《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

すみれです。この結婚は 私が取り持ったと言っても過言ではなかとです。

プリンシパル 2 (マーガレットコミックスDIGITAL)
いくえみ 綾(いくえみ りょう)
プリンシパル
第2巻評価:★★★☆(7点)
  総合評価:★★★★☆(9点)
 

和央たちに近づいた子をハブにした主犯は晴歌なの…? 転校初日から優しくしてくれた晴歌を信じたい糸真。だけどもやもや気になってしまう。クリスマスイブに晴歌たちと約束をした糸真は、待ち合わせ場所に向かうけど…。

簡潔完結感想文

  • 和央と弦に関わったことで女子生徒からハブられる危機。でも札幌の私は一歩進もう。
  • 大事な時期の二人に思わぬ闖入者。でも置き土産で思わぬ展開が…。これは幸運なの?
  • 一つ屋根の下、好意を持つ男の子との同居生活。でも彼には想い人がいるんだって…。


転校生や闖入者は余計なことばかりすると誰かの不評を買うかもしれない2巻。

人間関係のこじれから逃げるように札幌にやってきた糸真(しま)にとって最も恐れていた出来事が再び起こってしまう。
クリスマスに女友達と集まるはずだった場所には何時間経っても誰も現れない。
和央(わお)と弦(げん)、二人の男の子に近づきすぎた者はハブにされるという噂が現実になりそうで、思わず和央に八つ当たりをしてしまう糸真だったが…。

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北海道でも女同士のトラブルに巻き込まれる糸真
そんなどん底の自分を優しく抱きしめてくれたことに勇気をもらう糸真。
そして人生経験が培ったその慧眼で、物事の本質を見抜く和央。
和央はこれまで弦とニコイチで行動を共にし、自分たちを取り巻く女子生徒たちの雰囲気も察していたようです。
そして好意を一方的に受ける弊害も味わってきた和央。
群れても群れなくても女子は怖いですね。

そして和央にもらった勇気をもって表面上は優しかった晴歌(はるか)に直接、クリスマスのことこれからのことを問いただすことにした糸真。
東京にいた頃とは違う過程を辿ったけれど、同じように壊れてしまった友情。
約束していたはずのクリスマスも初詣も、糸真の周りには友達はいなかった…。
糸真はやっぱり転校生で、学校内の和央と弦のこれまでのスタンスも、和央一家と弦一家のこれまでの関係も知らないことが多く、彼らの微妙なバランスを崩してしまうことで傷つくことが多い。
和央たちのご近所に引っ越してきたことも、その引っ越しすらも彼女の意志ではないから糸真も精神的に辛いところである。


そして闖入者が思わぬ効果を上げるのが、糸真父と和央母の大人の恋愛。
手紙や電話だけの登場で最後まで姿を見せないかとと勝手に思っていた糸真母が突然来訪する。

母はとてもリアルな造形で、後に和央母が言うように糸真ちゃんそっくりにも見える。なんだか町に一人はいそうな感じだ。
性格的には強引さと、そして少し憎めない感じがよく伝わってくる。
身勝手な鼓動に周囲は困るけれども決して悪い人ではないのだ。

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良くも悪くも周囲を自分のペースに巻き込む母
そんな母は置き土産を置いてあっさりと退場する。またも周囲を振り回すだけ振り回して。
その母の土産を囲む、糸真一家と和央一家。
和央たちがお呼ばれした時も、そしてこの後のプロポーズの時も母の意向を確かめる和央は、本当に母思いのいい子です。
糸真もまた自分の居場所を確保してくれる父に感謝しているから、この一家はいい家族になるはずです。
親の再婚という子供にとって気持ちの持っていき方が分からないだろう和央の手を握り、心に寄り添うベテランの糸真。
何気ないけれど、繊細な場面ですよね。

それが恋する乙女の糸真にとって良いことかは別として、一気に和央との物理的距離は縮まった。
しかしまさか恋する男の子と同居する話になるとは思わなんだ。
親同士が再婚して同居なんて『ママレード・ボーイ』ですね。
あちらほど設定を作るための牽強付会さやモラルの崩壊はありませんが。


糸真の視点で語られているからどうしても和央メインになるけれど、今回の親の再婚騒動で立ち上がってくるのは弦の孤独。
弦が女の子と一緒にいることも少ないかったから、糸真と行動をすると目立ってしまうらしい。

和央と別行動になり独りでいる弦と初詣の神社で出会った糸真。
そんな彼の口から何気なく語られたのは和央の、弦の姉・弓(ゆみ)ちゃんへの大スキという気持ち。
「あいつの頭の中には今も昔も『弓ちゃん』しかいねえよ」。
これもまた彼らの過去を知る由もない糸真には手痛い現実です。

そういえばクリスマスの晴歌からの仕打ちで落ち込む糸真を励ました和央の首には弓ちゃんからのクリスマスプレゼントである手編みのネックウォーマーが装着されてましたね。


和央の一番近い隣人であった弦は、和央の一番近くに同居する糸真たちが現れたことで、そのアイデンティティを失くしてしまう。
そして遂には、その親友とも言い争ってしまい…。

多くの事象が同時多発的に起こり、そしてそれらは連動してまた次の事象を生み出していく。
一冊の中で起こることが多すぎて、私には感想文としてまとめられないと悲鳴を上げてます。
あっ、いくえみさんが凄いって話ですよ。


さり気ない箇所にも優しさが詰まっていると思う本書。
娘にクリスマスプレゼントを贈る両親たちに、ちゃんと父親にプレゼントを用意していた糸真もその一つ。
こう書くととても幸せな家族像だけれど、両親たちは離婚してるし、父親とは10年ぶりの同居だしで、これで結構難しい関係だ。
そしてだからこその贈り物のような気もする。
これは母親は心配と罪悪感、父親は久方ぶりのプレゼントに浮き立ち、そして娘は自分の居場所を作ってくれた父への感謝でしょうか。

引っ越しにあたって次に住む人がいない可能性が高いにもかかわらず、隅から隅まで掃除をして出ていく和央の心根の優しさがよく表れています。


プリンシパル 番外編 Episode 8.5」…和央と一緒に住む犬のすみれ視点の裏話。主に交際前後の熟年カップルのお話です。
すみれが犬ならではの嗅覚で人間たちの「におい」による心理分析をしてくれます。
本編では書かれなかった糸真父が不器用で不気味ななアタックを仕掛けてくる頃の和央母の不安とか、クリスマスにお酒を飲んだといっていた糸真父の嘘や緊張が描かれます。
すみれは平和で博愛主義者なので誰がイヤとか嫌いとかは発しないので安心して読めます。
高校生たちのにおいに関する描写は一切ありませんね。
和央の気持ちとか、弦の変化とかここで先行して公開する訳にはいきませんもんね。
新しいソファもあるし、新しいお家でもっと幸せに暮らすんだよ、すみれ。