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袋小路に入って うずくまるしかないオレに優しい言葉を掛けてくれるのは いつも女神

月読くんの禁断お夜食(3) (BE・LOVEコミックス)
アサダ ニッキ
月読くんの禁断お夜食(つくよみくんのきんだんおやしょく)
第03巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

パーソナルジムのトレーナーを務めるそよぎの密かな楽しみは、ネガティブになりがちな夜の時間に食べる、月読くんの美味しいお夜食。心もおなかも満たされる、甘い時間と居心地の良い関係に、月読の謎に気付かぬ振りするそよぎを見兼ね、後輩・司が動き出すーー! それぞれが抱える秘密と謎、そして恋…オトナの禁断グルメラブコメ、大混戦の第3巻!

簡潔完結感想文

  • 月読によって回復し始めた そよぎ とは反対に、今度は月読の心のバランスが危ない。
  • 事情を知りながら秘密にしてくれる同年代の同性の友人とは料理で一層 距離が近づく。
  • ライバルだと思っていた第二の男ではなく、第三の男が当て馬を担当するサプライズ。

の込んだ料理は、彼が声に出せないSOS信号、の 3巻。

色々な面で更に面白くなってきているのが凄い。1つは少女漫画読者待望の三角関係が成立する『3巻』という王道展開。月読(つくよみ)が素性を隠しながら そよぎ に接近していることを そよぎ の後輩である司(つかさ)が気づく。知らず知らずのうちにロミオとジュリエットになっていた そよぎ だが、司は その事実を そよぎ に話さない。それは話したことで彼女が傷つくだけだと分かっているから。この月読のアキレス腱を司は自分の恋愛を有利に進める駒には使わない。こういう判断をした時点で読者はもう司の応援団になってしまっている。

そして この司の存在は月読にとっても救いだと思われる。なぜなら彼には秘密を共有し、自分の苦しい立場を分かってくれる人がいないから。そよぎ本人に話す訳にはいかず、自分に首輪をつけて飼っている状態の兄には不平を言えるはずがない。だから月読は どんどん苦しみ、初期の そよぎ のように影のある表情を見せるのだが、そこに司が登場し、秘密を知りながらも黙っててくれる都合の良い人間になってくれたことで月読は本来の自分を取り戻した自然体の会話が出来ているように見えた。

料理担当と食事担当が男性2人になると一気に『きのう何食べた?』感が出る

しかも司は恋のライバル宣言をしているから『2巻』で登場した遠野のように月読自身に執着する心配も薄いと思われる。司にとっても月読は よりスキルを磨き、そよぎ に相応しい人間になるための良きライバルである。お互いの心を隠さない不思議な安心感のあるライバル関係が成立している。そして この2人が密かに火花を散らしていることを そよぎ は知らない、という三角関係における蚊帳の外ヒロインは少女漫画の理想形と言える。


よぎ と月読の関係性は設定上 動かせないものだから、その代わりに動くのが司、そして月読の兄・朝日奈(あさひな)だった。月読は自分の後ろめたさから そよぎ との交流が疎になり、その隙に そよぎ に接近する兄のことを感知できずにいた。

司が当て馬として覚醒しないから、その前に朝日奈が当て馬役を担うという流れも意外性があって良かった。月読や司からすれば盲点の存在で、何事にも卒のない兄が そよぎ の人間性を知ったことに対する焦燥が月読を動かす、というラストの展開も良かった。

今回も月読の過去が明らかになり、彼は色んな意味で雁字搦めになっていると知り、彼のストレスの大きさは いかほどかと心配になる。ただ そよぎ が覚えていない数年前の本当の最初の出会いの時から月読は そよぎ の優しさと言葉に救われていた。料理を通して一方的に癒すのではなく、双方向で彼らは明日を生きる活力を与え合っている関係性は本当に尊いものだと感じられた。
年下イケメンに癒されるだけの薄っぺらい内容ではなく、ヒロインが ちゃんとヒロインの役割を早くも発揮しているところが私は とても好きだ。

それにしても本書は目まぐるしく季節が移り変わっているけれど、サザエさん時空なのか登場人物たちは歳を取っているのかが気になる。『3巻』の段階では作中で半年が経過しているようだ。


浪 司(ほなみ つかさ)は、そよぎ が勤めるジムの中で初めて月読がアサヒナ側の人間だと知る。しかし そよぎ は月読の素性を未だに知らないと知って、司は この件を自分の胸に仕舞っておく。司が残業を一緒にしたのは そよぎ に探りを入れることと、彼女と一緒にいることの一石二鳥を狙ったものだろう。月読は無関心を装い、司は素っ気なさを装っているけれど、2人とも時折 赤面しながら そよぎ に接しているのが年下男子として正しい振る舞いのように思う。今回、夜食に持ち込んだバラエティに富んだ おにぎり は月読の直伝。勤務先のジムでも月読の存在を感じて前向きになる

そよぎ から月読との経緯を聞き出して司は頭を抱える。司から見れば そよぎ は餌付けされ、そしてアサヒナ側に奪われかねない。司は危機管理を そよぎ に説くが、月読に救われた事実、自分が彼を必要としている事実は変わらない。自分の目で月読の人格を見極めている と そよぎ が言っても、彼女が騙されている現実を司は知っている。


から司は月読と再度 接触する。司が そよぎ に真相を明かしていないと知り月読は あからさまにホッとする。しかし司は月読にライバル宣言をする。

司の存在、自分の立場の危うさから月読は そよぎ と距離を取る。ご無沙汰な彼を召喚すべく、そよぎ は料理相談をする体で連絡を取る。月読が訪問しなかったのは、彼のレーダーが そよぎ の不調を感じ取らなかったからかもしれない。そよぎ の食生活は時たまする自炊で豊かになりつつあり、それが月読から嬉しさと寂しさが混在した表情を引き出す。

ただ今回も以前と同じくメンタルが不調なのは月読の方で、チヂミを作る際の口数が少ない。だから今回も そよぎ が月読の必要性と有能性を教え、月読の料理でしか得られない栄養があることを伝える。それを不器用な手段で伝えた彼女が愛おしすぎて月読は初めて心からの笑顔を そよぎ に見せる。仕事でも契約でもない2人だけの空気が一瞬流れるが、2人は それぞれ その感情を押し殺す。


よぎ の仕事の順調さの裏には月読の存在がある。それが司は気に入らない。その不満を愚痴る相手は月読本人。ライバルであるはずの2人が交流を続ける不思議な関係となる。司は、月読が彼が断われない立場の人間の命令によって そよぎ と接触していると考えてる。しかし真相を そよぎ に話さないのは、まがりなりにも そよぎ が幸せそうで、その幸せを壊すことが彼女を悲しませると考えている。月読が撤退するなら、司は真相を秘すつもりである。

だが月読への脅迫材料にする目論見はあって、そよぎ が食べている お夜食を自分にも提供するように命令する。月読が料理するのは兄と暮らす自宅。兄の家で月読は置いてもらっているだけだという。兄が帰宅するまでが司に許された滞在時間。この禁断感に間男的な緊張感が漂う(笑)
月読は相手に合わせてメニューを考えられる人で、司にはチャーハンを作る。そよぎ と違いカロリーや味の濃さなどを気にしなくていいのだろう。司相手だから出てくる料理と言えよう。月読の調理中に、新卒で入った司のジムでの教育係が そよぎ だった。そこでパーソナルジムの在り方や仕事の理念を懇切丁寧に教えてくれたことで司は惹かれたことを話す。

月読の料理は人との距離を縮める作用がある。だから司も月読への反発心が消滅しつつある。そして月読も そよぎ の前で感情を出さないよう努める自分とは違い、年相応の「男子」の一面を司の前では見せる。そして目を逸らしながら、そよぎ への恋愛感情はないと司の質問に答える。


が月読と接触する一方、そよぎ はアサヒナスポーツの朝日奈 大河(あさひな たいが)と接触していた。朝日奈は創業者の孫。彼に会うことになったのは、アサヒナ側に引き抜かれた客に朝日奈と会って欲しいと懇願されたから。人の良い そよぎ は自分を裏切った形の元顧客の願いも聞いてしまう。

勿論、警戒心と強い決意は忘れておらず、スカウトは開口一番 断る。しかし相手は海千山千のツワモノ。自分のペースで接触時間を延長させ、そして その会話の中で そよぎ の自尊心を満たす。こうして朝日奈のペースになりかけたが、そよぎ が迷子の子供を発見し、親探しに付き合うことで時間が浪費されてしまう。苛立ちを隠し切れない朝日奈の機嫌を保とうと そよぎ は食事の話を振る。そこで朝日奈が好物だというガルビュールを自分も作ってもらったことがあると会話を弾ませる。朝日奈には それが弟の料理だと直感され、彼が兄の好物を そよぎ に提供したことに少なからず驚く。しかし自分に提供された弟の料理は、そよぎ よりも手間と材料にこだわりがあるとマウントを取る。その料理への感想を しみじみ語る朝日奈を見て、彼にとって その料理人が大切な人だと そよぎ は見抜く。

そよぎ のラッキー行動は路肩で うずくまる男性を助けることかも。ここは危機一髪

料理を通じた無防備な会話は、きっと朝日奈が想定していたよりも2人の距離感を縮める。ビジネスの話は全く進まなかったけれど、互いに相手の素顔に触れられた良い時間となったはずだ。そして そよぎ の脱線のせいで一緒にテーブルを囲めなかったことをネタにして、朝日奈は今後の交流の継続を有無を言わさぬ態度で決める。朝日奈は そよぎ が、なぜ女神と称されるのか、それを身をもって理解しただろう。


読は新しいネックレスを兄から贈られる。しかし それは まるで首輪で自分がアサヒナの飼い犬であることを自戒させ、許す範囲でしか行動できないことを意味していた。離れて暮らしていた兄が月読を拾わなければ彼は破滅していたらしい。それが月読の言う「恩」なのだろう。

どうしようもない現実を前にして起こるメンタル不調に月読は そよぎ との癒しの時間を求める。デザートだけでもと頼み込みココアを作って月読は これまでしたことのない自分語りを始める。子供の頃に両親が離婚、月読は母と暮らしていた。母の姓が月読で、父の姓が朝日奈なのだろう。
母の代わりに料理を担当していたが、大学在学中に母が病に倒れ、そして一気に病状が悪化した。それでも一縷の望みをかけて治療を施し、その分 高額な費用が必要となった。月読は限界まで自分を酷使し、疲労から思考がネガティブになった。自分の料理の美味しさが母にあったかもしれない再婚と言う幸せを奪った、とまで考えるようになった時、疲労と相まって立っていられないほどの目眩に襲われ座り込んだ。

そんな月読に声を掛けてくれたのが女神だった。ココアの缶を差し出して、優しく微笑む彼女の姿に月読は魅了された。同僚から名前を呼ばれたことで彼女の名前も判明した。その時、月読は誰かから提供されたもので心が回復していくことを経験した。それは自己否定からの回復でもあっただろう。今とは違う黒縁メガネの地味な大学生だった月読の大切な思い出は そよぎ は覚えていない。けど覚えていないぐらい、当たり前に誰かを助けられる女神だから月読は好きになった。だから数年後、文字通り立場が逆転して出会った時、月読は そよぎ のことを仕事ではなく心から助けたかった。その日のことを そよぎ が忘れられないと言ってくれて彼は そよぎ に気づかれるほど照れる。

こうして月読の心は回復するが、そよぎ が兄と接触を持ち、兄が女性として そよぎ を見て彼女を翻弄しようと知り、月読の心と身体は居ても立ってもいられなくなり…。