
種村 有菜(たねむら ありな)
神風怪盗ジャンヌ(かみかぜかいとうジャンヌ)
第01巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★(6点)
世紀末、美しい絵画ばかりを狙う小さな女怪盗が世間を騒がせていた。この怪盗ジャンヌの正体は普通の高校生・日下部まろん。無敵に華麗に仕事をこなしていたジャンヌだが、ある日、怪盗シンドバッドという謎の人物から勝負を挑まれて!? 【収録作品】スペシャルカラー口絵 有菜っち美術館/ジャンヌspecialピンナップ
簡潔完結感想文
- 「りぼん」の誌上で躍動感のある画は21世紀の住人から見ても珍しい。才気煥発な作品。
- 元気な変身ヒロインではなくて最初から影のあるヒロイン像が読者からの共感と応援を得る。
- 強くあろうとして、怪盗業では自分の親しい人たちが全員敵。悲痛な不器用さに魅了される。
「りぼん」であって「りぼん」でない絶妙なライン、の 文庫版1巻。
1話の発表は1998年02月号。2025年現在からすると27年前! でも27年後に初めて読んだ私でも当時 本書がもたらしたものの大きさは十分 伝わってくるような気がした。
まず何と言っても躍動感が凄い。元気いっぱいのヒロインは これまでの掲載誌「りぼん」でも数多くいただろうけど、本当に紙面から飛び出しそうなほど疾走し跳躍するヒロインは なかなかいないだろう。作者は棒立ちの人間より、飛び跳ねている人間の方が上手いのではないかと思うぐらい、画が「動いている」。後にアニメ化された作品のようだけど、アニメを見なくても読者は怪盗ジャンヌの縦横無尽な動きが簡単に読み取れる。
少女漫画誌の変身ヒロインというジャンルでは確かに武内直子さんの『美少女戦士セーラームーン』の後釜だと考えられるけど、怪盗というジャンルでは北条司さん『キャッツアイ』とか青山剛昌さん『まじっく快斗』に近い気がする。


物語を単純な善悪構造にしながらも、その怪盗業の中ではヒロインは自分の親友や友達などと敵対する立場であることも上手い。大義のために動いているけれど、友達を騙している罪悪感が常に つきまとう。
怪盗ジャンヌは悪魔が人の心に魅入って、それを封じ込めるのが仕事なのだけど、私生活のジャンヌ=ヒロイン・まろん は悪魔に囁かれ自分の心の隙を突かれやすいという設定も上手い。まろん は最初から最強ヒロインなのではなく、実は最弱である自分を糊塗しようと必死。その努力の結果、心を強く保ち悪魔と対峙するだけの精神力を生み出している。
単純な善悪構造の裏に、単純には割り切れないヒロインの心の光と闇を用意している。「りぼん」の対象年齢の一番低い年齢層にはジャンヌという変身ヒロインが、そして高い年齢層には まろん という孤独なヒロインが心に刺さったはず。変身ヒロインの二面性を最も有効に活用している作品、と言えるのではないか。
21世紀に入ってもピンチを助けられるだけのヒロイン像が多い中、本書は1998年に男性に助けられるだけを良しとしない まろん を創り上げていることに驚嘆する。普通なら好きになっちゃう場面でもならないけれど、好きになってしまってから彼は好きになってはいけない相手だと判明する切ない場面の連続も読んでいて楽しかった。
物語の展開も早く、秘密の一つであるヒーローと もう一人の怪盗の関係性は それでいいの?と思うほど雑に明かされ、この文庫版だと『1巻』の段階で互いに秘密であるはずの怪盗の正体を それぞれが把握している。この段階で高い人気を得ているはずだから先延ばしにすることも可能なのに、1話1話の濃密な展開を維持している。
失礼な話だけど私が なかなか種村作品に手を付けなかったのは、フリートークでは作者の若さと青臭さが爆発しているだろうな、と危惧していた部分も大きい。けれど私が読んだ文庫版では1/4スペースなど、本来フリートークが書かれていた部分は全て英語のタイトルロゴになっている。これで作者と作品が完全に乖離することになり、作品そのものの評価が出来たのは幸運だった。連載から15年経った文庫化で作者も若気の至りを覚えたのだろうか。
主要登場人物4人の高校生の前髪が ほぼ同じだったり、連載が続くにつれて同じ顔のキャラにしか見えなくなったり(特に男性キャラ)、力不足の面も見え隠れするけれども、総じて面白かった。ジャンヌが「りぼん」を変革したのは確かだろうと実感できた。
日下部 まろん(くさかべ まろん)16歳は新体操部所属のフツーの女の子。けれど1か月前から世間を騒がす怪盗ジャンヌとして活動している。刑事の娘で現場に同行する親友の東大寺 都(とうだいじ みやこ)を欺きながら、まろん は怪盗を続ける。
怪盗と言ってもジャンヌの真の目的は魔王が絵画の中にひそませた悪魔を回収すること。はるか昔から世界征服を企んでいる魔王は20世紀になって、神様の命の源である人間の美しい心を蝕むために美しい絵画に悪魔をひそませ、魅了させていく。これが出来るのは前世から神の力を受け継いだ まろん だけ。まろん が怪盗としてジャンヌと名乗るのはジャンヌ・ダルクの生まれかわりだから。この仕事に対する まろん の見返りは自分の願いを1つ叶えてもらうこと。また目的の一つは自分と同行する準天使のフィン・フィッシュを正天使にするため。
まろん と都はマンションの部屋が隣同士の幼なじみ。そして まろん の もう一方の隣に名古屋 稚空(なごや ちあき)が引っ越してくる。彼は同じ学校・同じクラスに転校してきて、まろん の隣の席になる。初対面から翻弄する稚空に苦手意識と興味を覚える まろん。
時折まろん が影のある表情を浮かべるのは、子供の頃に外国に行ったっきり連絡を寄越さない両親の存在があるからだと2話で明かされる。まろん は両親からの連絡を待って、毎日 ポストを確認し、留守番電話のメッセージを心待ちにしていた。元気なだけでなく弱さを克服して強くあろうとする まろん の姿を読者は応援せずにいられない。


第1話は まろん が どうやってターゲットを確定するのかから、変身して名乗って、都との泥警勝負を経て、悪魔の回収をする。新体操部員という特性を活かして、新体操の道具を駆使する姿も見える。悪魔に魅入られた対象の性格が変わり、悪魔を回収することで元に戻る様子も描かれる。
回収された悪魔はチェスの駒になるのだけど、最後まで読んでも どうしてチェスの駒かに特に理由はない。ポーンから始まって少しずつ強い駒になっていったはずだけど、それも有耶無耶になる。
しかし今回はイレギュラーな事件が起こる。それが怪盗シンドバッドと名乗る男性から勝負を挑まれたこと。私生活では稚空に翻弄され、怪盗業ではシンドバッドに出会う。
2話目はジャンヌとシンドバッドが同じ絵画を狙い、シンドバッドが先に「チェックメイト」を宣言。すると絵画から黒い駒が生まれる。けれどシンドバッドは完全に悪魔を捕獲(?)しておらず、勝負は第二ラウンドに持ち越される。
悪魔はなぜか まろん たちの住む町周辺に現れるけれど、これには特に理由はなく、物語の都合だろう。教師や同級生など身近な人が魅入られていく。悪魔に魅入られた同級生・水無月(みなづき)は まろん への思慕を増幅させられて強引に彼女に迫る。稚空は その加害から まろん を守る。しかし まろん は男性に守られても胸キュンしない。守られることは自分が弱いことの証明だと思ってしまうのだ。
まろん にフィンがいるように、稚空にはアクセス・タイムという黒天使が付いている。分かっていたけれど、稚空がシンドバッドであることが雑に判明しているのが気になった。作品上で隠すつもりもないということか。


都の強引な勧誘で、怪盗ジャンヌとして敵対する都や稚空、そして水無月の4人で遊園地に行くことになる。怪盗業だけでなく私生活パートも多くして、「りぼん」らしい学園ラブコメを展開しようという狙いだろう。万事 抜かりがない。これ以降、この4人がレギュラーメンバーになっていく。
遊園地でのWデート中に まろん が悪魔のささやきに恐怖を覚えてしまう。そこでも駆け付けるのは稚空。そして2人は少女漫画界で大切なアトラクション、観覧車に2人で乗る。そこは いつもは出来ない親密な話が出来る空間で、まろん は遊園地にまつわる両親の馴れ初めを語る。運命的な出会いをしたはずの2人は まろん が物心つく頃には不仲で、仕事を口実に別々の地に旅立ち、そして2人とも まろん を放置し続ける。両親の心の変遷を知っているからこそ、まろん は愛を信じられず、愛が分からない。
観覧車に乗っている最中に夜が訪れ、停電が起き、悪魔の気配を察知した まろん は自分だけゴンドラから脱出し、ジャンヌとして行動する。しかし稚空は まろん の行動と正体をお見通し。こちらも行動開始し、2人は現場で鉢合わせる。ジャンヌは変身前に魅入られそうになった悪魔の言葉を克服して悪魔を封印。コンプレックスを利用されて魅入られた水無月を成長させる言葉を残して現場を後にする。
それぞれに再びゴンドラに戻って、停電が復旧した時には まろん と稚空は変わらずに一緒にいる。これ稚空が先に帰らないと不在がバレるリスクが高くなっただろう。
稚空は まろん の孤独を知るたびに彼女を元気づけようとする。それが彼女を誘惑して自分の目的を果たすためのホスト行為ではないことを稚空は自覚し始めている。
第4話は通常回といえる内容。現場にはジャンヌとシンドバッド、そして都と今回から現場に参戦する水無月がいる。ジャンヌのピンチをシンドバッドが助け、彼女の切実な願いを聞き入れ、2人は共闘する形となる。悪魔が強くなっていると言っていた通り、チェックメイト後に出現するチェスの駒もポーンからナイトに形が変わっている。
共闘の条件としてシンドバッドはジャンヌに言うことを一つ聞いてもらう。なぜかキスをしてから怪盗業の廃業を提案する。シンドバッドという存在はジャンヌに怪盗をやめさせるのが目的で使命だという。キスは出来心だというが、それはシンドバッドの自己欺瞞だろう。けれど それが乙女を傷つけてしまう。しかも まろん にとってジャンヌは孤独な夜を克服する手段であり、強さの象徴。それを奪われて ただの まろん に戻ることは恐怖だった。
だからジャンヌは約束を反故にする。シンドバッドもキスのペナルティとして それを受け入れる。お互いに合意の上で約束を解消するためにキスが必要だったのだろう。物語的にも盛り上がるし。
ジャンヌは、フィンから黒天使・アクセスが一緒にいることでシンドバッドは魔王の手先だと教えられる。魔王の企みを魔王の手先が回収することに矛盾を感じるジャンヌだったが、フィンは絵画は人間の心を弱らせるが、その上で それが人間に還元しないよう回収も行っているらしい。神様の力を回復するためのジャンヌと、悪魔の力を増幅しようとするシンドバッド。白黒の2つのチェスの駒は神と悪魔の攻防戦を表しているようだ。シンドバッドは悪魔の手先としてジャンヌの廃業を望んでいる、とジャンヌは考える。
シンドバッドは前回の怪盗業でジャンヌ=まろん が怪我をしていることを認知しており、その まろん が怪我をおして新体操の大会に出場することを知って焦って会場に駆けつける。
この会場の高校で稚空が出会うのが自分の婚約者・山茶花 弥白(さざんか やしろ)。親同士が決めたもので稚空は断ったとはいえ、弥白の中では婚約は維持されているようだ。転校前の稚空に この学校に在籍しており、一気に彼に背景が出来る。それが まろん の苦しみになる。
弥白は悪魔に魅入られており、同じく出場者の都をわざと怪我をさせる。そのためライバル校に勝つ手段は まろん しかおらず、彼女は怪我に重圧の二重苦となる。ただ まろん は幼なじみの都の性格を知っており、彼女が自分に優勝を願ったことに強い意味を感じていた。幼なじみの特別な関係もしっかり描かれているのが良い。
稚空にテーピングをしてもらったのに、その後 稚空と婚約者を巡る痴話げんかをする まろん。でもそこにクールな仮面を外した稚空の姿があると まろん は教えられる。こうして稚空の中に自分への必死さを認めた まろん は彼への態度を謝罪して、競技に臨む。
けれど悪魔を探知した直後、稚空がシンドバッドに変身する姿を目撃して、彼への信頼感は再び瓦解する。それでもシンドバッド=稚空は自分を守る動きを見せ、ジャンヌは彼の真意が分からなくなる。悪魔を回収後、シンドバッドはジャンヌを まろん と呼ぶが、すぐに撤退。互いの正体を知っていることを知られた2人は距離を置く。
ある日、まろん(と都)の前に稚空の兄と名乗る男性が現れる。そこで稚空は荷物と通帳を持って家出したことが語られる。
ここで まろん は稚空が実家に連れ戻されると早合点して、子供が大人の都合で振り回される辛さを訴える。ただ この兄(本当は父親)は稚空が家を出ていった理由を知りたかっただけ。そこに安堵した まろん は稚空がシンドバッドとして活動するために家を出て、そして自分の隣の部屋に引っ越してきたと思い当たる。じゃなければ明らかなファミリータイプのマンションに稚空が引っ越してくる必要性は低い。結論として まろん は稚空が最初からジャンヌの正体に気づいていたと考える。
それは稚空に心が動き始めた自分には認めたくない現実だった。だから稚空に否定して欲しかったのだが、彼は事実を認める。認めていないのは本当に好きになってしまったことなのだが、それを まろん は知らない。

