
相原 実貴(あいはら みき)
ホットギミック
第01巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★☆(5点)
成田初(ハツミ)は高校2年生。初の家は社宅で、ここでは会社に厳しい上下関係が近所づきあいにも反映されている。ある日、同じ社宅に住む大嫌いな亮輝(リョーキ)に弱味を握られてしまった初は、秘密にする条件として「奴隷」になることを約束させられてしまい…!?話題のご近所ラブゲーム!!
簡潔完結感想文
- こんな男(作品)大っ嫌いなはずなのに彼(作品)から目を離せないヒロイン(と読者)。
- 巻き込まれヒロインが巻き込まれる数々の騒動と数人のイケメン、そして数回の貞操の危機。
- 作者が最初から用意した多数のギミックが本書の肝。ヒロインの魅力の無さは無個性演出。
少女漫画のジャンルを集結させた お化け大作、の 文庫版1巻。
徹頭徹尾、恋の素晴らしさに触れて心が浄化されるような作品では、ない。全く好みの作風じゃないし、ヒロインの言動には最後まで苛々させられた。でも本書は忘れ難い作品だという確信もある。並の作品が勝てないポテンシャルを感じた作品だった。そして完読すると本書の子供たちは それぞれに家庭や親世代の被害者であって、だから少しずつ思考や性格が歪んでしまったように思う。その歪みを一身に受けるのが愛されヒロインで、ヒロインへの数々の仕打ちがあるから本書は切れ目なく読者の目を奪い続ける。売れるのは必然だと思うけど、後年に名作認定されないのも むべなるかな、と思わざるを得ない。
2000年から連載開始した本書は、少女漫画のジャンルを横断するような作品で、様々な側面から楽しめ、それ故に多くの読者を取り込んだと思われる。そして驚くのは、そのジャンルを10年先んじている要素があることだ。
登場人物たちは全員 同じ社宅に暮らしている。その限られた空間の中で育まれた昔からの関係性が年頃になって変化し、その子供の関係性が大人たちにも影響を与える恋愛と暮らしの直結が面白かった。勿論その逆も然りで大人の都合が子供たちの関係にも影響を与えている。


まず少女漫画に社宅という舞台を持ち込んだことに先見の明を感じる。これはドラマや小説で2010年代半ばからジャンルが確立された「タワマンカースト」の要素を先取りしたものと言えるのではないか。これまでも同じマンションに暮らす男女の恋愛は描かれてきたと思うけど、社宅であること、そして そこに明らかに身分差があることを少女漫画で しっかりと描いたのが本書が初めてでもおかしくはない(前例はなくはなさそうだけど)。描かれている男女の関係性が苦手という人も、このカーストに対してヒロインが どう折り合いを付けるのか見届けたい気持ちは否定できないのではないか。
ちなみにヒロインの住む家と俺様・亮輝(りょうき)の家の大きさの違いは こんな感じ。同じ社宅だよね…??と言いたくなるけれど、カーストは明確であるほど分かりやすい。


そして第二のジャンルは その亮輝が担う「俺様彼氏」。これも2010年ぐらいから少女漫画で大流行するジャンルを先取りしている。その反動でヒーローに常識を求めがちな2025年から見ると異常なモラハラ男にしか見えない。けれどスペックと容姿が高レベルな男性に振り回されてみたい(二次元上では)と読者のフェチズムを刺激する要素が確かにある。そして本書における俺様の亮輝は どこか可愛げがある。幼いとも言えるけれど、不器用にしか人を好きになれず、その不器用さでヒロインだけでなく自分も傷ついているところに読者の中の母性が発動してしまうのも確かだと思う。物語前半では確かに加害者だったけれど、後半はヒロインの方が暴走して亮輝を傷つける加害者になっていく。本書で最も不器用で最も傷つけられたから憎めなくなる。それもこれもヒロインが優柔不断で自分のことしか考えられないからなので、ヒロインの頭の悪さも仕方がないと思おう。
その他にも文庫版『1巻』の時点で、ヒロインを「復讐」の道具に使おうとする人が出てきたり、その人は この社宅内で自分の家族が巻き込まれた「泥沼不倫」の真相を明かそうとしていたりと過去の事件を追うサスペンス要素も出てくる。
それだけでなく「血の繋がらない兄妹」という少女漫画の一大ジャンルを貪欲に吸収している。これだけの要素を取り入れようとする作者の意欲的な構想は大きな破綻なく機能している。けれど正直に言えば、全ての要素が高い質を維持しているとはいえず、時間をかけた割にリターンが少ないジャンルもあったけれど…。
文庫版『1巻』は女性の醜さがテーマなのかな、と思うほどで、社宅の女性たちは自分の意見はなく、カーストの頂点に君臨する人に付和雷同することをを処世術にしている。またヒロインの学校でも嫉妬が発生しているし、顔の良い男性の知り合いというだけで恨まれる。そして妊娠騒動を起こしたヒロインの妹は その時の恐怖を すぐに忘れ、次に夢中になれる男性を探すことで頭がいっぱい。
ヒロインの魅力は伝わりづらい。なくはないと思う。例えば学校や出先で いちいち女性から恨まれるのはヒロインが(中途半端に)可愛いからだろう。相手にとってライバルになり得る存在だから男性を狙う女性たちは敵視する。そしてヒロインは そんな自分に悪意を持つ人たちに対して、相手と同じ土俵に乗らない。悪口に悪口で返すのではなく、忍耐で押し黙る。そうすることで自分の価値を下げず、その態度を見た男性からの好感度が上がる。気が強くないから誰かを排除しないけれど、気が強くないから相手の事情に押し流されてしまう面もある。
ヒロインの魅力は ぼやかしてしか紹介しない代わりに、ヒーロー側の男性3人には学歴や資産、スタイルの良さを付加している。(一応、美人設定があるものの)平凡ヒロインと特別な男性、という古典的な少女漫画の図式が完成している。私には男性たちが全員同じ顔・同じスタイルに見えるけれど、これは作画が横一線だから誰が正ヒーローなのか分からない、という利点もある気がしてきた。誰か一人が明らかに違う作画だったらヒーローが分かりやすかっただろうけど、顔のパターンが一種類しかないから中身で勝負しているとも言える。
冒頭でも述べた通り、全く好みの作品ではないけれど、本書は売れるだけのポテンシャルを秘めているから売れたことへの疑問や違和感は全くない。1話や1巻が当たったから平凡な内容なのに惰性で売れていく作品とは一線を画す、意欲作であることは間違いない。
16歳の高校2年生の成田 初(なりた はつみ)は両親、兄・妹・弟の家族6人で3LDK+Sの社宅に住む。幼い弟は1話から登場しているのだけど存在感がないから、後に登場した時は そんな設定あった!?と驚いた。キャラが多くて怒涛の展開だから出す隙がなかったのだろう。
社員の中で1番偉い橘(たちばな)家が社宅の中でも1番偉いと位置づけられ、特に橘夫人は絶対君主でありルールブック。この人に嫌われたら社宅内で村八分にされると誰もが戦々恐々としている。初は幼い頃 橘家の一人息子である亮輝(りょうき)から階段から突き落とされたことがあり橘家に苦手意識を持っている。
しかし初は中3の妹・茜(あかね)の妊娠疑惑を明らかにするため検査薬を買ったことが亮輝に知られてしまい、それが弱みになる。なぜ妊娠検査薬が紙袋などに入っていないのか、という ご都合主義が見える。
亮輝から頭の中も下半身も軽いと侮蔑されながらも初は この社宅での平和な暮らしを願って口止めに走る。その条件として初は亮輝の奴隷になることを命ぜられる。しかも性奴隷である。


幼い頃に亮輝に突き落とされた現場で初は貞操の危機を迎える。そこに助けに現れたのが小学校2年生の時に転校するまで社宅にいた もう一人の幼なじみ・小田切 梓(おだぎり あずさ)だった。梓に助けられ奴隷話が宙に浮き、茜の妊娠もなかったため初が奴隷になる必要性も消滅する。
モデルとして活動する梓は初と同じ高校に転入して一躍 注目の的になる。が、そのせいで初は梓に特別扱いされていると女子生徒に囲まれる。この私怨に対して初は反論しないし、その事態を陰で見ていた梓も初に肩入れして彼女への恨みを増幅したりしない。お互いに無駄な争いには首を突っ込まない賢さがある。
それでも初は梓に親しく話し掛けられ、彼の撮影現場や引っ越しで必要な家具の買い物などに誘われる。幼い頃から優しかった梓が格好良くなって戻ってきた。そのことに初は心が躍ってしまう。
しかし初の浮かれた心を地に叩きつけるのが亮輝。彼に呼び出され、橘家に入ると最上階のペントハウスには見たこともない広大な景色が広がっていた。けれど亮輝は早々に初を性奴隷として扱い、ベッドに押し倒す。初が抵抗すると「初体験成功マニュアル」と違うと首をひねり出す。
そこに亮輝の家庭教師の女子大学生が闖入し、亮輝は初を彼女だと紹介する。疑問の多い亮輝の行動は、性行為の練習相手を望んでいたようだ。そして亮輝が「本番」と考えるの家庭教師との時だった。経験の差がコンプレックスの亮輝の努力に初は巻き込まれただけ。
怒涛の展開に混乱する初の前に梓が現れる。そして初は梓から8年前に両親が離婚して社宅を去ったこと、最近まで母方にいて、今回 久しぶりに父親と暮らし始めたようだ。
巻き込まれ型の初は亮輝の家庭教師から呼び出され、亮輝が この家庭教師と釣り合うように必死だったという事実を知る。これは亮輝の弱みになり、これを利用すれば奴隷を脱却し、対等になれる。しかし初や亮輝に対して合間合間にマウントを取ってくる家庭教師に対し初は嘘のマウントで彼女を懲らしめる。激怒した相手から水を掛けられることになったが、亮輝の名誉を守った行動は、2人の様子を陰から見ていた亮輝の知るところになる。そして亮輝は初が損得勘定なしで動いたことを知る。これが「ヒロイン性」というやつなのだろう。ここから亮輝は初を好きになったからこそイジメたくなってしまう。
ただし初の心は梓に向かう。一緒に買い物をして、彼に彼女がいないことを確認して どうしても期待は膨らむ。その2人の様子が面白くない亮輝は初を自分の手元に置こうと脅迫して奴隷を継続させ、彼女からのキスを望む。不本意ながら従うしかない初は亮輝にキスをするが、そのキスが亮輝の心臓を撃ち抜いてしまう。もう亮輝は性体験が目当てではなくなり、初以外の女性は目に入らなくなる。
初は梓を好きだけど、その梓に亮輝と交際していると誤解されてしまい、難しい三角関係が成立する。初の悩みを助けてくれるのは梓だけでなく、初の兄・凌(しのぐ)も そうだった。いつも妹を第一に気に掛け、そして妹に妹以上の感情を滲ませる彼の存在も作品の良いアクセントになっている。第三の男がいつ動き出すのかが読者の楽しみになる。
梓の父親から頼まれ梓が仕事に必要な物を初が撮影現場まで届けることになる。期せずして撮影現場見学となったが、ここでも初は女性たちから一方的に恨みを買う。そんな女性たちに梓は初を彼女と紹介して蹴散らす。その話から初は亮輝が恋人ではないと梓に伝え、梓に促されるまま彼への好意を引き出され、そしてキスをする。亮輝との命令キスを帳消しにする幸せなキスにひたる初だったが、初には見えない梓の表情は険しいままだった。
こうして初の梓との交際が始まる。これからは亮輝の傍若無人さから梓が守ってくれる。男に守ってもらう人生の始まりである。この交際に亮輝はショックを受けていることに初は気付かない。そして姉の外見だけなら最高峰の梓との交際に茜は嫌味が我慢できない。良い性格をしているけど、読者も茜の「控え目なフリして意外と自信アリ」という初への言葉に胸がすく思いをしたのも事実だろう。


亮輝は初に対しても不器用にしか接することが出来ない。だから彼女を悲しませるが、彼女が悲しむような情報から守ろうとする態度も取る。しかし そんな思い遣りを初は理解せず(出来る訳がないのだけど)奴隷契約も向こうから破棄したため、梓が女性と一緒にいる場面を目撃したことを結局 話してしまう。誰もが(無)意識的に誰かを傷つけてしまっている。
梓が一緒にいた女性は事務所の社長。そして社長は梓が「復讐」をするためにモデル業を始め、初に近づいていることを知っている。そうとは知らない初は梓から すぐに浮気疑惑の誤解を解かれ、持っていなかった携帯電話をプレゼントされて浮かれる。亮輝は初を奴隷にし、梓は初を復讐の道具にする。巻き込まれヒロインは大変だ。
亮輝だけは梓の企みを何となく察知して不器用に初を守ろうとする。しかし その真意は伝わらないまま初の父親に壁ドンを見られて怒りを買う。しかし父親は自分が叱りつけた相手が橘家の子だと知り青ざめることになる。
単身赴任状態の父親が帰ってきて初は男女交際に厳しい目を向けられる。ただし梓から誘われればホイホイと出向く。梓に勧められるままに お酒を飲む初。その お酒には梓が薬物を入れていた。こうして初は やがて酩酊し、梓によって集められた男性たちに運ばれようとしていた。都合よく兄・凌がバイトしていたため、凌が それを阻止。初は自宅に帰される。
しかし鍵を持ち出さなかったため家に入れず、階段に退避する。そこには亮輝がおり、初は彼から女性としての自信を回復してもらうが、初には その記憶がない。そして再び酩酊する初に亮輝はキスは出来ないが愛撫をする。その途中で初が目を覚まして抵抗。意識のある中では初にとって亮輝は性欲大王でしかなくなる。いつものようにマンションでは目撃者が現れ(深夜なのに)、初(と亮輝)の純血は守られる。
梓は初の父親に執着しているように見える。そして父親も梓の存在を重要視しており、彼の母親が亡くなった際には葬式に参列したことが明かされる。梓の母親が亡くなっていることに動揺する初だったが、その上 父親から梓との交流を完全に禁止される。梓の情報を求める初は、社宅内で梓の両親の離婚は母親の不倫が原因で、同じ社宅内に相手がいることを知る。
そして梓は初の兄・凌が本当の兄弟ではないことを知っていた。これは凌と両親だけが知る成田家の秘密。その情報を盾に凌の行動を抑止した梓は、いよいよ初を復讐の道具に利用する。
初は梓に呼び出され2日連続で社宅から脱出。しかし2日目は亮輝に出会ってしまい、彼が同行することになる。本来は凌がナイトになるはずだったけど、凌は初を見失い、亮輝が初と巡り合うことが運命と言っていいかもしれない。
梓に呼び出された場所には梓がおらず彼の友達が複数いた。最初、梓が現場におらず社宅にいるのはアリバイ作りなのだろうか。初と亮輝はマンションの一室に呼び込まれ、そこで初が男たちに凌辱される計画が始まる。
途中で梓が現れヒーローになるのかと思ったが、計画の立案者は梓。信じた人から裏切られることが復讐では大事で、それを初に味わわせるために梓は登場した。趣向として梓は初めに その場にいた亮輝と初の性行為を望む。
梓が初をターゲットにするのは13歳の時に亡くなった母親が初の父親に裏切られて傷ついたまま死んだから。壮絶な最期を迎えた母親の復讐のために、当時の不倫相手だった初の家族を選んだ。母の死だけでなく一家離散や、父親の処罰的な海外赴任も初の父親が原因だと思い、梓は復讐を計画した。その手始めとして初の凌辱を望み、性欲を昂らせていたはずの亮輝が梓の計画に乗らず、初を守る行動に出たことから、梓は当初の計画通り複数の男性に初をあてがう…。

