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少女漫画と小説の感想ブログです

10代男性ヒーローは高熱でしか記憶喪失が出来ないが、オトナ男子には いつでも酒がある!

リビングの松永さん(3) (デザートコミックス)
岩下 慶子(いわした けいこ)
リビングの松永さん(リビングのまつながさん)
第03巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★★(8点)
 

シェアハウスでの暮らしにも慣れきた女子高生のミーコ。一緒に暮らす松永さんのことをどんどん好きになるけど、「家族みたいに思ってる」と言われて大ショック! そんななか、友達と遊びに出掛けた夜、門限に間に合わなかったミーコを、松永さんは迎えにきてくれたうえに、「オレに心配させろよ」って抱きしめて…!!? オトナの男の人って、ズルすぎる!! JK×オトナ男子の歳の差ときめきシェアハウス・ラブ 第3巻!

簡潔完結感想文

  • 巻末に思わせぶりな台詞を吐く商売上手の松永さん。酔ってた、は理由になりません。
  • エアコンが壊れたので同じベッドで寝る。が、この家には使ってない部屋&エアコンあり。
  • 相手の誕プレのためにバイトを始める夏休み。サプライズなので会えない寂しさは無し。

近とリセットが巻末と巻頭に行われる作品の 3巻。

これまでの経験から次の『4巻』も巻末詐欺なのではと身構えてしまう。だって『1巻』の巻末でヒロイン・美己(みこ)が告白したと思ったら、『2巻』の巻頭では告白の影響がほぼないまま話は進み、『2巻』の巻末で松永(まつなが)が路上で美己を抱きしめたと思ったら『3巻』では飲酒による記憶喪失でのリセットという肩透かしの展開となっている。この『3巻』の巻末も非常に気になる台詞で終わっているが、この時点で松永が飲酒していることもあり、大きな事件は起きないと思われる。いや、失望したくないから そう思うことで心を守ろう。
2人のつかず離れずの距離感が楽しい時期だから次も そうなっても まだまだ構わないが、この手法もいつか限界は来るだろう。作者にはそれを見誤らないで欲しい。

飲酒ってズルいですよね。
ただ松永の場合は、飲酒しないと本音が言えないという部分はあると思う。なので翌日には2人の関係性がリセットされてしまい、美己は感情が追いつかない部分が多いとは思うが、酔っているからこそ本当のことを言っている松永の言葉を信じて欲しいと思う。ただ未成年の美己には飲酒の効果が分からないから、松永の気持ちを分かれというのも酷な話だ。
美己が感じているような年齢や経験による差は、実は2人の間には それほどないと思われるが、飲酒ばかりは経験できない。アドバイスすれば少女漫画における高熱が出る風邪回を参考にせよ、ということぐらいか。風邪回は不自然に寝言を言っても、前後不覚でキスをしても無罪になる治外法権が適応される場面。今後、松永の吐息にアルコール成分を感じたら、ここでは何を言われても/何を言っても、その後の人間関係には影響しない、ぐらいの心持ちでいて欲しい(笑)

高熱の時、酔っぱらっている時のヒーローの言動は秘めたる願望の証。ヒロインの皆さん、こっちが本音。

そういえば松永は喫煙しているシーンはないので、タバコは吸わないのだろうか。デザイナーという仕事もあって、納期直前には彼の周囲には紫煙が漂ってそうなイメージだが それがない。もしかしたらシェアハウスの住人の条件は非喫煙者なのかもしれない。バーテンダーの健(けん)ちゃんも吸ってないし。現住人とのトラブルや退去後の臭い、火災になった場合など問題が多いからシェアハウスは禁煙推奨なんでしょうか(検索すると喫煙可のシェアハウスもあるみたいですが)。

そろそろシェアハウス恋愛あるある もネタ切れになりかけて、一番近くて遠い恋愛描写にシフトしていく予感がする。松永の裸、肌の露出も この辺が限界であろう…。
『3巻』の、エアコンの不調からの一緒に寝る話は、同じ巻でエアコン完備の空き部屋があることが発覚し自己矛盾を生んでいたなぁ…。この家の配置を把握していない美己は ともかく、松永の方は空き部屋の存在を知っていたんじゃないかという疑惑が浮かぶ(笑) それなのにJKと添い寝パパ活をしたいがために、嘘をついていたように見える。シェアハウスは少女漫画の舞台としては いつでも交流できるというメリットがあるが、部屋数が多すぎるのが難点ですね。美己はともかく、作者自身も このシェアハウスの全体像を理解していない/考えていないのではないかという疑惑すらあるし。エアコン故障回も色々と理由をつけていたが展開が苦しかった。その上、後に空き部屋があることが判明したのには苦笑した。


場の場所を告げて合コンに参加した美己を心配し、松永は迎えに来る。路上で抱きしめたり、帰宅後も美己に近づくような男に対して攻撃的な発言をしたりと松永の言動に美己の心は高鳴る。1人になってからも松永の真意を考えて更に苦しくなる美己だが、翌朝になると松永は、全てが酔ったはずみの言動で何も覚えていないという…。リセット機能が発動したようだ。

翌日は熱帯夜となり、その上、松永の部屋のエアコンが壊れたという汗だくの松永を美己は洗面所で発見する。大丈夫だという松永に、美己は お節介を焼き、その後、自分の部屋に松永を招き寝てもらう。これは松永が自分を過保護に心配することの恩返しでもあり、接点を持ちたいという多少の下心もあるだろう。そして色々な理由をつけて、シェアハウスの各部屋を使えなくしているのがポイント。いかに住人同士の仲が良くても、不在の人の部屋を勝手に使うのはマナー違反なのだろう。ま、上述の通り、空いている部屋もあるのだが…。

そして2人でベッドに並んで眠る。『2巻』の腹痛回では、ベッドと床だったが、少し(というか かなり)距離が縮まった。隣で横たわる松永の熱を感じながら、美己は目をつぶる。その人の体温を感じるだけでドキドキしてしまうという描写が秀逸。

彼女が眠ったと思って声を掛ける松永。だが美己の特技は狸寝入りか(『1巻』に続き2回目)。寝ている振りをして相手が動くのを待つという なかなか狡猾な手段を使うJKである。しかし美己が本当に寝ていれば薄目が開いているし、眼球が動いていることを知っている松永なら見分けられそうなもんだけど。
松永は理性をフル活動させないと自制が崩れそうな状態。そんな松永の葛藤を知った美己は自分が恋愛対象外ではないことを意識する。

一緒に寝て分かるのは、体温が高いっぽい松永は睡眠中に服を脱ぐということ。朝に出会う松永が半裸な理由はこれらしい。どうでもいいけど、松永さんは足が長すぎなくて良い。顔も小さいし、スタイルは悪くないが、胴もちゃんと長いのが日本人らしくて安心する。これは作者に やり過ぎない加減が出来る画力があるという証拠だろうか。


7月の最終日に、美己は8月が松永の誕生日だということを知る。松永 純(じゅん)は8月17日生まれのしし座のО型。今年で28歳。

好きな人、それも大人への誕生日プレゼントに悩む美己。その資金を溜めるためにバイトを始める。この時期に松永が忙しいのは、美己のバイトの動機を根掘り葉掘り聞かないようにする安全装置でもあろう。オカン松永が子供に目を配る余裕がないため、互いに干渉せずに済んでいる。サプライズのためのすれ違いは、寂しくないすれ違いだ。会わないでいたい、と思うのは この時ぐらいだろう。本当に会えなくなったら絶対に寂しい。

カフェでバイトすることになった美己。そこで働いていた大学生スタッフはシェアハウスの住人・北条 凌(ほうじょう りょう)だった。これまで個人的な接点のなかった2人が接点を持つ。たが込み入った事情を他人に話したくない凌は、互いにバイト先が同じことを秘密にする協定を結ぶ。これは松永にバイトの事実を隠したい美己と利害が一致している。

凌は洒落っ気のない地味な青年に見えたが、彼も美男美女限定のシェアハウスの住人である。

自分で家事をこなすことに加えて、バイトを始め、ちゃんと勉強をし、新しい経験を積み、世界が広がる美己。約11歳差の松永や社会人の女性と比べると子供っぽさを感じるだろうが、同級生の中では かなり自立した人間だろう。そういう経験が重なって、今の自分が憧れるオトナ女子になれるのだ。


己のバイト先に松永が女性編集者を連れてやってきた。松永にバイトを知られたくない美己は凌に接客を頼む。

けれど陰から見る松永は、大人すぎて遠い存在に見える。同じ家の住人だったから気がつかないが、一歩、外に出ると2人には年齢差と、社会的立場の違いがあることが明確になる。
この女性編集者は美己の中のなりたい自分、そして今は手の届かない自分の像なのだろう。だから容姿は、シェアハウス住人の朝子(あさこ)に劣るとか勝手に評価をし、彼女の言動に一々突っかかったりする。その暗い感情は美己の焦燥に由来するものである。

この女性編集者はシェアハウスにも顔を出す。自分の領域に松永の知り合いの女性が入って来ることを不満に思う美己。ここでは打ち合わせをする大人2人に美己が お茶を提供する。それはまるで喫茶店でのアルバイトと同じ立場なのである。喫茶店では顔を合わせないよう出来たが、結局、社会人と高校生アルバイトのような立場を再認識することになる。しかも松永との交流のリビングにおいて、他の女性との逢瀬があり、自分は下働きになるのが美己にとっては屈辱的であろう。一度は逃避したのに現実を思い知らされるから余計に痛い。


人たちと誕生会の計画を練っている時に、美己は このシェアハウスには屋上があり、かつては頻繁に使われていたことを知る。特に松永のお気に入りだったというオーナーである叔父からの情報を手にして、美己の屋上熱は高まる。

夏休み中も しっかりと自分の生活リズムを守る美己だったが、大きな仕事を抱えていた松永が生活リズムを守れず倒れる。作り置きのカレーを提供し、彼をサポートする美己。行き詰まる彼にかけた言葉は響いたようで、過剰なスキンシップで感謝される。『1巻』の「カワイイ」を知る話といい、松永にとって美己は創作の源泉、ミューズなのかもしれない。もしくは好きな人からの言葉は自分を鼓舞するという単純なものなのかもしれない。本人に自覚があるかは分からないけど。

美己は屋上の清掃を自分でし、松永が最高の誕生日を迎える準備を始める。だが思った以上に屋上の片づけは難航し、美己の出す物音に悩まされる凌が しぶしぶ参戦し、凌の連絡で、松永以外の住人全員で準備を整える。久々の住人の一致団結で、シェアハウスならではの青春感が味わえる。

ちなみにサプライズのケーキはクーラーボックスに入れ、空き部屋のエアコンをフル稼働させて保冷するという手段が取られる。勝手に使える空き部屋が、ここにはある…!!

松永へのサプライズも成功し、楽しい一時を過ごす一同。たが松永の抱える大きな仕事がコンペの結果、落選し、それを陰で聞いていた美己は彼へ何と言葉をかけていいか分からない。松永の努力を見てきたから涙を流してしまう美己。そんな彼女を励まそうと美己を楽しませる松永。「たかいたかい」をして笑わせようとするのだが、これは子ども扱いというよりも赤ちゃん扱いである。好きな人には笑っていて欲しいという単純な動機が、もっとも原始的な楽しませ方に直結したのかもしれない。

それにしても美己を あそこまで持ち上げるだけの筋力は いくら松永でもないのではないかと思わざるを得ない。17歳ではなく7歳の子でもキツい高さまで持ち上げている。人という物体は結構 重い。

ヒーローの特殊能力「ドーピングマッスル」。またはヒロインの特殊能力「ゼロ・グラビティ」発動中。

この少女漫画の謎の現象は「少女漫画あるある」ですね。おんぶ ぐらいなら分かるが、お姫さまだっこで移動とか、細い細いヒーローが謎の筋力を発揮する。もしくはヒロイン側の体重が限りなくゼロになるという謎の現象が起こっている。

この現象は、筋力強化の魔法なのか、それとも重力制御の魔法なのか、それが問題だ。