相原 実貴(あいはら みき)
青天大睛(せいてんたいせい)
第01巻評価:★★(4点)
総合評価:★☆(3点)
テキトーにガッコー行って、テキトーにギャルやって…。そんなビミョーな日々を送っていた亜子(あこ)が教師の片寄(かたよせ)クンに恋をした! なんとかして先生に近づきたい亜子は、片寄先生が顧問をつとめる男子バスケ部のマネージャーに志願。ところが、キツい女子マネ・仁科(にしな)やイジメられっこ(?)な後輩・タイジのせいで、亜子の恋は前途多難!! その上 片寄先生は、部活も教師(シゴト)もやる気なさげで…? 亜子のスクール・ラブ・ウォーズ第1巻!
簡潔完結感想文
- あらすじ から まるで周囲の人間が自分の恋路を邪魔しているかのような言い分だ。
- 人のために奉仕できない自分勝手なヒロインが部活のマネージャーになり迷惑千万。
- 100の幼稚な行為も1つの善行で帳消しになるヒロインの特権。単純に嫌いなタイプ。
部活のマドンナになりたいのではなく、貴方のヒロインになりたい、の 文庫版1巻。
相原実貴作品 初体験となった『SO BAD!』が想像以上に面白かったので、期待して挑んだ本書だったが、1話から最終話まで少しも面白いと思えなかった。『SO BAD!』より後の作品なので画力的・構成的に一層 洗練された作品になっていて欲しかったけれど、前者はともかく後者は劣化しているとしか思えなかった。
おそらく作者が得意なのは「一筋縄ではいかない恋愛」だろう。一途な(または猪突猛進しか出来ない)ヒロインが恋をした相手は訳アリで、自分にとって辛い経験が多くても相原作品のヒロインは その恋に邁進する姿勢が前作との共通点である。ヒロインの喜怒哀楽だけでも成立してしまうのが少女漫画で、作品の波乱万丈さとヒロインの健気さが読者から愛される要素となる。
ただし本書における「辛いこと」の半分は幼稚なヒロインの自爆だし、半分はヒーローの人格の破綻が原因だろう。こういう場合、当て馬が真っ当なことが多いが、本書の場合 当て馬こそ人格が破綻していて困ってしまった。要するに主要人物3人とも好きになりづらいタイプで、それぞれに身勝手に生きている。それを未熟と本人が自覚すればいいのだが、本書はどこか全員 反省もなく開き直っているように思えた。ヒロインに関して言えば第1話にヒーローに心酔した後は完全な自己陶酔していて痛々しい。一体 作者は この作品のどこに面白さを潜ませようとしているのか私には本気で分からなかった。
本書はギャル文化が全盛を迎えていた(らしい)1998年発表の作品。なのでヒロインはギャル。ただしギャルは同時代性を出すための小道具にしかすぎず、ヒロインは1話で外見的なギャルは卒業する。しかしギャルが刹那的、という内面的な意味であるなら その精神はヒロインの中に生き続けたと言える。何に対しても本気にならなかったヒロイン・堂本 亜子(どうもと あこ)が恋に夢中になり、その恋の成就のために生きる。そのためなら手段は選ばないが、責任は取らない。作者にとっては 自分本位こそギャルの本質なのだろうか。
しかも自分の暴走が周囲に迷惑をかける可能性に亜子は無自覚である。それに気づくのは事態が悪化してから。今回 ↑ の あらすじ をタイピングしていて思ったが、これは完全に亜子を被害者とした文章である。作品は加害者としての亜子を ずっと無視し続ける。
亜子は あらすじ にある通り、好きになった教師・片寄(かたよせ)が男子バスケ部の顧問をしているから、亜子はバスケ部の押しかけマネージャーになる。けれども彼女が部活を通して やりたいのは部員のサポートではなく片寄との接近。だからマネージャー業を舐め続ける。不純な動機でも それを貫き通せば彼女の成長として描けれるが、亜子の姿勢は いつも中途半端。彼女の世界の中心は片寄であり、恋愛の成就のためにしか動かない。こういう自分の性格が人をサポートすることに不向きなのを自覚してほしいが、作品は常に亜子を困難に立ち向かう健気なヒロインとして描く。そんな都合の良い亜子の切り取り方が気持ち悪かった。
余談として1998年当時は亜子の名字「堂本」だけが男性有名人と同じだったけれど、私が読んだ2024年では「片寄」も連想する芸能人がいる。今回のタイトルも作中と芸能人の2人の片寄の共通点を並べてみた。ファンに怒られなきゃいいけど…。
上述の通り、時代に合わせて亜子はギャル設定である。ただし本物のギャルと違って彼女にポリシーがある訳ではなく、ギャルにならないと時代に遅れるぐらいの程度の軽いもの。これは周囲に合わせた擬態であり、そういう軽薄な姿勢が亜子にはある。
そして恋の相手となる片寄は教師というにはアウトローな人。彼もまたポリシーなく教師になったように見える。彼なりの事情があるようだが、生徒に無気力と不機嫌を撒き散らして気を遣わせるような人である。
2人が出会った日の放課後、亜子は渋谷で遊んでいた。そこを巡回をしていた近隣の高校の教師たちに見つかる。逃げ遅れた亜子が彼女の学校の男性教師に捕まるが、彼は亜子を見逃すという。ただし不問の理由は自分の手間を増やしたくないから。そして話している内に亜子は、その教師が数時間前に亜子の明るすぎる髪色とPHSの所持を咎めた片寄という弟の担任教師 かつ 部活の顧問だということに気づく。学校内のメガネと、渋谷での素顔は片寄の印象的な登場のためだろうか(コンタクトの調子が悪いらしい)。
こうして亜子は運命的な出会いをする。だから翌日も片寄に会いに行くのだが、彼にとっては多くの生徒の中の一人で覚えてもいなかった。だが同じクラスの仁科(にしな)は片寄に名前を覚えてもらっている。それは彼女が男子バスケ部のマネージャーだからだ。そこに不平等を覚えた(なんで?)亜子は、自分もマネージャーに志願する。2年生の春(?)という中途半端な時期であるが、片寄に近づくためだけにバスケが好きだと嘘をついて入部を希望する。
片寄はそれを許可するが、亜子の やる気を測るために髪色を変えるように指示する。もしかして片寄はアウトローに見えるけど意外に考え方が固いのか? こうして亜子は長く明るかった髪を、短く黒くする。しかし亜子の甘えた考えは仁科には お見通し。だから仁科は亜子に自分のやって来た仕事を見せるのだが、亜子は それをイジめのように受け止める。自分のことを棚に上げるのは得意らしい。
それでも1週間はマネージャー業務に徹するが、「毎日ばっかみたい」と舐めた本音を隠さない。片寄目当てで入部したものの、彼は気まぐれにしか部活に顔を出さない。それでも会えれば胸は高鳴る。だが目の前にいても片寄は亜子のことが視界に入っていないかのように振る舞う。落ち込む亜子だったが真面目にマネージャー業をしていれば、落ち込んだ後は幸運が舞い込むのが胸キュンの法則。亜子の頑張りを片寄が認めてくれ、彼が自分の名前を憶えていてくれたことに感動する。まぁ冷静に考えれば、担任のクラスの生徒で部員である克巳(かつみ)の姉なのだから、名字ぐらい言えるのは当然のような気がするが、それだけでも亜子には嬉しい。
この1話はメタモルフォーゼが2回見られる。1回目は片寄がメガネを取ってイケメン化する時。そして2回目は亜子のギャルからの変身である。それぞれが変身したことが互いの印象に残り、恋の第一歩になったのだろうか。でも亜子が片寄に恋をした理由が ほとんど見た目だけで、この後の暴走を支えるには弱い。もう1話使って亜子のピンチを片寄が助けることで陥落させるぐらいの余裕が欲しい。これでは拙速である。
恋をしてから亜子は片寄の個人情報を収集する。片寄 明仁(かたよせ あきひと)26歳。10月05日生まれAB型。早稲田大学教育学部卒、という細かいプロフィールが設定されている。
2話はタイジという1年生のバスケ部員がメインとなる。彼が自分の中学時代のことを黒歴史として封印している雰囲気を察知した亜子は、タイジのイジメ被害を疑う。そしてタイジと2人きりの時に彼が上級生に連れていかれてしまい、亜子は 先ほど別れたばかりの片寄に救援を求める。
だが片寄は放置を決め込んだ。自分がケンカが弱いこと、そして6時を過ぎ勤務時間外であることを理由にテキトーな処置をする。彼の唯一の支持は2、30分したら養護教諭を呼ぶというものだった(その人も勤務時間外では?)。
その冷徹な指示に亜子は幻滅し「バカっ」と罵声を浴びせる。亜子の予想通り、部室内でタイジは暴力を振るわれていた。だが亜子が外部と連絡を取れることを見て彼らは亜子に乱暴を働こうとする。それで覚醒したのはタイジ。上級生をワンパンで次々と のしていく。
実はタイジが封印していたのは自分の内の凶暴性だった。それが亜子を守るために目を覚まし暴走した。二重人格のようなタイジは害意のない部活の先輩にまで手を出そうと動き、亜子はその人を守るために間に入る。そんな亜子のピンチを助けるのが片寄だった(タイミングを見計らっていたかのようだ…)。
片寄はタイジの二面性を知っていた。だから彼が出した養護教諭の召喚はテキトーはテキトーでも、的確な指示であったのだ。意図せず片寄を殴ったことでタイジは正気に戻る。そして片寄のヒーロー行動を見た亜子は20分ほど前に「バカっ」と罵倒した片寄に再度 惚れ直す。「堂本 亜子は うっとりです…」という気持ち悪いセリフに彼女の嫌な部分が滲み出ている。
この件は現場に居合わせた者だけで内密に処理するはずだったが学校側に露見してしまう。片寄は嘘をついて事実を改ざんして報告しようとする。だが問題児のタイジの個人攻撃になった際に彼の名誉を守る言動を取る。そこから弱小の男子バスケ部への攻撃に目標は移るが、片寄は沈黙を貫く。
男子バスケ部への糾弾を片寄への叱責と勝手に変換する亜子はバスケ部の実力を認めさせようと躍起になる。しかし彼女が本当に守りたいのは片寄の名誉である。そしてバスケ部の練習時間が増えれば片寄との交流も増えるという安直な考えに辿り着く。本当に恋愛脳で うんざりする。本当に片寄に恋をしているのであれば個人的に頑張ればいいのに自分の目的にバスケ部を巻き込むことや、周囲へ迷惑をかけることを全く考慮しない。そもそも片寄は男子バスケ部に寄り付かない人だと聞いていたではないか。
そして男女のバスケ部の実力差も知らなかった新人マネージャーが越権行為をして失敗する。それを「余計なこと」「迷惑」と一刀両断するのは片寄。真実を言い当てられて落ち込む亜子も大概だが、その後に彼女の頑張りをすぐに認めてしまう片寄も甘すぎる。
部員たちも亜子の案に反対する。体力を削られるのは彼らなのだ。根回しもせず結果だけ報告するから反発され、マネージャーの先輩である仁科も亜子の暴走と真意を厳しく糾弾する。
だが今度は そんな仁科が女子バスケ部から名誉を傷つけられて、亜子が先に手を出す暴力事件が勃発する。そして練習時間の増加どころか部活停止処分を下されてしまう。こんな時でも亜子は「あたしのせいで 先生が」である。もっと詫びる相手がいるだろう。タイジの尊厳を片寄が守ったように、仁科の名誉を亜子が守った。これで2人と聖人に認定されたということなのか…。
亜子は一応 男子バスケ部と、そして片寄の処分撤回のために動く。今回は独断ではなく仁科も一緒。100悪いことをしても1つの善行でヒロインは許されるらしい。この件で亜子と仁科が唯一無二の親友になったりすればいいが、亜子は片寄以外必要ないから親友すらいないまま。世界が狭すぎて嫌になる。
だが仁科との行動も空回る。どうやら本書ではヒロインの落ち込みを優しくフォローするのがタイジの役割、そして厳しくフォローするのが片寄のようだ。今回はタイジから勇気をもらって亜子は女子バスケ部の雑用を受けると申し出る。亜子を快く思わない女子部員たちは調子に乗って不必要な注文を繰り返すが、そこに仁科やタイジという協力者が現れる。その上、亜子と仁科の働きかけが功を奏し男子の処分は解除。こうして平和が取り戻される。
だけどタイジを発端として起こったことだが、事態が悪化したのは どう考えても亜子の暴走が全ての原因で、彼女が褒められることなど どこにもない。こうして部活の救世主ヒロインになった亜子にはご褒美として、片寄との交流が待っていた。責任を取って辞めようとする亜子が、片寄に引き止めれて、すぐに「…ほ…んとは やめたくなんか ないんです…」と言い出すのには乾いた笑いが漏れる。頭が悪すぎて頭が痛くなる。
この時の亜子は片寄への愛の告白をしていて、それをタイジが裏で聞いていた。だからタイジは彼らを邪魔しようと乱入し、亜子の告白が恋愛的ではなく人間的な好意に 差し替えようとする。このタイジの試みは成功し、片寄は亜子を子供扱いし、一線を引く。
近づいては遠のく片寄との距離。それに絶望した亜子は、少し前の生活に戻る。遊び過ぎた亜子は体調を崩す。この時の「飲んだ」というのは飲酒だろうか。2020年代では絶対にないが1990年代の作品ならあり得る。
学校を休んで家にいる亜子の元に片寄が来る。別に亜子を心配した訳ではなく、弟・克巳の担任としての家庭訪問。本来、応対するはずの母は急用で外出中。母が戻るまで自宅で2人で話している際に片寄の携帯電話が鳴る。それで緊急事態を察した亜子は渋谷で行方不明になったという片寄の大事な人を一緒に探す(次の家庭訪問先や教師としての職務は放棄…?)。
誰を捜しているのかも分からないのに亜子は頑張る。この時、体調不良でも頑張るヒロインのように片寄には見えているだろうが、飲酒と自堕落な生活が原因なので私たち読者は自業自得にしか見えない。そして結局 亜子は片寄のためにしか頑張る動機がないことを残念に思う。
片寄が捜している小学1年生の男の子・潤(じゅん)を発見するのは亜子。片寄の関係者の前では亜子は まるで聖女のように優しい言葉を掛けている。しかし その男の子は片寄の「息子」だと言われる。
その言葉に唖然とする亜子。どうやら「ムスコみたいなもん」らしいが、その情報は亜子には伝わらない。障害の多い恋愛を演出したいだけだろう。そのことを知らない亜子は片寄が既婚者・子持ちであると認定し絶望する。
そうして呆然と渋谷を歩いている時に亜子はキレて二重人格が出ているタイジに遭遇する。タイジを なだめようとする亜子だが、その際に片寄の名前を出してしまいタイジの機嫌を損ねる。そしてタイジは亜子に片寄の名前を言わせないように その口を自分の口で押える。片寄に責任を取らせるためにタイジは更に暴れる計画を立てる。だが亜子は片寄が自分が完全に興味の対象外であることを思い知ったばかり。
翌日、再会したタイジは温和な方。だが その状態でも彼は亜子と片寄の接近が気に入らないことを撤回しない。
片寄の息子の存在などが気になる亜子は同級生のバスケ部員・沖野(おきの)から話を聞く。どうやら片寄を全面的に信頼する亜子に対して、部員の沖野やマネージャー・仁科は彼に幻滅している様子を見せる。彼らは片寄と過去に何かあったらしい。この時は男子バスケ部の練習時間中なのだが、亜子は片寄のことで頭がいっぱい。彼女の反省なんて3日も続けば上等なのだろう。
沖野の情報によると、片寄は高校・大学とワリと有名な選手だった。その有名選手だった片寄が、沖野の中学のバスケ部でコーチをやることになり、その時の片寄は全国を目指すことを目標に熱心に指導していた。だが大一番の試合で彼は試合会場に現れず、そのまま蒸発した。その不信感から沖野は片寄を快く思っていない。もたらされた その情報も亜子は盲目的に否定する。なんたって「あたしが すきんなった ひとだから!」。それには同意をしかねるが沖野は亜子の片寄の既婚・子持ち情報は否定する。
亜子が部活を おろそかにしている場面を目撃した女子バスケ部員は彼女に嫌がらせをするために部室に閉じ込める。真剣に部活をやっている人ほど中途半端な亜子が疎ましく思うのは当然としか思えない。
そこに登場するのは片寄。再度 家庭訪問をした堂本家で亜子が帰ってきていないことを知り、亜子のピンチを救う(何時に家庭訪問してるんだか)。だが片寄も鍵を調達できず、亜子は閉じ込められたまま。亜子は片寄先生のためなら聖女になれるので彼に自分の放置と帰宅を促す。だが片寄は扉越しに亜子に寄り添う。
2人だけの長時間の会話を絶好の機会と捉えた亜子は片寄に踏み込む。だが片寄は息子の存在を亜子に口止めするだけで正面から答えない。彼が そのことを正直に話すのは、無事に脱出して、片寄が車で亜子を送った その車内。片寄は「ハタチんトキ結婚した」。しかしいろいろあって「奥さん」は今はもう 俺のトコにはいない。ムスコとも一緒に暮らしてるワケじゃない、と言う。
自分はメンドーな男だから やめておけ、というのが亜子の好意に対しての片寄の答え。衝撃的な内容であったものの、片寄が自分に対して個人情報をここまで開示したことに亜子は彼との距離の接近を感じていた。ダメだ こいつ…。
片寄は亜子に寄り添っていたために体調を崩す。そこで亜子は見舞いを考える。片寄の自宅を知っている沖野をはじめバスケ部員4人で押し掛ける。これで亜子というモンスターが片寄の家を知ってしまった(苦笑)
片寄は調子の悪そうな声を出しながら生徒たちを自宅に入れない。そこに冷たさを覚える沖野は帰宅を選択する。こうして一同は帰るのだが、亜子は自宅に戻って お粥を作ってから片寄の家に とんぼ返りする。夜も遅くなって片寄の家を訪問する亜子は、当初は お粥を置いて帰るつもりだった。しかし亜子の訪問に驚いた片寄は玄関を開け、そして亜子は この家にムスコの潤が看病のために来ていることを知る。1回目の訪問で片寄が頑なに玄関を開けなかったのはムスコがいたからであった。
片寄は潤の朝食を亜子に買いに行かせ(夜は危険って言ったのに?)、その間に お粥を食し眠ってしまう。それを目撃した亜子は甲斐甲斐しく看病し、今度は自分が疲れ果てて寝てしまう…。亜子は片寄の前ではいい顔をする天使のような悪魔である。