《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

最終電車に乗れなかったから くすぶる里心と、離れないからサステナブル恋心

天は赤い河のほとり(7) (フラワーコミックス)
篠原 千絵(しのはら ちえ)
天は赤い河のほとり(そらはあかいかわのほとり)
第07巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★★(8点)
 

ヒッタイトとミタンニの戦争も最終局面へ突入。一度は戦いに破れた黒太子だが、夕梨を人質にとって篭城作戦をとる。強固な守りを破るために、カイルは女官に変装して城にしのびこむことに成功。予想外に警備の薄い城内にとまどいつつも、夕梨のもとへと急ぐ。その頃城の中では、殺りくや飢餓に耐えられなくなったミタンニ兵たちが、クーデターを起こしていた。彼らは国王を殺し、さらに黒太子の命も奪おうとする。なんとか逃げ出した黒太子は、側室のナディアを連れてバビロニアへ脱出。夕梨も城を抜け出して、カイル皇子のもとへ。久しぶりの再会を喜ぶ2人だが、夕梨を20世紀へ還す儀式の日がせまっていて…!?

簡潔完結感想文

  • 誰も信じられなかった愛を知らない「俺様ヒーロー」のような黒太子が最後に愛を知る。
  • 日本への帰還も出来ず、かといってカイルの愛を受け入れることもできない葛藤の一年。
  • 衝撃のラスト。戦争は男の戦い、戦争の無い時は皇妃との女の戦い。ユーリ2つ目の罪。

を仰ぐのはユーフラテス川のほとり、の 7巻。

まるで離婚調停が上手くいかないまま同居する夫婦 と言えばいいのか、そのぐらい1年ぶりの同居生活はギクシャクしている。

今回、『2巻』に続いて2回目の帰還失敗が描かれ、3回目に向けた1年が始まる。初回の失敗はユーリに心残りがあったため彼女側の事情と納得の上で この地に もう一年いることを選んだ。一方で今回はユーリにカイルへの恋心以外の心残りはなく完全に現在日本に帰るつもりでいた。カイルもユーリの帰還のために大きな戦争を一日でも早く終わらせた。

2人とも別離を念頭に行動していたのに失敗に終わったことで絶望は大きく、互いに恋を諦めようとしたのに中途半端な状態で次の1年の幕開けとなったため、関係性は不安定になってしまう。
特にユーリは帰還できると思ったからこそ日本や家族への郷愁をマックスにした。それなのに その実現が その手から すり抜けてしまったから帰りたかった気持ちが強く残ってしまい、初回の失敗よりも絶望と帰還への未練を増幅させてしまう結果となった。

また今回の失敗はユーリを この地に留めたいナキア皇妃側の妨害工作だけでなく、ユーリにカイルの正妃になってもらいたい皇子側の側近による間接的な動きもあった。またカイルは3回目の帰還の際には自分自身もユーリの帰還に反対してしまうのではないか という恐怖を抱く。だからカイルは来年ユーリが帰還よりも残留を強く願うように自分の愛を伝え、彼女を自分に夢中にさせることで帰還を阻止する力にしようとも考える。ユーリが拒んでも多少強引な手段を使って自分の願望を優先させようと言う姿勢も見える。

帰還を前にしてユーリはカイルへの想いを断ち切ろうとした。ユーリの中で日本を思い出すことはあっても氷室(ひむろ)に会いたいという気持ちは消えている。その代わり日本に帰ることがカイルに会えないこととなり、その辛さを感じないように彼への想いを強力に封印した。元より時代が違う、住む世界が違う、身分が違うと諦める要素をかき集めて どうにか その恋心を相殺しようとした。けれど帰れないことで もう1年カイルの近くにいることになり、だから帰るためにはカイルとの思い出をこれ以上 増やしてはいけないと思いユーリの心は乱れる。

『5巻』から丸2巻分も離れていた2人だけど、再会しても その愛は燃え上がらず不完全燃焼となるのは意外で、そして納得できる状況だった。その後の、今度はカイル側に発生する永遠の別れと相俟って、近くにいて好きでいたいけれど近くにいるのは辛く、遠く離れることは もっと辛いというユーリ側の反応の大きさが見える展開となっている。帰るつもりならば もう1年一緒にいることは辛すぎるけれど だからといって離れたくない乙女心がある。

私立ヒッタイト学園の御曹司生徒会長カイルのもとに縁談が!? という王道展開

して戦争編では表ではなく裏に回るナキア皇妃とウルヒのコンビだけれど、戦争の終結が見えた直後から再び大暴れしている。この頃からナキア皇妃は魔力を失ったかのように普通の政治力や普通の暗殺者を使い始めている。皇妃っぽい手段としては毒物の使用が挙げられるけれど、そういえば今回 初登場したナキア皇妃が帝位に就かせようとする実子・ジュダ皇子も人助けとはいえ毒物を用いている場面があり、親子の類似点を見た気がした。

そしてジュダ皇子が持ち出した毒物をユーリが使うことで本書でのユーリ2回目の失敗が起こる。1回目は『2巻』前後のティトとの冒険。ティトのエピソードと今回のエピソードの類似点は多くあり、イシュタルではなくユーリの失敗は彼女の心残りを生むという結末まで同じ。これは3回目の帰還のチャンスで初回と同じように働くと思われる。

戦争中に大人しかったナキア皇妃側が ここで再度 存在感を見せるようなエピソードを作ることで読者の平和ムードを壊す。戦争編は史実を踏まえた展開に加え、今後の伏線を張る役目があったため やや窮屈な印象もあったけれど、またナキア皇妃が憎らしいほど活躍する序盤の感覚が戻ってきたように思った。


ーリがイケメンに貞操を奪われそうになると新展開が それを阻止するのが お約束になりつつある。今回は先の見えない籠城に近衛将校たちが延命を企て皇帝を殺害し、王太子・マッティワザにも刃が向けられる。人は生き延びるためなら何でもする。それはマッティワザが姉のエジプトでの処世術で失望したこと。

だが第一側室であったナディアが身を挺してマッティワザを守ったことで彼の女性への偏見は消える。バビロニアから嫁いできたナディアが故郷への脱出を提案する。この時の回想でマッティワザの顔の傷は姉の政略結婚に反対した際に父王から付けられたもので、姉との別れの際にイヤリングの片方を譲り受けたことが描かれる。

王太子という立場も安寧な生活も捨てると言うナディアとマッティワザは去る。その際に自分が額に付けていた姉のイヤリングをユーリに渡し、彼女の脱出の助けとなる手形とする。


の抜けない味方軍への合流の途中でユーリはカイルに邂逅する。ユーリの独力で脱出を完遂させるためかカイルはユーリに対して何もしていない。その代わり城内から味方軍を引き入れ戦争を集結させている。カイルはユーリが黒太子に手籠めにされていないことを確認し黒太子の脱出を黙認する。

ユーリは そのまま日本帰還のために一直線に首都・ハットゥサに向かおうとする。しかしユーリを本格的に正妃候補として考え始めたイル・バーニはユーリの帰還を内心では快く思っていない。そこでウルヒに わざと情報を流し彼の妨害でユーリの帰還が1年延長されることを期待する。ナキア皇妃とは手段が違えど、自分の主人を帝位に就けようとする文官は綺麗事だけでは駄目なのだろう。

ザナンザと永遠の別れの挨拶を交わし、ユーリは帰路につく。だが途中の橋が燃えており、復旧に7日を要することが判明。これでユーリの帰還は絶望的となる。そしてカイルは来年の自分が同じ決断が出来るか自信がなかった。


の戦争でミタンニ王国は消滅し、領土の西半分がヒッタイト帝国領となり、オリエントを二分する大国となった。もう一つはエジプトである。そのエジプトでは王(ファラオ)・ツタンカーメンが若くして倒れる。その正妃であったアンケセナーメは夫を毒殺したかもしれないエジプトの人間との結婚を拒否する。その娘の様子を見守るのが、マッティワザの姉・タトゥーキア(現ネフェルティティ王太后)だった。

帰還も出来ず、カイルの隣にも立てないユーリは わざと明るく振る舞うことで悲しみから目を逸らしていた。この2人の微妙な状況で、カイルがユーリを抱いていないと知ったイル・バーニはカイルに対してユーリが故郷を忘れるほど愛しぬいて幸福にする手立てもあると進言する。またユーリがカイルと距離を置こうとする姿勢を周囲が それとなく改めさせる。ザナンザもユーリからの数か月前の伝言をカイルに伝え、彼らを応援する。兄へのキスが当て馬卒業の合図となる。


イルが愛を貫こうとしてユーリと一線を越えようとする際、カイルにエジプト王妃との縁組が持ち込まれる。緊急で皇子が全員集合する場面で、カイルの末の異母弟、ジュダ・ハスパスルピが初登場する。彼こそナキア皇妃の実子。カイルも 可愛がる行儀のよい美形皇子だけれど どちらかというと敵側の存在。本人にも野心はなく、カイルが皇帝になった後を見据えて学問を自分の道にしようとしている。

14歳で正妃と側室2人。ナキア皇妃は本物の姑として嫁にどう接しているのか??

皇子が全員集まったのは この中の一人がエジプトに行くから。カイルは その一候補に過ぎない。だがナキア皇妃はカイルの名声の高まり、「竜の眼」の行方不明に苛立っており、当てつけのようにカイルでの縁組を進めようとする。この縁談は王妃の意向に沿うだけでなく、隣国同士の和平にも繋がる。それはカイルが望むオリエントの平和の実現にもなる。
この時 皇子たちの年齢が発表され、カイルは この夏で22歳、ジュダが14歳だという。


ーリはカイルがエジプトに行くことで遠距離による別離を悲嘆する。カイルが誰と結婚し、正妃を迎えても仕方ないと思えるけれど、自分が この世界にいるのに別離は辛い。

国王が再度エジプトの意向を確かめてから いよいよ皇子の縁組を進める。皇太子以外の5人による公平な選出方法として戦車競走がウルヒから提案される。これは戦車競走がカイルの得意分野で、皇子たちが本心では敵国の王家に入りたくないことが分かっているカイルは手抜きをしないことまで見抜いての提案だった。

カイルはユーリを愛しぬくことが出来ない現実に苛立つ。そんな兄の様子を見たジュダはユーリに軽度の眠り薬を渡し、カイルに不調による脱落を狙う。そしてエジプトには自分が行くと宣言した。薬物を使うのは母親似と言えるか。その様子を見ていたのはザナンザで彼にも容認されたことでユーリはカイルに薬入りワインを飲ませる。これはティト以来の2回目のユーリの個人的な動きと言える。


者は各人の胸の内や能力を客観的に理解しているザナンザだった。ユーリは本人の意思を確かめたジュダではなくザナンザが選ばれることに罪の意識を感じる。

ユーリはカイルに罪を告白するがザナンザは敵国の中で母国のために働くことを誓う。兄弟の中でザナンザだけが側室もいないので適任でもあった。14歳のジュダにも正妃が1人、側室が2人いるという…。
こうして皇帝もザナンザのエジプト行きを正式に決定する。イル・バーニから見てもザナンザは難しい立ち回りを出来る能力があるとするが、自分の欲望を優先したユーリの罪の意識は消えない。

そして これはナキア皇妃が望まない結末。カイルとザナンザの兄弟ラインが手を取り合う枢軸体制はジュダが帝位に就く余地の消失である。だからナキア皇妃はザナンザの殺害を計画する。


れに加え戦争終結による任官があり、カイルは近衛長官任命される。前任者の父弟の近衛長官はミタンニ王国との勝ち戦中に死亡したという。

ユーリはザナンザへの罪悪感から彼のエジプト行きの国境までの お供に加わる。ユーリの心情を理解しているカイルは、女性だと問題になるからイシュタルとして参加させることを認める。だが この道行きの先には、エジプト側に偽装した皇妃の刺客がいる。国家間の問題、戦争になっても皇妃は息子の帝位を最優先にする。

カイルとザナンザは同じ理想を違う土地で実現することを誓い別れる。出発直後、母の異変を感じ取ったジュダから情報が伝えられ、カイルは皇妃の狙いを知り、事前に暗殺は回避する。しかしカイルの知らない二の矢は既に放たれていた。
皇妃は国境近くの砂漠に引き込んで毒を盛るよう指示していた。交易路から離れることで事態の発見を遅らせようとする。実際、ザナンザに服毒させた直後に皆殺しが始まる。唯一 毒を飲まなかったユーリは悪党たちの皇妃の依頼だという証言を聞く。国家間の争乱にならないようカイルへの伝達をユーリに託したザナンザは彼女の盾になって散る。しかしユーリも矢を受けて倒れ、皇妃の二重の命令を受けていた主犯以外は この砂漠に口を開く者は誰もいなくなった。