《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

早くもラブコメに見切りをつけて当時の「別冊フレンド」で人気の青少年シリアス路線に変更。

純愛特攻隊長!(4) (別冊フレンドコミックス)
清野 静流(せいの しずる)
純愛特攻隊長!(じゅんあいとっこうたいちょう!)
第04巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

平田(ひらた)と千笑(ちえみ)カップルの前に現れた、平田の小学校時代のクラスメイト・明緒(あきお)。無邪気なふりして平田を奪おうとする明緒にキレた千笑は、彼女に平手打ちを食らわしてしまう。ギクシャクする二人の関係、このまま――破局!? そんな簡単に終わらないのがこのカップルのいいとこだけど、明緒は意外としつこくて……。やっぱりピンチピンチ!!

簡潔完結感想文

  • 1話1話がダルいほど長い。作風は重めの病的な社会派。ラブコメはどこへ?
  • 2人の関係にヒビが入るような騒動にしたいのだろうが、ヒロインが頑固すぎ。
  • 漫画は面白いが、初期に支持していた人は この内容を読みたいとは思えない。

場人物も作品も戻れない路線にイってしまった 4巻。

完全に想像だが、ラブコメ路線のネタの枯渇に対して、
編集部の出した答えが路線の変更だったのではないか、と邪推する。
連載当時(2006年)に掲載誌「別冊フレンド」で絶大な人気を誇っていただろう『ライフ』の、
シリアスかつ重めの作風に寄せることで、「別フレ」読者からの作品人気を維持しようとしたのではないか。

コメディ作品には頭のおかしいひとが必須で、『2巻』では千笑の父親がヤバい人だと判明した。
父親も あまり笑えないタイプの変人だったが、今回登場するのは狂人である。
今後 登場する新キャラたちは全員「静かに壊れている」。
千笑と知り合って、段々と彼らの欠落が露呈してきて、最後には千笑が追い詰められる、というのがパターン。
ここから1話1話が長くなり、笑いは激減し、同時に話のテンポも悪くなる。
それでも、作品が続いたのだから、読者からは一定の支持を得ていたのだろう。
路線変更は、作者か編集部の意向かは分からないが、間違ってはいなかったということか。

私は この『4巻』で狂人が出てきた時点で、本書への興味を失った。

主人公の千笑(ちえみ)はじっくりと腰を据えて、降りかかる困難に対応するような人じゃないから、
狂人に対して有効な策を持たずに、右往左往しているだけの内容が続き、
最後には作者も活路を見失っているから、決定的なカタストロフィを強引に起こすだけで終わる。

しかも その事件が、後の作品に何か影響を与えるかと言えば全く そんなことはなく、
次の新キャラによって同じことが繰り返されるだけ。

せめて横の繋がりが出来て、キャラが再登場するとかなら面白さを感じるのだが、
有害なキャラになってしまった人たちは再登場させる訳にもいかず、静かに排除されるだけ。

言葉は悪いが、終わりの始まりが『4巻』である。
といっても、本書は合計17巻も続くのだけど…。


笑の恋人・平田(ひらた)に隠れて、平田を女性2人でシェアするという提案をする倉森(くらもり)。
それを既定路線として話を進める倉森の態度に、千笑の堪忍袋の緒が切れて、
彼女に平手打ちをくらわせてしまう。

その現場を目撃していた平田だが、倉森を心配はするが、千笑を責めたりしない。
それに落胆する倉森。
きっと倉森は千笑に窮屈な思いをさせ、それが爆発したところを平田に見せ、
千笑を嫌いになってもらおうとする計画だったのだろう。
平田が千笑を嫌いになるか、またはその逆かで、2人の関係が崩れた漁夫の利を狙うのが倉森の目論見だろう。


翌日から千笑は気まずくて平田と まともに喋らない。
自分が悪いにもかかわらず、逃げて問題を先送りにするのは少女漫画あるあるですね。
だけど千笑が、こういうヒロイン的な反応を示し続けるのに違和感がある。
気に入らない女性は咄嗟に殴れるが、好きな男性の前では気弱になるというアンバランスさを感じる。
何を ぶりっ子してるんだ、とそういう女性が嫌いなのが千笑なのに、千笑がそうなってる。
それだけ平田に嫌われたくない心の動きなんだろうが、千笑には気弱なヒロイン役は似合わない。

千笑は どちらへ行っても地獄ですね。
ぶりっ子しても、らしくない。
かといって、暴力で訴えるのも読者からの共感を失ってしまう。
真綿で首を締めるような策略は千笑が一番苦手にする手法だろう。

それに平田が寛容で、千笑のことをフォローしてくれるから交際が維持されているが、
千笑に平田に対する誠意が見えない。
頭で悩んでいるが、結局 平田に何も態度を示していないのが問題だ。

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少女漫画ヒロインとしてヒールになりきれないのが千笑の中途半端さ。『ヒロイン失格』覚悟で悪役を演じて欲しい。

…などと失望していたら、千笑の本領発揮。
千笑が倉森に苛立つ理由は、彼女が本音を離さないで自分に接近してくるからだった。
その言葉に倉森も、「しね」「ブス」と本音を曝け出す。
ここから倉森が黒い感情を噴き出し、そして狂っていく序章となる。

だが暴力でしか物事を解決しない千笑に、平田は「頭を冷やせ」と忠告する。
確かに、本音を聞きたいと訴え、それで悪口を言われたら殴りにかかるのも単細胞が過ぎる。
ここで彼女の本音を聞く姿勢を見せていれば、今後の展開は変わったかも。


平田は千笑への誠意をとことん見せ、倉森は自分の入る余地が全くないことを思い知る。

そこから彼女は千笑を消すことばかり考える。
平田のいない間に、弟と祖母に呼ばれて平田の家に上がった際も、
浮気の証拠に見えるものを潜ませ、2人の仲が険悪になることを望む。
少しずつ行動が、自分をよく見せようとすることから、千笑への悪意へと変わっていく。

倉森が仕込んだ罠を翌日に千笑が平田の部屋で見つけたから大騒動。
頻繁に平田の家に上がる訳でもない千笑が、すぐに見つけてしまうのが ご都合主義か。
これは反省する千笑を元気づけようと、平田が家に誘ったからなのだが。


の騒動に対して平田も直接、倉森に釘を刺すが、暴走した倉森は止まらない。

ここからは本書ならではの派手な展開にしようと、内容が嫌な方向に振り切ってしまう。
出前の宅配を千笑の家に何十件も頼む倉森。
更には千笑の名前と特徴で、千笑が男性に「奉仕」するメッセージサービスに吹き込む。
学校内でもそれを聞いた男子生徒が複数で彼女を襲う(治安が悪すぎる)。

ブコメでこういう場面は見たくないなぁ。
それを救ってくれたのは平田。

ちなみに今回は、強いはずの千笑が昼食を抜いたため力が出ないので、男子生徒に対抗できなかったという理由がある。
そして昼食抜きが祟り、倒れる千笑。
倉森のせいで心身ともにダメージを追うことになる。


が倉森は再度の平田の忠告に対しても、聞く耳を持たない。
それどころか どんどん情緒が不安定になっている様子。

千笑を逆恨みしたかと思いきや、平田は あたしが邪魔なんだと自暴自棄に車道に飛び出そうとする。
それを止めようとした平田が倉森を抱きしめている場面を千笑は見てしまう。

その後も千笑の写真から合成した卑猥な写真をネットに流すと平田を脅し、彼を縛ろうとする。
このネットに流す云々は、1994年設定にそぐわない気がするなぁ…。
その画像をアップ or 閲覧するのに、PCのパワーを膨大に使う時代だろうに。
こういう小さな点でも集中力を失わずに、時代を統一させて欲しかった。

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性暴力未遂に、社会からの誹謗中傷、『純愛特攻隊長!』の『ライフ』オマージュ編が始まる…。

だが千笑は平田の尽力を理解せず、千笑は平田への不信感でいっぱい。
平田の話を聞こうともせず、彼も拒絶するだけ。

もともとが薄弱な両想いに波風を立てると、簡単に転覆してしまいますね。
千笑に平田の言葉が全く届いていないところに隔靴掻痒の思い。

この『4巻』では千笑は徹底的に暴力女で、平田にも倉森にも対話の手段を持たない。
倉森は勿論ですが、千笑もイラっとする人間だと思わざるを得ない。

千笑が周囲に反発するだけになっており、総じて頭の悪い漫画に成り果てている。
もうちょっと笑える漫画だと思っていたんだけどなぁ…。

そして最終盤の展開も、狂っているとしかいいようがない。
屋上から落ちるとか、こういう場面とか分かりやすいクライマックスなのはいいが、話の決着が強引だ。


ちなみに1話からキャラの濃い担任女教師だが、彼女はオリジナル(本書発の)のキャラクタなのだろうか。
本書には千笑の父や担任女教師など、背景を掘り下げれば楽しそうなキャラがたくさんいる。
彼ら視点から話を作っても面白かったのではないだろうか。

まぁ、メインにして楽しいのは1巻分ぐらいなんでしょうけど。
飽きるし疲れるんですよね、常識外の人間と付き合うのは。