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少女漫画と小説の感想ブログです

作中最長の争い、嫁姑戦争が終結。最後に嫁が放った鮮烈な一言とは…⁉(広告風)

天は赤い河のほとり(27) (フラワーコミックス)
篠原 千絵(しのはら ちえ)
天は赤い河のほとり(そらはあかいかわのほとり)
第27巻評価:★★★★(8点)
 総合評価:★★★★(8点)
 

皇帝暗殺の共犯を問われたウルヒは自決。ナキアは生涯幽閉の身となった。空席のタワナアンナ位をユーリが継ぐため、カイルとの婚礼の準備が進む。だがナキアは幽閉先から姿をくらませ、ユーリをこの世界から消し去るべく、最後の罠を仕掛ける!!

簡潔完結感想文

  • 結婚式の日どりを固定することで生まれるタイムリミット。最後の最後まで手に汗握る展開に脱帽。
  • 義母かつ最大の女性ライバル・ナキアに敵意や憎悪を持たないことでユーリは真のヒロインになる。
  • ナキアに対するウルヒは、ユーリにとってルサファ。不可触の存在に触れるのは最初で最期の時だけ。

キアの望みは潰(つい)え、そして叶う 27巻。

最終『28巻』は収録4編中 冒頭の1話だけが本編なので、実質『27巻』で全ての事象に決着が付く。そして いきなり この世界における不安定な存在となったユーリが『14巻』以来2回目の この地 この時代に根付くことが描かれている。

次代のタワナアンナの最初の仕事は先代の断罪。その求刑に器量が試される

私が最も唸ったのは ここにきてルサファとウルヒの共通点が浮かび上がったこと。『26巻』まではナキア皇太后の腹心・ウルヒは、カイルの腹心のイル・バーニに対応していると思っていたが、それ以外にもユーリとナキアの構図においてはルサファとウルヒが対応していることに気づいた時に作者の登場人物の配置の その美しさに息を呑んだ。

『26巻』で語られている通りウルヒは17年間ナキアを思慕し続け、けれど同時に出会った時には皇帝の側室であったナキアの立場と自分の身体的特徴からナキアに触れることはなかった。その不可触の関係は最後の一瞬だけ崩れた。

ルサファも同じで『14巻』からユーリを思い続けていたが、彼の想いが明らかになった時には既にユーリは側室となっており、そしてカイルと情を交わした直後だった。想い始めた時には相手の女性は皇帝の側室だったというのがウルヒとの共通点である。『16巻』でナキア側の命令を絶対遵守する「黒い水」を飲まされ、ユーリを望むままにしても良い状況でも彼はユーリに従順を誓っただけだった。本書でユーリに想いを抱きながら性暴力を働かなかったのはルサファだけではないか。それが彼の不可触の証となった。ネフェルトが性的に迫ったシーンが挿入されることでルサファが「反応」し、ウルヒとは違い「不能」ではないことは『27巻』で明示されている。このシーンは芸が細かいと言えよう。その点ではウルヒよりも主人の女性に対する我慢が強いと言える。
ただ少女漫画的にはルサファは、カイル・ラムセス・ザナンザの一軍かつ王または皇族・貴族イケメンではなく二軍イケメンだったからヒロインに触れる資格がなかったという少女漫画の差別にも感じるけれど…。

※ネタバレ「不可触の女神」と決めたユーリに最期にルサファは触れる。彼の思慕の深さは本能的にユーリの身体が分かることで描かれている。ネフェルトと歩む人生を考え始めたけれど愛を捧げたのはユーリだった。当て馬は物語が閉じられるまでヒロインを想い続ける宿命を背負わされている。ネフェルトが完全にヒロイン・ユーリのための踏み台にされているのが憐れだ。ルサファが子孫を残す道は生き残って番外編などでネフェルトの積極的なアプローチに折れるしかなかったか。

ルサファを失ったことでユーリはナキアの計画の被害者が更新された。でも同時にルサファを失ったことでウルヒを失ったナキアの喪失感に共鳴したから、ナキアへの心境に影響があったのかもしれない。


い間 対決の構図にあったユーリとナキアだけれど、ナキアの障害は常にカイルであってユーリではない。カイルを排除するためにユーリを召喚したし、常に頭を占めていたのは息子・ジュダの即位で、ユーリは その騒動に巻き込まれただけと言える。現に最後にナキアが狙ったのはユーリではなくカイルだった。『19巻』の船からの転落もユーリの死というよりカイルに跡取りが生まれる可能性を潰すことが目的だった。
ウルヒという右腕を失ったからナキアは自分の足を使って動く。ナキアにとって最後の行動となった場面でも他者を操ることも出来ただろうに自分で決着を付けようとするのが彼女の変化に思える。

ユーリは確かに大切な人たちを失ったことでナキアへの憎しみを抱えている。それでも『27巻』でユーリは2度 間接的にナキアを助ける場面がある。それは自分にとって邪魔な存在を排除することがナキアと同類になる最初の一歩だと理解しているからだろう。誰かを疎ましく思う気持ち、誰かを排除したい気持ちは やがて過剰な自己防衛になって暴走し、簡単に害意や悪意を振り撒いてしまう。だからユーリはナキアが自分に助けられたことを罰としているような気がする。

それは彼女たち ある意味でライバル同士だった2人の最後の会話にも出ている。この時、ユーリが感謝を述べるのは恋愛脳すぎる気もするし、ヒロインすぎる気もする。でも これも見方によっては究極の嫌味ではないかと思う。ナキアの計画は何一つ上手くいかずユーリをイシュタルに正妃に皇妃へと成長させた。その事実をナキアに突き付けている、のかもしれない。少なくともナキアは敗北感でいっぱいだろう。おそらく それは若き日のナキアがカイルの母親に抱いた感情と同じ。燦然と輝く存在への嫉妬で、その嫉妬は相手を排除することで消滅するが、ユーリはナキアに悪意や刃を向けることなく彼女を退席させた。権謀術数を駆使して のし上がった席を、正当な手段で奪われることは屈辱の極みだろう。自分の前と後のタワナアンナは自分よりも格上の人間だった、とナキアは後年 思うのだろうか。

ユーリはナキアに直接 憎悪をぶつけないのが彼女を聖女にしている。近衛長官として仕事をしている風だけど、実は この2巻 ユーリはヒロインムーブに徹している。ウルヒとナキアの波状攻撃に対して守られてばかりだし、立場もあり王宮から出られない。序盤の どこへでも飛び出すユーリとは同じでいられない。自分からは動かないけれどルサファの ただ一人の輝きとして君臨する。もしかしたらネフェルトはユーリに一番 屈辱を与えられた女性かもしれない。

確かに憎いはずのナキアに刃を向けるのも他の人の役割にしている。ナキア・ジュダ親子の剥き出しの感情はカイルたち夫婦の人徳を際立たせている格好になっている。戦争のない平和な世の中では慈しみこそ王の資質と言わんばかりである。最後までジュダは思春期丸出しだったけれど、あれが彼に与えられた役割で、母の呪縛から解放された ここからの成長を願うばかり。そのガイド役となる妻もいることだし。


組みが謎すぎる服によるユーリの再転移騒動だったけれど、今回の騒動でユーリが『27巻』にして初めて この世界に固定された。ナキアの野望も消滅し、服も消滅したことで大団円の準備が整った。しかしユーリの転移が失敗しているのに なぜ服だけが先に消えるのか。遠距離危機というクライマックスを演出するために初耳の謎設定を出して、それを利用して もう二度と転移が起こらないことにする。この構図はマッチポンプ感が否めない。

あと今回の転移はカイルがユーリの身体を支えることで何とか耐えていたけれど、もしここでカイルと共に どこか別の時間・別の場所に飛ばされて いきなり「第二章」が始まったら読者は全員 唖然としただろう と想像して笑った。私としては運よく夕梨(ゆうり)のいた日本に戻って、そこで始まるカイルとの同居生活!「紹介しよう転校生のカイル君」だ。「キャー!!」 今度の三角関係の当て馬は初キスの氷室(ひむろ)!? など あと10巻ぐらいは引き延ばせただろうとダイジェスト映像が頭を駆け巡る。そしてヒッタイト帝国ではジュダ皇帝が即位し、ナキアの高笑いが響き渡る…。


ジプトのネフェルトはルサファに本気で好意を抱く。ルサファがユーリが忘れられなくても黙って心の奥に しまってくれれば それでいい。兄・ラムセスも長らく生活を共にしていたからかルサファを妹の結婚相手として認めており、あとはルサファの返答次第となる。ルサファはユーリの結婚式までに少しずつネフェルトに心を開いていく。本書最後の恋の動きである。

ユーリは近衛隊長としてナキア皇太后が使用すると目される泉の警備を指揮するが、ナキアが隠し玉を持っている不安が消えない。彼女の第六感は外れておらず、事実 ナキアは市街地にある神殿の家の者を「黒い水」で操り、人知れず湧き出る洞穴の泉を利用していた。


婚の儀の前に5日間 沐浴をする必要があり、文字通りナキアの魔の手が忍び寄る水に近づく必要があった。結婚延期も提案されるが、ナキアとの決着を先延ばしにしても同じ悩みが続くだけだとユーリは拒否する。

近隣国から賓客が到着したこともあって いよいよ結婚式が7日後に固定される。ミタンニ王国からはマッティワザの息子が初登場。一緒に国を逃亡したナキアの妹姫・ナディアとの子なのだろうか。またウガリット王は娘のことは解決したのだろうか。ウガリットの処理は本当に雑だ。アルザワ王国からはアレキサンドラ姫の弟の王太子・レオニダスが登場。このレオニダスはジュダを義兄と認識しており、彼らの結婚は決定的になる。

沐浴でのリスクは魔力持ちだということを忘れがちなカイルがナキアの魔力を抑えることで減らす。しかし最終日は転移の条件が揃うためカイルにも対応できない別種の魔力が働くという(よく分からない理屈だ…)。この沐浴はカイルの異母姉、ネピス・イルラが とりしきる。この盲目の皇女も魔力を持つという。この異母姉が『13巻』前後のユーリ最後の日本帰還チャンスで自分の代わりに転移の実行を頼んだ人だろう。ユーリにとってはカイルの身内の小姑ということになるが関係性は良好。

初日の沐浴で最終日まではナキアの魔力は抑えられることが判明。通常とは異なり男女同時にする沐浴は神聖な儀式というよりもエロティックな雰囲気が漂う。
以前は暁の明星(イシュタル)が輝く時が帰還のチャンスだったが、今はユーリが この世界に固定されるためにはイシュタルが輝く前にナキアを発見する必要があった。けれど あと一歩 捜索は及ばないままイシュタルが輝き出す。

衆人環視の中、身体のラインがピッタリ浮き出る沐浴を強要される恥辱プレイ

張感が漂う中、最後の沐浴が始まる。
初日の沐浴と同じくユーリが神官から祝福を受ける直前に、召喚の時と同じように水面が渦を巻き、ユーリの身体を引きずり込もうとする。

捜索隊は当日になってナキアの足跡を発見するがユーリの服は渦に呑み込まれ どこかに消失してしまう。なぜ服が持ち主まで異世界に運べるのか謎だし、ユーリの転移の前に服だけ消えるかも謎。作品で大事なのは論理性よりも服が もう この世界にないからユーリが世界に固定されたことなのだろう。

この泉には既にナキアの姿はなく反対側の抜け道が最後の沐浴が行われている大神殿に繋がっていることが判明する。捜索隊はナキアが、ルサファたち警護の盲点となっている賓客を操ると考えたが、ナキアは自ら短刀を持ってカイルの命を狙う。


ナキアの乱入によってカイルの腕から滴(したた)った血にユーリは驚くが、カイルは無傷。そのままカイルは渾身の力でユーリを渦から引き上げる。ナキアの凶行を止めに入ったのはジュダとルサファだったが、後者が重傷を負ったことが判明する。既にルサファの視力は失われ、彼の言葉は遺言となる。彼は最後に自分の側にいるネフェルトとユーリの2人の女性から視力に頼らず直感的にユーリの身体に触れる。これまでずっと不可侵だった相手に最期に触れて息を引き取るのはウルヒと同じである。ネフェルトには二重に残酷な別れとなった。

ナキアの凶行に対して息子のジュダが母親の命を奪おうと切りかかる。ナキアの妄念を消滅させるためにジュダは皇位継承権を永久に放棄することを宣言する。これは母の敷いたレールから外れるジュダの自立と言える。息子に反抗されたことでナキアの宿願は潰(つい)え、それは命の終わりと同義だとナキアは考え、息子による自分の殺害を望む。

けれどユーリは親子の間に割って入った。自分にとって邪魔な存在を排除しないことでナキアとの違いが鮮明になる。カイルもジュダから剣を取り上げ、ジュダの行為は越権行為であると法の順守を徹底する。会場は血で染まったものの沐浴は終了する。


イルは すぐに元老議会を召集。元老院(バンクス)はナキアの死罪を提案。一方でカイルは流刑を要望する。ナキアの罪は重いが彼女のジュダを皇帝にする願望を断たれたことが一つの報いとなり、カイルもナキア皇太后の存在によって戒めとしようする。タワナアンナは空位のため三者による決議が出来ず、3つ目の意見に次期タワナアンナのユーリの意見が求められる。

ユーリもまた流刑により、ナキアには次世代の皇帝夫婦の姿を見続けることを望む。これにより流刑が決定。しかもカイルはナキアの流刑地の知事にジュダを指名する。これはナキアから全てを奪うことのない温情措置とも言えよう。
最後にユーリはナキアに言葉を交わす。ユーリが述べたのは この世界への召喚と この人生を与えてくれた感謝だった。

その後、史実ではジュダが知事になった土地でヒッタイト帝国は数百年 存続させる。それはナキアの望みだった故郷・バビロニアの血を継ぐ者による帝国支配とも言える。