《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

遠慮がちな娘の将来に自由を与える振りをして、自分が願う方向に誘導する プチ毒親。

True Love(6) (フラワーコミックス)
杉山 美和子(すぎやま みわこ)
True Love
第06巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

兄妹でありながら惹かれ合う愛衣と弓弦。数々の困難を乗り越え、ふたりはたとえ何があってもこの恋を選ぶと誓う。けれど、あまりにも大きな悲劇がふたりを襲って――…!? どんなに愛し合っていても、許されない恋。悲しみの果てに、ふたりが下した決断とは!? 岐路にたつ禁断の恋、激動の第6巻!

簡潔完結感想文

  • 一緒に暮らしたいと願い続けた家族を、今度は自分の手で壊してしまった絶望。
  • 残された家族の心身が壊れる前に、許されない関係を解消する。だが その前に…。
  • あらゆる記憶媒体・連絡手段も奪われて、恋が許される場所は自分の心の中だけ。

れ離れになるたびにキャリアアップしていくヒーロー、の 6巻。

色々と衝撃的な内容だった。まずは父の死。これが父を亡くしたヒロイン・愛衣(あい)と、夫を亡くした その母の心理に大きく影響を及ぼす。そして女性たちの心を守るためにヒーロー・弓弦(ゆずる)は一つの決断をする。

それが兄妹間の恋愛の終了。これまで愛を誓ってきた2人が別れを選択するまでの過程に納得できる自然な流れである。そして何より衝撃的だったのが、兄妹という関係で性行為に及んだことだった。「兄妹モノ」というジャンルには一つの逃げ道が存在する。それが愛しあう2人には血縁関係がなかった、というもの。最終回直前に そのことが発覚し、2人は晴れて胸を張って恋人になるというのが このジャンルの約9割の結末である。私が読んできた兄妹モノで、血縁があるという結末だったのは1作品だけだろう。

しかし本書では、彼らの認識では完全に兄妹のまま性行為に及んでいる。これは本当に予想外の展開で驚いた。実は その途中で2人が話し合う場面があり、そこでヒーローが中断を申し出たので、このまま未遂で終わって、ハッピーエンドの前で完遂するんでしょ、と あるある展開を信じ切っていた私だったが見事に裏切られた。

これは彼ら兄妹も、そして作品も作者も近親相姦の罪を引き受けるという強い心が無ければ前に進めない展開である。この点も作者が主人公たちを綺麗に描かないという覚悟を感じた。彼らに逃げ道を用意するのは簡単だが、そうしないまま、兄妹のまま性行為をする禁忌から逃げなかった。そして そうして彼らを倫理的に許されない存在にすることが、彼らの恋愛が そこまで純粋であることを逆説的に表現しているように思えた。本当に彼らは世界に相手だけが いればいいと思っているし、この後の人生も この思い出を よすがにして生きていくつもりなのだろう。


して今回、秀逸だと思ったのは母親の描き方。兄妹間の恋愛に加え、未亡人となった母は、これまで以上に愛衣を監視し、弓弦と接触することのないように狂気を発揮した。その狂乱は夫の代わりに この家族を守ろうという責任感でもあったと思う。例え子供たちを苦しめても、間違いを矯正し、正しくあろうとする彼女の姿は間違っているとは言い切れない。かつて幼い兄妹が家族一緒にいられることを神様や流れ星に願ったように、母もまた家族が家族でい続けるように願うからこそ、2人の兄妹の勝手を許さないだけなのだ。

こうした母の努力により、子供たちは離別し、家庭内の平和は守られた。それから1年半、平和の継続で壊れてしまった母は元に戻ったかのように見える。だが、その裏で少しずつ異常な状態が継続しているように思え、そこに恐怖し、その匙加減の絶妙さに感嘆した。

母親の許す限りの自由を与えられる愛衣は鎖に繋がれた飼い犬か。心理的束縛は一生 消えない。

象徴的なのが、愛衣がスマホを所持していないように見えるところじゃないだろうか。1年半後の世界でも愛衣は母に気を遣っており、出掛ける場所、目的、帰宅時間を報告している。だが母は愛衣が委縮していると考え、もう信頼しているから報告は必要ない、と言う。

だが母の「信頼」は飽くまで愛衣が籠の中の鳥でいることを条件にしている。だから愛衣は外出先から公衆電話を使って家に連絡しているし、高校の先輩だった修二(しゅうじ)からの連絡も家の電話でしか受けられない。

こうして弓弦と愛衣という2人の子供たちが絶対に連絡が取れない状態である確信が母の精神を落ち着かせているのではないか。

更には高校3年生になった愛衣の進路に関しても、母は自由を与えているように振る舞いながら、彼女を誘導しているように見える。愛衣にとっての最初で最後の恋愛が終わり空っぽになってしまった彼女は将来を描けずにいた。そこで母は塾にも通わない娘を何とか受験モードにしようと、自分の母校の学校案内を娘に勧める。塾に通ってもいいのよ、大学に進学してもいいのよ、お金の心配はしないで、と愛衣に優しい言葉を掛けながら、そこには同時に塾に通って欲しい、自分の母校である名門大学に進学して欲しいという願望が透けて見える。こうして愛衣は ずっと母親の傀儡であることを強制されるのだろう。

そして何より母が一度は娘から奪った東京での暮らしを許可するのは、その土地には弓弦がいないという確証があるからだろう。弓弦が もし東京の大学に通っていたら、母は彼女に東京に行くことさえ許さず、地元での生活を強要する。彼女は厳しくし過ぎた娘に罪悪感を抱えつつも、娘には自由を与えてはならないという信念で動いている。

『6巻』中盤までの母親の狂乱も怖かったが、実は後半の冷静に壊れたままの母親の方が怖いのである。


衣の愛する人以外は何もいらないと願った途端に、その願いは叶えられた。それが出張先のアメリカでの父の事故死。

それだけでも愛衣の中に因果関係が成立してしまい、彼女に一生 忘れられない罪悪感を抱かせるが、もう一つ、父の死の瞬間に自分が兄妹でデートをして浮かれていたことが彼女の罪の意識を一層 濃くする。そして それが愛衣の母に対しての反抗心を奪う。

兄妹で一緒にいるためにスマホの電源を切っていたため、父の死の報せを知るのが遅れた。それが母に自分たちの関係を確信させ、母は子供たちが2人でいることを忌避し始める。これまで以上に愛衣を束縛し、愛衣と弓弦の接近を絶対に許さない。母はやり場のない悲しみを兄妹に転嫁している、とも考えられる。

そして父の葬儀の日、母は狂乱の中に倒れる。父を殺し、母を絶望させる自分に生きる価値はあるのか、愛衣は悩む。だから罰せられることを望み始める。葬儀後、母は愛衣を自宅に軟禁するようになる。弓弦のいる学校に愛衣を通わせず、自宅に1時間に1回 電話を掛け、娘の行動を監視する。

愛衣はこれで全てを奪われた。母に関係を疑われてからは放課後のデートも出来なかったし、それ以前から写真も残せなくなったし、盗み見られるからメールも送れない。そして父の死後は彼女はスマホ自体を奪われた。更に唯一の逢瀬の場所であった学校も母に奪われた。

この理不尽とも言える母の行動だが、愛衣は自分が犯した罪によって父が死んだと考えていることもあり、自分が罰せられることを甘受する。

これ以上の親不孝が母親の心身が壊れてしまうことを知っているから愛衣は この軟禁生活を受け入れる。

弦は、愛衣と一切の連絡手段を奪われている以外は、通常の学校生活を送っている。『5巻』でデートするはずだった愛衣を弓弦に奪われた形になった修二だが、彼は その日、愛衣の母親を上手く騙すことが出来なかったことを弓弦に詫びる。ホント、どこまで良い人なんだ…。
兄妹間の恋愛で、愛衣はナナヨとの友情は壊れたが、男性同士の友情は継続している。当て馬としては ほぼ活躍しなかった修二だが、どうやら彼には別の役割がありそうである…。

軟禁状態がどれくらい続いたのかも分からない ある雨の日、愛衣は外に出る。傘もささずに濡れながら、踏切内に入り、遮断機と電車の間で立ち尽くす。だが愛衣は自分が死ぬことも許されないと思っている。兄以外の全てを切り捨てたから父は死んだ。そこで自分が死んだら父の死が報われない。ある意味で彼女は両親から、何もしないで生きることを強要されていると言っていい。

絶望の中、膝をつく愛衣を発見するのは弓弦。愛衣のことを心配する弓弦だったが、愛衣は彼を「お兄ちゃん」と呼ぶことで線引きをした。これは両想いになる前以来の線引きだ。ここで弓弦に恋人として接したら、今度は母が壊れ、母を失うと愛衣には思えたに違いない。


衣からキッパリと線引きをされた弓弦が傘も差さずに自宅アパートに戻ると、母が待っていた。

そこで弓弦は初めて母が愛衣を執拗に監視していることを知り、愛衣が学校に来ない理由、そして自分を拒む理由を知る。だが母は夫亡き後、責任を1人で負っていた。それが亡き夫の死に対する彼女の精一杯の弔いなのかもしれない。

そして母は、中学まで愛衣が過ごした長野県に戻る決意をしていた。結局、愛衣が兄と一緒に通えたのは半年ぐらいだろうか。弓弦も その話を了承する。

母は弓弦を連れて自宅マンションに戻り、愛衣に転校の話をする。そして弓弦も、自分から愛衣に さよならを告げる。それが残された家族を守るために必要なことだと弓弦には分かったのだろう。

そして転校話をする際に母が弓弦を連れて来たのは、亡き父の位牌の前で誓ったことならば弓弦も嘘をつかないだろうという目論見があったから。父を見届け人として立てて、それを弓弦の精神的な束縛にする。そして弓弦から別れを切り出すことで、愛衣を絶望させる意味もあっただろう。そのための別れの儀式なのだ。

だが母が こうするのも それだけ必死なだけである。自分の選択が、子供たちを傷つけていることも分かっているが、家長として家族を守るためには、こうすることが必要だった。子供たちが憎くてしているわけではないことは、弓弦と母の最後の別れの言葉から読み取れる。


校の挨拶をしに、最後に学校を訪れた愛衣。この時もナナヨは何も言わないまま。愛衣も言い訳をしなかったし、ナナヨも愛衣を責め立てたりしなかった。互いに強いからこそ平行線のまま彼女たちの学校生活は終わる。

愛衣の学校との別れになる下駄箱には弓弦がいた。両想いになって一緒に帰ったあの日と同じように、弓弦は愛衣を待っていた。

そんな弓弦に対し愛衣は別れたくない、何年でも待つ覚悟はあると縋る。そして弓弦も別れたくない本音をぶつける。それでも、自分たちには もう関係を続ける手段がないことを2人は知っている。この恋を続けることは今の2人には出来ない。

だから最後に愛衣は弓弦に「本当の恋人にして」もらうために、弓弦と性行為を願う。こうして身も心も恋人となった2人だが、同時に その日の内に別れる。愛衣は弓弦のアパートのポストに、弓弦からの愛の結晶である2つのアクセサリを投函していた。

ここで一つ疑問なのが、愛衣が最後の登校をする時に、母親が彼女に単独行動を許していること。これまで軟禁していた母親にしては手ぬるい処置だ。しかも学校は弓弦と会う可能性が一番高いのに放置している。そして この後の弓弦の部屋での出来事を考えると数時間も監視が緩んでいる。これは母の最後の優しさとも考えられるが、展開優先の ご都合主義のような気がしてならない。
ただ学校は最後まで母の介入できない唯一の場所で、彼らにとって たとえ半年強であっても、初めて一緒に通えた思い出の地。その聖域を汚さないためにも母が学校で愛衣をコントロールするような事態は避けたのかな、と思う。


れから1年半以上が過ぎ、愛衣は高校3年生の夏休み直前で進路相談を受けていた。だが愛衣は進路を決めることが出来ずにいた。なぜなら彼女は自分の将来を考えると頭が真っ白になってしまうから。弓弦を失った彼女には生きる意味は ないのかもしれない。

そんな娘に母は、東京の自分の母校の学校見学に誘う。東京は愛衣にとって忘れられない思い出がある場所。自分の傷が また えぐられるのではないかと身を固くする愛衣だったが、母に上手く誘導され、学校見学に向かう。母の精神支配がエグイ。

大学で愛衣を案内するのは若手の教授の加藤(かとう)。そして この大学では もう一つの出会いがあった。それが修二との再会。彼は この大学の法学部の学生として在籍していた。

修二との会話で初めて、1年半後の弓弦の所在が明らかになる。彼は今、アメリカに居る。だが今は母も彼の消息を掴んでいない。

愛衣は弓弦との思い出だらけの東京に来ても、想像よりも辛くないという。1年半という時間は それだけ長いのだろうか。だが、修二の前で、高校の頃の弓弦に似た人を見ると愛衣は自然と目で追っていた。そのことから修二は愛衣の内心を推測する。

そして修二だけは、弓弦と今も連絡を取り合っていることが判明する。修二の役割は2人を結ぶキューピッドとなるのか⁉


メリカでの弓弦はエリート街道を驀進中。何の研究をしているのかは分からないが、取り敢えず選ばれたエリートという描写だけが続く。

ただ これも『1巻』の弓弦の高校入学時と同じように、愛衣に会えない期間に成長を誓っているから、全精力を勉学と研究に注ぎ込んでいるのだろう。そして泥のように疲れ果てて眠れるまで、することを探して生きている。自分を酷使することで、自分の過去や痛みと向き合わないことにしているのか。


校見学を終えた愛衣に、母は お見合いを勧める。相手は学校案内をしてくれた若い男性教授・加藤。歳は一回り上だが、印象は悪くない。

そして1年半の時間は、愛衣に思った以上の変化をもたらしていたことが、東京に行って判明した。だから愛衣は母に お見合いを受けることを話す。こうして弓弦と愛衣の兄妹を一生 引き離す母親の計画は最終段階に達したと言える。母はなかなかブランド志向と言えるかもしれない。どうしても自分の大学に娘を関わらせたいのか。

その頃。修二は加藤教授から お見合いの話を聞き、その相手が愛衣であることを知る…。