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少女漫画と小説の感想ブログです

白紙の過去にウンザリする日々は終わり、君と生きる まっさらな未来に期待が膨らむ。

ガートルードのレシピ 2 (白泉社文庫)
草川 為(くさかわ なり)
ガートルードのレシピ
第02巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

白紙となっていた「ガートルードのレシピ」は驚くべき場所に移されていた…! ガートルードの創造者クロードの時を越えた遠謀に翻弄され、ガートルードは致命的な傷を負う…。追いつめられた状況の中、ガートルードとの絆を深めたサハラはクロードとの最終対決を決意。そして遂にサハラの命とガートルードの運命をかけた最後の術式「リワインド」が発動される…!

簡潔完結感想文

  • レシピで作られた悪魔に魂の融合体があるならばレシピの逆の手順で不純物を取り除く。
  • 相手のためなら自分を簡単に諦めることの出来る悪魔と、簡単に相手を諦めない人間。
  • 創造主の趣味で命を与えられた存在が主導権を奪って創造主の人生の方向性を決定する。

ニメ化にピッタリな原作ありますよ、の 文庫版最終2巻。

アニメ化しないかなぁ…。2020年代はアニメ化の原作の枯渇が問題だ(多分)。それなら本書はどうだろうと推したい。それに超人気長編作品を原作にした場合、アニメ化が微妙な結果になると完走しないまま中途半端に終わることが多い。けれど本書なら原作が とうに完結済みで1クール全12話ぐらいに丁度まとまる分量だと思うんだけど どうでしょうか。勿論、漫画はアニメ化するために存在する訳じゃないんだけど。

最後まで本当に素晴らしい作品だったけれど、中でも良かったのは敵意を向けられた相手への理解が ちゃんとあるところじゃないだろうか。
それを強く思ったのはクライマックス。敵であるクロードと その妻・ハロンの現在の悲しい関係が、ガートルードと漱(すすぎ)の悲しい未来の姿を暗示させている構図が秀逸で震えた。そしてガートルードは漱という大切な人に出会ったことで生まれた時には分からなかったクロードの悲しみが分かるようになっている。
相手の事情や人生(悪魔だけど)が分かるから辛い。それはガートルード誕生のために身体のパーツを奪われたプッペン・マリオット・カーティスの心痛をガートルードが理解すること、そして その逆にパーツの集合体であるガートルードの心情を彼らは想像するから手を取り合うことも出来る。相手との相互理解、それを出来るだけの登場キャラたちの寛容さと聡明さが描かれていて血の通った世界が広がっている。

そういえば本書はスタート時からでは誰の命も奪われていない。一番ボロボロになったのはガートルードじゃないか。そしてクロードでさえ巻末の番外編を参考にする限り、悪魔の身体のパーツを蒐集してはいるものの殺害などによる強奪では なさそうだ。上述のプッペンたちのことも含め、ガートルードの身体のパーツは彼と世界を繋ぐ理由になっているようにさえ見える。これからもパーツの奪還に来る者はいるけれど、でも それはガートルードが出会う人々がいる可能性でもある。その出会いと交流がガートルードのオリジナルの人生となっていく。

自分に大切なものが出来なければ理解し得ない相手の心。その理解が葛藤を生む

た最終回の親切なガイドも良かった。ガートルードという悪魔は外側だけで中身は白紙。それは表紙だけだと判明した「ガートルードのレシピ」と同じ。そして人工悪魔の成り立ちが記されたレシピは漱の中にあったけれど、今度は漱と一緒に白紙の未来を幸福で埋めていくという示唆が分かりやすくて描かれていた。魂以外、身体も名前も全て人のものだったガートルードが漱に名前を呼ばれることで自分の名前に誇りと喜びを持つという展開も素晴らしい。

2人それぞれにある因縁の対象を1人(クロード)にまとめているから物語がスッキリしている。ガートルードにとってクロードは生みの親であり生きる苦難の元凶、また漱にとっては兄・久作(きゅうさく)でもある。同じ人を別の視点で見ることで物語が多層になり、それでいて2人が同じ方向を向くシンプルな理由を作っている。上述の相手への理解もクロードの複雑さに由来し、それぞれが大切な人を失くす危機になっても恨み切れないことで葛藤が生まれている。


書はガートルードという悪魔の話なんだけど、ガートルードと悪魔を上手に分離させてみると、自己嫌悪を繰り返してきたヒーローが、ヒロインに肯定され、人生を前向きに歩く気持ちを取り戻すシンプルな構図が見えてくる。最初から長編作品のクライマックスで用意されるヒーローの問題やトラウマが開示された形の物語だったのか、と今更 納得する。上述の通り、クロード・久作問題があるから漱もガートルードと同じレベルの苦悩と葛藤が生まれている。そこもまた2人が同じ立ち位置にいるようで気持ちがいい。確かにガートルードは作品最強(の悪魔)という白泉社読者が好むヒーロー像なのだけど、漱もまた精神力は同等で、だからこそ2人は種族を越えて、フェアで対等でいられるのだろう。成績とか財力とか男尊女卑を平気で繰り広げる白泉社に於いて対等性を感じられたのも好感触の理由だろう。

1つ疑問なのが、パーツの寄せ集めのガートルードに魂が生まれるのはなぜか、という根本的な疑問。クロードの実験が成功したからなのか(双子の魂を起動スイッチにしているとはいえ)。悪魔だから妖怪みたいに物に宿ることもある、ぐらいに考えた方が良いのかな。悪魔は魂を簡単に取り出せると考えるとクロードは どこかから魂も調達しており、それが双子の魂によって強制起動するまで眠ってたと考えた方が現実的だけど、そうすると本当にガートルードがオリジナルで所有するものが一つもなくなってしまうから ぼやかしているのだろうか。決定的な矛盾じゃないからいいんだけど。


庫版の あとがき に作者の初連載で22、3歳の頃の作品だとあって びっくり。作品への集中力、キャラクタへの思いの馳せ方、それぞれの関係値、そして動機の作り方や理解の手掛かりなど こんなに上手い人がいるのかと驚く。2026年の私からすると25年前の驚異の新人だと思うけれど、知名度的に そこまでじゃないことに驚く(失礼だけど褒めている)
あと作者は文章・モノローグが上手。これはセンスとしか言いようがない。絵は上手くても文章が下手な作家さんがいて、感動的な場面が借りてきた言葉の羅列になってたりすると残念に思うのだけど、作者は短く切れ味の鋭いセンテンスを繰り出している。読書量とか知識量とか そういう豊かさを端々から感じる。


はクロードに連れて行かれた大学の旧校舎の中にガートルードという女性と その双子の妹でクロードの妻のハロンの2つの遺体を見る。亡くなって100年が経つ2つの遺体と現ガートルードの関係は、魂を共有している者同士。ガートルードの中には双子の姉妹とガートルードの3つの魂がある。

3つの魂で主導権を取ったのはガートルードだが初期は女性のガートルードが頻繁に表に出ていた。だからガートルードはガートルードと呼ばれることになった。満月の夜に強くなるガートルードの本性とは他の2つの魂のことをだった。そしてクロードが久作(きゅうさく)の身体を使った人生の延長戦を望むのは、ガートルードの中の妻・ハロンの魂を切り離し。遺体が100年経っても朽ちないのは姉妹が悪魔と人間の子だからで、クロードはハロンの遺体に彼女の魂を戻したい。そして終わらされた彼女の人生を やり直す。そこで自分の姿が変わっていても彼自身は問題がない。ハロンが どう思うかは別だけど。


ロードがガートルードではなく漱を狙うのは、互いに混ざり合ってしまった魂の切り離しに漱の中にあるレシピが必要だから。そして漱の命を使って、一番 融けかけているハロンの魂を取り戻す。

そのクロードの決意を知っても漱はカーティスがクロードの命を奪う結末を望まない。優位だったカーティスは逆に追い詰められて、クロードは漱を利用しようとする昏倒させる。その背中にカーティスはクロードの漱への思い遣りが確かにあることを告げる。
漱はクロードによって自由を奪われる。クロードはカーティスの言う通り、漱の骨にレシピを移管した時よりも漱を想う気持ちが強くなっている。それでもクロードは漱の命を使った術式を始める。

自分の命の危機でも、もはや兄ではないと分かっていても選べない選択がある

傷と満月が重なったガートルードは自分の主導権を奪われそうになるが、仲間たちの行動によって自我を保つ。その後、表紙だけの「レシピ」が常に反応していることを知り、漱のもとに仲間たちと飛ぶ。

ガートルードが到着してクロードの目的を把握し、漱の生存を確認する。だが漱は呼びかけに応えない。それはクロードが漱が次に目覚めた時に術式の動力として使用するようにしているため。術式はガートルードの誕生の顛末を巻き戻すもの。どこかで融合し始める魂を見極め、3つの魂であった時に戻すのが目的。

危険な賭けだが漱という動力が動いている間に彼女を助ければ失わないかもしれない。だが それは今のガートルードという存在の解体を意味する。


ロードは術式を展開させ、漱の命の消費のタイミングをガートルードに託す。それは どちらか、または両者の別れの時。けれどガートルードは破滅のスイッチを自分で押す。他に方法がないから。目を覚ました漱も それは分かっているけれど、どうしても自分をすぐ差し出そうとするガートルードに怒りと悲しみを ぶつけてしまう。
それでも葛藤の中にいる2人は手を取り合って、唯一のチャンスに賭ける。

100年前、イギリスのクロードの自宅でガートルードは生まれた。双子の姉妹は庭師の娘たち。父親が人間で悪魔だと推測される母親の姿はなかった。クロードの死後、自宅はホテルになり漱の両親と兄・久作は そのホテルに滞在し、そこでクロードの魂が兄に入った。

そこからの双子の姉妹の回想は巻き戻しの名の通り、結末から先に提示される。悲劇があって、その悲劇が起きる理由と過程が描かれる。3つの魂が混じり合ったのは、そこに魂を入れる座=今のガートルードが存在したから。ガートルードは その肉体の成立に悪魔たちから恨まれ、その精神の成立に生みの親であるクロードからも恨まれる。名前すらも誤解から生まれた、魂の一部しか自分のものではない存在。単なる回想にしないで必要事項を最短で巻き戻す手法が上手い。どこを切り取っても上手いことが凄い。


がて指先から灰になっていくガートルード。それは2人の最後の時間。ガートルードの生を支えてきたのは運命への抵抗。けれど今はガートルードを慈しむ漱がいる。それが人生最大の成果。お互いに限界が近づく中、ガートルードは自分の身体に文字を記す。このタイミングはガートルードが身体を支配することが出来るタイミング。

命令は、漱の命が燃え尽きる前に自分の存在を消すこと。術式の対象物が消滅すれば術は強制終了する。それがガートルードの狙い。その願いと狙い通り、漱の命が尽きることはないが、その世界にガートルードの肉体は もうない。

これまでも ずっと思考し続けてきた漱は絶望の中でもガートルードのために今ある手持ちのカードを再構築する。そこに仲間たちの協力があってガートルードは再誕する。これは血液の一滴までガートルードは自分を所有していたから出来ることなのか。


ロードの目論見は外れ、双子の魂は分離不可能なほど融合していた。その魂が入ろうとするのは姉でも妹でもなくクロード。その状態になってもクロードもまた魂の融合に対して拮抗し、自我を保っていた。クロードの意思は今度は自分と3つになった魂の消滅を願うが、中の双子は それを許さない。意識はクロードでも身体は久作という人間のため自滅は必至なのだけれど、それでも双子は対抗する。

そんなクロードの姿を見ても漱は自分が信じてきた兄の面影を重ねてしまう。どちらか決められないから事態が打開しない。でもガートルードは そんな漱を肯定する。迷いや葛藤が今の漱を形成している。そして その漱にガートルードは助けられた。だからクロードを戻そうとするが、クロードは「妹」ではなく妻を選んだ時点で戻る資格がないと思う。しかしガートルードはクロードの主導権を強大すぎる自分の血の力を使って強制的に奪う。自分が創った命に命を救われる。今度はガートルードがクロードの人生を拓く。

出てきた魂を最強の存在であるガートルードが散らして一件落着。
その後、クロードは全身火傷で長期入院する。火傷の後は残り、元の形には戻らない。けれど その身体との つきあい方がないわけじゃない。それと同じようにクロードと漱の2人の関係も模索しながら構築される。クロードもまた人生の延長戦ではなく今度こそ この2度目の人生を模索するのだろう。どうやら この世界は物体に魂が宿る。ならば久作は死んだとはいえクロードも久作と融(と)けていると考えられるのだろうか。クロードの意思が固くても兄として身体が勝手に反応するのだから そういう可能性もあるだろう。


「ガートルードのレシピ 音楽室の悪魔」…
気が付くと漱と同じ学校の留学生にされていたガートルード。集団催眠状態にかかってないのは漱(と愉快な仲間たち)だけ。その怪異の正体を2人は推理で突き止める。作品で初めて頭部以外のパーツが出てくるけれど、相手の悪魔も別パーツで補完しているので欠損していない。

漱と出会ってガートルードは身体の所有権の問題だけではなく この身体で生まれた記憶を大切にしている。漱が他者の身体のパーツでもガートルードの精神に作用する心身の一体感を教える場面が小悪魔的な魅力を放っていた。恋愛の主導権は漱にあり!?

「ガートルードのレシピ レクイエム」…
ガートルードが誕生した頃のイギリスでのカーティスの話。この時 カーティスは契約で自分の左目を差し出している。それが巡り巡ってガートルードのパーツになる。じゃあクロードが元凶という話なのか? このことをカーティスが知ったら本編のクライマックスで彼はクロードの消滅を願ったのだろうか。そして占い合戦は見える未来、変わる未来の応酬で収集がつかなくて考えようとすると頭が痛い。

「ガートルードのレシピ 雪男の棲む山」…
1960年代カナダ。雪男を追うガートルードは なりゆきで変わった人間とバディを組む。泣き顔じゃなくて笑顔が見たい。それは本編の漱にも言えること。自己犠牲を厭わない何という優しい悪魔なのか。

「むかしばなしのしっぺい太郎」…
2000年代ぐらいまでの白泉社の作家さんが よくやる お伽話や童話のパロディ(?)作品。