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少女漫画と小説の感想ブログです

小林兄妹の恋模様はリンクしなくなる一方なのに現実とリンクする展開はツライっ!!

小林が可愛すぎてツライっ!!(13) (フラワーコミックス)
池山田 剛(いけやまだ ごう)
小林が可愛すぎてツライっ!!(こばやしがかわいすぎてツライっ!!)
第13巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

コミックス累計発行部数・1600万部の池山田剛先生が贈る、大ヒットラブストーリーの13巻! ついにはじめての夜を迎えためごと蒼。遠距離を乗り越えて、いっしょにいられる幸せをかみしめる。そして偶然見つけた教会で、2人は結婚を誓い…!? 十と梓の恋にも大きな新展開!! ツンデレっぷりは相変わらずな2人の、みるみる深まっていく愛の絆から目が離せませんっ! そんな中、ついに梓が…!? 誰もが幸せに包まれる中、笑顔で迎えた卒業式…3月11日。“それ”は突然やってきた。

簡潔完結感想文

  • 駆け落ち未遂で愛の進路が決定。両想い、性行為の次は結婚が目標になるのは当然か。
  • 当て馬によって決まる十と梓の進路。役目を果たしたら あっさり退場するのが当て馬。
  • 池山田先生だからGOサインが出たであろう展開。一瞬で「あの日」に引き戻される。

は新しい門出の季節だったはずなのに、の 13巻。

『13巻』は情報量が多い。1つ年上の蒼(あおい)以外の3人(または4人)が進路を決めるまでが描かれているだけでなく、後半は1人だけ東北の地にいる蒼が現実で起こった大災害に巻き込まれる。編集側が東日本大震災という現実の災害を描くことを許したのは作者の実力と実績と熱意があってのことだろう。震災を経て生まれた小説や映画は多いけれど、少女漫画というジャンルで東日本大震災と真正面から向き合った作品は初めて出会った。

これまでの停滞感が嘘のように目まぐるしい内容になっている。やっぱり中盤の中弛みは目に余ったのは震災を描くのか描かないのか、描くなら どう描くのか、という作者の逡巡の結果なのだろうか。ここにきて ようやく池山田作品らしいスピード感が復活したけれど、早すぎて もう少し腰を据えて描いて欲しい部分も散見された。そして再生速度が唐突に変わったように感じられるほど語り口が安定しない

1つは愛(めぐむ)の進路の決定。蒼の身に危険が迫っていることを予感する愛は彼と一緒にいられるよう両親に結婚を宣言する。しかし それは却下され婚約という形に落ち着くのだけど、その際に愛は蒼の住む仙台の大学への進学も決めたらしい。決めたらしいけど その描写は無く、あるのは結果報告だけ。どう進路を選び どう両親と話し合ったかは描かれず、愛にとって都合の良い報告ばかりが最後に届くのが気になった。これまで一歩ずつ困難を乗り越えてきたのに、大災害を前にしてワープしたような雑さを感じた。
愛にとって新年度は新しい出発で、蒼を守れるという安堵の機会だった、という喜ばしい門出の雰囲気が もう少し出ていると その後の落差が より鮮明になったのではないか。両想い後に続いた奇跡を強調する演出をカットして この辺にページを割いて欲しかった。

婚約も進路も結果報告だけ。大長編の割に処理が雑な部分が散見される

2つ目が十(みつる)と梓(あずさ)のパート。母親と一緒に暮らして和解できた梓だったけれど父親に対しては複雑な思いを抱えていた梓の前に父親が決めた婚約者・将悟(しょうご)が現れる。彼の登場によって十だけでなく梓も自分の進路を決めて、主要キャラの夢は固まった。そういう役割が将悟にあるのは分かるのだけど、唐突な登場の割に撤退が早すぎる。彼にだって望みがあって、本気の恋情があったはずなのに、それを機械的に処理してしまうのが残念。中盤なんて愛を巡る三角関係に見せかけた知永(ちはる)の蒼の秘密暴露が退屈なほど長かったのに、将悟は少しも粘らない。

『鈴木くん!!』に続いて2組のカップルを描いているはずなのに、『鈴木くん!!』同様、明らかにメインとサブに分かれているのが不服。最初は平等に描いていたはずなのに7:3ぐらいの比率で愛の描写が多い気がする。描写が足りないから梓の心変わりや以前の行いの反省が いまいち伝わりづらい気がする。作者は前半では もう少し梓のツンデレっぷりを楽しんでいた気がするけれど、そういう温かな視線が失われているように思う。両親からの愛が欠乏して性格が歪んでいたけれど、作品の愛優遇は再び梓を傷つける気がしてならない。

内容のない巻と ある巻の差が激しすぎて全体の構成が歪に感じられる。それもこれも東日本大震災を どう描くのかという作者の逡巡なのかもしれないけれど。発生から4年余りの大震災を作中で描く勇気を持つことの難しさは私にも分かるけれど、作者が最初から覚悟を決めていたら もう少し作品の質が上がったのではないかと思う部分がある。


する人と肌を重ねる喜びを知り、蒼は生まれたことを感謝する。今の彼が願うのは愛との結婚。愛は蒼と仙台の七夕祭りを一緒に見られて幼い頃の夢が一つ叶う。彼女の次の願いも また結婚だろう。
予知夢を見たという理由で家を飛び出してきた愛を父親は家に帰らせようと仙台まで やって来た。しかし肌を重ねても蒼を失う予感に襲われる愛は彼と一緒にいるために仙台で結婚生活を始めると宣言する。勿論、父親は反対し、そして蒼も自分のために人生を投げ打とうとする愛を自重させ、2人の関係は婚約という形式に収まる。具体的には愛も仙台に進学するという方向性なのだけど、それが明らかになるのは進路が決まってから。


は将悟(しょうご)と対決する全国模試を控える。しかし数か月間の無理が祟って3日前に遂に力尽きる。十が倒れて自分の代役として父親と戦おうとしているを再認識した梓は この問題を単独で解決する方向に舵を切ろうとする。しかし寝込んでいたはずの十が突然 覚醒して それを制止する。梓は十が人生をかけるほどの存在なのだ。

当日、遅刻を焦った将悟が輩(やから)とトラブルになり、それを目撃した十が彼を助ける。輩は どこにでも出現するなぁ…。その際、十は利き手に怪我を負う。ちなみに輩は知永(ちはる)など十の学校の生徒たちによって撃退される。治安が悪い。

将悟は、十が損得なしに自分を助けたことで彼を見直す。全国模試1位常連の将悟の今回の成績は40位。十は20位で彼の勝利となる。将悟は梓の父親に頭を下げて婚約者の辞退を申し出る。悪役の心変わりが早いのも池山田作品の特徴だろう。家柄や金銭目的ではなく梓のこと本気で好きだったのなら ここから頑張れよ、と思わなくもない。本気で好きなら万が一 結婚しても梓は不幸な家庭を築かないでいられる。

知永(ちはる)は死ぬほど話を引っ張ったのに。これが正と副のヒロイン格差なのか!!

の対決で一番 変わったのは梓。両親を私的に恨むばかりで公人としての父親を見ていなかった梓は、自分が背負うべき家格を理解して、十に担わせるのではなく、自分も一緒に戦う道を選ぶ。蒼といい梓といい、小林兄妹のパートナーは成長が遅い。

その第一歩として梓は父親の企業の社長としての一面を学ぼうとする。社長は自分が継ぎ、十は公私のパートナーにするというのが梓の人生プランになる。その上で幸せになることで公私のバランスを欠いた父親を見返すことが梓の復讐となる。将悟によると十だけじゃなく梓も風格があるという。社長の資質がバトル漫画のスキルみたいに描かれているのが気になる。


校3年生の2月、愛は親を説得して、仙台の女子大に進路を決める。通学は祖母の家からとなる。

高校の卒業式の日、梓は紫乃(しの)に頭を下げて謝罪する。自分の家庭が不幸なことを紫乃のせいにして逆恨みしていた自分を罰するために梓は紫乃からの鉄拳制裁を望む。こうして異母姉妹は和解し、梓は紫乃の高潔さを改めて感じ、彼女たちは互いに負けない人生を歩むことを誓い合う。梓がヒロインに格上げしたことで有耶無耶にされるかと思った彼女の過去に ちゃんと触れていて安心した。
この場面、紫乃が少しでも手を抜くと梓が断罪されないままになってしまう。紫乃は梓への恨みではなく、これからの2人の関係に遺恨を残さないために本当に全力で梓に対応した。その理解力も紫乃の素晴らしい特性だろう。


業式の3月11日。蒼は剣道部の合宿で仙台を離れることが出来なかった。
東日本大震災が起こり、母子に倒れかかってきた木材から蒼は身を挺して守る。その母親こそ蒼と紫乃の実母の雪姫(ゆき)だった。蒼は自分に もう一人の異父兄弟がいることを察知するが、成長した蒼の雪姫の動揺を見て「人違い」だと この一件を処理する。愛によってトラウマを乗り越えられた蒼は もう母親という最初に好きになった女性の幻想を追わなくていいのだ。

まもなく津波の到来が叫ばれ各個に避難が始まるが、木材で身体を打ち付けた蒼は怪我によって身体の自由が利かない。その蒼を心配して母親と弟は その場から動かないが、蒼は わざと強い言葉を発して、母の罪悪感を利用する形で彼女の身体を動かす。