
種村 有菜(たねむら ありな)
神風怪盗ジャンヌ(かみかぜかいとうジャンヌ)
第02巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★(6点)
稚空の正体がシンドバッドだと知りショックを受けるまろん。辛い気持ちを抑えてジャンヌとしての仕事に臨もうとするが、そんな矢先、母親からの悲しい留守番電話が…。その夜、予告があったのにもかかわらず現場にジャンヌは現れなくて!?【収録作品】スペシャルカラー口絵 有菜っち美術館/ジャンヌspecialピンナップ
簡潔完結感想文
- それぞれに両親の悪影響で愛を信じ切れないことが両片想いであるはずの2人の枷となる。
- 稚空は枷が一足早く外れて まろん にグイグイ迫る。だが仕事面では目的不一致のまま。
- 怪盗業では いつも敵対関係にある親友の都との共闘。怪盗業は大切な人を敵対する時間。
ちょっと格好つけた場面を ちゃんと格好良く描けている、 文庫版2巻。
偶然か必然か文庫版『2巻』は、ヒロイン・まろん にとって大切な親友の都(みやこ)そして好きな人である稚空(ちあき)の家族問題を解決している。彼らの大好きだった家族が壊れていくのを まろん は怪盗ジャンヌとなって阻止する。その実績を積み重ねることが、まろん の家族を再生する勇気や希望を まろん に与えるのだろうか、と家族問題で統一された文庫版『2巻』の切り口を好ましく思った。
また一般的にヒーローのトラウマや家族問題は物語の最終盤に回されるのだけど、本書の場合 まろん の家庭問題の方が大きく扱われるので稚空の家族問題、そして それに繋がっている彼の恋愛に本気になれない体質の改善が見られる。
この稚空の家族問題や、都がジャンヌを執拗に追う問題の根源は似ていて、大切な人を大切に思うことが彼らの動機になっている。自分には見えなかった一面が見られた時、人は驚き心を動かされるのだろう。一文目に書いたけれど、こういう恰好つけるべき場面を格好良く描けるのが作者の長所だろう。
画力の面で革新的だっただけでなく、恋愛が動かないようにする構成力、そして それぞれの人に ちゃんと動機や信念を用意している点が作品を奥深くしている。てっきり画面の派手さやアニメ原作に相応しい変身ヒロインモノで売れたのかと思っていたけれど、ちゃんと作家の力量を感じさせる作品だった。1作目で全力を出し過ぎて、2作目以降が似たような内容にならないかという余計な心配はあるものの、勝手に私の中で悪いものに育っていた作者への印象はグッと良くなった。2作目以降もヒットする作家さんと、本当に1発屋で終わる作家さんは基礎筋力が違うのかな、と思わせられる一例である。


さて稚空は恋愛のトラウマといえる家族問題を克服したことで、彼の方は恋愛解禁状態となる。だから これまでのような自分も騙すようなアプローチではなくて、本心から まろん を大切に思うターンが始まる。この真剣さの違いが少女漫画読者には たまらない。
稚空が まろん にとって「特別な人」であることの証明になる、稚空が まろん を弱いと指摘する場面は意外な展開だった。強くありたい まろん に対しては、強さを肯定することが正解のように見えるけれど、強さは まろん の虚勢。ならば その外面ではなくて、本当は弱い内面を言い当てるのが正解なのだろう。これを間違えなかった稚空も凄いし、こういう場面にした作者も凄い。稚空によって まろん が恐怖する夜が終わり、新しい朝が始まるシーンも本当に考えられたシーンだと感心した。
こういう作品を若い段階で読んで、言葉に出来なくても本能的に良い作品だと思っていて欲しいと思った。本書が当時のリアル読者にとって「特別な本」になるのも納得である。
しかし まろん には怪盗の使命があり、そして家族問題が残っているため愛の不信がある。稚空と両想いなのだけど、それを受け入れることは出来ない。それが連載の引き延ばしではなくて、ちゃんと理由が感じられているのが良い。物語の展開も変わらずに早いけれど、文庫版『2巻』のラストは、新キャラによる引き延ばしの気配をビンビンに感じるけれど…。
不仲の両親に放置されて生きてきた まろん が稚空を好きになりかけたのに、その彼からも愛情が偽りだったと言われ まろん は絶望する。そして稚空に揺さぶられる弱い自分を克服するために、彼という存在は不要だと考える。
まろん は独力で生きていけることを証明するために これまで以上に部活に勉強に励む。それでも自分のミスをカバーしてくれようとする稚空の存在に心は揺らぐ。そして稚空の父親から自分が親から決して想われていない訳ではないと知らされ、親を嫌うことで何も知ろうとしなかった自分に気づかされる。
しかし まろん は両親が いよいよ離婚すると望まない留守番電話のメッセージを聞き、ジャンヌとしての活動を放棄する。シンドバッドとしてジャンヌの未登場を知った稚空は、自宅にも居ない まろん を心配し都(みやこ)と水無月(みなづき)と一緒に捜索。闇雲に捜しても見つけられず、稚空だけが聞いていた両親の思い出の地に向かおうとする。都は全員での捜索を取り止め、稚空だけを そこに向かわせる。それは まろん が稚空だけには両親の話をしていて、彼だけが まろん の心に立ち入ることを許されたと認識したから。
稚空が到着すると まろん はふさぎ込んでいたが、泣いてはなかった。泣くほどのことじゃないと まろん が我慢しているのを見透かして、まろん は弱いと稚空は敢えて告げる。その言葉に まろん は止めていた涙を流す。自分は両親の住所も連絡先を知っているのに両親に言われることを恐れて身動きが取れなかった。その弱い自分を稚空は見抜き、指摘してくれた。彼だけが特別なのだ。それは まろん の確信に変わる。
これまで まろん がジャンヌとして悪魔に魅入られた人たちに かける言葉のように稚空は まろん に心の持ち様を教える。そうすれば まろんが恐れる夜は終わり、新しい朝が訪れる。この まろん の再生と時間の経過のリンクが素晴らしい。
稚空の父親が悪魔に魅入られ、連れ戻す気は無いと言っていた稚空を実家に連行してしまう。稚空の父親はプレイボーイで4度目の離婚の直後。稚空が本気で恋愛に向き合えないのは親の影響もあるようだ。実母とは5歳に死別しており、その心の傷が稚空を本気にさせないという一面もある。母親が大切にした父親は、母親のことを忘れたから4度の離婚を繰り返すのだと稚空は父親を嫌悪していた。
そこに久々にジャンヌの予告上の届く事件が始まる。そして今回はジャンヌと敵対するシンドバッドである稚空の救出も目的となっている。稚空の姿が見当たらないため、ジャンヌは わざと父親に捕まり、稚空の居場所を見つける。流血しながら捕縛されている稚空を見て まろん の心は勝手に涙を流す。そのぐらい彼が愛おしい。だから今は敵対する存在でも彼にも理由があると将来的な和解を目指す。それは家出状態だった まろん が稚空に教えられた明るい未来の信じ方なのではないか。
自分の稚空への想いを ほぼ伝えたような言葉を告げ、ジャンヌは稚空を放置して事件解決に向かう。その後ろからシンドバッドも登場し、ジャンヌの機転でチェックメイトに至る。ジャンヌが爆散する衝撃的な場面の意味は分かるけど、漫画として分かりにくかったのが残念。この回で入手するチェスの駒はルーク。チェスと同じならば最大で32回の怪盗しか出来ないのだろうか。
この回で稚空親子の誤解は氷解する。それは稚空の恋愛に対する葛藤の終焉であり、稚空は自分が まろん を誰よりも大切に想っていることを自覚する。


稚空の恋愛に対する苦手意識が消失したため、稚空側は まろん に迫る場面が多くなる。けれど まろん には稚空が目的のために近づいたという誤解が残留しており、それが彼を受け入れられない心理的な障壁となる。
作中は2月のようでバレンタイン回が始まる。水無月には好かれていた まろん だけど、どうやら学校のアイドルであるらしく、彼女のチョコを貰おうと男子生徒が大挙して押し寄せる。一方で稚空も当然モテる。そんな稚空が選ぶのは まろん、という読者の承認欲求を満たしまくる展開となっている。あげるつもりはないぐらいの雰囲気だったのに、まろん の稚空へのチョコが気合いが入りまくってて笑える。
稚空からのお返しはいらないという まろん だったが、彼女に何かをしたい稚空は5月30日の まろん の誕生日のプレゼントを約束する。そして自分の誤解を解くために誠意を見せ、まろん の笑顔を取り戻す。こうして完全に両想い状態に突入するのだけど、ハッキリとした関係の変化は見られない。ただし まろん は稚空の恋心の誤解は解けても、彼の活動目的の誤解が解けていないように見える。
ある事件は あっという間に解決するが、この事件の顛末を見ていた都は ある確信を抱く。そして本来は敵であるジャンヌに頼みごとをする。その内容は実兄の変化に悩んでいるというもの。そして兄の変容には絵が関与していて、ジャンヌによって狙われた絵の持ち主は改心する実例を見てきた都は、兄が元に戻ることを願っていた。以前の新体操の大会でもそうだったけれど(文庫版『1巻』)、人に頼ることをしない都が頼った時、まろん はそれを全面的に叶えようとする。
一方で都は まろん が稚空と どういう関係なのかを追求しない。彼女が自分に打ち明けたら聞くし、稚空が まろん を悲しませるなら稚空であっても許さない。そういう信念が都にはある。
まろん は都の兄に予告上を出すが、その下見で変身に必要なアイテム・ロザリオを兄に拾われてしまって、変身が出来ないピンチを自分で招く。そこで まろん本人がジャンヌのコスプレをして誤魔化そうとする。コスプレの材料費が そこそこかかりそうだ。
「変身」してから いつもは敵対する都とタッグを組んで兄のいる場所に乗り込む まろん。しかし いつもなら都が仕込むような罠に都と一緒にハマり、コスプレまで解除され まろん だとバレてしまう危機となる。その上、都の命が危険に晒され、力を求める まろん に天から声が降り注ぎ、ジャンヌは変身アイテム無しで変身する。作中ではロザリオを奪還するシーンがないけれど、変身した際に胸に戻っているということなのだろうか。
ちなみにジャンヌは頭のリボンを取ると変身が解けるように、シンドバッドはバンダナを取ると変身解除するらしい。両者ともロザリオが変身アイテムなのに解除は別なのか。謎の変身手順である。あと重力が変動する中で、水の浮力が こう働くかが怪しい。とにかくピンチを脱して都の兄妹を元通りにしたジャンヌ。
最後に都に礼を言われるジャンヌだったが、そこで都が執拗にジャンヌを追うのは、ジャンヌと似ていると噂される まろん の無罪を証明するためだということが明かされる。その友情に胸が熱くなる まろん だったけど、自分は確かに彼女を騙しているのだと胸を痛める。番外編の「都☆カタルシス」では幼なじみ2人が仲良くなる過程が描かれている。ここでは都も まろん の両親への寂しさや彼女自身の弱さに気づいているけれど、気づいていることを悟らせないようにしていることが描かれている。

