
渡瀬 悠宇(わたせ ゆう)
イマドキ!
第02巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★☆(5点)
公暉(こうき)、月子、葵(あおい)も緑化委員になり「友達」ができたと喜ぶ たんぽぽ。しかし生徒会から、「緑化委員会」の発足許可は顔(ガン)グロギャル・有佐(ありさ)の説得と引き換え、という無理難題が突きつけられる! 自分とは水と油の問題児・有佐に たんぽぽ は どう立ち向かう!? 一方、公暉には同居中の婚約者・江里花と、行方不明の兄・耀司がいたが、耀司が たんぽぽ の故郷に現れたという情報が入り…?
簡潔完結感想文
そうさ僕らは 世界に一つだけの花、の 文庫版2巻。
最も印象に残ったのは「人間も花もおんなじ ひとつの型に収まんなくていい」「…1人1人自分らしく精いっぱい咲くことが大事なんだ」というヒロイン・たんぽぽ の台詞。この台詞を見て2002年以降の日本人は「世界に一つだけの花」を連想せずにはいられないだろう。しかし驚くことに本書で この台詞が出たのは2000年(のはず)。たんぽぽ の台詞は よく聞く内容ではあるものの、年月の近さなどから もしかして元ネタと思ってしまった。


さて、学校という世界の革命も、恋愛の入り乱れる人間関係も最少人数で成し遂げているのが面白い。特に文庫版『2巻』では九卿(くぎょう)の兄・耀司(ようじ)の登場によって広がっていく展開に意外性があった。人物の登場のさせ方や順番などに天性のセンスを感じる。物語の運びが上手いからスッと作品世界に入り込めて、そして抜け出せない。ここまで摩擦ゼロで読める作品は珍しい。
『1巻』ラストで九卿に婚約者・江里花(えりか)の存在が発覚するが、彼女は元々 兄・耀司の婚約者。その耀司が行方不明になったため婚約の話が弟の九卿にスライドした。その兄を発見することで全てが収まるところに収まるかと思ったが、そうではなく一層 混迷を極めるという展開となり読者に息をつかせない。
たんぽぽ が恋心に気づいた瞬間に、その前途が暗くなるのは意地が悪い。クラスメイトの西園寺(さいおんじ)の場合はライバル関係が成立する前に消滅して たんぽぽ との無駄な衝突を起こさせなかったのは、この展開を用意していたからなのかもしれない。
読者は たんぽぽ の悲恋に共感し同情し、物語に没入していくのだけど、一歩 引いてみると、どうも九卿兄弟が元凶ではないかと思う。耀司の自由を求める生き方は分かるが、それならば婚約者の問題など他者を巻き込む問題を整理してから行動するべきだ。それをせず自分探しの旅のようなことをしている彼は信用ならない。
その逆が弟の九卿だろう。彼は自分の責任ではない兄の行方不明に巻き込まれた被害者なのだから、江里花との婚約スライドを容易に受けてはならなかった。もちろん これは たんぽぽ に出会う前であり結果論なのだけど、将来的に自分を苦しめる種を予感しなかった時点で九卿のミスだろう。言いなりの政略結婚を自分が貫徹できると思っての選択ならば その選択を自分の都合で捨てるのは兄同様の自分勝手になる。
江里花は完全にライバル的な立ち位置にいるけれど、彼女は勝手な九卿兄弟によってメンタルを崩壊させられた被害者でしかない。耀司に対して失恋はしていないだろうけど、彼の行方不明は江里花に失望を与えたのは確かだろう。その失望を繰り返さないために九卿(弟)に執着するのも仕方がないことのように思う。女性たちは勝手に自我に目覚め、自由意思を優先しようとする男性の被害者と言える。
また、限界を迎えた たんぽぽ が育てていた植物を引っこ抜く『2巻』のラストは、『1巻』の冒頭と対照性を帯びている場面が印象的だった。冒頭で たんぽぽ は植物を愛する九卿を信じたように、今度は九卿が たんぽぽ の心根を信じる。そうして九卿の方が たんぽぽ を追うターンへと潮目が変わったことを表す場面の使い方が上手いと思った。後述の生徒会長を殴るシーンの前の2人の意見の擦り合わせなど、上手いと思うシーンを作れるのが作者の力量だろう。
気になったのが学園祭。ここで江里花の提案で恋愛イベントが開催されるのだけど、この学園の生徒たちが このイベントに群がるのは違和感を持った。お前たち、そんなに恋愛脳だったんか、と驚くばかりだ。学園祭での緑化委員の成功を優先したのだろう。ここをツッコむのは野暮だと思いつつ、友情の意味さえ分からない生徒という描写とかけ離れすぎていた。
九卿に婚約者が いることを思い悩む たんぽぽ。
その問題に着手する前に、生徒会から緑化委員会の許可に対する条件が出される。それが生徒会長を悩ませる顔グロギャル・内村 有佐(うちむら ありさ)の対処だった。有佐の家は高利貸し。たんぽぽ が これまで知り合ったメンバーの中では一番庶民的と言える。有佐が生徒会長の尾形に しつこく接近してくるため、尾形は その断念を緑化委員会への発足条件とした。
ただ有佐への初接触では彼女は尾形への執着を見せなかった。有佐はクラブに入り浸り男たちと派手に遊んでいる。そこに潜入し彼女の説得を試みるが失敗。しかし有佐が飲酒せずに嘔吐したため、たんぽぽ たちは彼女の妊娠を知る。既に病院で妊娠3か月だと言われているが、父親候補が多すぎて手をこまねいていた。
しかし たんぽぽ は有佐の尾形だけに見せる表情や態度が気になる。京極の調査で尾形には中学時代から女性を中絶させたという噂が絶えないような男だと分かる。
飲酒や喫煙を繰り返そうとする有佐を たんぽぽ はヒロインならではの お節介で叱りつけ、彼女の恋心の在り処を指摘する。中学卒業前に知り合い身体の関係を持ったが、身分差などで釣り合わないと有佐は遊びの関係だと割り切ろうとしていた。それでも彼女の中で尾形だけが父親候補なのだから、他の遊びの男たちとは違うのだろう。
たんぽぽ は有佐に尾形へ思いをぶつけるように背中を押す。これは直前に たんぽぽ が恋を知ったからする お節介。もしかしたら婚約者がいる九卿に告白できない無念を有佐で晴らそうという部分もあるかもしれない。
けれど有佐の告白は一笑に付されて終わる。その尾形の態度に有佐は自分を手切れ金目当ての軽い女だという役を演じて生徒会室を去る。その話を盗み聞きしていた たんぽぽ は緑化委員会の話が頓挫してもいいと九卿と意見を統一して、尾形に鉄拳制裁を加える。たんぽぽ の独断ではなく、九卿も同じ怒りを共有しているという場面が上手い。こういう ちょっとしたシーン1つで物語に味が出る。
たんぽぽ が生徒会長を殴ったことで緑化委員の話は立ち消えになると思われたが、その拳が忘れられない尾形が発足を許可する(会長は たんぽぽ)。有佐を加えた5人で緑化委員会が始動。その始まりとして たんぽぽ は別々の植物の種を植える。ここで出てくるのが冒頭で引用した たんぽぽ の名台詞。これが それぞれに自分らしい花を咲かせる、という たんぽぽ が掲げる緑化委員会のモットーとなる。
緑化委員会の活動が生徒の心を少しずつ動かし始めた夏休み直前、行方不明だった九卿の兄の情報が もたらされる。それが たんぽぽ の故郷である北海道での目撃情報。帰省するつもりだった たんぽぽ をはじめ、緑化委員会全員で北海道に向かう。
北海道で たんぽぽ を出迎えるのは地元も友達と祖父母。この北海道で九卿は、東京の一人暮らしの家に続いて たんぽぽ のプライベートを覗く。そこで九卿は たんぽぽ の両親の他界を知る。
朝、1人で両親との思い出の場所で感傷に たんぽぽ に不審者が近づく。気づいた たんぽぽ は逃亡しようとするが転倒してしまいピンチに陥る。しかし その不審者は たんぽぽ の怪我の治療を始めた。誤解が解けて男が持っていたポラロイドカメラで並んで写真撮影をする。この不審者こそ九卿の兄。たんぽぽ は兄弟揃って印象的な出会いをしたと言える。
たんぽぽ を追って九卿が駆けつけるが兄の姿は既に消えていた。九卿は兄を探そうと1日中 動き回るが成果が出ず。同行した たんぽぽ が怪我のため動けなくなり、2人は屋外で夜を越そうと決意する。そこから たんぽぽ の身の上話となり、たんぽぽ は両親が自動車事故で他界したこと、最期に母が笑って生きるように言い残したことを伝える。どんなに辛い状況でも たんぽぽ が笑っていようとしたのは この過去があるからなのだろう。
日が昇ってから九卿が たんぽぽ を背負い家路につく。そして帰宅した実家で、九卿は有佐たちに拾われた兄と再会を果たす。
兄の名前は九卿 耀司(くぎょう ようじ)20歳。この兄が発見されたことで九卿は実家に戻り、それを追って たんぽぽ も東京に戻る。
たんぽぽ は兄が行方不明になったことで婚約する運びとなった江里花との関係が気になって仕方がない。九卿には家族の問題だと門前払いされてしまうが、ハチャメチャな緑化委員たちの力で実家への潜入を果たす。
兄は自分の人生は自分で決めると この家を出ていった。その考えは九卿にとっても眩しいが、今の彼に そこまで激しい情動は無い。話が江里花との婚約の処遇に及んだ時、屋根裏で会話を盗み聞いていた緑化委員が落下する。その落下の衝撃で有佐が お腹の痛みを訴える。彼女は まだ中絶手術をしておらず迷いの中にいた。中絶は自分の初めての恋を否定すること、そして新しい命の否定と考えていた。救急車の中で有佐は出産を決意する。それが自分の咲き方だと覚悟を決めた。
もう一人、覚悟を決めた者がいた。それが江里花。彼女は耀司ではなく九卿の妻になると宣言したのだった。そして夏休み明けの新学期、江里花は この学校に転入してくる。


彼女は九卿が自分から離れていこうとしているように見え、それを繋ぎ止めるために物理的接近をしたようだ。メンヘラ気質の危ない女性である。江里花は たんぽぽ たちと同じクラス。というか同じ年だったのか。綺麗な人なのだろうけど老けて見える。
家柄も申し分のない江里花は、たんぽぽ の時と違ってクラスメイトたちと最初から良好な関係を築く。この対比は面白い。そして江里花はクラスメイトたちから この学校での九卿の様子、そして たんぽぽ との接近の様子を聞き出す。
同居中の婚約者が学校も同じにした上に、緑化委員会にも加入したいと言い出す。メンバーの人心を あっという間に掌握し、誰も反対することなく江里花の加入が決まる。たんぽぽ だけは江里花の加入を喜べず、江里花と一緒にいる九卿を避けるようになる。それを九卿が追おうとすると江里花は精神的に不安定になり、心理的に九卿を縛り付ける。
学校イベントの学園祭が近づき、一生の思い出のために たんぽぽ はクラスで何かしようと提案する。周囲は冷ややかだが それに負ける たんぽぽ ではない。そして この学園祭で有佐は出産準備に入るため、このメンバーでの最後の思い出となる。
何かがしたいが何をすれば良いか分からない たんぽぽ に江里花は色で違うバラの花言葉を用いた告白イベントを提案する。全校生徒を対象としたイベントなので準備が大変。その準備の合間に、江里花の隙を突くように交流する たんぽぽ と九卿。まるで密会で どちらかと言えば この2人が不義の仲に見える。
江里花は たんぽぽ を牽制し、そして直接対決を提案する。それが告白イベントでの九卿からの返事で勝敗を決めるというもの。選ばれなかった方は緑化委員会をやめ、九卿からも離れることになる。現状が苦しい たんぽぽ は その勝負に乗る。せめて彼に告白をしたいと たんぽぽ は考えていた。
学園祭初日。たんぽぽ は緑化委員として生徒たちの対応で手一杯(なぜ ここの生徒が恋愛に興味…(略))で、バラを渡せず得江里花に先を越される。
最終日。有佐は このイベントを利用して最後に もう一度 尾形に想いを伝えるという。その彼女に最後のバラを渡して たんぽぽ は告白の機会さえ失う。有佐からのバラを尾形は受け取る。この辺の気持ちの動きは全く分からないが、出産を前にする有佐に厳しい現実は与えたくないのだろう。
渡すバラさえ持たない たんぽぽ の前に現れたのは耀司。耀司はバラの花びらを再利用して瓶詰にすることで たんぽぽ にチャンスを与える。だが たんぽぽ は、学園内を生中継するカメラの前でキスをする九卿たちの姿を見てしまい、瓶を割ってしまう。たんぽぽ は想いを告げられず消沈する。江里花との勝負に負けたことで自分は九卿の前から去らなければ ならない。
理由を明かすことの出来ない たんぽぽ はメンバーの前で脱会を宣言して逃亡する。それを九卿が追うが、もう笑うことは出来ないと、出会った頃の九卿のように、今度は たんぽぽ が芽を出し茎をのばす植物を花壇から抜く。九卿から貰ったスコップを彼に返却し、彼女の緑化委員としての活動は終わった。たんぽぽ が植物に対して乱暴な行動をすることに九卿は違和感を持つが、彼女を追う前に江里花に囚われてしまう。
失意の たんぽぽ の前に耀司が姿を現す。彼は実家に居づらいため家を再度 出て たんぽぽ と同じマンションに越してきた。耀司との交流で たんぽぽ は もう学校に行きたくないという気持ちが薄まる。だが緑化委員のメンバーは勝手な行動をする たんぽぽ に不信感があり冷淡。学校が楽しくない場所になりつつある時、耀司との交流が たんぽぽ を笑顔にするのだった。




