宇佐美 真紀(うさみ まき)
ココロ・ボタン
第12巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★☆(7点)
泣いたり 笑ったり古閑くんのことで いっぱいだった高校生活もいよいよ終わり。
卒業式のあと、古閑くんから「教室で待ってる」ってメールが届いて、ドキドキしながら会いに行った新奈。
古閑くんがふたりきりの教室で―!?
最後までドキドキが止まらない最終回に加えて、速水くんや谷くん主人公のアナザーストーリー、新奈と古閑くんの5年後のお話が楽しめちゃう、必読の完結巻です!
簡潔完結感想文
- 卒業式。それは1年前の約束が果たされる日。まさか そんな時まで いじわる が発動するとは。
- 番外編。気になるカップルの行方は想像にお任せします。ただし5年後も会っているという事実。
- お試し。同棲は結婚の「お試し」なのか⁉ あの日、君の指に指輪をはめた時から決定された未来。
もう先回りはしないよ。だって これからは人生を共に歩くんだから、の最終12巻。
驚いたのが『12巻』の構成。
本編は最初の1話だけ。残る3/4は番外編が3本収録されています。
なので単行本読者としては、もう完結なの⁉ と やや拍子抜けする感じを受けた。
ただし、番外編の3本目は本当の最終話という感じなので、主人公たちを十分 堪能できます。
本編も番外編も綺麗に終わっており、満足しております。
本書は、佳作という言葉が良く似合う、出来栄えのいい作品だと思います。
絵としても内容としても派手な作品ではないので、目立たないけれど、
誰が読んでも楽しめる、コントロールされた優しい作品です。
それは感想を書くにあたって再読して強くした思いです。
主人公たち、新奈(にいな)と古閑(こが)くんの性格のブレなさが作品を最後まで支えていた。
想像するに、本書は当初の予定よりも だいぶ長編化した作品だろう。
それでも後半になるにつけ本書は輝きが増していったように私には思えた。
少女漫画の長編化には弊害が多い。
描くことが なくなって、どんどん内容がなくなっていく作品、
主人公たちの魅力が不足していて粗が見えてくる作品、
作者(とファン)だけが登場人物を愛するだけの自己満足の作品などなど、失敗例は数知れず。
だが、本書は長編化して美点が見えてきた作品ではないか。
まぁ、ちょっと前半(『4巻』あたりまで)の内容は、
とっかえひっかえライバルが登場するだけの内容で残念だなぁという気持ちもありますが…。
当初は「いじわる」な古閑くんと、
彼に振り回される子供っぽい新奈という表層的な特徴が目立っていたが、
段々と読者にも彼らは最初から揺るぎない想い、相手への好意を持っていたことが分かってくる。
作品のスタンスも、登場人物の性格も、最後まで貫き通されていることが作品の美点となっている。
男性たちの言葉には出さない 好きな子への強い想いや、
三角関係の決着の つけ方、最終回で解禁される言葉など、
本当によく抑制されており、派手さを意図的に排除した純朴な品の良さを感じた。
私は その長所に2回読んで初めて気づきました。
2回読む機会があって良かった。
私は再読によって本書の評価を1点あげました。
佳作、という言葉が最大級の褒め言葉だと私は思います。
季節は一気に巡って、最終話は卒業式当日。
それぞれ進路も決まり、中でも古閑の友人・速水(はやみ)は京都の大学に進学。
これは新奈と少しでも物理的距離を置きたかったのかな。
新奈は勘づいていないようですが。アホの子はこういう時、助かります。
在校生が卒業生の制服の胸に花を付ける作業に、今年は新奈の妹・葵(あおい)が参加。
時間の経過と、妹の不器用な優しさを表す こういう場面が上手いですねぇ。
にしても『10巻』のラストでは在校生として花を付けていた新奈が
1巻ちょっとで卒業生とは光陰矢の如し。
私は作者の省略は好きですけどね。全部描けばいいってもんじゃないし。
そして卒業式の後には、1年前の古閑くんと新奈との約束が果たされる。
それが、古閑くんに「好き」って言ってもらうこと。
なんと まだ一回も言われてなかった。「いじわる」が過ぎるよ、古閑くん。
教室での古閑くんの「いじわる」はタイミングを計ってたんだろう。
いじわるに全神経と労力を注ぐ古閑くんは大した人間です。
でも、それも意図的に新奈を地獄へ落した古閑くんの いじわる。
高校生として最後の帰り道、彼は3年間しまっていた自分の本音を開放する。
素晴らしい1コマだなぁ。
作者も古閑くんも演出というものを良く分かっている。
この1コマに出会うために、本書はあったのかもしれない。
それが果たされるのが、初めて告白されて正式なお付き合いが始まった。
あの河原だというのも素晴らしい配慮だと思う。
でも、恥ずかしいから「そんな しょっちゅうは言わないらしい」。
次の機会は…。
古閑くんの「先回り」が炸裂しています。
最後の最後まで新奈と古閑くんらしい会話です。
最後まで「らしさ」がギュッと詰まった、秀逸な作品です。
「番外編 第1話」…
新奈の同級生・谷(たに)くんと、新奈の妹・葵の お話。
結局、計7年ぐらい付かず離れずの関係なのかな。
こういう関係は いつどうやって決着が付くのか気になりますねぇ。
『11巻』のラストで新奈の勉強合宿地に古閑くんが どう移動したのかが明らかになります。
番外編でも本編とリンクさせた構成に感心した。
谷くんは自分のデートよりも他者の幸せを優先した利他的な行動が、
結果的に自分の株を上げることにも繋がったのですね。
「番外編 第2話」…
速水と 元バイト仲間の環(たまき)の往復書簡。
こちらも関係性はハッキリしない2人。
お互いを奮い立たせる同志という感じか。
素直になれないツンデレくんである速水には手紙という手段が最適な気がする。
初手に手紙を選んだ時点で環の勝利かもしれません。
京都で再会した時、環が新奈の名前を出していなかったら、
速水は彼女になんて声を掛けて別れたのか気になるところです。
「また 来いよ」ぐらい言ったのかもしれない。
直接会わない時間けど、確かに実感させる他人の存在が、
自分を成長させる、奮起させるという流れが好きです。
「番外編 第3話」…
高校卒業から5年後、お互いに働き出した新奈と古閑くんは新たな関係に進展する…。
古閑くんが提案した同棲が結婚の「お試し」だという妹・葵の指摘が面白い。
新奈は高校時代は全く出来なかった料理は俄然、上達したみたいだが、
他の家事は苦手の様子。
「お試し」という名の査定で落第点を付けられてしまうのか…。
18歳差の古閑くんの弟・直人(なおと)くんが可愛いですね。
そして古閑くんの もう一つの提案に、
新奈が正式な交際の時と同じリアクションを取るというシンクロも良い。
指輪が あの指にはめられた時から、こうなることは必然なのです!
でも結婚式が終わったら、古閑くんは 次 いつのタイミングで
「好き」って言ってくれるのかが心配だ(笑)
一途で 一生懸命で 一生一緒の初恋を ありがとう。
ここで古閑くんの「先回り」が炸裂して、
結婚よりも新しい生命を宿す方が早かったりしたら、
それはそれで、らしかったのかな(笑)
「春日さん もう結婚するしかないよね」 ニコニコ。
ココロ・ボタン (12) (Betsucomiフラワーコミックス)
- 作者:宇佐美 真紀
- 発売日: 2014/04/25
- メディア: コミック