
アリハラ ナオ
きよく、やましく、もどかしく。
第01巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★☆(7点)
円城寺遥は派手な見た目とざっくばらんな口調から、周囲から怖がられがちなヤンキーっぽい強めギャル。風紀委員長・藤井透真だけは円城寺に積極的に近づくけど、なんだか変態っぽいところもあって…? ギャップが激しいふたりのドキドキMAXな攻防戦。
簡潔完結感想文
- 流行りの溺愛モノだけど溺愛は一種のプレイ。恥じらう君が色っぽくて僕は欲情する。
- 1話で完結済みの物語が連載化して全7巻まで続いた理由は類まれなる笑いのセンス。
- 物語を支えるのは2人のピュアさ。形は違えど相手を大切にする2人の心が尊み秀吉。
安心して下さい、最後まで面白いですよ、の 1巻。
こんなに笑った少女漫画は久しぶりかもしれない。ラブコメと言うのに相応しい作品だろう。この作者のセンスを きちんと伝えられる制作者によってアニメ化やドラマ化して欲しいと思った。見ないけど。自分の読み方が出来る漫画版こそ正義(じゃあ言うな)。
ヒロインの遥(はるか)は作中だと どちらかというとヤンキー扱いされているが、私はギャルとして読んだ(設定は「ヤンキーっぽい強めギャル」)。ファッション・漫画・アニメ・テレビ業界などなどギャルというのは一大ジャンルである。ギャルが実は純情という設定は どの世界でも共通認識らしい。少年誌や青年誌ではギャルに迫られる内気な主人公との異文化交流が描かれるが、本書は その逆。真面目な男子生徒がギャルを翻弄する。というか男女とも主人公が翻弄されるラブコメが読みたいだけなのか!?


ツンデレ気質であるものの、遥の本音は交際相手の藤井(ふじい)にバレバレ。その遥のポンコツっぷりも含めて溺愛する藤井の様子に読者の承認欲求は満たされる。ちゃんと当世 流行りの溺愛モノという設定を遵守しつつも、溺愛の仕方に工夫を加えて他に類を見ない作品に仕上げている作者の手腕が光る。雑誌 別冊マーガレットの特別号別冊ふろくでの読切短編というスタートから そこでの連載化、そして本誌への進出と順調に出世していったのも納得の作品となっている。
読切1話で結ばれてしまった2人だが、白泉社作品ではないので それをリセットしたりせず、交際編をメインに描いていく。当初は「好きと言ったら負け」という頭脳戦、というか意地の張り合いで話を展開させているので交際編では面白さが半減するのではと危惧したが、作者は そんな余計な心配を簡単に一蹴する。
これは一番 最初の告白という恥ずかしさを乗り越えたが いつまでも気恥ずかしい気持ちを持ち続けているからだろう。それはピュアさと換言できる。藤井側も100%の熱量で遥のことを好きだと分かるから読んでいて清々しい気持ちになる。それが人気の秘訣だろう。遥が恥ずかしさを抱き続ければ、藤井は その羞恥心に欲情し堪能し続ける。そこに羞恥と変態の永久機関が存在する。
また少女漫画においては珍しく男性側の容姿への言及がない。ヒーローの価値を高めるために学年一のイケメンとか周囲に騒がれる存在という演出が加えられる作品が多いが、本書には それがない。遥が好きになったのは自分の世界を広げてくれた藤井という存在で彼の容姿は関係がない。その余計な情報を加えないことがピュアさを演出している。藤井が どんな寝顔をしていても遥が可愛いと思うように、遥も藤井が例え作中のような清潔感のある端整な人でなくても好きになったはずだと信じられる。
考えてみれば藤井は本当に爽やかで優しい。その人間性を100%引き出せば椎名軽穂さん『君に届け』の風早(かぜはや)くんに匹敵するキャラだと思うのだけど、フェチや性欲を隠し切れていない藤井は そうはならない。遥からヤンキーっぽさが滲み出ているように藤井には隠せない変態性がある。これは作者の「恥ずかしさ」だろうか。性格的に真正面からイケメン人気者を描けないから藤井のような捻じれた人間性が生まれたのだろうか。是非 次回作は作者が恥ずかしいと思うようなヒーローに挑戦してもらいたいものである。
全7巻の作品になると話の広げ方などに既視感が生まれるものの、作者の笑いのセンスは最後まで保持される。それどころか笑いのセンスが一層 向上するので後半の方が大笑いしたかもしれない。私は本書の全く内容を知らずに読んで想像以上に面白かったことに驚いたけれど、この上げられた期待値を作者が長編第2作で どうクリアしていくのかが楽しみだ。
読み返してみると早くも『1巻』の段階で主要登場人物が出揃っている。彼らのキャラクタを しっかり拡張していくのも作者の力量の高さなのだろう。


心根は優しいのにヤンキーっぽいギャルという見た目で周囲から誤解されてしまう円城寺 遥(えんじょうじ はるか)。そんな彼女は、風紀委員長である藤井 透真(ふじい とうま)に校則違反の恰好を毎朝チェックされている。放課後には没収された物品を返却してもらうのが日課となっており、少なくとも2人には1日2回の交流がある。それは頭の回転が早い藤井に翻弄される日々でもあった。
ある日、提出プリントを出さないと留年と言われたことで優等生である藤井に教えを乞う。いきなりの勉強回である。丁寧に教えてくれる藤井を見直した遥。最後まで付き合ってくれて家まで送ってくれる藤井に遥は素直に感謝を述べる。その照れくささを笑いに変えて軽減してくれる藤井を遥は素直に優しいと思えた。
遥と藤井の出会いは高校入学後。新天地でなら新しい人間関係が構築できると少し期待していた遥は現実を知る。この遥の、イジメられていないが、恐れられているため周囲から少し浮いているという点が内気なヒロインとの共通点で読者が応援したくなるポイントとなっている。
しかし藤井だけは臆せずに話し掛けてくれて それが高校での初めての人間関係構築になった。その2人の夫婦漫談のような会話によって遥への周囲からの悪印象は薄れ始める。今の遥の人間関係は藤井によってもたらされたもの、と言える。
でも藤井が自分に話し掛けるのは風紀委員の務めで、彼は誰にでも かわいい といえるタイプのチャラい人間だと思ってしまう。そして そのことが悲しいと感じることで自分が彼に恋心を抱いていることを知る。藤井の前で泣いてしまう失態を犯すが、それが誤解を解く糸口にもなった。
藤井側は中学の頃に図書館で遥の不器用な優しさを見てから ずっと気になっていた。確かに藤井は風紀委員だから遥に話し掛けたが、その前から話し掛けたいという願望を彼は抱いていたのだ。
彼の自分への想いを藤井を信じられた遥は彼の唇の接近に身を委ねる。ハッピーエンドである。
キスという大胆な行為の後、藤井の前で どういう態度を取ればいいか分からなくなる遥は平常心を失う。初恋の初キスをしたけれど男女交際が分からない。そこで友人・堀越(ほりこし)に相談をすると「恋愛なんて恥ずかしさのぶつけ合い」というお言葉を頂く。


しかし遥は恥ずかしさを ぶつける前に恥ずかしい場面を見られて逆ギレ。ここから藤井と本音の ぶつかり稽古が始まる。藤井もまた遥へどういう態度を取るべきか分からなかった。キスが遥を傷つけた自分の暴走だったのではと反省していた。そのことを知った遥は自分の気恥ずかしさを克服して自分の感情と願望を彼に伝える。2度目のキス、そして交際。ハッピーエンドである。
これだけで終わらないのが本書。真に面白いのはネタばらし。遥は藤井の気持ちを知っていて成功が確約された告白をしたが、藤井も その前から堀越を通じて遥の気持ちを知っていた。藤井の愛が重すぎて、遥の周囲をクリーンに保とうとする殺し屋のような一面も見え隠れする。
この2話目から藤井以外の風紀委員の生徒が女性から男性に変わる(5話で女性の委員も再登場)。この1年生の宮本(みやもと)が後半、話のネタとして利用されるとは この時点では作者さえも思わなかっただろう。
3話目からは交際編。さっそく風邪回となり自宅に両親が不在の藤井のために遥が動く。風紀委員の宮本を脅迫して住所を聞き出し、お見舞いに行く。
弱り切っていても遥への愛が重い藤井が面白い。白泉社作品なら(両)片想いで停滞する物語のカンフル剤として使われる内容だが本書の場合は交際後 初めての学校外で会うイベントとして風邪回が使われている。
ここで子供の頃から優等生があるが故に親に甘えられなかった藤井の初めての甘える相手として遥が存在する。それは藤井にとって甘えることが恥ずかしいことだと思っていたからかもしれない。彼が遥から安らぎを得ていることが嬉しい。
情に厚いヤンキーだから その一端を垣間見た遥は藤井の要望を聞き、一緒のベッドに入って彼の回復を優先させる。高熱でも藤井は至って平常運転に見えたが記憶が朦朧としていて起きたら何も覚えていないパターンとなる。遥も寝てしまい朝チュンしてしまったが堀越の存在に助けられる。遥をイジりつつ見守っている彼女のスタンスが良い。最後の遥からのメッセージも破壊力が大きい。ちゃんとキュンとさせてくれるところが緩急の付け方の上手いところだ。
2人の愛情が釣り合い完璧な彼氏彼女になっても、遥が藤井の変態性に慣れないまでは話のネタに困らない。遥が完璧男子・藤井を攻略しようと弱点を模索する第3話。だが予想通り逆襲されて遥が言いなりになるばかり。
ある日、遥が友達とカラオケに行ったつもりが それが合コンで、合コンとは思わない遥は、見ず知らずの人から親切にされたと感激して急接近する。男性側に下心があるからこその優しさなのだが、それを知らない遥は大ピンチ。そこに堀越から遥が合コンに参加していることを聞いた藤井が汗だくでカラオケボックスに飛び込んでくる。遥が藤井の弱点という話。藤井の弱点を知れた遥だが同時に藤井を焦らせ悲しませたと脇の甘さを反省する。でも いつも通りの関係は藤井に振り回される日々なのである。
5話は遥の昔の男が登場する。それが遥と地元が一緒の後輩の1年生・筧 竜太郎(かけい りゅうたろう)。小学4年生の遥の単独行動(ぼっち)を見てから竜太郎は遥を姉貴と呼んでいる(遥が呼ばせた)。この幼なじみと言える竜太郎は、自分の暴力行為による停学中に遥に恋人が出来たことに混乱する。
竜太郎は遥と同類。ヤンキー気質丸出しだが素直で良い子。それを竜太郎と同じクラスの風紀委員で宮本は見抜く。祖母と二人暮らしという竜太郎の境遇も良い人っぽさを増す。竜太郎には姉御ぶりたかった遥だが、竜太郎は遥の強さを一番最初に認めてくれた人。だから藤井の恋のライバルになりかねない厄介な相手なのだ。遥が竜太郎に姉御ぶりたいのなら、藤井は先輩ぶりたいし余裕ぶりたい。だから竜太郎をライバル視しないのだが、藤井の余裕に竜太郎は負けん気を発揮し、遥をデートに誘い、彼女の心変わりを狙う。
この回は呼称の回である。遥は竜太郎に姉貴と呼ばれるのが恥ずかしく、藤井に円城寺さんと呼ばれるのが もどかしい。恥ずかしさを乗り越えて そのことを伝えた遥は藤井から遥ちゃんと呼ばれるようになる。
