。まだ冬也のことで胸が痛むこともあるが、藤原は そんなヒツジの心を察して、彼女が前を向くように言葉を掛ける。

そんな藤原のことを確実にヒツジは意識し始める。藤原のリストバンドをつけるのが恥ずかしいのも彼を意識する余りだし、彼にまで女子扱いされないと考えるだけでヒツジは胸に痛みを覚える。もしかして自分は藤原に恋をしているのかもしれない、と思うところまでが『1巻』の内容である。