《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

27歳でも中学生男子みたいな松永との恋愛で問題なのは年齢差ではなく、彼の鈍感力。

リビングの松永さん(2) (デザートコミックス)
岩下 慶子(いわした けいこ)
リビングの松永さん(リビングのまつながさん)
第02巻評価:★★★★(8点)
 総合評価:★★★★(8点)
 

親と離れてシェアハウスで暮らすことになった女子高生のミーコは周りに助けてもらいながら、生活にも慣れはじめる。最初はちょっと怖かった松永さんも、彼の優しさに触れるうちにミーコは恋心を抱くように…。そんななか、2人はたこ焼きの最中にうっかりキスしてしまったうえに、ミーコは告白までしちゃって!!?

簡潔完結感想文

  • カレー以外の物を初めて料理したら腹痛に。…からの看病回で一緒に朝を迎える。
  • 成績不振で母親が飛んでくる。当初の予定 2巻8話完結では母親がラスボスだったのかな。
  • ストラップも一種のアクセサリで愛の結晶。これを失くしたら高校生彼氏が爆誕したかも⁉

ざわざ人に行き先を告げるのは、追いかけて来て欲しいサイン、の 2巻。

当初は2巻8話の短期連載の予定だった本書。『2巻』の後半からが新しく構想した展開ということなのだろうか。
そう考えると当初の最終回8話の前の7話はクライマックスに相応しい展開に見えてくる。これはヒロイン・美己(みこ)が彼女の母親によって祖母宅に連れ帰られてしまい、少なくとも夏休みは彼女は松永(まつなが)をはじめとしたシェアハウス住人と離れ離れになるという流れになる展開である。
少女漫画においてのクライマックスに多いのは遠距離恋愛の危機。それに加え2人には別居の危機が加わり、悲恋度は更に高まる。といっても本書の場合、7話では まだ恋愛関係になっていないので、もし8話完結だったら、8話で松永が美己を迎えに行き、その道中で自分が美己に対して こんなに荒ぶるのは、その根底に恋情があるから、と松永が気づく、という展開になったのだろうか。そして名古屋の美己の祖母宅に乗り込み、親を説得し、そして美己にも思いを告げてハッピーエンド、というのが本来のカタチだったように見える(的外れの推測かもしれないが)。

これもまた推測に過ぎないが、連載の継続が決定したことで、美己がシェアハウスから連れ去られる危機には、松永だけでなく住人たちが立ち上がる。これまで個人回があった人はいいが、まだまだ縁の浅い大学生・凌(りょう)まで彼女の流出を食い止めているのが笑える。ただ凌とも全く交流がないわけではないし、食事をしたりテレビを見たりという中で彼なりに美己との時間を大切に思ってくれたのだろう。
2人が恋愛関係になるには松永の単独行動だったのだろうが、ここで住人たちが立ち上がったことでシェアハウスの良い空気感が伝わってきて感動した。まだまだ未熟で不慣れな美己のシェアハウス暮らしを再確認する機会となり、そして本人が自立と自律に励み、そして住人たちとの関係もまた再確認された。最終回ではなくなったが、美己が この地に安住する導入部の第1部の完といったところだろうか。

美己のピンチに松永より先に他の住人が動く、という順番の違いが感動を呼ぶ。良い人たちだ!

載の延長によって、松永との恋愛関係もまた先延ばしされる。早々の告白やら、今回のラストの松永の意味深な発言やらは色々と有耶無耶になり、つかず離れず、一番近くて遠いという、一番 気になる距離感が保たれる。

これに一役買っているのが松永の鈍感力だろう。彼はまるで これまで恋をしてこなかった人が自分の中にある気持ちを「恋」と呼ぶことを知らないような状態である。誰よりも大事にしたいし、美己に異性が近づくとしれば腹立たしく、美己に意地悪をしてしまう。そんな中学生レベルの松永の言動が愛おしい。大人だし格好良いのに、子供だし自分の裸の価値に無頓着。そのアンバランスさが また松永の魅力になる。

もちろん鈍感力だけでなく、大きく働いている力は自制心もあるだろう。まだ出会って間もないが、まるで親戚のお兄さんのように恋愛関係になることに問題がないが(あるか…(笑))、そこに進まず これまでの関係性を続けたいと願う気持ちなのではないか。大人としての判断を自分に下す一方で、コントロール出来ない松永の中学生のような純情が彼自身を振り回す。総合的には美己に気づかれない程度には表層上の態度は変わらないように大人の部分が勝ってはいるが、あの松永が葛藤していると思うと そこもまた愛おしい。

腹痛に苦しむ美己に対して、オカン的な立場で彼女のお腹に手を当てて、彼女の痛みの軽減に努める松永だが、その中に少しだけ、ほんの少しだけ男女の関係の匂いが漂うのが本書の面白さである。もし美己と同年代の人が美己に触ろうとしても、例え好意を持った相手でも美己は断るだろう。それでも松永なら それが100%の世話焼きを動機にしていると分かるから(もしくは自分が恋愛対象外だと思い込んでいるから)受け入れられる。年の差があるから、松永がちょっと大胆なことをしても わざとらしくない。兄妹のようで決して兄妹ではない2人の関係が本当に好きだ。


ビングで松永と過ごす内に、好意が溢れ「好き」といってしまった美己。
それを聞いた松永の反応は、安心する、と言った感じだった。なぜなら自分の やや乱暴な性格は美己に嫌われていると思っていたから。実は松永は美己の告白めいた発言に動揺しているが、大人の切り替えの早さで、その空気を一掃していた。それが出来るぐらいには松永は大人。いつの間にかに論点をすり替えるズルイ大人なのである。
しかし本来なら、1人っ子である美己は、松永のような野性剥き出しの男性は苦手だろうと思う。それを打ち消すのが松永のオカン感なのだろうか。母と別居しなければならない美己が見つけた もう1人のオカン。

その後、他の住人たちが帰宅したこともあり、告白は棚上げになる。
その住人たちの話の中で、美己には高1の時にちょっとだけ彼氏がいたらしいことが発覚する。どこまでの関係だったかも分からないが、これは27歳の松永に元カノがいる可能性が高いので、美己もバランスを取ったのか。これが今後もお互い過去は気にしないという不文律になるのかもしれない。

しかし松永に、美己に対する気持ちは母親的心境だと言われ、自分が恋愛対象外であるように感じ、告白してしまった自分を恥ずかしく思う。


己は、カレーばかりじゃなく他の料理に挑戦する。これは母に栄養のバランスを考えることと言われ、そして文句を言う内は子供だと諭されたことから、美己が早く大人になりたい、と思っての新挑戦だ。ヒロインが化粧やハイヒールを履くのと同じように、大人になろうと努力する行動の一つなのかな。

だがパスタの容量を間違え、山盛りになってしまう。料理中、助言した松永に反発し、それを無理に平らげる美己。大人になるはずの挑戦は見事に失敗し、逆に彼女の幼稚な部分が出てしまったか。
しかも大量に物を食べたため、胃痛が起こる。体調が悪くなり、気持ちも弱くなり不安が美己を襲う。そのピンチを救うのは松永。薬を渡しただけでなく、過保護に救急車を呼ぼうとする松永。それを断固として固辞する美己に、松永は出来ることとして お腹をさする。スキンシップですね。

(声を殺してうめいて、鍵もかけたはずなのに)松永さん…… なんで なんでいるの?というホラー(嘘)

美己の部屋で夜通し看病する松永(まさかJKのお腹をさするパパ活を延長したいという下心ではあるまい(笑))。翌朝、ベッド脇で眠る松永のメガネをかけてない顔を見た途端、美己はどうやっても松永が好きな自分を受け入れる。

この話は、美己は等身大のまま、パスタではなくカレーを毎日 食べ、大人になるのを急がずにいるという話にも読める。そして少し変則的な風邪回・看病回である。ちょっとした うめき声が隣室に聞こえ、そして勝手に男性が女性の部屋に入ってこられる環境は どうかと思う。親御さんが心配するよ。


が恋をしている自分に気づくと自然に家で過ごせない。松永に好きが漏れないようにすると不自然になってしまう。慣れてきたシェアハウス生活が、違う側面から緊張感が漂う。

テストも近いのに集中できない美己は、松永を求めてリビングへ。だが、そこにいたのは女性の住人・服部(はっとり)。朝子(あさこ)に続いて個人的な交流となる。
服部は友人関係10年すごした男性と5年間交際しているという。恋愛対象外だった友人から交際した服部の経験談を美己は参考にする。

その後、服部が買ってきた大量の花火を河原でやることになり、それぞれに気持ちをリフレッシュする住人たち。美己も松永から花火の火を貰う際に、彼と話し、松永が ここ最近の美己の様子を心配してくれていることを知る。
その後の美己が川に落ちるハプニングにも冷静に対応する裸要員・松永。松永の服に包まれながら、美己は早速 夏の思い出が出来る。


…が、勉学に集中できずに試験を迎えたため、美己は赤点を2つ取る。
ちなみに少女漫画でありがちな、ヒロインがバカ問題だが、本書では美己はバカではない。これは美己と松永に年齢差があるから松永の地位を上げるような必要性がないからだろう。ヒロインをバカ設定にすれば賢いヒーローが際立つが、本書の場合は最初から土俵が違うので、ヒロインは難を逃れる。
それに今回の成績の低下は、恋愛だけでなく、家事や食事などを こなしながら、時間をやりくりしなくてはならない初の経験の中でのテストだったからでもある。テストの成績は下がったかもしれないが、美己は人間力を上げている。高校生でありながら実家を出て1人暮らしをしているようなもので、卒業する頃には彼女は同級生の中でもかなり大人びて見えるのではないか。

そんな娘を心配した美己の母が、介護している祖母宅のある名古屋から東京に文字通り 飛んでくるという。
それを知った松永は美己の母親を迎えるにあたって、風呂場で自分で髪を切るという。これは美己の家族的な存在として本当の家族によく思われたいという心境から。松永に頼まれ、バリカンで髪を整えるスキンシップがあったり、一部をハゲさせるミスをするハプニングがあったり。
少女漫画的には彼女の母、親族に会うのは結婚一直線である。といっても まだ交際してもいないが。第一印象を良くすることは将来的な準備とも言えよう。

ちなみに美己の母はシェアハウスは初めてじゃないらしい。以前も見学しているからこそ、弟がオーナーのこの家に美己を預けるのにハードルが低くなったのだろう。


ってきた母から美己は厳しい追及を受ける。これは美己がきちんと育てられてきたのと、真面目に勉学に励んでいた証拠だろう。そこそこの成績を維持していたからこそ、赤点が珍しいのであって、だからこそ母は娘の生活面を心配している。そして母も娘も新生活のペースが掴めてきたからこそ、再会できたのだろう。

母娘の話し合い見守る松永以外の住人たち(松永は仕事の電話中)。美己が追い詰められてしまい、ここまで交流のない凌もフォローしているのが笑える。やっぱり良い人ばっかりだ。そして この場にいる全員が美己を守って、庇ってくれている、これだ この2か月余り(?)の彼女の生活だということが伝わっただろう。

ここで松永がリビングに戻り、美己の赤点を初めて知る。彼は彼なりに美己の生活を見守って来たので、母親と同じように管理が甘かったと反省するのだろう。だから松永も目一杯 美己を擁護する。成績の低下を怒るのではなく、松永は美己が相談してくれなかったことに怒り、そして自分の味方でいてくれるのは嬉しいだろう。こういう形式の胸キュンもあるのだ。

そうして住人たちから守られ、それを不甲斐なく思った美己は反省をし、これまで以上の頑張りを宣言する。その言葉に安心して、母は娘をシェアハウスに託す。
こうして美己は名古屋に連れていかれ、当地で夏休みを過ごすことなく、夏休み中もシェアハウスに残ることになった(勿論 帰省もするが)。過去最長に離れ離れになる生活は回避された。

これを機に美己の生活が議題となり、この家の門限が設定される。
門限は午後10時半。これは凌の発言「未成年のバイトは22時までできます」から導き出されており、もしかしたら作者は既に今後の展開を決めていたのかもしれない。
そして実際、夏休み中の美己は補習と、勉強とのバランスを含めた自分の生活の見直しをしている。

この件で松永の母性、というかオカン的な世話焼きが一層増した気がする。これが恋愛の障害というか恋愛そのものの成立を遠ざけていく…。


性ライバルは、いつだって自分の中にある気持ちを明確にする。松永の場合は、特定の誰かではなく美己の合コン相手の顔も名前も知らない同世代の男性が仮想敵になる。

美己が合コンに参加するのは、友人が慕っている男性との仲を進めるために、合コンのように男女グループで会うことになったから。
だが美己が合コンに参加するといった途端、松永は無自覚に美己に厳しい言葉を投げつける。これは好きな子の気を引くために意地悪をしてしまう男子そのものである。美己が男と会うのが気に入らないし、気になる松永。

だが美己は そんな松永の変化に気づかず、合コンに行く美己に門限の話しかしない松永に落胆する。美己は自分が恋愛の対象外であることが悲しい。この話は どちらも鈍感だから片想い または 両片想い状態が長く継続するのだ。

合コンでは友人の懇願を断って、門限を守ることを優先する。じゃないと1つ前の約束が早速 形骸化してしまう。しかし帰宅中に松永から貰ったストラップが排水溝に落ちて、それを取り戻そうと必死になる。門限を守れそうにないピンチで現れるのは松永。物を落として探しにくるというパターンは以前もあったから既視感がある。『2巻』はピンチ → 助けるの典型的な胸キュン構造ばかりでベタに感じられた。

そして2人が巡り会うために事前に行き先を告げていたことが分かるのが良い。美己による「追いかけて来てよ」というメッセージだったのかもしれない。まだまだ自分が子供っぽいことを恥じる美己だが、松永は怒らず「心配させろよ」と言ってくれて…。

彼から贈られたアクセサリや物は愛の象徴だから、ここで松永が現れなかったら この恋は終わっていたかもしれない。美己が恋愛対象外だと落ち込む中で、その愛の象徴を美己に取り戻させるのは松永だった。彼が美己を迎えにいくことを選んだから、恋愛も継続する。