可歌 まと(かうた まと)
狼陛下の花嫁(おおかみへいかのはなよめ)
第07巻評価:★★(4点)
総合評価:★★☆(5点)
花の宴が無事に終了…かと思いきや、夕鈴を待ち受けていたのは“二人きりの”花の宴だった! 狼陛下は宴の時から怒りっぱなしの夕鈴に強引に迫る…! そんな宴も終了し、落ち着きを取り戻した後宮に夕鈴・父の失態の報せが。几家の小間使いとして働かされる夕鈴に陛下は…!?
簡潔完結感想文
- 自分の範疇ではないことに足を突っ込む 出しゃばり嫁という直前と同じ再放送。
- 意地っ張りヒロインは最後まで相手を頼らないが、最後に相手頼みだから無能。
- 自分の不在が王宮内で どんな波紋を生むかを考えない夕鈴の身勝手な外出(2回目)。
仮想敵はヒロインを困らせる人ではなく輝かせる人、の 7巻。
うーーん、つまらん。中盤は作品的に停滞期、夫婦的には倦怠期(マンネリ)といった感じだ。
私が この頃の作品を好きになれないのはバイト妃・夕鈴(ゆうりん)が自分の立場を時と場合で自分本位に使い分けている点だと思う。例えば『6巻』の王宮イベント・宴では夕鈴はバイトの立場を越えて、その成功に尽力した。でも果たして それが夕鈴が全うしなければならない仕事なのだろうか、という疑問が常に感じられたから私は宴編が好きではない。それは今回の父親の代わりに小間使いになるという展開も同じ。
夕鈴は、いつも何かに巻き込まれていることで彼女のシンデレラポジションを維持していると言えよう。だから彼女は敢えて困難な道を進み、自分の失脚を狙う刺客や、隠そうとしない敵対心に遭遇する。こういう展開は夕鈴は読者の同情と応援が集まるから作品は それを多用し、多用し過ぎた結果、同じことを繰り返す再放送が繰り返される。


自分から地雷を踏みに行くような夕鈴だが、その一方で恋愛関係は絶対に自分から動かない。その場合は自分のバイト妃という立場をネガティブに捉える。つい数ページ前までバイト妃という立場を忘却しているかのように王宮内を我が物顔で歩いていたのに、フッと我に返って弱気になると陛下との一線の存在を思い出す。
夕鈴の悩みが この一線であるのは ずっと変わらなくて、だからこそ いつまでも同じ悩みに囚われている印象を受ける。物語の展開も そうだが、夕鈴が抱える悩みにもバリエーションが無くて、表面上の騒がしさを除去した根幹が全く同じに読めるから中盤は つまらない。
おそらく熟練の作家さんなら、ここに微妙なグラデーションを つけることによって1mmでも前に事態が動いていることを表現できるのだが、本書は「一線」という言葉で全てを処理してしまって単調さが生まれている。
そして夕鈴の行動が変わらずに軽率すぎるのも頭が痛い。
背景が違うとはいえ、今回の夕鈴の行動は『5巻』の家出回と同じ。あの時も陛下は夕鈴が早く王宮に帰ることを望んでいたが彼女は頑固に拒否。それと同じことが今回も起こる。
私が夕鈴に(または作品に)腹が立つのは、もう この頃には夕鈴の出現よりも夕鈴の「不在」が新たな憶測を呼ぶことになる という時間の経過と共に事態が変わっていることを全く考慮しないこと。
序盤では狼陛下と畏怖される陛下に素性不明の妃が出現したから反発が生まれたが、その時期を越えて、王宮は妃のいる日常が当たり前になった。でも今回、夕鈴は実家のピンチを理由に2回目の里帰りをする。妃という重要な仕事を放棄して…。夕鈴の優先順位の付け方や物事の取捨選択の出来なさに辟易する。
そして王宮内で日常となった夕鈴の存在がないことは、陛下の寵愛が終わったとか、はたまた お世継ぎの誕生なのか と色々と波紋を呼ぶことだろう。そういう波風を立てないための防波堤が「プロ妃」の役割なのに、夕鈴は自分の目標とするプロ妃の役割を簡単に放棄する。そういう浅はかさが夕鈴にあるから好きになれない。
こういう部分が本書の舞台がハリボテ王宮に見えるところではないか。
宴の後、夕鈴は陛下に不満を直接 述べるように迫られるが、そこに周(しゅう)宰相が現れる。この周 康蓮(しゅう こうれん)は夕鈴に不吉な予言を与えた官吏。大臣の中でも いちばん えらい人。周宰相の不吉な予言は、彼の悪癖らしく「人の状況を見て大雑把に根暗な予測をし」たものが予言のように聞こえる。
陛下は今回の宴が 曲がりなりにも成功したことで自分の治世の本格的な始まりとする。妃へ無礼を働いた者の目星は付いているので内々に処理をした模様。
しかし この国の中央で、そのトップに立つことに陛下自身も違和感がある。それは自分が育った北の土地と中央では春の訪れの時期が違うことで陛下の気持ちが表される。陛下は全てを俯瞰しながらも、自分も駒の一つであると思っているのだろうか。そんな彼の危うい存在感を夕鈴が不器用に慰撫することで彼女はまた陛下の特別になっていく。
その後も夕鈴が いつだって頑張る姿勢を見せることで前向きヒロインの演出がされているが、宴が終わっても政(まつりごと)に口を出す勘違い女のままなのが残念だった。宴ではプロ妃としての達成感を得られなかった夕鈴は陛下の役に立ちたくて奮闘し、空回りする。夕鈴が奮闘すると陛下との間にディスコミュニケーションが生まれるという、いつもの展開である。ハレの日の後の、ケの回なのだろう。でも再放送 甚だしい。
父親がトラブルを起こしたので夕鈴は実家に帰る。陛下は同行しようとするが、李順(りじゅん)に却下される。2人で実家に行く展開は『3巻』でやっているから避けたのだろう。それでも陛下はトラブルの周辺状況を調査させ、すぐに内容を把握する。
そのトラブルとは、夕鈴の父親が幼なじみの几鍔(きがく)の祖母を巻き込んでケガをさせたというもの。祖母は治療費ではなく、夕鈴が小間使いになることで誠意を見せよと訴える。不機嫌を撒き散らす祖母に振り回されることで努力ヒロインの地位を固める方向性なのだろう。
結局、仕事を抜け出した陛下が夕鈴のもとに駆けつけるのだが、夕鈴は これは自分の問題と陛下の介入を断る。これは夕鈴の分を わきまえた発言なのだが、陛下は自分が夫といて頼られていないと不満。陛下が狼に豹変しても譲らないところが夕鈴の強さと自立の証なのだろうけど、宴や王宮内で分を わきまえない言動が目立ち始めている頃だから、夕鈴の発言にブレを感じる。
夕鈴と几鍔の祖母は まるで嫁と姑のような関係性で、祖母は夕鈴の働きに何かと文句を言ってくるが、夕鈴はバイト妃として五月蠅く言われ慣れているから(主に王宮内の姑・李順)、祖母の嫌味を軽く流せる。こういう嫌味な人の受け流し方の成長は、読者が夕鈴に望む成長じゃないと思うのだけど…。


地元に帰ったことで夕鈴は下町に流れる妃の噂を耳にする。それは実態とは乖離した噂で、夕鈴は「後宮の悪女」だったり絶世の美女として噂されている。
新展開には新キャラが用意されているらしく、いかにも固有キャラが下町の食堂に現れる。その食堂で夕鈴は噂を耳にして、一層 陛下が自分の問題に関わることに危機感を覚え、その経緯を説明しないまま陛下を遠ざけようとする。陛下も強引だが、夕鈴もまた自分の理論で動いているだけ。
この時の話し合いで、陛下が お忍びで宿泊している宿から夕鈴が自宅に帰れなくなり、お泊り回が発生。『7巻』は冒頭と終盤で2回の「するする詐欺」が発生している。だが すぐに陛下は自分が出ていくことで夕鈴の寝床を確保する。
食堂で出会った新キャラの動向は陛下も浩大(こうだい)を介して把握している。その新キャラは夕鈴に接触。狼陛下の一族が女性に溺れる歴史を話すが、人に悪く言われるとフォローするのが夕鈴の条件反射で、陛下の名誉を守る。その際の会話で自分の知らない陛下の育ちや親族関係に夕鈴は再度 彼との距離を感じる。同じ悩みを延々と繰り返すのは作品の質を自ら低下させることだから止めて欲しい。
几鍔の祖母は商売敵の弱みを握るために潜入捜査を開始。夕鈴も同行するが新キャラの男性に発見されて監禁される。すぐに手足を縛っていた縄を何とか解き、今度は脱出を試みる。その際に夕鈴は自分が囮になると提案する。こういう分かりやすい善良さで夕鈴は周囲の人の心を打つ。
だが新キャラに見つかり大ピンチ。そこに登場するのが陛下。そして陛下の登場と共に新キャラは本来の役目に戻る。新キャラは陛下側の人間だったのだ。徐 克右(じょ こくう)という名の大男は諜報活動をする者だった。浩大が隠密で、克右はスパイ。似ているけど違う役割なのだろう。
陛下が下町に何度も現れたのは夕鈴のためだけじゃなく、克右の様子見も兼ねていた。そして陛下は克右には夕鈴の存在を内緒にして、下町の協力者だと紹介する。これは全部を知らないキャラがいてもいい、それが後々の展開に繋がるという判断からだろうか。