《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

8時間後には同じ星、10年後は同じ景色を見ようと約束するクリスマス。

うそカノ 7 (花とゆめコミックス)
林 みかせ(はやし みかせ)
うそカノ
第07巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

放課後の図書室、すばるから、入谷の胸元にそっとつけるキスマーク…。お互いを意識するまま、すばるの誕生日が近付くが、その日入谷には模試があって…!?そして、二人で過ごす初めてのクリスマスに、プレゼントを贈りたいすばるはアルバイトを。一方の入谷は何とかしてすばると二人きりになろうと画策するけれど!? 「弟ラブ」な入谷の兄、雅史目線の特別編も収録!

簡潔完結感想文

  • 想像の斜め上をいくキスマーク事件。待ちに待ったキスよりも印象的な名シーン。
  • 大事なことは大体 立ち聞きで聞いてしまう本書だから誕生日も間接的に遅れて知る。
  • プチ遠距離恋愛。電話が嫌いなはずの彼が、今はもう君の声が聞きたくてたまらない。

ちに待ったクリスマスより、何でもない日常の一日が忘れられない 7巻。

『7巻』の構成は これでいいのだろうか。
冒頭のシーンが忘れられなくて、
後半の少女漫画的に重要な恋愛イベントが それに負けている。

ただ、ヒーロー・入谷(いりや)目線で言えば、
冒頭のことがあって、彼がいい意味で「バカ」になってしまったから、
後半のシーンに繋がったのかな、とは思う。

この2人の「接触」によって、失敗に凹んで、体面だけを気にするばかりだった入谷が「バカ」になる。

冒頭以降は、もう入谷はあわよくばキスより先の展開を望んでいる節がある。
アレが彼の欲望に火を点けてしまったのだろう。

ここで大事なのは、入谷の すばる への気持ち。
『3巻』で入谷は、キスの方法をネット検索していた。
それ以降の彼は、知識の実践としてキスを試みようとしていた節がある。

だが今回 入谷の中で起こる情動は もっと本能的なものだろう。
頭でっかちな知識ではなく、彼女を愛おしいという気持ちが自然に彼を動かす。

最初は すばる に塩対応で冷血にも見えた入谷が、
いつの間にか人並み、いや人並み以上に人を愛している変化に注目したい。


んな彼の変化は、物語の中の端々に見て取れる。

例えばラストの遠く離れた入谷からの電話も その一つだろう。
交際したばかりの時は、メールも送って来るな、電話は嫌いと明言していた入谷が(『2巻』の4コマ)、
彼女のことで頭がいっぱいになり、他者に迷惑や負担をかけることも厭わず、
なりふり構わずに電話して、少しでも声を聞きたいと思った。

これは彼の「好き」という感情が、彼の心のコップから溢れそうだから起こる衝動である。

クリスマス前の、入谷のストーカーとも言える監視も彼女のことで頭が いっぱいの証拠。
近頃の彼は すばる のことばかり考えて行動している。
他者に冷たく興味のなさそうな彼を ここまで変えてしまう すばる は凄い。

そういう入谷の変化を一番そばで実感しているのは、
実は すばる ではなく友人・吉野(よしの)かもしれない。


ういう物語の裏にある変化を読み解くのが本書の楽しみだろう。
が、一つ注文を付けるとしたら、物語の展開に必然性や説得力がないのが気になる。

例えば すばる の誕生日。
この日は、入谷には模試の予定が入っており、
すばる も彼に模試を優先させるのだが、
それで まるっきり会わないという選択肢を取るのが不自然だった。

会えないと思っていた日に、彼が会いに来てくれる胸キュンを描きたいのだろうが、
少しも会おうとしないことに疑問を感じる。

すばる は模試に縁がなく、何時間要するのかが分からないのかもしれないが、
入谷側からしたら、終了後から非常識にならない時刻までの時間を確保できるはずなのに。

また唐突な遠距離恋愛も気になるところ。
入谷が年末年始に海外勤務(パリ)の父に会いに行くのだが、その話の流れが強引に思えた。
4人家族が1:3に別れている入谷家なら、父が帰ってくればいい。

入谷が海外に行く必要性を もうちょっと練ってくれないと、展開が白々しく映る。
胸キュン展開より、こういう導入部を しっかりしてくれないと物語に入り込めない。


頭は、伝説のキスマーク事変。
自分がキスマークを付けようと思った入谷が、
すばる の勘違いによって、キスマークを つけられる側になり、
焦りと緊張の中、彼の鎖骨の下に すばる の口が近づいていく…!

こうやって攻守が交代するのが本書らしい展開ですね。
2人ともウブな反応をするから面白い。

これは単純なキスよりも淫靡なシーンですね。
そして ここまでして、まだキスをしないのか、という気持ちになる。


一方、キスをした関係なのに、
ここで初めて、出会いと恋心について語られるのが、時田(ときた)のトモに対する気持ち。

初登場から どんだけ経ってんだという感じの遅すぎる説明。
トモはもちろん、時田の気持ちに興味が持てないから辛い。
そして この時田のスタンスは、
トモが自分に興味がないから興味を持った、という完全に少女漫画ヒーローのモテ男の立ち位置である。

時田はトモに「自分の正義にまっすぐな 素直な人」と評価するけど、
自分の正義を貫くために、最愛の姉の気持ちも踏みにじって人を否定してるだけのような…。

時田もトモに ちゃんと「好き」だと告白する。
これで好きだと言わないのは、入谷だけですね。

和久井(わくい)と時田は諦められない者同士。
彼らが いよいよ自分のスタンスを決めるといったところか。
しかし和久井は、入谷といい時田といい人の気持ちを奮い立たせる、本物の当て馬なんだなぁ…。


んな入谷は、すばる の誕生日が間近に迫っているのを物陰から聞いた話で知る。
交際から1年でも、まだまだ初々しい2人が楽しい部分でありますが、
言いたいこともちゃんと言わない関係は不健全な気がする。
そして廊下や扉の影、死角から情報が入ってくるのも何度も見たパターンである。

入谷は なんとか写真部主催の すばる の誕生会に混ぜてもらって、お祝いする。

当日は入谷は すばる の願いもあって模試を優先、すばる は1人で街をぶらつく。
近づくクリスマスを前に、バイトを計画したり、入谷へのプレゼント選びで心を紛らわそうとする すばる だが、
周囲に居るカップルとは対照的に、隣にいない人の不在を感じる。

そうして心が落ち込んだ時に助けてくれるのがヒーロー。
入谷が すばる のもとに駆け付けてくれる。
頑張った感を出してますが、これぐらい出来て当たり前。
最初から努力していないだけなので、胸キュンはしないなぁ…。

すばる は家でもパーティー予定なのか、帰るまでの30分だけの誕生日パーティーとなった。

この回で、プラネタリウムに誘った和久井が、待ち合わせ場所に現れないのは、「色々ふっきれ」たからだろうか。
あの鑑賞券は、入谷を焚きつけるための材料に過ぎなかったのか。

こういう橋渡しが出来る=すばる が幸せ であれば和久井は もう満足なのかな。
この後も入谷がいない間に、すばる にちょっかいを出せる場面でも出さないし、
待ち合わせに現れなかったのは、もう すばる とは距離を取るよ、という彼の合図か。

作中で和久井は 誰よりも物事を全て見通していて、だからこそ切ない。


谷の冬休みに父親のいる パリ行き。
これまで入谷の父親は作中に出てこなかったが、まさか海外勤務だとは。
その前に どうにかクリスマスプレゼントを渡したい、すばる の奮闘を描く。

海でのナンパが代表例だが、
彼女のピンチを助けるヒーローを描くには、
ガラの悪い人間を登場させるだけでいいから便利ですよね。
いきなり街の治安が悪くなったなぁ…。

クリスマス当日は、
どうにか彼女を家に連れ込もうと、入谷は燃えていた。

入谷が ずっと家での滞在可能時間を気にしているということは、
それなりに時間を要すること=キス以上のことを狙っていると考えるのが妥当か。
1回もキスをしていないのに、そこに狙いを定めるのが入谷らしいか…。
冒頭のキスマーク事変は、入谷にスイッチを入れてしまったか。

ここは入谷を邪魔する存在(クラスメイトや兄)に悪意がないのが良いですよね。
ここで和久井が出てきたりしたら笑えないけど、
みんな入谷を好きだからこそ、構ってしまうという構図が良い。


リスマス回、ラストには待望のキス。

クリスマスは良い機会だけど、
待たせに待たせた割に、あんまり前後の流れがないのが残念。
これなら遠距離からの再会後でも良かったのでは。
もうちょっとロマンチックな方が良かったなぁ。
それもキスマーク事変の方が印象が強くなってしまう一因。

そこから冬休みは、プチ遠距離恋愛となる。

入谷は すばる に連絡が取れない状況となる。
交際初期なんて、連絡が取れなくても問題なかったのに、
今では入谷の中でケータイは必須アイテムなのだろう。

ケータイはスーツケースの中に入れたのに、
すばる からクリスマスプレゼントとして贈られた電子辞書だけは肌身離さず持っていたようで、
入谷は それを すばる を感じる よすが とする。

電子辞書の中に残る、彼女の行動の気配を感じて入谷の心のコップは溢れていく。声が、聞きたい。

その電子辞書の中にある確かな彼女の気配に心が温かくなる入谷。
だから彼は、嫌いなはずの電話で 大好きな彼女の声を聞こうとする…。