《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

ユーリのために兵士たちが自主的に動いて現れた道は、具象化された正妃への道

天は赤い河のほとり(6) (フラワーコミックス)
篠原 千絵(しのはら ちえ)
天は赤い河のほとり(そらはあかいかわのほとり)
第06巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★★(8点)
 

激しい戦いの末、マラティアを陥落させたヒッタイトのカイル皇子。だがミタンニ軍が撤退する混乱の中で捕らえられた夕梨は、ミタンニ軍の黒太子のもとへ運ばれ側室にさせられてしまう。カイルに迷惑をかけないようにと、夕梨は自分の力でミタンニを脱出することを決意。下準備のため城の中を詮索する夕梨は、黒太子の第1の側室・ナディアに出会う。ナディアは、夕梨の命を狙うナキア皇妃の妹。皇妃の側近・ウルヒにそそのかされたナディアは、カイルの名を使って夕梨を”青鹿の間”へ誘い出す。封印されたその部屋に入ろうとした者は全て黒太子に殺されているのだ。だが夕梨は疑いもせず部屋へ入ってしまい…!?

簡潔完結感想文

  • 砂漠でも敵国でも必ず一花咲かせるのがヒロイン。イシュタルの輝きは内面からの輝き。
  • 戦争と同じく物語的に膠着状態で変化がないけれど、中盤以降で大切なキーワードが散見。
  • 少女漫画最大の演出は戦闘や命ではなく貞操の危機。イケメンは必ずヒロインを襲う!?

れる事すら出来ないままの 6巻。

『6巻』は作中で初めて1巻丸ごとユーリとカイルの接触がない。正直、戦争が終わりかけても再会しない2人に まだ続くの!? と辟易した(再読なのに)。
簡単には会えない遠距離恋愛になった時に描かれるのが、会えない時間での成長や自分の中の相手を明確化する作業なのは現代劇と変わらない。『6巻』のユーリはカイルに迷惑をかけないために捕虜状態からの脱出を目指すが、やがて現状で どうやってカイルの役に立てるかを考えるようになる。自分だけが助かる機会はあったけれど、それを棒に振ってでも第3皇子カイルの側室として有用な自分を示すことを優先する。特に後半では本当に単独行動となりユーリは自分の命を自分で支えることになる。
地位のある人から愛されるだけでなく常に自分で動くことで その人に相応しい自分になろうとするユーリの思想は進歩的で連載開始から30年以上が経過した2026年でも十分に通用する考え方だ。30年前の作品よりも女性が何もしない21世紀の作品は多すぎるぐらい存在する。

そしてカイルはユーリを故郷に帰還させるために知恵と戦術を絞り出し、周囲の予想よりも常に早く結果を残す。それはカイルのユーリへの愛を原動力にした行動なのだけど、その結果に待ち受けるのが別離なのが切ない。それが分かっていてもカイルはユーリのために動くのだけど。
同時にカイルはユーリが独力で成長していく中で彼女に自分が望む正妃の条件が揃いつつあることも認める。この人ならばと思う人に ようやく出会えたカイルだけれどユーリは身分どころか文字通り住む世界の違う人で そこに葛藤が生まれる。ユーリは自分が愛を捧げる対象なだけでなく、自分と同じ視点で道を歩くことの出来る女性であることが判明していく。その2つの意味でカイルはユーリを手放さなければならないことが彼の深すぎる悩みとなる。

愛する者であり正妃の資質を持つユーリはカイルの理想の女性。だが異世界の女性

1回視線を交わすだけで触れ合うことすら出来なかった2人。それは少女漫画読者にとって退屈な時間となる。それでも作者はユーリのイシュタル伝説の1ページを用意するし、彼女のピンチを描くことで読者の目を釘付けにする。今回のユーリは戦場に出ていないし、並外れた身体能力のため通常の戦闘なら負けない安心感が早くも生まれている。

そこで作中で何度も描かれるのが貞操の危機。単純に言えば性暴力である。今回の相手・マッティワザは美形として描かれヒロインに手を出す資格がある。けれど彼はユーリに恋心を持たない特殊な人間で、だからこそ性的な接触はないと思われた。ただ彼はドSで俺様な属性を持っているからか言うことを聞かない女性を従順にさせたいという欲望は持っていて、それが戦時の精神的不安定と相俟って性暴力と変化する。大きな戦争を描きながら、少女漫画的な最大のピンチは貞操の危機というマクロとミクロの混在が見られる。以前も書いたけれど性暴力を危機演出に使うのは20世紀的な手法で21世紀作品では難しいかもしれない。

また お話し的には進んでいないようで『6巻』では目指すべきものが描かれている。将来的な展開を見据えた伏線やキーワードが幾つも散らばっている。例えば上述のユーリを正妃にしようとするカイル側の考えもそうだし、近衛長官、エジプトの現状など これからの展開のために読者が覚えておくべきワードが並んでる。中盤、もしくは終盤の展開まで考えた上での構成であることが再読すると見えてくる。

会えずにいる愛の交流がない期間だからこそ描けることを描いておくという姿勢が見えた『6巻』だった。


イルに引き続き、形式上とはいえ黒太子・マッティワザの側室になったユーリ。ユーリは28番目の側室だが、マッティワザは これまで正妃を持ったことがない。
この後宮には入室が禁じられた部屋があり、これまで入室した者すべてが黒太子によって殺害されている。それが彼の秘密に繋がる予感がする。そして当然ユーリは その秘密に触れる。

後宮でユーリは女の園の戦いに巻き込まれる。ユーリの前に立つのは、バビロニア王家から来た側室の中で一番身分の高いナディアという女性。このナディアはウルヒと通じており、ユーリが殺害されるよう問題の部屋を利用しようとする。しかしウルヒは どこにでも現れるご都合主義もさることながらフッ軽である…。


ーリは恋愛脳を刺激されて簡単に部屋に誘い込まれる。そこをマッティワザが目撃する。この事態の責任は双子の注意力の欠如だろう。興味本位で部屋を漁っているユーリを なぜか黒太子は切り殺すのを躊躇う。その様子にナディアがユーリを非難し誘導する姿を見てユーリはナディアの中にナキア皇妃の姿を見る。2人は姉妹であった。ウルヒの暗躍も姉妹間の密通によるものなのだろう。

ナディアは正室になりたいあまり「タトゥーキア」という黒太子の地雷に触れてしまい、今度は自分が殺害されそうになる。ユーリは その間に割って入りナディアを救う。それは恋する者同士の共感による行動。黒太子はユーリのイシュタルのような能力と乙女の部分にアンバランスさを覚え、それがユーリへの個人的興味に繋がる。

ユーリはカイルの役に立つ自分を目標にして脱出計画ではなく城内の情報を出来る限り集める方針転換を行う。この辺の思い切りの良さも彼女の資質なのだろう。


ずユーリは この国に連れてこられた捕虜=ヒッタイト帝国の兵士と接触する。彼らと交流することで戦闘時に内側から敵を攻撃する戦力としようとする。捕虜たちは待遇改善のお陰で寝食は確保され、戦力として期待できる。ただ作業中に怪我をした者は不衛生な場所に連れて行かれる。ユーリは そこを死を待つだけの場所から病気や怪我を治す病院に改良する。
医学の心得はないが、病院がどういう場所であるべきかなのは現代日本にいたユーリは分かる。まず洗濯や煮沸消毒など清潔さを確保して体調を悪化させる要因を取り除き、本来持つ治癒力を促進させる。

ユーリには周囲を巻き込む力があり、足りない人手を勧誘や説得によってカバーする。汗水垂らして労働するユーリは ますます後宮で浮く存在になるが、彼女こそ白衣の天使であることを後宮の女たちは誰も気づかない。それに気づくのは実際にユーリに助けられた人々。マッティワザもユーリの資質を認めるが、彼の根底には女性に対する不信があるようだ。

後世に名を残す妃は保健・福祉分野での実績を残した人。これも正妃への一歩か

太子はカイルが この地を攻略するのに1年半を要すると踏んでいたが、カイルは半年弱で それをやってみせる。ユーリの帰還のタイムリミットを逆算する彼には時間がない。

ユーリは前回の戦闘と同様に、黒太子がいなくなった街をカイルが攻め入るのは簡単だと思いカイルに その情報の伝えようとする。そんな時に第4皇子・ザナンザがカイルの指示でユーリを奪還しに来た。なぜ そんな身分の高い者がリスクを冒すのか大いに疑問だけど、絶対にウルヒの手の者じゃないという信頼性の高い人物ではある。

ユーリはザナンザからカイルのために脱出すべきだと諭されるが、ユーリは自分が有用であることを示すためにも この地に残る。ザナンザの頬にキスをして、カイルへの間接キスを頼む。今回も粘土板で良かったのでは…?


イルの快進撃は戦場に鉄を持ち込んだことが その裏にある。武具だけでなく戦車の部品に鉄を使うことで戦術の常識を一新させた。
戦場で指揮官レベルのイケメンが一対一の戦いになるのは様式美。カイルはユーリの思いに応えるためにも自分は彼女の帰還を間に合わせなければならないと思っていた。

戦術と技術に差がありながらカイルが決着を避けようとするのは初戦と違い今度は自分がマッティワザを引きつける役目を担っているから。王都の制圧は順調だが、勝敗を決める国王を押さえるまでには至らない。そのまま黒太子が戻ってきてしまい、国王の脱出が図られる。


こでユーリは側室という立場を利用してカイルの到着まで国王・黒太子の足止めを狙う。だが国王は黒太子によって先に脱出させられ、残るは黒太子のみ。

この土壇場でマッティワザは自分語りを始める。「タトゥーキア」とは彼の姉。野心のあった父国王は大量の黄金を手に入れるため娘・タトゥーキアをエジプトに売った。側室に入ったのは自分の父親よりも年上の夫。だがタトゥーキアはエジプトで強かに生き、王を渡り歩き王宮内で権力を誇っていた。それがエジプトの現 皇太后・ネフェルティティ。これは やがて接触するエジプト編への伏線。

マッティワザには姉の生存の喜びよりも姉が男を渡り歩いているような現実に目を背けたいらしい。だから一番愛した姉に裏切られたような気持ちになって、女性全般を信用しなくなった。けれど異邦人であり身分のないユーリは権力に固執しない様子を見せるから、マッティワザは彼女に失望しない。


イルの到着の報せを聞いたユーリは自分の手で脱出する。その途中、ユーリは「近衛長官(ガル・メシェディ)」の姿を見る。近衛長官は皇帝の身辺を警護する軍人の最高位。たいていは実力のある皇子が就任するという。近衛兵を見かけることは皇帝が動いたということ。それは戦争の終結が近いことも意味する。

カイルは王都攻略を8か月で終わらせる。そしてユーリと対面するが、そこに黒太子が現れ再びユーリを連れ去る。カイルはユーリを巻き込んで黒太子を討つか、ユーリのために勝機を逃すかの板挟みになる。しかしカイルが決断する前に兵士たちがユーリの命のために黒太子を刺激しないよう動く。これはユーリの人気と人徳が動かした事態。だが逆に黒太子の傍にイシュタルがいることでミタンニ王国の兵士たちの士気は落ちない。

この事態を目にしたカイルの叔父である近衛長官はカイルが帝位に就いた際にはザナンザが近衛長官に、そして元老院にはイル・バーニたちが就く未来を視る。ただユーリに身分がないため皇妃(タワナアンナ)になる資格がない残念がる。しかしイル・バーニは以前と違いユーリを正妃にと考えていた。ユーリが砂漠をも潤す大樹になるかはカイル次第となる。


太子は国王と城塞都市に立て籠もる。その攻略が出来ないまま4か月弱が経過し、カイルの父皇帝が到着する。ミタンニ王国に苦杯をなめ続けてきた皇帝は相手の国王の死を待望している。

皇帝に対しカイルは5日で終わらせると言う。籠城に限界が来ており、都市では死者を荼毘に付すための煙が上がり続けている このタイミングが勝機。そこに刺客を送り込むのがカイルの作戦。ただ これまでのように本当に5日ではなく、膠着が4か月続いているので日数による驚きはない。


の4か月はマッティワザがユーリの態度に変化がないことを見届ける期間でもあった。そして戦術的にはミタンニ国王の娘がエジプトの権力者になったことを利用し、エジプトからの増援を待つ時間でもあった。

彼は女性は生き延びるために男に こびへつらうと考えていたがユーリは自分への恨み言を言い続ける。それはユーリが異邦人で、この時代での生きる執着よりも帰還を念頭に置いているからだった。そんな従順にならないユーリを ほしいままにするためのマッティワザの性暴力が始まろうとしている。少女漫画のピンチでは性行為と命が同等に語られる。そして本書では魔力や媚薬で そのピンチは誘発される。

手をこまねいていたカイルは、ナディアがマッティワザへ面会を求めたのを利用する。ナディアがナキア皇妃の妹であることを材料にヒッタイトの態度を軟化させ、ナディアに同伴する侍女に扮して自ら敵地に乗り込む。