《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

親世代5人から生まれた4人の子供たちは片親の愛しか得られなくてツライっ !!

小林が可愛すぎてツライっ!!(14) (フラワーコミックス)
池山田 剛(いけやまだ ごう)
小林が可愛すぎてツライっ!!(こばやしがかわいすぎてツライっ!!)
第14巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

笑顔いっぱいの卒業式を迎えためご。―もうすぐ蒼くんに会える!!―。ついに手を取り合う、紫乃&梓。それを見守る十。―今やっと心の雪が溶けていく―。“今日はいい日だなあ。みんな進む道は違うけど 巣立つ未来が幸せでありますように”。だけど、それは突然やってきた… 2011年3月11日午後2時46分 東日本大震災発生。仙台の海辺で剣道部の合宿に参加していた蒼の目の前には、海から押し寄せる大きな黒い手が! めごは蒼を探しに仙台へ!! ―私は蒼くんの「妻」だもん もう大事な家族なの―。双子の別れ…。―必ず無事に戻ってこいよ オレのたった1人の妹―。家族、恋人、愛する人を守りたい、小林家それぞれの戦い…!! ―蒼くん 愛するあなたをどこにいても必ずみつけるから―。読者の方々からSho-Comi創刊以来最大の“感動”の声! 感涙必至の14巻で、少女まんが史上最大の“愛の奇跡”を。

簡潔完結感想文

  • あの日、大地が、人の心が揺れ続ける中、小林兄妹は真の強さを発揮して真っ先に動く。
  • 再会の喜びよりも、頭を怪我して親を失った蒼の記憶喪失の心配が先に立ち話がブレる。
  • 2作連続「ヒロイン」的立ち位置のキャラと和解した親は それで役目を全うしたのか退場。

っぱり紫乃(しの)はヒロインじゃないのか、の 14巻。

東日本大震災の中で回復した蒼(あおい)と実母の関係性がメイン。母親に捨てられた蒼だったけれど、実母が最期に蒼を見捨てなかったことで彼の中にあった自分を否定する気持ちが完全に消滅した。過去のトラウマが完全に消失することで、蒼は愛(めぐむ)と共に生きる将来のビジョンを より明確にしていく。

もう二度と会えない絶望を経て、もう一度 出会う。1年間の遠距離恋愛は この日 終わる

この蒼の母親・雪姫(ゆき)は3人の男性の運命の女性だった。1人が蒼の実父、2人が紫乃の実父であり梓(あずさ)の実父、3人目が最後の夫である男性。彼女は その誰とも生涯を共にすることが出来ずに命を散らした。

これまで登場した小林(こばやし)兄妹以外の3人の子供たちと雪姫の最後の子供、その計4人は片親からの愛情しか受けられないのか、というのが『14巻』を読んだ感想になった。
蒼は実母・雪姫の愛情を確かに受け取った。そして紫乃は雪姫に そっくりのため実父からの愛情を受けた。実父の愛情を紫乃に奪われたから梓の性格は歪むが、十(みつる)の活躍もあり実母とは和解が出来た。そして蒼や紫乃の異父弟となる茜(あかね)も これから愛されるはずだった母親を失い、実父だけが残る。そういえば3人の男性との間に3人の子供を生んだ雪姫だけど、子供たちの共通点は名前に色が入っていることなのか。

ただし今後の展開によっては梓だけが両親から認められ愛される可能性を秘めており、作品的にサブヒロイン扱いされている梓は実は優遇されているのかと思った。そして逆に紫乃は不遇だと感じた。母親に捨てられたのは紫乃も同じなのだけど、そこに対するフォローはない。母親の最期の言葉に紫乃に対する想いも滲ませられれば良かったと思う。


姫の死はが夫も子供も愛せなかった者の罰のように思えてしまう。意地の悪い考え方をすれば、東日本大震災を扱うにあたって、作中で誰かの命を奪うことになった時、その候補として最初に挙げられるのが雪姫だったのではないかと思ってしまう。

また本書の中の蒼は「男ヒロイン」だと思うけど、『鈴木くん!!』に続いて、ヒロインと心を通わせた親は その命を奪われるという展開のようにも思えた。少女漫画における親はヒロインの悲劇性のために簡単に死ぬ。母親の死というショックと頭の怪我が重なって蒼の記憶喪失フラグが立っていたけれど、さすがに作者は その展開を選ばなくて安心した。


終巻までの3巻連続、作者は苦悩を滲ませた長文を掲載している。自分語りにも見えるけど、作者の言う通り震災という現実の災害と少女漫画の両立は難しいものだろう。

それを理解した上で、『14巻』の描写に いくつか首を傾げるものがあった。
まず愛(あい)の力の演出なのかもしれないけれど、愛が予知夢を見たり、蒼の身に不幸が起きたと思って卒倒するのは ちょっと過剰な気がした。予知夢は読者への心構えの効用もあるとおもうけど、予知夢を見た愛(と十)が2万人の命を救えなかったことを後悔し、責任を感じることになりそう(作中では全く触れられていないけど)。
同じように、十と梓がトップに立つ器を示すために、梓の父親を小物に描いているのも気になる。梓の父親は私生活ではダラしない面があるかもしれないけど、実務においては完璧というのが当て馬・将悟(しょうご)の私見だったのではないか。演出のために簡単に揺らいでいるのは違和感がある。

そして震災直後、蒼が実母と異父弟を無事に避難させようとした場面、離れ行く母親に蒼は手話で自分の気持ちを伝えている。この場面、良い話にしているけれど、久々に手話の活用方法を思いついたのか、と意地悪な気持ちになる。そして幼かった紫乃を捨てられるような人が、ちゃんと手話を習得していたか疑問だし、それから10数年後まで覚えているかも怪しい。たとえ紫乃を教育するための手話は覚えたとしても、この時の蒼の手話の内容を母親は理解できないと思ってしまう。

最後に、震災から2日後、救出された蒼は病院で目を覚まし、母親の死を知る。ただ これも疑問で、病院内の誰が蒼と母親の血縁を知っているのか。どうやって蒼に母親の死が分かるのか、その過程に一切 説明がない。そもそも現実的なことを言えば母親は身元確認も出来ない状態ではないか。混乱した状況の中、なぜ母親の死だけが確定しているのかが謎だ。

どう描いても難しいのは分かるけど、悩みに悩んだ割に粗が目立つ。作品中盤の虚無も震災を描くかどうかの逡巡だと思っているけど、長時間 悩んだとは思えない完成度の低さに落胆を隠せない。


の身に何かあったと不安で昏倒した愛は翌日、目を覚ます。仙台にいる蒼と祖母の安否がまだ分からないため、愛は彼らに食料を届けに行き、その目で無事を確かめることを決意する。余震が続き、東北に行くこと自体にリスクがあることを承知して母親と一緒に空路と陸路で仙台を目指す。
空港で別れの言葉を交わす小林(こばやし)兄妹。元々、愛は新年度から仙台で生活するはずだったけれど、それが早まり、今生の別れを覚悟した場面となる。

思えば入れ替わりをした時から、2人の人生は別々の方向に歩きだしていた。

3月13日、経由する山形空港で愛は自分と同じように蒼を心配した彼を育てた叔父と知永(ちはる)に出会い、彼らも小林母子と同行して仙台入りする(知永がいる必要はあったのか…と思うけど)。祖母は自宅で無事を確認でき、愛は知永たちと蒼がいた可能性の高い沿岸部に向かう。
避難所を順に回る愛は、そこで大切な人の死を知らされる場面にも出会う。不安に囚われ気を失いそうになった愛を支えたのは蒼だった。頭に包帯を巻いているので、また記憶喪失が始まるのかと身構えたけど それはなく安堵した。感動の再会なのに話がブレる。


が無事だった裏には実母の存在があった。
迫りくる津波から逃すために、わざと強い言葉で母親と異父弟を遠ざけた蒼は、最後に実母に生を授けてくれた感謝を手話で伝える。母親は自分が捨てた子供が成長して姿を見せたのに自分はまた見捨てようとしている。そう感じた母は子供を合流した今の夫に預け(発生は平日の割に合流が早いような気もするけど)、自分は蒼のいる場所に戻る。

そこへ津波が到達する。その瞬間、蒼は母親が自分に駆け寄ってきた光景を見ていた。意識が薄れゆく中で愛の存在を思い出し、生きる気力が生まれ、その気持ちを掬い上げるように蒼は救助される(津波の水が綺麗すぎる気がする)。


が目覚めたのは2日後。愛たちが避難所を駆け巡っている日か。蒼は自分の存在があったから母親が避難せず、そのせいで異父弟から母親を奪ったのだと罪悪感に見舞われる。再び蒼が自分の生きる意味を見失いかけた時、愛の声が聞こえる。そこで彼女の肉体を実感した時、蒼は母親に生き続けることを誓う。

愛と再会した安堵で蒼は倒れる。なぜか彼は運ばれた病院に戻るのではなく愛の祖母の家には移動している。愛は蒼が母の代わりに生き残った罪悪感を抱えていることを知りつつ、彼が生きていることへの感謝を繰り返す。そうして蒼の心の中にある自己否定を打ち消し自己肯定を強めたかったのだろう。


は あの日、出会った自分の異父弟の存在が気になり、愛がしたように避難所を回って探す。実母の最後の家族に再会し、彼らの家族であった実母は自分を助けようとしたことで命を落としたことを詫びる。夫は自分の目の前にいる青年が「蒼」という名前だと推測する。それが分かるのは実母が蒼のことを夫に語っていたからだった。

そこで蒼は別離した後の実母の生活を知る。今の夫は精神科医。2人の出会いは患者と医者だった。不安定な心を抱えていた母だったが、少しずつ安定し、やがて2人は家庭を持った。一度だけ夫に過去を話しており、子供たちの名前と特徴、そして愛せなかった自分を告白していた。しかし あの日、母は母であろうとして蒼の元に戻った。津波に呑み込まれる瞬間に聞いた息子の存在を肯定する母の声が思い出され、蒼の心の傷は完全に無くなる。それは10数年ぶりの母子の和解だった。しかし その母は もういない。その遅すぎる和解に蒼は涙を流す。母の不在は新しい心の傷になりかねない。そんな蒼に夫は、蒼の行動があったから異父弟は助かったと蒼が救った命を教える。蒼は紫乃の他に もう一人の兄弟を得た。


の入る予定の墓は既に高台に用意されていた。そこで愛は会うことの出来なかった母に挨拶をして、彼と人生を歩むことを誓う。蒼は愛と再会できたことで彼女の大切さを再確認して、一刻も早い結婚を望む。

5月に入り、十と梓は被災地にボランティアに参加する。彼らもまた その目で被災地の現状を知り、悲しみを抱えた人たちに対面する。ただ十に同行した梓だったけれど、自分の存在が誰かの助けになる実感を得ることで目的意識を持つことが出来た。
十から結婚後の愛と蒼のことが語られ、蒼の一人暮らしのアパートが被災したため、2人は祖母の家で暮らしていることが分かる。結婚式は蒼が卒業して社会に出てからだという未来が語られる。