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ななつのこ (創元推理文庫)

ななつのこ (創元推理文庫)

表紙に惹かれて手にした『ななつのこ』にぞっこん惚れ込んだ駒子は、ファンレターを書こうと思い立つ。わが町のトピック「スイカジュース事件」をそこはかとなく綴ったところ、意外にも作家本人から返事が。しかも、例の事件に客観的な光を当て、ものの見事に実像を浮かび上がらせる内容だった…。こうして始まった手紙の往復が、駒子の賑わしい毎日に新たな彩りを添えていく。第3回鮎川哲也賞受賞作。


初・加納朋子。『ななつのこ』というミステリに強く惹かれた主人公の駒子は自分が遭遇した日常の謎を『ななつのこ』作者・佐伯綾乃に手紙で報告するのが日課となった。そして佐伯は返信で謎の意外な一面を伝える…、という流れ。更にこの短編集には現実の事件と二重写しになった作中作『ななつのこ』の謎と真相まで用意されている。各短編は40ページほどなのに実にサービス満点の構成(後半は要素が入りきらないぐらい)。作中作『ななつのこ』も優しい短編集で好き。今(08年)なら(元)子供向けの「ミステリーランド」として独立出版しても良いかもしれない。
文学好きの女子学生が主人公&日常の謎。なるほど、多くの人が北村薫さんの「円紫さんと私シリーズ」を連想するのも無理はない。オマケに最終話で主人公が20歳を迎えるのまで一緒だ。けれど私が危惧していたほどは似ていなかった。もちろん似ている部分も多いのだが、北村さんの『私』が「情より理」の人であるのに対して、駒子は情の方が勝っている。だからか本書の方が良い意味/悪い意味両方で「甘い」印象を受けた。「ぞっこん惚れ込んだ」作品の作者にいきなり長文の手紙を出すあたりに彼女の若さが滲み出ている。しかしその甘さが魅力であり本書の旨味でもある。ラストのあの展開を支えたのは彼女の甘さなのだから。

  • 「スイカジュースの涙」…早朝の町に点々と続く血痕。その後、前夜に事故を起こしたという人物が現れるが…。温和な雰囲気の中にいきなりの剣呑な真相。作品に対してフンドシを締め直した。これ飲酒運転? 現代ならそちらの方が問題か。
  • 「モヤイの鼠」…誤って破損してしまったはずの絵は短時間ですり替えられていて…。この真相は面白い。抽象芸術への皮肉かしら。途中までルパン的な怪盗を想像した。それがまた作品に緊張感を与えていたように思うのは、私だけか…?
  • 「一枚の写真」…アルバムから消えてしまった1枚の写真が数年ぶりに戻ってきたのはナゼか…。犯人探しではなく動機の問題。これは作中作と相俟って優しく切ない短編。モラトリアムの終わりが見えてしまう20歳を前にした乙女心、女心。
  • 「バス・ストップで」…米軍住居地区の前で何かを探すようにうずくまる祖母と孫は何を…? 謎・真相は本当に日常的で魅力に乏しい。しかし本編は結末への伏線。駒子の前に一人の男性が現れた事が重要。小説的にはここから面白くなる。
  • 「一万二千年後のヴェガ」…台風の夜、恐竜が新宿の空を飛んだ…。着地地点のお蔭で良い話として扱われてるが、これは危険予測が甘い。この辺りから作中作『ななつのこ』の扱いはぞんざい(笑) なぜなら彼女の物語が始まっているから。
  • 「白いタンポポ」…小学校でクラスに溶け込めない少女はタンポポにも白く塗りつぶす…。常識や思い込みの問題、ご当地問題。作者の出身地でもあります。アイデアは作者の実体験からだろうか。『ななつのこ』とのシンクロ率も高い。
  • ななつのこ」…プラネタリウムの密室から忽然と姿を消した少女は…。なるほど「ななつのこ」かぁ。面白い。本編はいわゆる創元推理的展開に。東京創元社の短編集(多くは新人のデビュー作)はこれが定型なのかしら。本編で本書の本当の題名が判明。小説内/外を行き来する感覚が好きでした。甘い甘い結末。

ななつのこ   読了日:2008年08月11日