《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

それぞれに仮想敵を押し退けても叶えたい願いを抱き、黒伯爵は本懐を遂げる

黒伯爵は星を愛でる 6 (花とゆめコミックス)
音 久無(おと ひさむ)
黒伯爵は星を愛でる(くろはくしゃくはほしをめでる)
第06巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

レオンと離れたまま、吸血鬼の王・クリス様のもとで、“侯爵令嬢”として舞踏会に出るエスター。初めてのダンスはレオンと…というのは叶わぬ夢と思っていたところに、レオンからダンスの申し込みが…!そして、「正式に俺の花嫁になってほしい」とプロポーズされ…!?

簡潔完結感想文

  • 逆恨みの襲撃事件により手厚くなるクリスからの保護。権力者に愛されるア・タ・シ★
  • エスターから自己肯定感を奪ったアル兄が仮想敵役を演じる。その胸の嫉妬は愛情の証。
  • 関係者一同が証人となり婚約成立。その後 両想い成立。笑顔でいるとマジで王子 来たし。

にひざまずく時は俺が本音を話す時、の 6巻。

大団円! と言いたくなるぐらい、エスターが自分の願望を伝える場面で関係者が勢揃いしているのが良かった。特に吸血鬼サイドのクリスやアルは こうなることを見越して その場面に立ち会ってくれたのだろう。アルの(黒薔薇城には)二度と来んな は、レオンの邸(やしき)で一生 幸せに暮らしてろ、という ツンデレシスコンこじらせ兄さんの素直になれない言葉で良かったなあ。

素直な言葉と言えばレオンが初めてエスターに好き、愛してるとか言っているのも良かった。この時、ひざまずいているのは幼い頃からのレオンのレディに対する礼儀だろう。『3巻』の回想であったように、レオンはエスターにひざまずいて約束する。きっと君を迎えに来るという約束を果たしたように、レオンの愛情は不変なものなのだろう。

エスターに自由意思を与えながらレオンが出来ることは不変の自分の意志を見せること

また最終的な愛の告白はレオンが担当し、プロポーズはエスターが担当するという それぞれの奮闘が見られたのも良かった。レオンが愛を告白できないのは ヘタレ属性だからではなく、エスターを尊重し過ぎるから。彼女が自分を自発的に受け入れたという確信がなければレオンは動けなかった。レオンが その確信を得るためにも まずエスターが動く必要があったのだろう。

エスターは例え自分の決断の末に障害があっても自分の願望を初めて優先する。これはエスターの自己改革で、生来の優しさやアルからの洗脳教育によってエスターは自分の本心を出せない状況にあった。けれど今回は そのアルが仮想ライバルに扮することによってエスターは自分の中にある願望を明確にした。エスターがレオンにプロポーズする時は まだ彼の一族の問題が解決していないという順番も大事だろう。反対があっても それを覆す働きをする、だから傍に置いて欲しいという切実な願いの表現になっている。白泉社ヒロイン特有の鈍感設定に ちゃんと理由があって良かった。この部分を上手く処理できないと恋愛解禁のスイッチが切り替わらず、特に理由もなく拒否し理由もなく受け入れるというフワフワした作品になってしまう。私は長編化する中で この部分をきちんと設定できる作者さんが好きだ。


の結末で当て馬になってしまったクリスも どうやら本気であり本気でない様子。それにクリスはエスターの「選択」の一つとして出てきただけ。彼からの求婚は形式的なものに過ぎない。これはレオンからの求婚=本気、クリスの求婚=制度的なもの という以前とは違うレオンからの求婚の認識を描いているのだろう。
そしてクリスもまたエスターの幸せを望んでいる人だから祝福も やぶさかではないのだろう。レオン・エスター双方の関係者として婚約成立に立ち会いたいから同胞を集めて彼らの前に現れたのかもしれない。

ただエスターの軽率な行動が責められないのは溺愛モノらしいヒロイン無罪が発動している気がする。願望を口に出せない一種のロックが掛かっていた状態とはいえ、エスターは叔父の一言で簡単に心が折れ、そして勝手に復活しただけ。周囲は それに巻き込まれて多大な心配と労力を払っている。物語的にはエスターの吸血鬼世界の社会科見学が必要だったのも分かるけれど。
この点は今後 エスター個人の問題が発生した時に、ちゃんとレオンに相談できるか、が反省と成長の指針になるだろう。


オンが危険を冒して会いに来てくれた事実にエスターは涙を流す。レオンの訪問はクリスには お見通し。そしてクリスはエスターに無礼を働いた女性の吸血鬼の粛正に動こうとするが、エスターは自分という異物が彼女の行動に影響したと弁護する。

この襲撃でクリスはエスターを自分の傍に仕えるメイドに任命する。まるで愛人秘書のように特に仕事をしない状況にエスターは不満を漏らすが、彼女が自覚しているようにエスターの存在が邸の調和を乱している事実を突きつけられる。そこで今度は この邸から出ていくことを宣言。だがクリスにとってエスターの安全を確保できないことはアルとの約束の反故になってしまうこともあり引き留める。

エスターはクリスの意向に従うが、クリスから強引な血のキスをされたエスターが自分の意見を引っ込める流れが いまいち分からない。レオンとの「悲しいキス(『3巻』)」では距離を置くために屋敷を出た前例がある。これはクリスの行動の中に必死さを見つけた ということなのだろうか。

レオンの邸では淑女修業が毎日の日課だったが、秘書メイドは暇。なのでエスターは仕事をするために許可を取り、クリスの部屋の掃除と身の回りの世話を始める。ちなみにクリスが純粋な人間ではなくダンピールを求めるのはエスタに流れる血(遺伝子的な意味)をクリスが欲しているからのようだ。


謁を済ませた「侯爵令嬢エスター」は社交界デビューをする。エスターが心の中でレオンとのダンスを望めば、それを叶えるためにレオンは参上する。

ダンスの後、2人は庭に抜け出し、レオンは再びエスターに求婚をする。返事の前にクリスが登場し、エスターを巡って人間と吸血鬼の全面戦争が始まりそうな気配を見せる。一応 両家には不可侵の協定があるので雰囲気だけみたいだが、レオンは両親惨殺の件でクリスに不信感を抱いている。そして その一件を謝罪するクリスは憂いを帯びた表情を見せている。エスターを黒薔薇城に招いたのも彼女の安全を確保するため。逆にレオンがエスターを力づくで一秒でも早くクリスから奪還しないのは、レオンがクリスを多少なりとも信頼しているからだとクリスは推論を述べる。だがレオンは それを否定する。信頼は あの幼い頃のクリスマスの日に壊れているらしい。

今もレオンはエスターの自由意思を尊重している。だから彼女が何を望んでいるかを見極めようとしている(ダラダラと)。エスターが自分を受け入れるよう、レオンは毎晩 舞踏会でエスターに逢いに行くと宣言。そして何度でも口説くから、自分を象徴する白薔薇が枯れるまでに答えを出して欲しいと願う。

それから2人は毎晩ダンスを踊る。その後は2人で舞踏会を抜け出して、離れている間の自分たちのことを語らう。レオンが初日以降、プロポーズの件を切り出さないのは、彼が切り札の準備に時間を必要だったから。「意外と強情」なエスターを翻意させるだけの材料を用意して本気のプロポーズに挑むつもりらしい。


和すぎる交流をしていると知ったアルがレオン邸で立腹する。だからアルは自分からエスターに接触して、ある企みを実行する。それがレオンを巡るライバルとして2人の間に割って入ること。『4巻』でライバル役かと思われたレベッカは少しもライバルにならなかったが、今回はアルが その位置に立つ演技をする。

そしてレオンが欲しいのはダンピールという特質で、それは自分(女装アル)でもいいはずだと わざとエスターが傷つくことを言い、彼女を凹ませる。ただ やや負けん気が強いエスターの性格を熟知しての行動かもしれない。愛のない結婚をしようとするライバルに対してエスターは、そのような考えの人にレオンの花嫁になって欲しくはないと涙ながらに忠告する。反対にアルは欲のないエスターに本当に欲しいものがある場合は言わなければいけないと注意するのだった。

レオンとクリスの2人の男性から どちらかを選ぶように、エスターは女装アルと戦ってまで欲するものを考える。

女装アルは仮想敵ならぬ架空敵。恋の勝敗に誰も傷つかない親切設計は やや過保護

えが出たならば それを実行するだけ。クリスに黒薔薇城を出ると伝え、最後のお茶会をする。この時、クリス周辺の吸血鬼が彼が「今まで本当に愛したのは この世で ただひとりだけ」と言っているが、再読しても誰だったのか分からない。候補はいるけど決め手に欠ける。というか作品が この設定を覚えていないというか焦点を合わせていない。でもエスターの中に流れる血に惹かれて、もう会えないなどと考えると、エスターの血縁、それも母親ではなくて父親の方のような気がする。

エスターはクリスが母の名前を知っていたことに驚く。エスターの母・メグは この邸でメイドをしていた。働いていた貴族のお邸とは吸血鬼の館だったのだ。そして ここでギルモア侯爵との子供を身ごもったらしい。


を決めたエスターはマナー違反を犯しても自分から動き、レオンに声を掛け、話す場を設ける。だが気持ちを伝える直前に吸血鬼の気配を感じる。それはクリスのもの。クリスは同胞を引き連れて2人を囲んでいた。一触即発の緊張感の中でもエスターは自分の決意を語る。レオンの眼になること、それが自分の役目。そして家柄への迷惑以上に、レオンの隣に立って役に立つと決めた。だから結婚して欲しいというのがエスターの中に生まれた初めての願望。

その逆プロポーズをレオンは快諾する。クリスが ここにいるのは現実を突きつけるためだろう。叔父をはじめとした反対勢力の対処を問うと、レオンが長老たちから集めていた結婚許可の念書が提出される。これによって「一族の反対」は賛成に転じた。

この婚約成立時、吸血鬼たち、そして若きウィンターソン家の関係者が一堂に会するのは全員が結婚の証人になるためなのかもしれない。アルも顔を出し、エスターの荷物を返却し、二度と黒薔薇城に近づくなと忠告する。アルが結婚に反対しないことがレオンを認めている証拠である。


スターはレオン邸に帰る。帰った日の夜、家出の時とは逆にエスターはレオンとの お茶の途中で寝てしまう(メイドが良かれと思って入れた お酒が原因)。そして目覚めるとレオンとベッドにいた。

帰宅後の生活は、好きな人が隣にいる日常。だからエスターはレオンを意識するあまり不自然な態度になってしまう。さらに訪問したゲイリーとレベッカから、レオンが仕事の時間を割いて念書の収拾に尽力したことが語られる。

エスターは役に立つためという妻の責務を全うしようと意気込むが、それを優先するあまり情を置いてけぼりにする。それはエスターの防衛本能だったのかもしれない。自分の気持ちは分かったがレオンの気持ちが分からなくて「妻」を優先した。そんなエスターにレオンは愛を囁くことで彼女に自分を取り戻させる。

そして まだ気持ちを分かっていないエスターに対しレオンは初めて素直な気持ちを口にする。これはレオンがずっと言わなかった、言わなければならなかった言葉。そして今のエスターが欲しかった言葉。でもエスターの態度に目敏いレオンが彼女の気持ちの変化に気づいて振られないことを確信してから告白する成功率100%の告白みたいだなぁ。いやいやレオンは これまで散々振られているか(笑)

クリスとの疑似三角関係にも決着が付いたし、エスターが女装アルの正体に気づいたコマもある。ここで物語が完結しても問題は ないが、丁寧な作品作りが読者の好評を得て連載は続く。一般的な作品の交際編みたいに内容が薄くなるようなことがなければいいけど。本書では両親の事件を含めたレオンとクリスとの関係など描くべき題材はあるから大丈夫だろう。