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父の縁側、私の書斎 (新潮文庫)

父の縁側、私の書斎 (新潮文庫)

父、檀一雄の思い出は、昔の家の記憶と共に蘇る。原稿に行き詰まった父が夜中に料理をしていた台所。友人坂口安吾を居候させていた書斎。父お手製の竹馬で遊んだ庭。父は亡くなり、家は建て直された。現在暮らす家の煩雑な悩みは尽きることがない。けれど私の中には「生活すること」を愛した父の魂が息づき始めている。深い共感と切ない郷愁を誘う、“家”にまつわるエッセイ集。


単行本の帯で「阿川佐和子」さんが「しっとりと美しいダンフミ」と書かれているが、私は特に檀ふみさんの文章が、いつもにも増して「しっとりと美しい」と思った。
書かれているのは家にまつわる悲喜交々であって、檀さんの家が雨漏りしていた事や、30年来「まだ片付いてない」家など自虐的な事も、たくさん書かれている。だが、なぜかその世界は「しっとり美しい」。それは檀さんの精神の在り方の美しさだろうか。問題の多い家に住みながらも、季節の移ろいを感じ、書物や音楽を愛し、思い出を大事にして生きている内面からの美しさだろうか…。おっと、ファンレターになってしまった(笑) そして本の構成もいい。建築雑誌に掲載していたエッセイをテーマを決めて章ごとにまとめたものと、書き下ろしの父・檀一雄さんと家に関する回想の部分が交互に上手い具合に配置されている。多分、この構成じゃなかったら、面白いエッセイでもテーマが同じなので飽きていたと思う。大笑いする一方、ほろりとさせられる、そして何より個々人の「家」に関する思いを引き出してくれる本だと思う。私も家の中で生活する者として共感するエピソードがあったり、過去の思い出に浸ったりしながら読んだ。そう考えると、やっぱり家は誰にとっても人生の中心にあるものなのだと気づかされた。
この本を読んでつくづく思ったのは「理想の家」などは理想でしかないという事。例えば、現実において自宅のリフォームや建て替えをしても現在の不満点や問題点が一気に解消する訳ではないのだろう。使いにくくても毎日、使ってきた物への慣れと愛着が新生活を戸惑わせるし、人が住んでいる限りモノは増え、問題は起こるのである。 それに対抗する手段は性格や根気だろうか。出した物をすぐ片付けられる人・料理をした後に何時間もキッチンを磨ける人だけが毎日のキレイを手に入れるのだ。私には到底出来まい…。私は大きい本棚があったら、それで満足である。だが慎ましやかな願いも狭い部屋には拒まれるのだった。

父の縁側、私の書斎ちのえんがわ、わたしのしょさい   読了日:2005年09月05日