《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

ネット検索でキスの方法は学習したので、その知識の実践を急ぐマニュアル人間・入谷。

うそカノ 3 (花とゆめコミックス)
林 みかせ(はやし みかせ)
うそカノ
第03巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

すばる、和久井の「うそカノ」に!? 2人のうそデートに心中穏やかでない入谷。文化祭前日、2人の距離は、かつてないほど近づいて…!? 頑張っては空回るすばると、自分の中の独占欲に戸惑う入谷。2人は「キスの本番」を成功できるのか!?

簡潔完結感想文

  • 自分の欲望に相手を巻き込む「うそカノ」制度。今回は彼氏に失礼すぎるだろう…。
  • 文化祭というハレの日も、テスト勉強のケの日も、あなたと一緒なら毎日がたのしい。
  • 勉強回の見所は、ナチュラルにイチャつくカップル、の裏でツッコミに忙しい級友の声。

の汚れた世界で、君だけが純粋で美しい、の 3巻。

全愛読者を敵に回すかもしれませんが、ヒロインだけを聖女のように描き方が たまに鼻につく。
ヒロインが無自覚にモテるという少女漫画的展開はともかく、
悪意や敵意を持たない彼女は、この世界の正義であり続けるというような話の展開に辟易した。

そう思ったのは『3巻』後半の文化祭のミスコンの場面。
エントリー制ではなく全生徒が対象となるミスコンの謎のシステムも気になるが、
不正が横行し、組織票が物を言った今回のミスコン。

本書のヒーロー・入谷(いりや)もクラスメイト達の陰謀によって祭り上げられ、
買収工作によってミスコン1位になってしまう。
それを八百長だと指摘するのは、同じく賄賂で票を買った2位の男子生徒。

その告発に対し、立ち上がるのが我らがヒロイン・すばる である。
「入谷くんは ズルなんてしてませんよ」
「だって だって入谷くんはミスタコンなんて興味ないし」
「でも一位になったってコトは入谷くんをいいって思って入れた人がたくさんいたからで
 入谷くんの一位は 正々堂々の一位です」と力強く反論する。

珍しい入谷のピンチに無敵ヒロインが立ち上がった、という見方も出来る。やはりヒロイン最強漫画か。

…が、論理が破綻している。
入谷は確かに関わってないが、そもそも買収しているしね。
もし 買収がなければ入谷は3位、または2位の生徒を不正失格としたとしても2位の票数なのである。

これでは「正々堂々の一位」とは決して言えない。

票数うんぬんだけではなく、こうやって周囲を汚れさせて、
ヒロインだけが美しい心を持っている、という構図が私は苦手に思った。

作者がヒロインを敢えて無知で純粋な存在にとどめ、
彼女を天然のまま汚さないようにしているのが見えてしまって作品を楽しめない。
ヒロインに対しての悪意も本書ではないし。

もちろん本書の面白さは多様で、入谷のズレた行動を楽しむなど それだけで楽しい部分もあるのだけど。

『3巻』では和久井(わくい)の「うそカノ」になったり、
彼氏である入谷の気持ちを無視しているのに、その無礼に無自覚なのも気になるところ。
自分が傷つくことには敏感で、他者に対して鈍感な典型的なヒロイン像なのだ。
これは交際が深まって、話が進めば改善されるのかなぁ…。


そして登場人物の顔のバリエーションが少なすぎる。
ヒロイン・すばる も、新キャラも、学校一の美人も、全員が同じ顔に見える。


頭は和久井の「うそカノ」になるという謎展開。

『1巻』で早くも意味を失った『うそカノ』という題名に沿った内容にしようという努力が見られるが、
入谷という彼氏がありながら、別の男の「うそカノ」になるヒロインの厚顔無恥に腹が立つ。

もちろん作者も そのハードルを乗り越えるための理由を幾つか用意している。

1つは既に和久井が「うそカノ」を申告してしまったから。
幼なじみの彼のために動くというヒロイン特有の優しさが動機となる。

もう1つは この件に関して、すばる の妹・トモが関わっていること。
彼女に嫌がらせのメールが来たり、数々の不幸に見舞われているから、
トモを守るために、すばる が躍起になって、他のことが見えなくなっている。

そして最後の1つは、すばる がバカだということ。
この事態を彼氏がどう思うのか、という想像力が欠如しているから目的遂行に専念してしまう。


番当日は、むしろ すばる が本気。
なぜなら、こんな些細な問題は即座に解決して、
入谷と保留になっているキス本番を迎えるという欲望があるから。
「うそカレ」和久井の前で別の男のことで頭がいっぱいな悪女である。

当日、状況を逐一すばる に報告させることで自宅待機していた入谷だが、
気になって、現場に急行してしまう。

本書の読みどころは、こういう入谷の過保護・溺愛っぷりであろう。

嘘を信じ込ませる相手の楓(かえで)は、目の前のプロのうそカノ行動に動じない。
それどころか すばる たちを怪しむ。

和久井の好きなところを挙げる際、最初は彼にまつわる他人の評判を流用していた すばる だが、
後に和久井がトイレに立った際に、彼との思い出と自分の彼への印象を話す。

それを和久井は陰で聞いていて、その上で入谷も聞いているから2人の男の心は乱れるばかり。
すばる は天然の魔性なのか。

再三再四、彼女の証拠としてキスを要求する楓を拒めず、
いざ、というピンチに駆け付けるのが入谷。

入谷の解決策は意外なものだった。
これ以降、楓のキャラもあって、事態は有耶無耶に収束していく。

和久井は楓の性格を知っていて、すばる を巻き込まなくても解決は可能だったはず、と
男2人の反省会で入谷は そう指摘する。

すばる は和久井の気持ちは知らないままで、
学校で人気の男子2人から自分が思っている以上に愛されポジションなのである。

でも、以前も書きましたが、和久井がいるから、
入谷は彼を牽制し、その流れで すばる を大切にしているから、
実は和久井こそ、この恋の立役者といえるだろう…。


ス問題は保留され続け、入谷は真面目に「キス 方法」で検索する始末。
ネット検索後から、入谷はキスの機会を窺っているのを見逃してはいけない。
どうやら彼はキスの仕方を学習して自信満々らしい。

互いにキスの話題は出さないが、双方 事前準備は万端。だが、そこは初心者同士で…。

そんな時に文化祭シーズンが到来。

すばる は、入谷くんにクラスの出し物・シンデレラの劇の台詞読みを手伝ってもらうことに。
本来、彼女は脇役の1人に過ぎないのだが、
入谷は すばる がシンデレラ役だと誤解しているため、
打算的な欲望から黙ったまま練習を始める。
なかなかに良い性格をしている。

だが顔を近づけて練習をしていると、
新しいリップを塗りたくった口に ほこり がいっぱいついていると指摘されてしまう。
それが、自分がキスをしたくてたまらない人のように思われてないかと すばる は動揺し、
それ以降、入谷を避けてしまう。

このシーンは、この日すばる が顔に ほこりがつくような作業をしたとか、そういう前置きがあった方が良かったのではないか。
もしくは練習前に気合を入れてリップを塗るとか、絵的に唇をテカらせるとか。
冒頭のリップ購入の話だけでは、ちょっと話の振りとしては弱い。

あと、ここで入谷の方にキスするつもりがないのが気になる。
ネット検索で学習して、さぁ するぞ、と意気込んでるはずなのに、
入谷の天然で雰囲気台無しというオチにしてしまったのが残念。
まぁ、ホコリがいっぱいついている口にキスをしようという気は起きないだろうが…。

帰宅後、すばる は自分の失礼な態度を反省する。
彼に何の説明もなく、自分の感情だけで動いてしまったこと、
ひいては、入谷と一緒にいても「自分の中の恋ばかり追いかけてる」ことを痛感する。


して迎える文化祭当日。
前日に すばる に避けられた入谷は「ケンカ 仲直り」で検索中。
入谷のスマホの検索履歴を見れば、彼の心の動きは丸わかりだろう。

入谷は学校中を捜して すばる を見つける。
何気に息を切らしているのが良い。
すばる は自分の本心や、キスのことで頭がいっぱいだった昨日の空回りを謝罪。
そして今は、入谷が捜しにきてくれて一緒にいられるだけで楽しい自分の本心も伝える。
キスはまだだけど、2人の心はどんどん接近している。

その裏で進行するのがミスコンのマル秘ミッション。

このミスコンで、後に重要な役割を持つ1年生時田 律(ときた りつ)が初登場している。
物語後半とは大分 顔が違って、クールな表情だ。

すばる は身内の票と自分の票など計5票で3位。
そして入谷は特進科のクラスメイトたちの買収工作によって1位に選出される。
ちなみに2位も部活の後輩を巻き込んだ買収票で、このミスコンは全く機能していない。

買収劇を知らない すばる は、入谷が1位になって学校中の注目を集めることに不安になる。

まぁ この後に それが入谷の行動によって否定されるという流れがあるのは分かるが、
その前日に気持ちを通わせているのに、2人の関係の前進が簡単に揺らいでいるのが残念。
ミスコンも私利私欲ばかりで爽快感がないし。

ミスコン後、1位の人より すばる が 可愛いと言ってくれた入谷の嘘のない言葉に感動し、
すばる は思わず入谷に後ろから抱きつく。
その不意の行動に入谷は本気でキスをしようとするが、自分で仕掛けた罠で自爆し、またもキスはお預け。

キスは大事な恋愛イベントなので、この話題は大事に扱われる。


それにしても本書における入谷の外見の評価がいまいち定まらないなぁ。
全生徒から人気があるのか無いのか。
そして特進科の行動も、賄賂(ワイロ)に対してリターンが少なくて、意味が不明。

こういう状況を描きたいという狙いのために、色々と理由をつけているのは分かるが、
話の運びや、状況に不自然な所が散見され、話の流れが上手いとは言えない。
作者が話をしっかりとコントロールしていない感じが出ている。
本書は作者にとって初長編ではあるが、決して新人作家とは言えないキャリアなのだが…。
設定やキャラが受けているから良いが、
単純に話の構成だけを見えると、もっとブラッシュアップ出来るような気がしてならない。


化祭も終わって、テスト直前。
勉強回です。

典型的な胸キュンのシチュエーションも盛り込まれているが、
本書ならではの展開は、特進科の教室で勉強をする彼らの行動に逐一ツッコむクラスメイトたちだろう。
モテない男たちの怨念と、その上をいく入谷の天然行動にツッコミの声が止まらない。

この回でも入谷はキスを目論む。
どうやら彼は「キス 方法」で検索し、学んだことを実践したくてたまらないらしい。
しかも知識を得ているから妙に強気で勝気。
まるで百戦錬磨の経験者のように振る舞っているのが笑える。

ただし、雰囲気など無視で、
誰もいない場所で2人きりになれば「条件 整ってる」から、動くような残念な思考の持ち主。

だが慣れない2人は失敗してしまい、
その失敗が2人の心と身体に傷を作ってしまったようで…。

またも良いところで巻を跨いでいる。