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少女漫画と小説の感想ブログです

10年で初恋ゾンビ化したヒロインの前に オトナ男子と高校当時の2人の千葉くんが現れる。

私の町の千葉くんは。(1) (Kissコミックス)
おかもととかさ
私の町の千葉くんは。(わたしのまちのちばくんは。)
第01巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

小野寺マチは、かつて通った母校で教える27歳の高校教師。彼女のクラスに転入生・千葉悠人がやってきた。そのイケメン高校生は、マチの高校時代の初恋(片思い)の相手、千葉悠一の弟で、高校時代の彼に瓜二つなのだった! 10歳下の彼を見る度に思い出すあの頃の気持ち――。「二度目の初恋」に翻弄される、年の差学園ラブ! 「プチキス」レーベルで人気の作品、待望の単行本化!

簡潔完結感想文

  • 「女は子宮と頭で恋をする」。マチは どちらの自分の特性を重視するのか?
  • 転校生の千葉くんは10年前に話すこともままならなかった当時の「初恋の君」。
  • 同級生の千葉くんと10年前は話せなかった事を話し合える現在の「初恋の君」。

にだって性欲はあります、の 1巻。

冒頭の「女は子宮と頭で恋をするらしい」という一文が本書のテーマだろう。27歳の主人公(ヒロインとは呼びたくない)・マチの前に初恋にまつわる2人の男性が現れる。1人はマチが高校生当時に想いを寄せていた初恋の千葉(ちば)くんの当時の姿をした17歳の千葉くん(弟)。もう1人が「初恋の君」本人で社会人として申し分のない姿に成長している千葉くん(弟)。
私の町の、(主人公)マチの、千葉くんは。どちらなのか?
10年物の初恋を こじらせて初恋ゾンビになっているマチが どちらの男性を どのような理由で選ぶのかというのが本書の読みどころだろう。

端整なものが乱れることが色気となり、マチの色欲になる。カーテンの向こうは未知の世界。

この千葉兄弟の どちらかが「子宮担当」で どちらかが「頭担当」であると思われる。酸いも甘いも それなりに経験したマチが どちらの自分を重視するのかで未来は変わってくる。ゾンビ化した自分を成仏させる未来は彼女の判断に委ねられている。

そこに自分が振られるとかいう不安とか恐怖が全くないのが都合の良い女性誌連載といった感じである。マチは「千葉くん」を選ぶ側であって選ばれる側ではない。マチが相手から社会から審査されることは ほとんどない。それは傷つけることはあっても傷つくことのない世界を意味している。この10年でなぜかマチは無敵になっている。容姿も年齢も誰も問題にしない。そして教師という仕事は多忙でストレスの多い大変な お仕事なはずなのだが、そこもリアルには描かれない。2人の千葉くんに出会うための教師と言う仕事で、それ以上の意味は ほとんどない。

兄にとって容姿はもちろん彼女の年収や元カレなどの男性遍歴などマチの個人情報は問題にならない。それは弟にとっても同じ。17歳にとっての10歳という年齢差、生徒と担任教師という関係性など彼もまたマチの個人情報に一切マイナス点を付けない。そしてマチにとって2人の千葉くんは完璧な存在。兄は一流企業に勤めるエリートだし、弟は自分が恋焦がれた初恋の再来。どちらを選んでも幸福しか待っていないという理想の世界なのである。

何もかも都合が良すぎる。少女漫画において人が人を好きになる理由や流れを重視する私には、それを すっ飛ばして状況を楽しむような本書は一種の思考実験だとしか思えなかった。漫画ならではの兄弟の外見の違いの無さと、その一方にあるマチへのアプローチの違いが描かれる。マチと同年代の雑誌読者は自分と彼女を重ね、自分なら どちらを どういう理由で選ぶかを考えることで、自分にとっての価値が浮かび上がるのではないか。


チが合コンで知り合った男性と身体の関係になるから軽い女だと思われていることは彼女の名誉のために擁護したい。彼女が その男性と そういう関係になったのはムラムラしていたからである。どこが擁護なんだよ、と思われるかもしれないが、マチは「千葉くん」限定でムラムラしているのだ。

高校生のマチが最初に千葉(兄)に恋に落ちたのは、いつも端整な彼が当時の彼女とカーテンから出てきた時に髪が乱れていたからだった。綺麗な言い方をすれば その千葉くんに「スコーン」と恋に落ちたのだが、汚い言い方をすれば そこに劣情を催したと言えよう。そして合コン相手と身体を重ねた日も、マチは千葉(弟)が自分の前で髪を乱すのを見たことでスイッチが入ってしまった。

特殊な条件が整えば初恋は2度やって来る。そして なぜか2度目は劣等感やコンプレックス皆無。

そこで昂った性欲を処理するために合コン男は使われたのである。誰とでも寝るのではない。誰かと寝たいと思った時に適当な相手がいただけだ。そのぐらいマチは初恋に支配されている。
あと単純にマチの中での10年の時間経過を表現しているのだろう。それなりの男性遍歴があり千葉くん以外に与えられる幸福も知っている。純粋に異性に憧れを抱く初恋とは違う形の恋や性愛も知っている。

普通に考えたら立派な千葉くんへの執着なのだが、千葉(兄)とは10年という月日が互いに流れ、千葉(弟)とは10歳という年齢差が存在する。そこがマチのストッパーになっている。あとは出会いの順番も大事だろう。もし弟よりも兄と先に再会していればマチは迷わず彼の胸に飛び込んだだろう。兄は合コン男性や元カレの前でデリカシーなく初恋の千葉くんの話をするほど彼女にとって大きな存在なのである。でも今のマチの前には弟という、あの日の千葉くんがいる。初恋を、叶わなかった青春を やり直す機会がマチに与えられている。

本物と理想の2人の千葉くんが目の前にいるからマチは悩み、悩むから即物的な行動をしない。そこがマチを前のめりの姿勢から救い、冷静にならせ、本書をコミカルにしている部分だと思う。


校の高校で教師をしている小野寺マチ(おのでら マチ)の目前に転校生としてやって来たのは、高校時代の初恋の男子生徒そっくりな生徒だった。彼は その「初恋の君」の弟・千葉 悠人(ちば ゆうと)。かつての理想が自分の前にもう一度 現れた。既存の書名だが『ハツコイ×アゲイン』といった感じか。

マチは最初から悠人を「性的な目」で見ていることを、友人であるスクールカウンセラー・坂下(さかした)に自白している。それは つまり初恋の千葉くんを そういう目で見ていたという過去の懺悔でもあろう。そしてマチには職業的倫理観とか、兄と弟は違う人格であるとか関係ないようだ。あるのは自分の性欲がかきたてられるという自覚だけ。

その一方でマチは合コンで男性との出会いを求め、冷静に品定めしている。初恋は打算がなく、今は打算しかない。だから ますます初恋が理想化される。マチが悠人の兄であり、「初恋の君」である千葉 悠一(ちば ゆういち)に恋に落ちたのは高校時代。マチは悠一が当時の彼女と教室のカーテンに入っているのを目撃した。そこから出てきた悠一の髪が乱れていること、その中で悠一がキスしていたと思ったことでマチは「スコーンと恋に落ちた」。


コンで出会った人と2人だけで食事をする日、マチが学校を出ようとすると悠人が下駄箱の前にいた。彼は傘がないため雨の中、帰れないらしく、彼からの お願いされマチは一緒に下校する。それは高校時代の彼女の夢が実現した瞬間だった。その嬉しさのあまり合コン相手からの連絡を無視する。この時点で優先順位が明らかだ。

そして悠人がトラックが撥ね上げる水しぶきからマチを守り、代わりに彼がずぶ濡れになる。その時に濡れた髪をかき上げて髪が乱れたのを見て、まち の中で「スコーン」と音がする。男性が乱れる姿が彼女は見たいのかもしれない。

その後2人は それぞれの夜を過ごす。悠人はバイト先に顔を出し、店長で彼ら兄弟を知る おじさん から転校の理由が初恋の女を追いかけたことが語られる。悠人にとって初恋は忘れられず、無限のエネルギーを生み出すもの。その後の悠人の回想から10年前の悠人は この高校の生徒だったマチに会っているらしいことが判明する。全ての始まりは この高校なのである。

そしてマチは合コン相手の男性と一夜を共にする。スコーンの音に興奮冷めやらぬマチは合コン相手にも悠人の存在を話し、そのまま生徒を性的に見るエネルギーを合コン相手で発散する。上述の通り、間違ってはいけないのは おそらく悠人と下校しなければ、悠人の髪が乱れなければマチは相手と一夜を共にしなかった(はずだ、きっと、おそらく)。初恋はエネルギーなのだ。


チも いい大人だから冷静で、自分の中で悠人は、初恋の「千葉くん」の幻影ではないかという考えが浮かぶ。その証拠にマチは千葉くんの委員会も部活も全部 覚えている。高校時代の彼の姿に影響されて、大学で彼の後を追うようにバスケサークルに入って、現在はバスケ部の顧問をしている。マチの人生は千葉くんの幻想を追い続けることで前に進んでいるのかもしれない。

ただし目の前の悠人を見て幻滅することはない。言動も食べ方も自分の理想であり続ける。ちょっとSっぽい意地悪が悠人には見え隠れする。そして悠人と接触することで、自分が男性と身体を重ねた昨夜、自分が悠人を念頭に置いていたことを自覚する。悠人は今のマチに強い影響を与え始めている。


人の転入から2か月。マチは千葉の視界に入る自分を磨く。高校時代は生徒間のヒエラルキーが厳然としてあり、自分を変えるパワーは無かったが、今の彼女は教室の支配者と言える立場で、誰に気兼ねすることなく「女」を出せる。だが その一方で悠人とは年齢も立場も違う。クラスメイトとして悠人に接する女子生徒とは自分が違う世界にいることにも気づかされる。いつの時代も彼女の初恋は上手くいかない。

その疎外感からなのか、マチは身体を重ねた男性がいる合コンに参加する。自分と その男性が「やった」ことを彼の身内に知られていても大人の自由を満喫する。悠人との距離を忘れるために飲み過ぎたマチはトイレに立ち、その途中で1人の男性と接触する。そこにいたのは千葉くん。弟の方ではなく まち が憧れ続けた千葉 悠一が27歳の姿で彼女の前に現れたのだった。
再会を祝すかのように飲み過ぎていた まち は嘔吐する。


一は2年前に結婚している。それをマチはFacebookで確認済み。当時の彼女には彼氏がいるのだが、その彼にマチは悠一の結婚を報告している。
そして既婚者であるはずの悠一が合コンに現れたこと自体が謎になり、不満になる。神聖なる「千葉くん」が本人に汚された気持ちになるのだろう。

その点、悠人はマチのツボを突き続ける。マチは合コンで悠一の前で嘔吐したことに驚愕し、腕を痛めていたのだが、悠人は そのマチの異変に気づいていた。そして痛めた腕を手に取り、王子様のように手の甲にキスをする。これは悠人の暴走。だがマチは自分の下心に悠人が気がつき からかわれたと考えた。しかし悠人は好意による行動だと、サラっと告白する。
そして同時に悠一からも2人きりで会わないかと連絡が入る。

悠一の有利は何と言っても本人であること。本人の声、身体、心は彼にしか宿らない。

下の悠人の告白も、既婚者の悠一の誘いも理由が分からず、マチは混乱する。悠人は普段通りに接してくるため、告白も からかい の一環だとマチは結論づける。そして悠一もまた自分を差し置いて(?)結婚したことから、からかわれたとマチは都合よく悠一を恨む。

2人だけで会う日、悠一はマチの名字を覚えていた。名前を呼ばれるだけで浮足立ちそうになるマチ。そして悠一が予約した店は高級ホテル内の鉄板焼き。悠一が女遊びの激しいと認定したマチだが彼の魅力に抗えない。彼のスマートさにマチは千葉との関係の一夜限りの関係を考え始めるが、安い女に見られないという自分の目標を再確認する。

だから自分の切り札として彼が既婚者である証拠として結婚式の写真を突きつける。そこを防波堤にするマチだったが、悠一は去年 離婚したことを白状する。全てはマチの邪推であった。そんなマチが悠一にはツボに入ったようだ。
悠一は高校時代からマチの存在を認識していたという。高校時代の恋人、マチが恋に落ちたカーテンの裏に一緒にいた元カノから話を聞かされていたらしい。

そこからは同級生として会話が始まる。別れ際に悠一の目的が悠人の高校での様子を知りたいと聞かされるが、マチは悠人の存在を認識していないかのような態度を取る。欲情していることが後ろめたいのか。
このように悠一と悠人の千葉兄弟は意思疎通が出来ておらず、どうも家庭に問題がありそうな雰囲気がプンプンするが、そこは特に最後まで言及されない。裏設定があったのかも いまいち分からない。そういえば悠人が学校を転校するのに、どこでマチの情報を入手したのかも謎だ。新入生として入学する高校受験の時に調べたりしなかったのだろうか。そこには おそらくマチの高校時代の年齢、10年と言う節目などと合わせて悠人との再会が高校2年生ではなくてはならない、という問題があるのだろうけど。

実際、悠一はマチが気に入ったらしく、お互い気兼ねのないフリーの関係でマチを今後も食事に誘う。マチは初恋の成就を目の前にして浮足立つ。だが学校で悠人がクラスの女子生徒の告白を好きな人がいると断ったと立ち聞きする。そこで悠人は自分に本気なんじゃないか、という考えが湧き上がるのは自然な事だろう。いよいよマチに都合の良すぎる恋の天秤が完成する。