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少女漫画と小説の感想ブログです

ないものねだる どのあなたも 好きですきですきで…たまには叱って『「ただいま」』

たいようのいえ(11) (デザートコミックス)
タアモ
たいようのいえ
第11巻評価:★★★★(8点)
  総合評価:★★★★(8点)
 

本当はわかってるんだ。一緒にいることが大事だって。言葉はその次でいいって。終わりじゃない。これが始まり。私たちの願いはきっと叶う。――本宮(もとみや)家と中村(なかむら)家、合同の家族旅行。真魚(まお)は父と、基(ひろ)は妹の陽菜(ひな)と、なんとか距離を縮めようと頑張る。でも、実は陽菜には両親の死について秘めた思いがあって……? 一方真魚はついに、父から待望の一言を!? 真魚も、基も、願いが叶う時が来る……!!?

簡潔完結感想文

  • 二家族の合同旅行。血の繋がらない他人だから心にスッと立ち入れる時だってある。
  • 家に帰ることを決めた2人の女の子たち。嬉しいはずなのに寂しい気がするお引越し。
  • これで2人の間の恋の障害は全て取り払われた、と思ったら…。祝・講談社漫画賞

「同居のおわりは 恋のはじまり」 の11巻。

新しい年が明けて早々に、主人公・真魚(まお)の本宮(もとみや)家と、
幼なじみの3人兄妹の中村(なかむら)家の合同家族旅行が実施される。

真魚は父親と、そして中村家は家主の基(ひろ)と妹の陽菜(ひな)との
しこりを取り除ければという目論見があるが、一筋縄ではいかない。

幼い頃に突然 両親と死別ことになった陽菜の心の傷の深さを垣間見た真魚は言葉をなくす。
陽菜と似ていると思われた真魚も手をこまねく事態を打破したのは意外な人物で…。


2つの孤独な魂が共鳴を始める。
それは序盤で真魚と基に起こったことに似ているかもしれない。
相手を救うことで自分が救われる。
利己的なようで利他的な、自分と相手を変え得る行動。

陽菜の言葉に落ち込んだ様子の真魚を気遣う義母は、夫にその経緯と真魚への激励を頼む。
だが、夫が足を向けた先は陽菜本人。
彼は自分と陽菜の間に共通点を見出していたのだ。

陽菜に話す彼の娘・真魚に対する懺悔は陽菜に共鳴し、陽菜の本音を引き出す。
中村家の「たいよう」は、再び光を放つのだった…。

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両親と別れるには あまりにも幼くて 自分を罰することしか出来なかった中村家の「たいよう」。

真魚の父は、亡き中村家の両親と同世代の唯一の大人なんですね。

いつも不機嫌そうで、温かな中村家にコンプレックスを刺激されそうな真魚の父が、
中村家の両親と仲良く会話しているところは想像できないけれど、
彼自身の目で見聞きしたこと中村家の家庭のことを陽菜に伝える機会が設けられたことに感謝したい。

それは基と真魚が、くじけそうになる自分の心に打ち勝ってきた証でもある。
これまでのことが結実する充実感に溢れた内容だ。


真魚の義母とすぐ仲良くなる大樹(だいき)は年上キラーっぽいですね。
真魚とは逆で、社会人のお姉さんと付き合ってもおかしくない。
その代表格が、基の同僚のラジカル杉本(すぎもと)さん だと思っていたのだが、もしや…。

考えてみれば真魚の義母が大樹に本気で入れ込んだりしたら、まさに地獄絵図ですね。

妻が自宅に大樹を呼び込んでいるところを目撃した夫。
妻は家を出ていき、残されたのは妻の連れ子が一人。
歴史はまた繰り返される…。

はぁ…、書いてて暗澹たる気持ちになりましたよ。
良かった何事もなくて。


菜に自分の行いを懺悔することで生まれ変わった真魚の父。

この後の父親としての成長は目覚ましい。

立ち寄った縁日を真魚と2人で回ることになった父。
縁日の射的や金魚すくいを通して、真魚と対話を重ねることになった。

真魚の義妹の結衣(ゆい)ちゃんが喜びそうな縁日での交流は、
今の結衣ちゃんと同年代の頃に離れた二人の止まっていた時間が動き出すような気持ちにさせますね。

真魚との会話の最中、中村家の話が出たために逆鱗に触れられたかのように怒り狂いそうになる自分の心を静め、
そして、これまでのような自分の被害者意識を捨て、真魚と心を結ぶ父。
今はまだ父の服の裾を持つことが精いっぱいだけど、父と初めて触れ合うことが出来た真魚
そして、父は

「帰ってこい 真魚

と言葉を掛ける。
あぁ、文字で書き起こしてるだけで涙腺が刺激されます。
少し暗い前半の展開もここに繋がるためにあったんだ、とカタルシスが生まれる。

この時の真魚は後ろ姿のみで表情が描かれていないのが想像力をかき立てます。
ちなみに後半の、学校の教室で真魚と基のアレコレを半ば強制的に聞かされる大樹もまた後ろ姿のみなのが笑いを引き立てます。

漫画としては真魚と父との交流が描かれていましたが、
割愛された同時刻の中村家の兄妹が向かった陽菜のお世話になっている親戚の家で、
どんな会話が繰り広げられたのか想像するの楽しい。
陽菜は自分からお世話になった親戚に実家に帰ることを伝えたのだろうか。

そういえば親戚の家は新しい家族が増える予定なんですよね。
今はまだ お腹の中に宿る その家族は、その家にとっての太陽になるはずである。

どこの家庭でも欠員を補充するような人の往来はちょっと出来過ぎな気もしますが、
家族が減るばかりの本書で、家族が増える喜びの一例として描かれている気もする。

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結衣ちゃんの感想は作者のツッコミか。少女漫画の威張り散らす男はツンデレが多い説。

そうして帰宅した真魚と家族はまだ少しぎこちなくはあるが、真魚の父は父親らしい一面も見せ始める。

真魚の作った「ゲロみたい」な料理だって手をつけてくれるし、
帰宅が遅ければバイトを止めろと言ってくる。
どちらも彼女に興味がないと出来ないことだ。


魚が基(ひろ)たちと暮らした家を出ていく回は、まるで最終回。

これまでの思い出が走馬灯のように駆け巡り、
目的を果たした喜びを上回りそうになるぐらいの淋しさが生じる。

本来の趣旨、真魚の目的とは違うことは重々承知しているが、
同居ラブコメ with 大樹の世界をもっともっと楽しみたい気持ちは否めない。

しかし真魚の新しい家族との交流、
本当にただの同級生になってしまった大樹との学校での会話など、
新たな読みどころもたくさんある。

そして その家で10か月は習慣になるぐらいに長い。
下校時に学校で大樹と別れを告げた真魚が、中村家に帰ってしまうのは引っ越しあるあるかもしれませんね。

更には、いよいよ基との本格的なラブの準備も整った。
…と思ったら、思わぬ伏兵が登場。
とんでもない展開は次巻に続く…。
本当、読者の一歩先を行く展開だ。

「ラビットと蜃気楼」…
交際したての織田(おだ)くんと ちーちゃん(千尋ちひろ)のお話。

自分以外の兄弟は全員 女性で6人姉妹に囲まれている織田くん。
なので人一倍 女性と仲良くなるのは得意だが、交際となると別の話。
人一倍 女性の様々な面を見ているからこそ、自分の言動は慎重にならざるを得ない。

織田くんがメインで、些細なすれ違いや遠慮のお話なのだが、
これを千尋メインのお話にすると、彼の言動にかなり傷つくという暗い内容になりそうだ。

織田くんも猿なら千尋も猿だろうな。
今後は遠慮しないとなると、どうなることやら…。

「番外編 女の子のいない家」…
真魚が中村家から出ていって、陽菜ちゃんが帰るまでの男だけの家のお話。

真魚と基は気心の知れた仲ではあると思うが、かなり意識して自律させていたところがあるみたいですね。
真魚が出て行ってしまった精神的空白に虚脱感と怠け心が入り込んだ感じでしょうか。

男2人の食生活を見ていると、もしかして1年前に真魚が上がりこんだのは、
過酷なプログラマ生活を送る基にとって身体を壊す前に、食事に気を遣った生活が出来たという恩恵があったのではないか。
まぁ真魚が作った料理で身体を壊すかもしれないが(笑)

無くしたって 変わったって 想い通りいかなくても『「ただいま」』

たいようのいえ(10) (デザートコミックス)
タアモ
たいようのいえ
第10巻評価:★★★★(8点)
  総合評価:★★★★(8点)
 

考えることがたくさんある。なんで逃げてきたんだろう……あと少しなんだ。ちゃんと向き合うんだ。彼が私にそうしてくれたように……。「子供のころからずっと好きだった。」大樹(だいき)がついに真魚(まお)に真剣告白。戸惑う真魚は、かつてと逆に実家に逃げ込む。しかし、その実家で義母(はは)がくれる優しさに基(ひろ)と大樹がくれたものを思い出し……。誰もが優しく、誰もが出口のない気持ちに少しずつ道筋を見つけ始めて……!?

簡潔完結感想文

  • 大樹からの告白に懊悩する真魚。頭がいっぱいになった真魚の返答、そして大樹の愛のカタチ。
  • 結果的ずっと ぼっちのクリスマスの基。だが今年は訪問者がいる、帰ってくる家族がいる。
  • 新年を迎えるにあたって大掃除やお節づくりに勤しむ中村家。来年への願いを込めながら。

つでも今日が、いちばん楽しい日、の10巻。

この漫画の後半は、物事が解決に向かって前へ進んでいる感じが実感できて良いですね。
ミステリ小説を読書中の、何かのキッカケで物事が連鎖的に解決するのではないかという期待に似ている。

この巻までの様々な経験の中では失敗や傷つくこともあったけれど、
その経験を踏まえて、より良い選択をすることが出来るという流れが手に取るように分かる。
じっくり読み込む、繰り返し味わう、そういう行為に耐えうる質の高い作品である。


れといえば時の流れも感じられる。
特にこの『10巻』は年末年始の空気をまとっている巻。

いつもよりも丁寧に一日一日を過ごしている感じがする。
何だか あずまきよひこ さんの『よつばと!』感が出ている。

クリスマスケーキを受け取りに行ったり、
大掃除をしたり、
おせちを作って新年を迎える準備をしたり、
着物を着て初詣に向かったり、
初夢を見たり(大晦日の夜の夢だから、まだ初夢じゃない気もするが)、
行事を一つずつ丁寧にこなすことで、次の年の福を呼び込もうとする。

そして大事なのは、年末年始には家族がそばにいてくれたという事実。

やはり真魚(まお)が主人公なので真魚中心に読んでしまうが、
同居人の基(ひろ)にとっても、久々の家族の居る温かな年末なのですね。

ずっと欲しかったものが手に入る幸せ。
物質的なことでなく精神的な充実度が幸福に繋がっていく。

さて新しい年はどんな年になるのだろうか。
そして作中の完結までの経過時間は1年なので、お別れへのカウントダウンでもある。
幸せになって欲しい、でも終わって欲しくない。

本書の登場人物たちと作者の力量なら『よつばと!』みたいに2,3回分の連載で作中時間が1週間 経過するペースでも読める気がする。
すると1年では最大150話ぐらい?
1巻に4話収録すると30巻ぐらいになるのか。
あと20巻も読めたらどんなに幸せだろう…。


愛の方もいよいよ大詰め。

よくよく考えてみると家族問題を抜きにした恋愛漫画としては、
2人の男性からどちらを選ぶかの結論が出るので今巻が最終巻でも問題はないのですね。

思いもよらぬ人から告白されて戸惑い、悩み、
そこで出した結論が自分の想いをより鮮明に際立たせる。

同居人であり同級生の大樹(だいき)から告白された真魚が不器用なりに返答を固めていく過程が描かれる。

改めて面白いのが、この恋のトライアングラーが一つ屋根の下で行われていること。
実の兄弟の争いであることだ。

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3人が3人とも自分の気持ちを正直に告白。結ばれる線は明らかだが正々堂々と勝負するために。

基(ひろ)も大樹もお互いを家族として大事に想っているから、
骨肉の争いにはならないが、なかなかにヘビーなシチュエーションである。

そして大樹といる中村(なかむら)家では息が詰まってしまうから、
真魚が逃避先に選んだのが、父や義母たちの居る自分の実家という構図も面白い。

かつて実家で嫌な思いをして中村家をシェルターにした真魚が、今度は実家をシェルターにする。

これは大樹の作戦通り、真魚の頭の中が大樹でいっぱいになった証拠でもある。
オーバーヒートして、いっぱいいっぱいになってしまった気がするが…。


そんな真魚の返答を待っている中、
並ぶお店の中で大樹が立ち止まったのは、宝飾品店の前ではなくて、1人暮らし応援フェアの前。

そういえば大樹は、もし基と真魚があの家で交際したら自分は出ていくと呟いていたことを思い出して一瞬 焦る。

しかし彼が買って帰ったのは兄へのクリスマスプレゼントのゲーム機本体。
「一緒にやろうよ (ゲーム内で)ボコボコにするから 来年も さ来年も」
という言葉を添える大樹。

これは実質的な永住宣言でもありますね。
家族として同じ時間を過ごすことをゲーム機と言葉に託して…。
まぁ、心情的には許されるのであれば基(ひろ)本体をボコボコにしたいでしょうが(笑)

良い話。
そしてもう一つ良い話なのが、このプレゼントを購入したのが、
真魚の返答を聞く前であること。
基へ渡したのは返答の後になったが、その前に大樹の心は決まっていた。

これは過去の告白シーンなどと同じく、順序が大事なところですね。
敗色は濃厚ではあるが、どんな結果になろうとも、この家に居続ける決意は固まっていたのだ。

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今はまだ兄へ託すことも、新しい出会いの可能性も振り切って、君に会いたい。

真魚に抱擁する大樹から始まる一連のシーンは美しいですね。
映像化したらこれでもかと盛り上がるシーンだ。

が、真魚の返答を聞いた大樹はアッサリと話を切り上げる。

大樹が最後のお別れの意味を込めて真魚と手を繋いで帰るシーンもまた印象的。
こんなに人に思われるなんて真魚は幸せ者だ。

苦手そうな合コンに参加してみる大樹の心境も、
そしてそれを振り切ってでも、幸福を基に託すと決めても、
真魚に会いたいという心境も痛切に感じることが出来ます。


そんな大樹と何かと縁のある、基の同僚のラジカル杉本(すぎもと)さん。
今回で晴れて失恋した者同士になった大樹は杉本さんに、
「見守る愛もある」と告げる。

これは『9巻』で大樹が言っていたことですね。
もちろん本来の望みではないかもしれないが、これが大樹の愛のカタチです。

次に大樹が好きになる人はどんな人だろう。想像つきませんね。
大樹は表面上の性格とは裏腹にずるずると引きずりそうな気もします。


んな騒動を終えて迎えるクリスマス。

両親の他界した日が雨だったため大樹が雨が嫌いなように、
真魚父はクリスマスが嫌い。
なぜなら元妻の浮気が発覚した日だから。
それを自宅で目撃した日だから。

そんな父の気分の沈む日に実家に帰った真魚
父は変わらず素っ気なく、荒い語気で真魚に接する。

だが、そんな父も大きなケーキを予約して、
ケーキ店では嬉しそうに商品を引き取りに来ていた。
そろそろこの人も変わりそうな予感がしますね。

クリスマスのシーンは孤独を感じる基の前に真魚が現れたり、
そこに大樹が帰宅して下手な嘘をついて出て行ったり、
真魚が元来 興味のなかったアクセサリーが、
基から渡された瞬間に無上のプレゼントになったり、
しばしいちゃついた後、大樹を2人でむかえにいくという場面がどれも幸せでニヤニヤとしてしまう。


中村家と真魚の家の合同旅行も目前。
基の妹の陽菜(ひな)の参加も決まって、物事はまた動き出す。

そういえば中学3年生の陽菜は、中村家のある地区の高校を志望しているらしい。
本当に新しい年は、今年よりも一層 素晴らしい年になりそうな予感がする。
なんと幸福感に包まれた読後感なのだろうか。