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フィギュアスケートに懸ける人々-なぜ、いつから、日本は強くなったのか (小学館101新書)

フィギュアスケートに懸ける人々-なぜ、いつから、日本は強くなったのか (小学館101新書)

フィギュアスケートの世界を変えた天才スケート選手・伊藤みどりと名伯楽・山田満知子コーチの出会い。愛知県をスケート王国にした人々と、それを支えた学校や企業。有望選手を次々と生みだした長期的な強化戦略…。欧米に引き離されていた日本が、世界有数のフィギュアの強国に変化していくまでの歩みを、貴重な証言をもとにつづる。


2010年のバンクーバー五輪直前に出版された本。時期的に大注目の競技の関連本で一儲けを企む出版社の打算が見え隠れしたが、内容的には実に堅実で、地味と言ってもいいほど。焦点はタレント的に人気を集めるスター選手ではなく競技そのもの、競技の総合的な国力に当てられていた。それは日本フィギュアスケート史を遡上する壮大な物語。最初の一滴から人々の熱意が注がれて、現在のような大河を形成し、世界と繋がる海に流れ着くまでの長い長い旅路。
読了して感動したのは章立ての素晴らしさ。第一章 「ひと組の師弟」は、いきなり史上初めて世界のトップに立った伊藤みどりさんとその師・山田満知子コーチの数々のエピソードから始まる。最初はなぜ冒頭に伊藤・山田師弟にスポットを当てるのか著者の意図を汲めなかったが、その答えはページを進める内に明かされる。伊藤みどりという選手は生まれ育った名古屋の、そして日本の世界への挑戦の最初の結実なのである。そして第二章「愛知の力」は伊藤を始め多くのスケーターを輩出する愛知という場所の持つ力にスポットが当てられる。この章では現役スケーターの小塚崇彦選手が愛知の力、そのバックアップ体制を体現している。実の祖父が蒔いたスケート文化の萌芽と、地元企業と在学校の理解と協力が小塚選手のスケート人生と共に語られる。
続く第三章「日の出る国」では世界と戦った日本のフィギュアスケートの50年間がやや駆け足に紹介される。現在コーチの佐藤信夫さんの現役時代と今の日本の競技への取り組み方を比較する事によって、日本の強さの秘密を探る。10代前半からのスケート連盟によるサポート体制の確立、その最高で最大の結果である荒川静香トリノ五輪金メダル。そして僅かながら間近に迫ったバンクーバー五輪への展望が語られている。最終章である第四章「煌めく器」では競技ではなくショーとしてのフィギュアスケートに焦点が当てられる。プリンスアイスワールド(PIW)の誕生とその歴史、そしてPIWで20年滑り続ける西田美和さんを中心に、フィギュアスケートがプロとして職業としての道を獲得するまでの試行錯誤が読み取れる。その西田と同時期に選手としてジュニアデビューし、その後共にPIWの普及に尽力した人物がいる。それが第一章の主役・伊藤みどりさん。銀メダルを取った92年の五輪後に海外からの高額なオファーがあったにもかかわらずPIWを選択した伊藤みどり。彼女は女子フィギュアスケートの世界において前人未到の道を進み、そして引退後はプロとしての道を世間に示し続けた人なのだ。ここで漸く私は本書全体が途切れる事のない綺麗なトレースを描いていた事に気付き、その演技構成にうっとりとため息をついたのであった。
本書の中でも特に面白く読んだのは小塚家と佐藤家との繋がりだった。今回初めて知ったのは、小塚崇彦選手の母・幸子さんがスケートを始めたのは近所に住んでいた大川久美子さん(後の「佐藤」久美子さん、夫は信夫さん)にリンクに連れられて行ったからだった事実と、小塚選手の父・嗣彦さんは佐藤信夫とそのご母堂の2代に亘って師事していた事。日本のフィギュアスケートを支える華麗なる二族だなぁ…。そしてゴシップ的な興味が無いといえば嘘になりますが、現役選手たちの配偶者やお子さんがどんな人なのだろうかという事は純粋に楽しみ。いつか今の選手たちがリンクサイドで…、という日が来るまで競技を愛していよう。まぁ競技を巡る世間が広がったので選手同士というのは少なくなるのかな…。

フィギュアスケートに懸ける人々フィギュアスケートにかけるひとびと   読了日:2010年12月01日