《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

お前が もう少し弱かったら 俺が差し伸べる手に もたれかかったのかもな。なのに お前ときたら…。

金色のコルダ 16 (花とゆめコミックス)
呉 由姫(くれ ゆき)(原案:ルビー・バーティー
金色のコルダ(きんいろのこるだ)
第16巻評価:★★★☆(7点)
  総合評価:★★★☆(7点)
 

留学を前に、ついに香穂子への想いを自覚した月森!出発日を言い出せないままの月森に、土浦は「遠慮はしない」と宣戦布告!? 迎えたコンクール前日、香穂子は月森から明日留学に発つと告げられる。落ち込む香穂子だが月森と交わした約束を信じ、舞台に立つ決意を――

簡潔完結感想文

  • コンクール前夜、香穂子は月森の家に出向く。引き留めた身体と反対に離れる心。
  • 昨夜の出来事と、当日の月森の不在で香穂子の気持ちは集中しきれずにいた。
  • 舞台上で香穂子は月森の存在を全身で感じる。演奏の中にあなたはいるから。


心の灯りが 点(とも)っては消える、明滅の16巻。

「出来ない約束はしない」、
『15巻』でコンクールに本当に来てくれるのかと何度も確認する香穂子(かほこ)に月森(つきもり)が返した言葉。

その代わり、月森は正直な人だから、香穂子が出場するコンクールの後、
つまり月森自身の留学出発後のことは約束することが出来ない。

だから『15巻』で香穂子がコンクールの後の月森に合わせる顔がないと言っても「俺には関係ない」と言い切り、
今巻で香穂子が出発までの間、せめてもう少しだけ月森に関わることを許してよと お願いしても、
「駄目だ」と無情に突っぱねる。

そこに滲み出るのは月森の誠実さ。そして不器用さ。

(もう残された時間はないから)駄目だ。
(それは果たせない約束だから)駄目だ。
(指切りしたら針千本飲むから)駄目だ。
駄目だ、駄目だ、駄目なんだ と月森の中でも諦めなければならない未来がある。

そんな自分の迷いを断ち切るような強い言葉が、
まるで香穂子の存在が迷惑であるかのような残響を生む。

1テンポ遅れて、自分の言葉による誤解に気付いた月森は、香穂子を引き留める。
その身体ごと。
それが抱擁であることも意識せぬまま。

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すまない 君の誤解を解きたくて つい…。真実が君を傷つけることとは思わず つい…。
月森に慎重に言葉を選ぶ器用さはない。
拒絶への弁明になるならと、その理由を告げた。

だが香穂子は、本来ならば黙って出発される真実を知り更にショックを受けるのであった…。

彼女を引き留めた、抱きしめたはずが、かえって心の距離を感じる二人。

距離を縮めようと再度、香穂子を追った月森が見た光景は、偶然出会った土浦(つちうら)と笑顔で話す彼女の姿。

月森に もう少し観察眼があれば香穂子の笑顔が引きつったものだと気づくのでしょう。
けれど、あいにく月森に繊細な恋愛の感性などない。

月森にも柚木のような観察眼・抜け目なさがあれば良かったのだが…。


そんな前夜の出来事はコンクール当日まで影響する。

何があったのか定かではないが昨夜の香穂子の様子がおかしいと察知した土浦は、わざわざ香穂子の家に迎えに来て、彼女をずっと気遣う。

なかなか会場に現れない月森と香穂子の様子を勘案すると、大体の事情がのみこめた土浦は香穂子を心配して様子を見るが…。

しかし香穂子は自力で立ち直っていた。
月森を信じて。

この場面、香穂子の内心の推移が分かってしまう土浦は辛いですね。
そして彼が心の中で香穂子に差し伸べようと思っていた手は、静かに降ろされるのであった…。

香穂子の心境は失恋の後に似ていますね。
自分は月森にとって留学も その出発日も知らせるに値しない人物だと思われていた。
好きだという前に、彼の心の中に自分がいないという事実に打ちのめされ疑似失恋を味わう香穂子。


ただ、月森留学の決定からここまでのお話が全部、
旗色の悪い土浦が一発逆転を狙った壮大な計画だったら凄いですよね。
一大恋愛サスペンスドラマ。

まず月森の空気の読め無さを計算して、留学の話を香穂子に ちゃんとしろよ、絶対にしろよ と焚きつける。

土浦の予想通り、香穂子が一番 傷つくタイミングで事実を告げる月森。

精神的にズタボロになった香穂子に ”偶然”を装って夜道で会う。

実はその夜はずっと香穂子の家の前で張り込みをしていた土浦。
じゃないと夜道で偶然会ったりはしない。

月森が後を追ってきたことも目の端で視認しつつ、香穂子の鼻をつまむ過剰なスキンシップで特別な関係性を演出。

踵を返した月森の心に相当なダメージを与えられたことに満足する土浦。

翌朝は万が一、月森が香穂子の家に現れて告白などしないように朝から家の前で警備。
もちろん香穂子には心配で迎えに来たと偽り、好感度アップで一石二鳥。
ちなみに前夜、家まで香穂子を送って初めて家を知った、だから今朝も家に来られたという体裁まで取れる仕組みだ。

月森は会場に現れず、香穂子の胸の痛みはピークに。

疑似失恋に沈む香穂子。
満を持して 彼女に寄り添う優しい俺 参上。

そして香穂子は俺の胸に顔をうずめるのだった… ムフフ、という壮大な計画。

誤算があったとすれば、香穂子の強さでしょうか。
香穂子は自分の中にいる月森を信じていた。

…もちろん全ては妄想推理ですよ!
推理に穴がないことに自分でも驚いてますけど。
土浦ファンの皆様、すみませんでした。


一方で思い悩むことがあり、家を出るのが遅くなった月森。
もしかして月森って、恋愛どころか、人間関係の悩みすら初めてなんじゃないのだろうか。

『15巻』の感想で土浦は香穂子と月森 2人の「通訳」と書きましたが、土浦と月森との関係でいえば師弟ですね。

香穂子が月森と音楽の師弟関係を結んだ頃と時同じくして、月森は土浦に社会性を学ぶため弟子入りをしていた。

こと恋愛に関しては無知なので、例え交際が始まっても土浦との恋愛レッスンは続きそうだ。
「土浦 日野が喜びそうな物を教えてくれないか」
「土浦 君はキ、キスをしたいと思ったことは あるか」

まるでAIスピーカーのように気軽に相談され、その度に生き地獄を味わう土浦(笑)
弟子は融通が利かず、師匠は優しいので結局あれこれと指南してあげるんだけども。

そういえばアルコ・河原和音 両氏の『俺物語!!』の主役の男の子たちも、そんな関係性でしたね。
こちらの漫画ではキスの実地訓練までしてましたねぇ…。

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逆境にあっても 強さを失わない香穂子。だから惹かれるんだ、俺たちは…。
自由曲の演奏後は早乙女先生も拍手しているのが、今後にどう影響するのでしょうか。


そういえば『15巻』には一切登場しなかった加地くんの姿が久しぶりに見られます。
自分を誘わなかった柚木に嫌味で牽制をする加地。
「仲間外れか、ヲイ」、
対して柚木は謝罪しつつ笑顔の拒絶。
「お前、この漫画に必要ないんだよ」。
本書の中で一番 険悪なのはこの2人でしょうか…?

柚木は周囲の反応を見て、その人の内心を読み解くことに長けていますね。
月森の留学の際に香穂子が大きな動揺を見せなかった時も、
今回の出発日に関して土浦が事前に情報を握っているもお見通しの様子。

そういえば雰囲気も名探偵っぽいですよね。
ミステリ作家・有栖川有栖さんの名探偵・江神さんを演じさせたい(どうやって?)。
共通点は長髪 というところからの連想です。

金色のコルダ3 仙台編」…
ライバル学校の個性的な面々のお話。
なんか熱血少年漫画の登場人物みたいな人がいるよ。
お話はあってないような感じです。
イントロダクションなので気になる方はゲーム本編や漫画を買ってね…☆

金色のコルダ3 夏デート?編」…
雑誌の表紙のデート特集の文字を見て、男たちは理想のデートを語る。

皆さんビジュアルで得をしてますけど、
これ、モテない男たちの虚しい百物語ですよね。
最後に本当に怖いことが起きてるし(笑)