《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

「かれんと付き合ってるって本当?」花村のおばさんからきかれ、とっさに否定してしまった勝利。誰も傷つけたくなくて、ふたりの関係を守りたくて、ずっと秘密にしてきた。それが間違いだったのか。勝利へ思いをよせる星野りつ子の存在も、かれんには言えなくて。後ろめたいから言えない。言えないからますます後ろめたい。秘密は増殖する。悩み多きシリーズ8弾。


題名の通り、秘密満載の「おいコー」第8巻。秘密と言うとマイナスイメージを持たれがちだが、自分を全てを曝け出す事がいつも正しいとは限らない。実際、勝利はおばさんから2人の関係を問い詰められた時に、自分の未熟さや、かれんの事、2人の将来を大切に見据えたからこそ、嘘をついて否定した。それは後ろめたい秘密ではない。どちらかと言うと前向きな秘密だ。この秘密が、いつか胸を張って事実を明かせる日の為に精一杯努力する、という目標にもなる。そして本書にはメインとなる秘密以外にも、それぞれの登場人物に様々な秘密があった。秘密を誰かに打ち明ける事で各人の関係性が少しずつ変化していく。
1年半振りに読んだ本シリーズ。一旦、距離を置いて読んでみると、作者の手腕に感心する点が幾つかあった。まずは、ほぼ変わらない登場人物たちで恋愛の中の様々な感情を表現している点。叶わぬ恋や失恋からの立ち直り・嫉妬を星野りつ子に、幸福の中の一抹の寂しさを丈に、恋愛を通して人間として成長する事を勝利に。2巻辺りからほぼレギュラーメンバーは固定されているのに、これだけ様々な立場・関係を変化させる事が出来るのか、と感心した。新しいキャラクタを増やさず、各登場人物の恋愛や成長を丁寧に追っているのは、作者の愛と技量あってこそでしょう。ワタクシ、それを今まで「マンネリ」だと思っていました。
そしてワタクシ、今更気付きました。本シリーズは少女漫画風少年向け恋愛小説だという事に。これまで1冊分の内容が薄いと思っていましたが、それも2人の関係性を丁寧に追えばこそ。彼らの気持ちの推移が手に取るように分かり、そしてそれが読者の共感に変わる。しかも一般的な少女漫画と違うのは主人公の勝利にさえ一切の美化が無い点。彼には食欲もあれば性欲だってある(自制心は強いが)。勝利はどこにでもいる普通の男性。かれんは勝利目線でやや美化されているが、かれんも自分の人生・将来がある一個人。両想いだ、好きだ、という感情だけでハッピーエンドにはならない夢物語ではない現実の物語。
かれんの生き方、と言えば本書の最後は2人の物理的距離の広がりを暗示させる。勝利のバイトの件といい、幸福な二人の関係にも暗雲が見え隠れする。まだまだ波乱の予感が読者の興味を惹き続ける。1つ屋根の下→2人で会う為の1人暮らし→遠距離恋愛、と2人の位置や関係性が少しずつ変わっていくのも、マンネリ回避と恋愛に悩む多くの人への広い窓口を設けていて上手いと思った。
本書で「おいおい…」と思ったのは、勝利に部屋の提供を申し出た丈。勝利は自分の部屋やベッドの使用目的が分かってて嫌じゃないのだろうか…。その日の内に、星野りつ子が部屋に訪れるという展開を見せたのは、丈使用後の部屋で何かを見付けてしまう伏線かと思ったけど、そこは何事も無く終わったね。

優しい秘密やさしいひみつ   読了日:2008年11月13日