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少女漫画と小説の感想ブログです

ヒーローは異性の隣に立っただけ裁判で有罪だが、異性とキスをしたヒロインは無罪。

ラブ・モンスター 6 (マーガレットコミックスDIGITAL)
宮城 理子(みやぎ りこ)
ラブ♥モンスター
第06巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★(4点)
 

SM学園中華分校の勢力争いに巻き込まれたヒヨ子。その上、なぜか黒羽と敵対するハメに…!? 生徒会長の座をめぐり、ヒヨ子は朱里率いる朱雀一行と、黒羽は黒繭率いる玄武一行と共に伝説と言われる「麒麟」の捜索に向かうが…?

簡潔完結感想文

  • 刺された傷が瞬時に消える化け物ヒロイン。浮気を繰り返す馬鹿者ヒロイン。
  • 転生や復活が導入されて物語の展開がダイナミックというか大味というか。
  • 結界を破ることが力関係の証明。黒羽の最強化はセカイの終わりの始まり。

うたびに強くなる、の 文庫版6巻。

この世界における力の優劣は「結界」で確かめられるらしい。当然、結界を破れる者は それを張った者より強いということになる。ヒロインはヒヨ子は どんな結界も無自覚に破り続けて世界最強であることが繰り返し描かれる。一方でヒーロー・黒羽(くろう)は力任せに結界を破ってきたのだが、『6巻』の最後で この世界で最強の存在と言えるヒヨ子の父親の張った結界を破り、黒羽がヒヨ子の父親を超えたことが暗示される。

毎回、黒羽はヒヨ子が知り合うイケメン男性たちのトラブルに巻き込まれ、彼女を救うためにイケメンたちと繰り返し戦ってきた。どうやら戦いが黒羽を強くするらしく、彼の力は磨かれていく。そして それは魔王の再来と危惧される黒羽が世界を破滅させる前触れでもあるのだろう。結界による力試しが示されたことで、いよいよ最終章に突入するということなのだろう。

作者はコメディ回の中で それを発表している。
中華分校の長いエピソードは ただの黒羽の修行の一環で、その後の結界破りこそ本編なんじゃないかという逆転現象が面白い。そして中華分校行きも劣等生・ヒヨ子の補習によるものだったが、これもまた黒羽がバトルに参加する理由付けでしかないのである。彼がバトルで本気になるために、ヒヨ子の前にイケメンが現れて、彼女を誘惑し傷つける。そうすることで黒羽に誰かと戦う理由が生まれるのである。

今回の中華分校の内紛は、そこの生徒たちの手によって解決したのが良かった。ここで黒羽が敵役を倒しては まとまる話も まとまらなくなってしまう。彼はちょっと修行がてらバトルするだけ。そしてヒヨ子は最後の最後まで無能であることは変わらず、最後に最強の力と聖母の心を見せれば いいだけ。イケメンに ちやほやされて、出会ったばかりの彼とキスをする。その後に お腹を刺されたはずなのに、すぐに傷跡さえ見られないという謎の現象が起こるのには唖然とした。白カラス様の力は そんなところまで及んでいるのか。


かし気になるのが、ヒヨ子の頭の悪さ。自分は黒羽に嫉妬してもらおうと手近なイケメンとイチャイチャしているのに、黒羽が異性のそばに行くことは許せない。そして彼にだけ裁判を受けさせ有罪にする。自分はキスまでして、油断から命の危機を招いたのに、そういう自分のミスや愚行は一切 詮索されない。そういうヒロインばかりが優遇される作品が私は好きではない。

こんなことしても裁判で自分は被害者だと言い続けられるヒロインの厚顔無恥には恐れ入る。

また出会ったばかりの分校の生徒たちのドラマが軽いのが気になる。連載作品としてスピード感を維持しなくてはならないし、ヒヨ子と黒羽以外の描写に そこまでページを割けないからなのだろうが、何もかも2倍速で起こっているような印象を受け、読者は物語のアウトラインしか なぞれない。この中華分校のエピソードだけが単独で存在していたら、全5巻ぐらいの面白い話になったのだろうと思うのだけれど、いかんせん主役が別にいるので、ちょっとした驚きと人間ドラマぐらいしか描けない。

しかも上述の通り、分校のトラブルは黒羽の修行の前座でしかない。なので いよいよ分校の話に興味が持てなくなっていく。文庫版では あと1巻で終わるのは丁度良い分量なように思う。ヒロインがイケメンと知り合いセクハラを受け続ける話なら いくらでも描けるだろうけど、今回は誰かが成長する描写を保持し続けていて作者の作品への意思や意欲が ちゃんと見える点が良い。


華分校での内紛で、敵対的関係になったヒヨ子と黒羽。ただし今回はヒヨ子の幼稚な暴走が原因ではなく、黒羽の方がヒヨ子の話を聞かない状態である。

ヒヨ子は この不毛な内紛を止めるために、中華分校での伝説の存在「麒麟」を探しに行くことを提案する。そこへ中華分校の学園長が登場し、敵対する2つの勢力を一堂に集める。そして麒麟を探してきた者が次期生徒会長だという。次期当主争いをしていたLたち一族といい、どうして伝説の存在を当てにするのか(中華分校は学園長の100%当たる予知夢が根拠とは言え)。

そして麒麟を呼び出すエサとして この世界で白鳳と呼称される白カラスのヒヨ子が駆り出される。


のエピソードではヒヨ子が最初に出会ったイケメン男性・黄(ワン)は朱里(シュリ)に恋をしているため、黒羽の嫉妬を煽る存在としてリンという男性が突然 登場する。ここでヒヨ子がリンから愛されるのは展開として理解できるが、このリンを利用してヒヨ子が黒羽にイチャイチャを見せつけることに失望を禁じ得ない。毎回 アホみたいに互いの側に異性がいることに腹を立てているが、ヒヨ子の場合、自分が やられたら嫌なことをしているのが幼稚である。この人が最強と言われても応援も共感も出来ない。

いきなりネタバレするとリンはミスリーディングのためにだけ存在している。ヒヨ子が勝手に勘違いし、そして彼女が貞操の危機というピンチを迎えるために存在している。ヒヨ子に近づく人間が いつも男である理由は、こうやって劣情を催すために その性別が必要なのだろう。でも女性は常に男性の性欲の対象でしかないのが気になる。それはモテるということとは違う。

このピンチに黒羽は助けに来ない。その代わり黄(ワン)が駆けつけるのだが、彼はあっさりと殺され、そしてヒヨ子もリンの怒りを買い、大量の血を流す。その伝説の存在の血をリンが舐めたことで彼はドーピングの恩恵を受け強くなる。

そうなってから ようやくヒヨ子のピンチを黒羽が知る。黒羽の使い魔であるカラスのカータンは2人が離ればなれになった際の伝書鳩ならぬ伝書カラスとして存在するのが面白い。


(ワン)によると朱里と生徒会長の座を争う黒蘭は昔は仲が良かったらしい。だが友情の間に愛情が割って入ったと思って2人は仲違いした。
Lたちもそうだったが、ヒヨ子や黒羽が関わると、高校生世代の妖怪たちが一致団結するという展開が多い。もしかしたらヒヨ子の父親など この学校の親世代の者たちも こういった冒険を一緒にして仲を深めたのかもしれない。

戦闘と和解によって4勢力が力を合わせることでリンは打ち倒された。といっても彼のドーピングは効果が切れるのも時間の問題だったと思うが。
この最後に権力欲に溺れた小物のリンの命をヒヨ子が救うことで、彼女こそ世界で一番 慈悲深い存在として描かれる。勉学は出来ないし、好きな相手を試すようなこともするけど、世界の救世主なのである。今回は物語の展開上、朱里にリンを倒す役割を譲っているが、ヒヨ子は真のヒロインとして最後に優しさを見せるのだった。


ヨ子に感化され朱里が憎しみの連鎖から解放されることで彼女は麒麟に選ばれる。その後 結局、リンは悔恨から自分の命の終焉を望む。朱里に手を下されることを望むが、朱里は逡巡する。そこで麒麟がリンを転生させる。赤ん坊に戻ったリンは朱里たちによって育てられる。黄(ワン)もまた新しい姿で朱里たちの前に現れる。彼こそが麒麟だったのだ。彼の覚醒は朱里が慈愛を見せたから起きたこと。

転生したり生き返ったり、もう命の価値が ぐちゃぐちゃである。バトルも大味だし、ドラマも薄っぺらいし。ってかヒヨ子の刺し傷は どうなってんだ!? リンが白鳳でもあるヒヨ子の血を口にするために必要だったのは分かるが、その後に痛そうな顔も見せずに、最後には傷跡まで見えなくなっているのは どうしたことか。


うして問題が解決したら2人は自分たちの学校に戻る。これは課題をクリアしたから。忘れていたがヒヨ子の訪問理由は補習で、麒麟をみつけたら即 終了だという。
最後にヒヨ子が敵側にいた黒羽に対して怒っているが、黒蘭にデレデレしていた黒羽よりもリンに抱きついて飛んだり、キスをしたりしていた自分を棚に上げているのに嘆息する。

しかも戻った学校では黒羽の浮気裁判が開催される。全生徒参加型のコメディで面白いのは面白いのだが、ヒヨ子の自分本位の考えに頭を抱えてしまう。裁判を経て本当の仲直りまでを描き、そして再び 仲違いする。お互いに浮気状態になれば2人の距離は離れては縮まる。この繰り返しである。

学園内での浮気裁判。黒羽が私服で そして周囲から糾弾されるという構図が新鮮で面白い。

ちょっとした「するする詐欺」となって、バカンス編が始まる。これは修学旅行のようなお泊り回といったところか。そして この回で重要なのは黒羽がヒヨ子の父が作った結界を破った事だけだろう。これで黒羽が、最強の生徒会長として伝説的存在のヒヨ子の父親に肩を並べたということか。ヒヨ子も強くなっているが、黒羽もまた強くなっているのだ。

にしても黒羽は最強のモンスター同士の子供であるから異質な存在になるのは分かるが、母親が人間のヒヨ子はモンスターの血は薄まっているはずである。それでも力を有しているのは単に運の問題なのだろうか。その容姿と無自覚の才能だけで愛される。そこが読者に受けるのだろう。