《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

主人公たちは もはや傍観者。第三者の恋愛エピソードで紡ぐアンソロジー化⁉

グッドモーニング・コール 3 (集英社文庫―コミック版)
高須賀 由枝(たかすか ゆえ)
グッドモーニング・コール
第3巻評価:★★☆(5点)
  総合評価:★★★(6点)
 

高校生になっても、あいかわらずそっけない上原くん。同居していることがバレないようにと、配慮してくれるのはいいけど、ちょっと物足りない菜緒。でも、ひょんなことから同居がバレそうになって、ピーンチ!?

簡潔完結感想文

  • 高校の先輩は菜緒たちが住むマンションに彼氏がいる。その先輩に同居がバレてしまって…。
  • 親友の まりな と彼氏の みっちゃん がケンカ。別れる間際まで話が進展してしまった二人だが。
  • 上原の誕生日を間違えて覚えていたため、二人の仲が険悪に。上原の怒りを鎮める方法は…?

恋愛における嫌な面・危機は第三者に託した 第3巻。

くも悪くも高値安定で落ち着いた主人公2人の恋愛模様ではページが埋まらないので、
知人・友人の恋愛模様で物語のバリエーションを増やしたのかな、と邪推してしまう『3巻』の内容ですね。

菜緒(なお)と上原(うえはら)はまだまだ正式に付き合い始めたばかりだし、
高校入学で変わった環境にも馴染むことが出来て、特段、大きな事件が起きない2人。

ならば彼氏の浮気とか別れるほどのすれ違いは第三者に任せようということで続々と新キャラが投入されていく。
本書は少女漫画としては登場人物がかなり多い方ではないだろうか。
これも身内だけでは物語が回らないからなのかな。

私は主人公たちと中学の時の面々の活躍が見れればそれで充分だと思う一方で、
とある事件が起きて知り合った人との繋がりが広がっていくような感覚が嬉しくもあります。


つ目の恋愛事件簿は浮気に関して。

ある日、菜緒たちが住むマンション内のエレベーターでキスしているところを目撃した女性は同級生の いとこ。
同じ高校の英文科に在籍する先輩は彼氏から「同じ階に中学生カップルがいる」と聞かされており、
マンション内で菜緒たちを見たことで、そのカップルが菜緒たちだと推測する。

先輩の誘導尋問に引っ掛かってしまい、同居を白状する菜緒。
そんな中、今度は菜緒が先輩の彼氏が浮気をしているという秘密を知ってしまい…。

同居の秘密が公然化し始めてきましたね。
先輩に同居がバレるのは、これ以降、先輩とマンション内で顔を合わせるのに必要だったのだろうけど、
私が疑問に思うのは、先輩の「英文科」設定の方ですね。

この設定、必要?
いきなり普通科10クラスの他に英文科が1クラス分あるという設定が出てきて驚いた。
この設定、今回の物語に何の機能もしていないんですけど…。

考えられるのは、住む世界の違う英文科だから菜緒が顔を知らなくて当然という前提を作り上げたかったのか。
それとも偏差値の高いらしい英文科の生徒がライバルになったら菜緒は太刀打ちできないという格差を示したかったのか。
どちらにしろ後々の展開に何の必要もない学校情報でしたね。
ただの先輩で、学年が違うから面識がない、のと何が違うのか頭を悩ませてしまいます。

しかしマンション内の住民の情報に興味のなさそうな若い大学生の男性にまで
「中学生カップル」がいる(多分、同居のこと)とバレているのなら、
マンションの住人は全員知っていてもおかしくない。

そして住民だったら嫌ですよね。
お子様な女性(中学生や高校生)を連れ込んでいるマンションなんて。
ラブホテルじゃないぞ、と管理会社に通報する人がいても何ら不思議はない。


気。
上原が浮気というのは立場上、許されないし、性格的にもありえなさそうですからね。
ですので顔をしっかりと描かれない匿名の大学生の男性にその役目は担われたようです。

物語としては後味が悪い、というか、こういう恋愛の形態もありますよという結末で、
決して、浮気する男とは幸せになれないとか正義感や倫理観を持ち出すような物語ではない。

その代わりに描かれるのは、
三者から見た菜緒と上原のカップルの姿。
彼らの まとう柔らかな空気感や自然体でいられる2人の関係性が、羨望を伴って語られる。

菜緒たちも、浮気する恋人ということに深く考えてみたり、
目撃したエレベーターでのキスを意識したりしていて影響を受けている。

f:id:best_lilium222:20200725004828p:plainf:id:best_lilium222:20200725004823p:plain
菜緒と上原の恋模様は いつも こんな感じ。他人の一押しがあって初めて進む。

上原は結構、何かに影響されて気持ちの動く人ですよね。
菜緒への気持ちも第三者からの言動で明確にしていったし、
今回のエレベーターでのキスも、目撃したことで憧れちゃったりしたのだろうか…。

にしても菜緒の方は『1巻』の1話でキスされているからファーストキスじゃないという意識なのだろうが、
上原の方は菜緒とのファーストキスなのに、マンションのエレベーターで正解だったのだろうか。
目撃したことで、自分もしてみたいと思ってしまった結果なのではないか…。


れる瀬戸際。
二つ目の恋愛事件簿は別れ話。
これは菜緒の親友の まりな と その彼氏・みっちゃん に託されます。

しかし、みっちゃんは、キャラの立っている阿部(あべ)っち に見事にポジションを奪われた感じですね。
序盤は仲良し男女3人組だったのに、一人だけスポーツ推薦(謎設定)で進学校に行ってしまいました。

ただ、まりな と違う学校に行ったことで、なかなか会えなかったり、すれ違いが起きたりと
これもまた菜緒たちには起こらない恋人同士の ままならなさを描けましたね。

そういえば まりな が一瞬、心を奪われかけた美容師の浅井(あさい)さん。
彼は後日、出会った菜緒に目を奪われていましたね(理由は後日判明)。

もしかして菜緒って、上原といい浅井さんといい、まりな が好きになった人に惚れられる体質なのかもしれませんね。
ということは、近々みっちゃんも⁉
菜緒との友情の破綻も近いでしょうか(笑)


距離恋愛。
三つ目の恋愛事件簿は離れていても想うことですね。
これは既に同棲している菜緒たちには最も遠いテーマですね。

浅井さんに関しては、一つ前の まりな別れ話編から登場していてスムーズにバトンが渡された感じがしますね。
更には菜緒に横恋慕するのかな、と思いきや、
色々な伏線が回収されて、一つの結末に繋がっていく感じも好きです。

浅井さんたちのハッピーエンドの幸福感が、
上原の誕生日を忘れた菜緒たちのギクシャクした関係も洗い流してくれるというラストも良いですね。

上原は怒ると黙って冷戦に突入するタイプですね。
子供っぽいともいえるし、仲直りする糸口すら見つからない ややこしいタイプです。

f:id:best_lilium222:20200725005304p:plainf:id:best_lilium222:20200725005258p:plain
本書の便利屋・阿部っち。三枚目キャラで出演者順の三番手まで上り詰めた男。

距離といえばイギリスに旅立った阿部っちの彼女は、年内には一時帰国するかもしれないのに、
田舎とはいえ日本国内にいる菜緒の両親は一回たりとも帰ってきませんね。

中学3年生~高校1年生は娘の人生の節目であり、受験も卒業式も入学式も一度たりとも娘の様子を見に来ない親はネグレクトに近いのでは、と思ってしまいます。
もちろん一度でもマンションに来たら物語にカタストロフが訪れてしまうからでしょうけど。
この辺も「予定調和」の一つだと思います。


れにしても登場人物が無駄に多いですよね。
3話に1人は増えている気がする。
あからさまな使い捨てキャラはいないが、高校に入ってからの親友のはずの まりな のぞんざいな扱いが気になる。

新展開を生み出すための投入なのでしょうが、横に浅く広くなっていくだけで、深みが出ないのが惜しい。
もうちょっと主人公たちを掘り下げてほしい。

恋愛面もコミカルではありますが情緒はありませんね。
菜緒自体もそんな感じに陥っている。

したいのは恋愛や、欲しいのは結果であって、上原本人のことをそれほど重視していないように見受けられる。
上原に対して「愛情が薄い」と言っている菜緒だけど、そこは菜緒も同じ。
彼に愛される自分、という状態を望んでいるだけに思えちゃうんだよなー。

壁に耳あり障子に目あり。壁越しに聞こえた愛の告白に正直ニヤリ。

グッドモーニング・コール 2 (集英社文庫―コミック版)
高須賀 由枝(たかすか ゆえ)
グッドモーニング・コール
第2巻評価:★★★☆(7点)
  総合評価:★★★(6点)
 

悪徳不動産屋にだまされて、同居するハメになった菜緒と上原くん。上原くんに片思いな菜緒は、クリスマスイブを上原くんと過ごしたいのだが、バイトに忙しい彼。ところが、イブの日に休みが取れた上原くん。そこで菜緒は…!?

簡潔完結感想文

  • 受験生のクリスマス。24日は上原くんとお出掛けが出来ると舞い上がった菜緒が高熱を出し…。
  • 受験生のバレンタイン。受験の数日前(推測)にチョコを作っている中学3年生がここにいる。
  • 高校生の新生活。合格ラインぎりぎりで勉強は2ページぐらいしかしてないけど合格。予定調和!

恋愛以外の悩みは作者が予定調和で解決してくれる 2巻。

庫版の柱(1/4スペース)は作者が連載当時の約10年前を振り返っている。
この『2巻』の柱では、主に本書終了の経緯と続編を開始するキッカケについて語っている。

本書の終了は「ストーリーに奥行きがない」「予定調和ばかり」という批判ばかりが耳につき、
作者も気に病み、連載も長期化したこともあって、物語を畳むことを決めたらしい。

そして、連載終了後しばらく経って、連載当時は全く開封しなかったファンレターを読んで、
本書が大切に読まれていることを知り、本書で描ききれなかったことを描きたいと望み始めたとか。
私はてっきり かつての人気作家への出版社側からの救済措置かと思っていました(もしくは大人になった読者からの小銭稼ぎ)。

そういうことを知ってしまうと、手厳しい批判は出来ないなーと思いつつも、
批判したくもなるよなー、というファンタジー設定も目につきます。
『2巻』ではずっと「受験生だろ!」とツッコミ続けましたね。
それは後述するとして、


愛漫画として一番面白いのは間違いなくこの巻ですね。

2人が想いを少しずつ寄せていく様子、
想いを届けるのか届けないのか、じりじりと焦がれる様子、
そして意外な場面で展開される 待ちに待ったその瞬間、
どれもこれも つい頬が緩んでしまう場面ですね。

『2巻』前半では上原(うえはら)も菜緒(なお)に近づく同性(おもに阿部(あべ)っち)嫉妬を覚えたり、
周囲の助言や言動によって自分の中の恋心を自覚し始める様子が描かれている。
この上原の気持ちを後押しするエピソードを丁寧に重ねているところが好きです。

好きじゃなきゃしないこと(菜緒の顔を見たくなったなど)を無自覚でする、
少しばかり鈍感だけど、素直であるから、徐々に自分の気持ちを認めていく上原が可愛いですね。


んな気持ちの変化が訪れたのは、冬を迎える頃。
そう菜緒たちに中学3年生の冬がきたのだ。

『2巻』における私の批判の8割は 受験生だけど受験生じゃない菜緒たちの生活にあります。
挙げるときりがないのですが、
・2学期の終業式の日に進路希望の紙が配られたり、その時点で志望校すら決めてなかったり。
(進路相談とかなかったのだろうか…。)
・受験生が2人住む家に、上原の兄嫁・百合(ゆり)が数日間 居座ったり。
・ショッピングをしたり、デートを重ねたり(阿部っち)
・本当に受験数日前のバレンタインデーに手作りチョコを渡す算段に頭を悩ませたり。

受験のストレスで2人の仲が険悪になる展開なんて絶対に見たくないから、
作者も思い切って、受験に関してのあれこれを一切排除したのだろうけど、
それにしてもチグハグさは否めない。

連載だっていつまで続くか分からないし、
少女漫画として恋愛系のイベントも盛り込まないと、という葛藤の末の決断なのでしょう。
実際、冬の場面は中3の時しかない(らしい)ので、この決断は正解だったのかもしれません。

中学3年生で、菜緒は高校は寮のある学校に入るつもりだったので、
長くても半年間の同居生活だから、お互い譲歩して始めてみよう、
というハードルを下げるための設定が、かえって裏目に出ている気がしますね。

これなら最初から高校1年生の設定の方が、お話に余計な要素を持ち込まずに済んだのでは?と思う一方、
それだと3年間の長期の同居も視野に入ってしまうからハードルが高いのかなぁ、と思考が堂々巡りしてしまいます。

ちなみに上原は成績上位30人以内。
「イケメン御三家」問題といい、30位以内という控えめな数字といい、設定特盛ではないところに好感を持つ。
(特盛の場合は学校一のイケメンで生徒会長で成績も学年トップ)

そんな上原は一番近いからと菜緒の頭脳でも(辛うじて)合格できる(かもしれない)学校に進学予定(予定調和!)
そういえば頭の良い男子が、出来の悪い女子に勉強を教えるという少女漫画では定番となっているシーンは本書にはありませんでした。
…っていうか、勉強しているシーンが(ほぼ)ないわ!


校進学で湧き上がるのが、同居解消問題。
もともと長くて半年、高校は寮のある学校と決めていた菜緒は、好きになってしまった上原と別れるのが辛い。
だが、上原は部屋を出ていく準備を整えていて…。

この辺りから菜緒が一人で勝手にドツボにハマっていく展開が多くなったような気がします。
当初のやや強気な気風の良さはどこへやら、自分の意志や疑問を内に秘めるようになってしまった。
これでは何もしない ぶりっ子内気キャラと変わらない。
そして人に遠慮することで事態をややこしくしている。
些細なことを重大事件だと見せて漫画を盛り上げようとする作者の意図に菜緒の性格が変貌していったように思う。

当人(上原)に聞けないからといって同居人の物を勝手に漁るなんて、
マナーとして絶対にして欲しくはないことだろうに(『2巻』だけで2回やっている)。

まぁ、恋愛以外で菜緒の悩みなど太ったことぐらいだろう(決して太ってないので嫌味にしか思えないが)。


者としては短期完結型の物語を重ねたいのだろうけれど、波乱の創作には疑問が残る。
なんとも微妙なケンカが多い(『2巻』では2回。特に文庫版は収録回数が多いのでネタ被りがち)。

そしてあっという間に仲直りして元通り。
夫婦喧嘩は犬も食わぬ、ではないけれど、何度も繰り返されると勝手にしてろ、と辟易&傍観する気持ちになります。

f:id:best_lilium222:20200724174906p:plainf:id:best_lilium222:20200724174749p:plain
上原くんが ずっと好きだった 百合が夫(上原の兄)別れたら、今度こそ上原は百合を…⁉

『2巻』で巻き起こる本当の夫婦喧嘩は、
上原の兄と、その嫁である百合に巻き起こる。

旦那が浮気していて百合が離婚する、と言い出したから大変。
もし百合が人妻でなくなったら、上原は百合への想いを再燃させるかもしれないのだ。

しかし百合も受験生2人の家にお邪魔して居座るなんて罪な女だ。
そして百合の喧嘩も一瞬で元通り。

そして考えてみれば百合も上原がいないことで新婚生活を享受しているのに、
仕送りを一銭もしないというのもシビアな兄夫婦だ。
ワガママの代償ということなのだろうか。
せめて義務教育期間だけは援助を、と思わなくもない。


ただ、この騒動を通して掛けた迷惑の代わりに百合が菜緒のために、上原にけしかけてみる。
部屋には菜緒がいないと思ってる上原に本音を引き出そうとしたのだ。

f:id:best_lilium222:20200724175128p:plainf:id:best_lilium222:20200724175120p:plain
百合の誘導を 肯定する上原。飾りっ気の無い純朴なところも素敵です。

意外な形での告白シーンとなりました。
この告白は少女漫画の中でも かなり上位に入る告白場面ですね。
自然体に人を好きになっている感じと、上原の純朴な人柄が相まった素敵な場面です。

菜緒が返事をしていないどころか、上原が菜緒の気持ちを承知しているのかすら不明なぼんやりとした交際が始まりました。
作品の雰囲気には、とても合っているんですけどね。
恋人だから、あれをしなければいけない、これをしようという手順がない感じが好きです。
何だかんだ菜緒には甘い上原、というのもよく伝わってきますし。

でも上原には欲望というものが感じられませんね。
早く手を出しても下心と言われ、遅かったら魅力がないと落ち込む女性たちに、どう対応するのが正解なのだろうか。


は本書を一度、完読しているはずなのですが、
既にこの『2巻』の中盤から記憶がない。
本当に一片の記憶がないことに自分でも驚いている。

そしていつの間にかに受験も終わり、高校生編がスタート。
新天地で、新キャラも登場してるんだけど、展開が本当に誰も記憶に残っていない。
果たしてこの後、ピークを越えた物語は どうなることやら…。