宮城 理子(みやぎ りこ)
ラブ♥モンスター
第05巻評価:★★(4点)
総合評価:★★(4点)
白カラスを手に入れるため、SM学園本校からやって来たブラッドフォード家の3人。有名な吸血鬼一族の彼らには、なにやら深刻な事情があるらしく…? そしてその中の1人、背は小さいが態度の大きいLは徐々にヒヨ子に惹かれていくが…!?
簡潔完結感想文
- どの学校の生徒でも その土地の最強イケメンに愛されるヒロイン特性を発揮。
- ヒヨ子の最強の準備が整う一方で、黒羽の「最恐」の準備も着々と整えていく。
- 結局、最後は奇跡による解決が待っているかと思うと真面目に読む気が起きない。
世界観を変えても、世界の構造は同じ、の 文庫版5巻。
再読して ここまで結構 物語を楽しめたことに驚く。長編漫画としてヒヨ子(ひよこ)と黒羽(くろう)の恋愛感情が高まっていく様子にグラデーションが付けられていて、ヒヨ子が黒羽の愛情に陥落していく様子が楽しめた。そしてモンスター(妖怪)ばかりの学園生活も最初は自分の学校の紹介から始まって、徐々に世界観を広げていく様子が楽しめた。
…が この『5巻』辺りから眠気を催すようになってしまった。その原因はマンネリとインフレだろう。
まずマンネリの問題点としてはエピソードが変わっても話の構造が変わらない点である。物語が転がり始めるためにはヒヨ子がイケメンと知り合わなければならず、そのためには お目付け役の黒羽と別行動を取らなければならない。あれだけ黒羽から単独行動をするな、と言われてもヒヨ子はイケメンの誘いに何かと乗ってしまい、ピンチに陥る。そうしなければ話が面白くならないのは承知しているが、男にホイホイついていく頭の中が5歳児のヒロインの様子が段々と腹が立ってくる。ヒヨ子の能力が どんどん開花して強くなっていっても決して賢くならないのは読者の年齢層や好まれる作風に合わせているからなのだろうが、そこに作者の限界があるように思う。以前も書いたが本書は21世紀で大流行する「転生モノ」のように、異性と知り合い、とんとん拍子に問題が解決していく様子を気楽に楽しめるという利点がある。でも読者のレベルに合わせ続けることで作者が成長できなくなり、結局 作品内で再放送を繰り返すようになってしまっている。全体としてヒヨ子と黒羽の能力が限界まで開花する様子を描いているので新しい要素もなくはないが、既視感の方が多いのは否定できない。今回は性的描写が少ないのが救いである。性被害にあい続ける頭の悪い女性の話は もういい。
そして このヒヨ子と黒羽の能力の開花が作品内でインフレを起こし始めている。これまでは横並びの学園生活だったが、この辺りから世界にとって特別な2人の「セカイ系」の特色が色濃くなっていく。これは狭い世界の話ということと同義でもあり、これまで登場してきたようなライバル(主に男性)のような要素すら作品は受け付けなくなっている。となると話は壮大な痴話喧嘩でしかなく、2人の愛情の再確認で世界に平和が訪れる、というバカみたいな結末が待っているだけである。
この『5巻』の中盤では最終回かと思うほどのヒヨ子の危機と黒羽の慟哭が描かれていたのだが、作品は それを一瞬で解決してしまった。これもインフレによる障害であろう。
絶対的なピンチも一瞬で、その人の中に眠る能力を理由に、解決してしまうのなら、もう お話としての面白さは終わりである。その後から新しく舞台を移した話が始まっているが、そこでも きりの良い所でヒヨ子と黒羽が一瞬で話をまとめてしまうかと思うと真面目に読むのがアホらしくなってしまう。
和洋中と世界の神話や伝説を作品に取り込むという構成は好きだが、個人的には『5巻』の中盤でヒヨ子最大のピンチと黒羽との別離の世界線になって、そこから黒羽がヒヨ子の存在を取り戻すために行動して最終回でも良かった気がする。何でもありの能力を使ってしまった時点で作品のバランスが崩壊している。この匙加減の失敗は ちょっと まずかったのではないか。
ヒヨ子の死という衝撃展開が面白かっただけに、その後の雑な解決は失望が大きかった。
白カラスを娶ったものが次期当主という一族のK・J・Lの3人。ヒヨ子が彼らに羽を見せたことで本物の白カラスだということが証明され、そして3人中2人が その羽に魅了されてしまう。当初はLに花を持たせる運びだったのだが、ここから親族同士の争いが始まる。いつだってヒロインは男性のトロフィーであり続けることを存在意義にしている。それもこれもヒヨ子が黒羽の正式な婚約者ではないから起こること。前のエピソードで ここに決着をつけなかったのは恋愛の延長のために必要だったのだろう。
彼ら一族は吸血鬼(ヴァンパイア)。だがLは人間の血が吸えない体質で身体が弱る一方。そして彼は栄養補給が出来ないため、成長が止まってしまった。カラス天狗ながら羽を持たない黒羽、羽の色で差別されてきた灰音、そして純血でありながら成長が止まったL。作者はどうも男性キャラに足枷をつけて苦しめたいらしい。Lにとっての絶体絶命のピンチに必要なのがヒヨ子の羽なのである。
そんな一族の現状を黒羽がJから説明を受けている間に、ヒヨ子はLと外に出掛けてしまう。いつもヒヨ子を黒羽から引き剥がすことで話は始まる。そしてヒヨ子は黒羽の忠告を毎回 聞かない。この5歳児並みの知能の女性のどこが好きなのか謎である。もっと低年齢向けの雑誌なら分かるが、「マーガレット」で これをやってしまうのが残念すぎる。そして私が作者の作品を評価しない部分である。いつかは知性を持ったヒロインの話を描いて欲しいものだ。
黒羽は遅れてヒヨ子の行方不明を知り、学校中の者が彼女を探す。この前の話もヒヨ子の行方不明だったなぁ…。そして大体 彼女はイケメンと行動している。
Lはヒヨ子を庇い怪我をする。彼が血を流したことで血に対する渇望が強くなり、目前にいるヒヨ子の血を吸ってしまう。そうしてLは強大な力を得るのだが、致死量まで吸血されてしまいヒヨ子の心臓は止まってしまう。
それを知った黒羽は怒りで我を忘れてLを殺そうとするのだが、間に入った学園長の身体を貫き我に返る。園長は不死らしく身体に大穴が空いても命に別状はないようだ。
一方、ヒヨ子が助かる道は彼女がヴァンパイアとして生まれ変わる方法だけである。それは転生に近いもので、記憶のリセット・人格の変容が予想される。それでも黒羽はヒヨ子に生きていて欲しい。
それはLがヒヨ子と生気を交換することで、行動的にはキスを意味していた(快感的にはエッチと同じ、というアホな設定があるらしいが…)。自分が一番 見たくない物を見ても、黒羽はヒヨ子の生存を望む。それほどに彼の愛は深い。
ヒヨ子の安全が確保された後、黒羽はLの羽をもぎ取る。それは死ぬほどの苦痛なのだがLは甘んじて その痛みを受け入れる。
やがてヒヨ子にはヴァンパイアの羽が生えてくるのだが、その直後に羽は変化し、通常の白カラスの羽に戻る。そしてヒヨ子は何も失わずに元通り。白カラスが最強の存在だからと言って話が ご都合主義すぎる。
この回で黒羽の力を目の当たりにした学園の年長者組、瞳と学園長は黒羽が魔王と呼ぶべき存在なのではと考え始める。聖なる者・白カラスと対を成すのが魔王だという。ヒヨ子に続いて黒羽の覚醒があり、いよいよインフレの気配が見える。作者は白と黒、光と闇という対の存在を描きたいらしいが、あまりにも直球すぎて辟易する。厨二病が爆発している。
騒動が収束すると留学生たちは本国への帰還を考える。学園で一騒動起こせれば彼らは お役御免なのである。しかしLが帰還することは彼の命に危険があることをヒヨ子は知り、自分の血を捧げ続けることを約束する。こういう自己犠牲も少女趣味だなぁと思う部分ではある。複数イケメンがいても その最も高貴で最強な者だけがヒロインを愛する。彼女に言い寄れるのは身分の高い者だけ。ここには完全な身分制度が存在している。
こうしてLはヒヨ子目当てで この学校の生徒に正式になる。
そこから大きなエピソードを繋ぐブリッジである学園の日常回となり、高校生らしいテストがあり、勉強回となる。黒羽やLに手取り足取り教えられてもヒヨ子の頭は良くならない。作者の好きな対称性じゃないけど、ヒヨ子はおバカで最弱の存在ながら最強というのが いいのだろう。そして少女漫画はヒロインが賢いことの方が少ない。おバカでも愛されるから読者は夢を抱き、共感するのだろう。
だが勉強の甲斐 虚しく、ヒヨ子は補習となる。
夏休み返上の補習は実技。彼らは中華分校に行くことになる。Lたちは この学校(極東分校)に来た留学生だったが、今度はヒヨ子たちが留学生となる。「たち」というのは学園長の計らいで、ヒヨ子だけでなく黒羽も一緒に行くから。これは大人たちが危惧する黒羽の魔王化を監視するためでもあるのだろう。過去の出来事と同じように黒羽の未来はヒヨ子と一緒にいることで不確定になり、平和的な解決が起こるかもしれないという願いも込められているはずだ。
中華分校は分校ながら一番 歴史が古い。そして他校との交流がなく神秘のベールに隠されているという。そして いつものように、中華分校へのワープの手前で学園長が黒羽を呼び止めたことでヒヨ子は最初、中華分校で単独行動となる。
ここからヒヨ子が騒動に巻き込まれて、新しいイケメンと知り合うというのも いつものパターン。このイケメンが仲介役となって、4つの勢力(実質1対3)で争っている中華分校の単独勢力・朱雀の中枢に潜り込む。この争いで彼らは生徒会長の座を争っているらしい。Lたちは跡目争いだったし、結局 妖怪も権力を巡る争いをしているということか。
そして黒羽は敵対勢力に取り入っていて、2人はロミジュリ状態となる。