
青木 琴美(あおき ことみ)
カノジョは嘘を愛しすぎてる(カノジョはうそをあいしすぎてる)
第13巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
クリプレのリハーサルに飛び入り参加することになった理子。そこで知ったのは、生演奏に他の巧い人の音を足す「同期」という作業だった。薫の演奏に「同期」を提案する心也だったが、秋は薫に演奏して欲しいと説得するが…!?
簡潔完結感想文
- 理子をCRUDE PLAYと並び立てるスターに仕立て上げたので作者の本願に着手する。
- 本書はダブルヒロインならぬダブル傷つきやすい「僕」。心也も作者のお気に入り。
- 毛色が違うからこそCRUDE PLAYの全体像が見える心也の傷心は誰が見てくれるのか?
理子ちゃん お飾りヒロイン記念★ の 13巻。
いよいよ作者が本気を出す。悪い意味で。
全22巻中の丁度 折り返し地点にあたる『11巻』でヒロインの理子(りこ)を一気にスターダムに押し上げた作者は、この一発屋でしかない理子にCRUDE PLAYと共演する資格を与える。それが作者の狙い。読者の分身である理子がCRUDE PLAYと同じ舞台に立つことを描き、歌手となった理子視点でCRUDE PLAYの問題点が見えてくるという流れを創出する。やっぱり作者が描きたいのは自分の愛するバンド・CRUDE PLAYなのだ。
理子は その観察者でしかない。だから伝説の生放送から飛翔すると思われた理子の活躍は一切ない。その停滞は読者の期待外れになるが、作中では事務所の社長である高樹(たかぎ)の方針として上手く処理している。そうしないと理子は幼なじみたちを簡単に切って自分だけ売れようとする肉食歌姫に見えてしまうからでもあるだろう。ヒロインはCRUDE PLAYの4人と秋(あき)、幼なじみ2人の計7人から愛されるヒロインでなければならない。その乙女ゲームのような状況で読者の承認欲求を満たそうとする。


トントン拍子に芸能界入りした理子は最初に高樹からCRUDE PLAYの虚像を教えられた。そして今度はCRUDE PLAYに直に接してみて彼らの実像を知る。作者が描きたい「惨めな僕」はCRUDE PLAYメンバーにも適用され増殖する。更には これまで目立たなかったMUSH&Co.の祐一(ゆういち)も葛藤を抱える。
そこで理子のレベルアップは見られない。序盤の序盤こそ平凡な女子高生として描かれていた理子だけど、いつの間にか様々な才能が与えられて最強の存在になっている。今回も秋の新曲のデモトラックを聞いただけで その曲の真価を理解している。お前のどこに音楽的素養があったんだよ、と言いたくなるけれど理子を最強にすることは作者にとっても便利なのだろう。つまり最強にすれば理子が悩んだり迷ったり躓(つまづ)いたりする描写が不要ということだ。理子にページを割くなんて無駄なこと してられない。
そして祐一や薫(かおる)の悩みを描きつつ、それを踏み台にして心也(しんや)の惨めさが語られる。彼には演奏センスがあっても作曲センスがない。秋と心也は お互いに欠けた部分を見てコンプレックスを増幅している。この一心同体であり表裏一体の関係性を作者は描きたいのだろう。理子が歌手になるのも秋と恋愛するのも、それが少女漫画の要件を満たすからでしかない。
秋と同じぐらい心也は惨めさを抱える。心也はCRUDE PLAYの中で異端児だったけれど、実は秋と同じレベルにあり、彼に具申できる心也の存在がCRUDE PLAYを一つのバンドにまとめあげていた。その心也が壊れ始めた時、CRUDE PLAYは どうなってしまうのか。それを作者は描こうとしている。本書の主人公は秋で、裏主人公は心也というダブルヒーロー体制なのだろう。
その流れが読者は望んでいないものであっても それは最初から作者が考えていたことなのだ。高樹(たかぎ)レベルで人に本当の狙いを隠しながら上手に誘導していく。
あとモブの瞳を黒く塗らず白くする手法が好きじゃない。メインとモブと完全に分けているし、善良な人も嫌な人に見える。瞳を黒くしないと吊り上がった目が強調されてしまうからなのだろう。話は面白いのに作画技術は本当に残念だ。
音楽に厳格な秋はCRUDE PLAYのライブリハでメンバー・薫(かおる)の演奏に注文を付ける。これは これまでの約7年間の活動でも幾度も見られた光景なのだろう。この世界での最高水準の音が脳内で鳴り響く秋の要求はメンバーの演奏技術を超えている。秋の要求がメンバー内に更なる惨めさを加えることになり、メンバー同士の相互フォローが見られる。
そして秋もまた自分の脳内の音が お金を生む一方で大切な友達と亀裂を生むことに悩んでいる。7年経っても そこで躓(つまず)く秋に対して割り切れと耳の痛い話をするのは心也の役割。メンバー内で冷めた発言の多い心也が秋のことを尊敬していることを この緊張感のある現場に同席する理子は認める。
この瓦解しかねないCRUDE PLAYの雰囲気を理子の絶叫が払拭。そこで秋は3日間の猶予を貰い、そこで判断したいと願う。本来なら薫がする懇願を秋がする。友情も音楽の質も捨てられない。
その一方でメンバー間の亀裂に無頓着なのが秋。CRUDE PLAYと理子の楽曲を作ることに夢中で周囲の状況から自主的に隔絶する。
客観的に見ると薫の奏でる音は決して悪くない。それは7年前のデビューから それぞれが技術を磨いてきたからだろう。ただ秋の主観が望む音には届いていない。
そもそも薫は秋のダメ出しの意図が分からない。そこに天才肌の秋は気づいておらず、心也は気づいている。心也だけが秋の求めるレベルを理解している。
入り浸っていたスタジオに居づらくなった薫は母校である高校でコソ練を画策。そこで祐一(ゆういち)に遭遇する。2人は同じ境遇。薫は未来の祐一の姿。そこに心也が薫のフォローをしようと連絡を入れて、彼も高校で合流する。
ベースの心也がギターにおいても薫を凌駕するところを見せつける。ただ心也が言いたいのは薫が理解していないのは秋の音楽だと苛立ちを見せる。心也が認める秋の音の美しさを薫は聴こうとしていなかった。


薫はコンプレックスを解消するために技術を磨くいてきたが、それがテクニック重視の演奏に繋がっていた。それが秋が想像する、CRUDE PLAYという大切な人たちが奏でる音から外れていった。間違えないことが大事なのではなく、メンバーに心から楽しんでもらえるような音が秋の脳内では響いている。その気持ちを取り戻した薫の演奏は変わり始める。そして薫の変化は祐一の希望になる。
だが薫が同じ領域にいると思っている秋と心也にも作曲面においては才能の違いがある。それが残酷な世間(ゆういち)の評価である。秋が理子という才能を半分 掠(かす)め取ろうとしていることで心也のコンプレックスは増幅する。
秋は徹夜で楽曲を完成させ、朝一番で理子に届ける。以前は秋から渡された曲を理子は拒絶していたけれど、今回は受け取る。心也に託した自分たちのバンドの曲ではないからだろうか。分かるような分からないような理子の行動である。そして理子は秋の楽曲の力を まざまざと感じる。それは してこなかった心也の曲との比較でもあった。
