《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

観察眼が引き出してしまった2人の男性に共通する笑顔。真実を見抜く名探偵の苦悩

月読くんの禁断お夜食(5) (BE・LOVEコミックス)
アサダ ニッキ
月読くんの禁断お夜食(つくよみくんのきんだんおやしょく)
第05巻評価:★★★★(8点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

『そよぎさんの夜を、誰にも渡したくない。』年下の料理男子・月読くんの作る美味しい夜食と甘い言葉に癒やされる日々を過ごすそよぎ。
しかし、今だに月読の正体は謎のまま…。月読の「嘘」にそっと蓋をして共に過ごす時間を守ろうとするそよぎだったが、月読の想いは、すでに溢れる寸前で……!? そして嵐の夜、契約違反のゼロ距離でふたりの関係が変わるーー!?『もしかして、月読くんはーーー。』

簡潔完結感想文

  • 大手に引き抜かれるほどの才能は、相手を よく見て、本質を見抜く その観察眼にある。
  • 月読初の食事シーンは、兄の居ぬ間に召喚した親友の手料理で。愛情は out of control.
  • 真実は誰かによって暴かれなければならない。相手が暴かないのなら、自白するしかない。

つかない準備はできていた、の 5巻。

余り こういう読み方は健全ではないのだけれど、全6巻の作品の1つ前なので『5巻』でカタストロフが訪れることは初めから分かっていました。その予想通りに進む物語なのですが、その中に とてもとても好きなシーンが多くあった。

その1つがヒロイン・そよぎ が真実に辿り着く過程。そよぎ は自分の周囲にいる月読(つくよみ)と朝日奈(あさひな)の2人が自分を引き抜こうとする大手ジムの関係者という共通点があるのではと少しずつ疑い始めていた。その疑惑のグラデーションを1巻1巻濃くしていく作業の丁寧さも職人技だ。

そして今回、そよぎ は その2人が兄弟であることを直感する。その真相に辿り着く過程で誰かがミスした訳じゃない。月読は この時まではブレーキが何とか利いていたし、実は弟思いの朝日奈も月読の罪を暴露したりしない。そして部外者で唯一事情を知っている司(つかさ)も そよぎ が傷つくことを回避するために事情を黙っている。

では なぜ真相がバレたかというと、そよぎ が単独で真相に辿り着いたから。これはパーソナルジムのトレーナーである そよぎ が大手のアサヒナから引き抜きの対象になるほど有能であることと関係しているのも素晴らしい展開だと思う。
そよぎ はプロのトレーナとして目の前にいる相手の一挙手一投足を つぶさに観察し、そこから その人のパーソナルな情報を引き出している。ジムでは顧客の生活習慣や性格、モチベーションなどを見極めることで その人に合った指導方法を導き、その人が望む結果を得られるよう協力している。描かれていないけど おそらくそうだろう。

その観察眼とコミュニケーション能力の高さで、そよぎ は月読と朝日奈から素顔を引き出した。その素顔が あまりにも似ていたから そよぎ は一つの結論に至ってしまった。これは そよぎ が有能だからこそ知りたくなかった真実を知ってしまった瞬間で、その残酷さに読者は唸らされた。

そよぎ の観察眼が発揮されなければ、朝日奈のペースで洗脳されていた危険がある

月読はキャラ作りの歴も浅く、そよぎ への恋心があるから隙がある。彼の素顔を引き出すのは そよぎ には簡単だったはず。しかし朝日奈は そうはいかない。彼が完璧いようとするのはアサヒナで のし上がろうと決意した時からだろう。それが入社からなのか、それとも進路を考えてた時からなのかは分からないが、最短で4年間、最長だと彼の人生の半分近くになるかもしれない。

そよぎ の能力が発揮されたのが朝日奈と初めてテーブルを囲んで食事をした時、というのも良い。もしかしたら月読が同じテーブルを囲んで自分の料理を共に食べると相手を魅了してしまうように、そよぎ には一緒に食事をした人の素顔を暴き、相手が自分に心を許すという特殊能力があるのかもしれない。

朝日奈が素顔を曝け出すことによって、彼の そよぎ への関心は完全にビジネスからプライベートに移行した。もし編集者から連載の延長を要請されたりしたら、朝日奈を第二の当て馬として正式に出走させればいい。けれど朝日奈のポジションは そこではない。彼は何だかんだ言って弟を大事にしているから、弟の大事な人に手を出したりしないだろう。朝日奈が関心を持つとすれば、弟の交際相手として そよぎ がどうか、という点ではないか。少女漫画では相手の親族に会うことは婚約に等しい。そんな会談の時に そよぎ は他者に厳しい朝日奈から心を許される。これほどのゴーサインはないだろう。本編はラストで嵐が吹き荒れているものの、この嵐を乗り切れば2人の将来は明るいことが交際前から約束されている。

そよぎ の能力を示すシーンでありながら、同時に朝日奈が完璧であろうとする実例になっている。2人の初の食事だから判明することの多さがちゃんと描かれているところが本当に好きだ。これまで朝日奈との食事が実現しなかったのは、そよぎ が彼の本質に触れるタイミングの調整の意味もあったのだろう。

そして そよぎ が先に真相に辿り着くから、ラストの嵐の夜に月読の我慢の限界で彼の口から真相が伝えられる際も、準備が整っているから被害を最小限にする防災意識の高さと言えるのではないか。そよぎ の能力が高いから自衛できている。そよぎ=ヒロインの高い能力が しっかり、それでいて さり気なく示されているところに好感を持つ。自分だけショックを受ける悲劇のヒロインごっこにならない点が、大人少女漫画作品のように思えた。掲載誌の違いを しっかりと作品に出しているのではないか。


よぎ と一緒にいる時に兄・朝日奈が現れ、月読は目を丸くする。朝日奈は のらりくらりと食事の約束をかわす そよぎ に業を煮やした、という体で近づいているけれど、真の目的は弟への警告だろう。そよぎ と別れた弟を待ち伏せて朝日奈は本題に入る。

この兄弟の取り決めでは外で会うのは契約違反らしい。月読の中では契約を遵守した上で そよぎ に特別な感情を抱いているだけで、それはビジネス(兄)には関係がないと主張する。しかし兄は、月読の強力な お夜食マジックで遠野(とおの)が道を外れたように、月読の優しさで相手が暴走して関係性が破綻し、弟が傷つくのを見たくない。だから首輪(ネックレス)をつけて手綱を握る。それが兄の優しさなのだ。
しかし自分でも ずるいと思いながらも、月読は そよぎ のブレーキを信じている。だから自分は踏み込める。そこが遠野の時とは違うのだ。

梅雨明け、夏用エプロンを着用して月読はガスパチョを作る。そして そよぎ に手練手管で接近する朝日奈を警戒するように忠告する。やっぱり これは私情が挟んだ裏切りである。


よぎ は朝日奈との食事に、月読の忠告を胸に刻んで臨む。それを もってしても朝日奈の弁舌は そよぎ を魅了する。会話の内容は そよぎ がトレーナーの仕事に情熱と向上心を持っているからこそ反応する。

だが そよぎ はプロのトレーナーとして培ってきた相手への観察眼で朝日奈が隠そうとしていた食の好みを見抜く。完璧を装い、それが出来る人間である朝日奈の好き嫌いを見抜いたのは2人目。1人目は月読。こうして朝日奈にとって そよぎ は完璧な自分を演じなくて良い心安い相手となる。その上、その弟(月読)の食に込めたメッセージまで そよぎ は読み解く。
朝日奈が自分を演出するのは、彼が創業者の孫ではあるものの、孫の一人でしかないからだと後に業界内の噂として明かされる。父親は祖父の三男か四男、そして朝日奈は その父親とも疎遠。孫であるものの優遇されない自分の価値を認めさせるための優秀さなのだろう。

その後、朝日奈の口数が減ったことを気にする そよぎ だったが、それは朝日奈にビジネスを押し通そうという気持ちを消滅させたからだろう。仮面を剥ぎ取って、自分の苦手を全部告白して素顔の微笑みを朝日奈は見せる。こうして柔らかく笑う人を そよぎ は知っている。そよぎ が兄弟の それぞれの演技を見抜かなければ、知らなくて良い真実だった。

ただ将来的に見れば月読の唯一の親族(父親は存命だろうけど)と言える兄に気に入られることで、そよぎ は弟嫁として認められた婚約成立状態と言えるだろう。悪いことばかりではないのだけど、その前に越えなければいけない試練を見つけてしまった。


よぎ は、姓の違う朝日奈と月読が本当に兄弟かを証明するかどうか迷っていた。その葛藤が久しぶりに そよぎ の気持ちを落ち込ませる。そういう時に現れるのが月読という夜の使者なのだけど、彼こそが悩みの元凶。

今夜のキウイのパンプディングも そよぎ の生活の質を高めるためのメニュー。料理中から月読が気もそぞろなのは、兄との会談で何があったか気になっていたから。そうして探りを入れること自体が月読の契約違反、私情の混入で、そよぎ は月読に朝日奈との関係性を問う。彼の答えは知らない人。月読がそういうなら そよぎ は彼を信じると、自分の疑念に蓋をする。ただし月読は嘘を付いてまで この関係性に縋ろうとする自分を嫌悪して降り出した雨の中、傘も差さず夜を彷徨う。


の結果、月読は風邪を引く。風邪回である。しかも兄は出張で不在。月読が落ち込むのは、嘘を付いたことよりも、今回の そよぎ は月読に欺瞞を感じながらも それでも信じようとしてくれたから。彼女の信頼を損なった自分が嫌いなのだろう。

風邪回でも そよぎ が見舞いに来ることは出来ないから、代わりに親友である司が来訪する。『3巻』に続いて兄の不在は二人の密会の始まりだ(笑)今回、月読は自分のために鍋焼きうどんを作ろうとするが、司は そうめん を買ってきた。料理をする気力も起きないため、月読の指示で司が料理する。司は指示通りに動ける。それは彼のスキルが上がっているから。それを喜べる間柄の2人は、やっぱり親友と呼べるのではないか。
この回は本書で初めて(?)月読が固形食を食べているシーンとなる。月読の線引きでは自分の料理を他者に提供して自分も食するのではなく、今回は司の料理を一緒に食べているからセーフらしい。

きっと近い内に司は月読の手料理を一緒に食べる日が来るだろう。俺たち親友だろ?

司は一人で溜め込んでしまう、そうせざるを得ない月読のメンタルケアを行う。風邪回の良いところは その人の意外な表場を見られるところ。今回の月読は屈託のない笑顔を見せたり、そよぎ への真剣な気持ちを表明したり素直である。
兄は出張を早く切り上げ当日に戻ってくる。これも彼の優しさだろう。ただ司とバッティングしなくて良かった(笑)

月読が現状維持を望み、お互いに何もなかった振りをすれば夜の安全は守られる。しかし その生殺しに月読の限界は近い。いや突破している。


よぎ は上司に初めて引き抜きの件を話す。上司は気持ちのいい人で、そよぎ のキャリアを第一に考えてくれる。そして引き抜かれる側のアサヒナのジムも職場として悪くないと冷静な判断を下す。そよぎ の性格を熟知した上で どの道を選んでも本当に応援してくれるのだと そよぎ は安心する。

月読の訪問の日、彼は そよぎ が冷蔵庫に契約書を貼り付けているのを目にする。月読にとっては自分の身動きを封じる枷に見えただろう。今回のメニューは夏野菜を使ったトルコ料理ドルマ。食事をする そよぎ に対してアクセルを踏みそうになる月読は急いでブレーキを踏み直す。


風の夜、月読は そよぎ のキャンセル連絡を無視して部屋に上がり込む。非常時に そよぎ を心配してのこと。そして そよぎ も月読との夜を断らない。台風といえばコロッケ。何が起こるか分からない夜なので飲むのはノンアルコール。

約束通り、月読は電車の動いている内に家を出る。そよぎ が一人になった途端 停電が発生し、そよぎ は久しぶりに心細さを覚える。そんな彼女のメンタルを心配したかのように、電車が止まったため月読が登場する。エレベーターの止まったマンションの階段を駆け上がり、彼女の心配をする月読。

非常灯の明かりの中、2人でテーブルを囲む。食事こそないけれど、料理がないテーブルで2人は手を重ねる。重ねられたのは手だけではなく心もそうで、そよぎ への働きが確かに彼女に響いていると知った月読は心のブレーキが利かなくなる。
それは自分の罪の自白。そよぎ を傷つけると分かっていても、この偽りの関係に終止符を打とうとした。