《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

湿気が気持ち悪い ここはカントーという場所ですね。すみれと糸真ちゃんの育った場所です。

プリンシパル 7 (マーガレットコミックスDIGITAL)
いくえみ 綾(いくえみ りょう)
プリンシパル
第7巻評価:★★★★☆(9点)
  総合評価:★★★★☆(9点)
 

弦への想いを自覚し、金沢に別れを告げた糸真。弦には当たり障りのない態度で接していたが、晴歌から「嘘はつかないでね」と、あるメールを見せられて──!? 恋に友情に悩みまくりの糸真は、青春の主人公になれるのか!? 一方、順調に愛を育む和央&弓をつけ狙う影が…。

簡潔完結感想文

  • されて嫌だったことをしてしまう糸真。弦化した後の和央化だと繕う糸真。
  • 和央化、それは親しい間柄との挨拶のキス。和央は勁草なので疾風も平気さ。
  • 最後だから「人生でとにかく一番素直な言葉をいってみるのがベスト」だよ!


流転の物語が、一つの安住の地を定める最終7巻。
そして、これまで隠していた想いや関係が露見する7巻です。


今までの自分をリセットするはずだった糸真(しま)だが、やっぱり現実は簡単にリセットできない。

現実逃避のような恋愛の真似事をして、この人ではないと思い知ってから交際をお断りした「金やん(かなやん)」はプチストーカーと化す。
そんな金やんがリークした情報によって、糸真は晴歌(はるか)に弦が好きだと白状することに。
そして、2人の間で貧困なボキャブラリーの壮絶な言い争いが巻き起こる。
その光景を見ていた実は当事者の弦は、女子二人の間に割って入る、なんてことはせず「女子こえ―」の一言を呟き退散。

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喧嘩するほど仲が良い、ってことかな…?
そしてその日の放課後には「弦としてない」と晴歌の流れるようなカミングアウト。
会話としては金やんと上手くいかなかった糸真を責めているようで、自分に、友人に正直であろうとした晴歌は強いですね。
晴歌は自分が女生徒のイジメの標的になって以降、自分の感情や感傷に流されない生き方を身に着けましたね。
そして、その後の糸真の表情などを見せないところも引きの美学。

今巻では立て続けに事件が起こるが、その怪我の功名で人間関係がシリアスに陥らないという面もある。
困った時は助け合うのが人の姿。本書の高校生たちはそれが出来る子なのです。

言い争った後で糸真と晴歌が「一時休戦」したのも金やん問題があったから。
ただ、金やんも悪い人には なりきれない常識人である。
別の男に手を引かれながら「ばいばい」と金やんと印象的なお別れをする糸真。
その後に彼に不意打ちかます糸真ちゃんはキュートである。


金やんがストーカー化から脱却できたのは、別のストーカーの姿を情けないと思ったから。
かねてから和央周辺を嗅ぎまわっていた女子生徒の存在がクローズアップされる。

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情報のリークとキス問題、似た者姉弟は悩みも似ている。
すみれ(犬)の散歩中にした弓(ゆみ)ちゃんとのキスを写真に撮られた恐れのある和央。
この『7巻』は二組の男女のキスの物語ですね。
その問題やら糸真の不意打ちやらを議題に作戦会議をする一つのベッドの上の義姉弟・糸真と和央。
糸真父と和央母は年頃の義姉弟の関係を怪しんだりしないんですかね。
和央母は糸真の相手が弦だと思っていた節があるので、和央は考慮していないんでしょうか。


そして恐れていた通りに、弓ちゃんとの「現場写真」が校内が張り出されてしまい、時の人となる和央。
そこでひざを突き合わせる、いつもの4人の男女。
やっぱり非常事態宣言下ではみなが休戦します。

弦から告白の返事を聞く糸真と、親に事の顛末を報告をする和央の、大事な場面を上下分割で同時進行させる手法が秀逸。
糸真は言い訳で本心を隠して、和央は本心を隠す言い訳を繰り出す。

そして糸真の恋の結果は意外なもの。
でも因果応報。これが本心から逃げようとした糸真の罰。
相手だってそんな人の後出しじゃんけんに付き合ってられません。


糸真と弦、二人の間を流れる微妙な空気も、犬の散歩中、以前に住んでいた家が取り壊されたことを知った和央たちによってかき乱される。
より新鮮な衝撃で嫌な空気を押し出していって、彼らと読者を窒息させない感じが良いですね。
そして、それぞれの姉弟が指定によって叩き起こされたと思うと笑っちゃいます。

衝撃的な事件のお陰で、顔を合わせることが自然にできた。
そして二人はあの写真以降キス魔と噂されるようになった和央を守る親衛隊員という「同志」になる。


最終回は時系列が入り乱れ、そして情報量が多すぎてどう処理していいか分からないけど幸せな回。

「思い出」として回想される和央最後の高熱を出した日は修学旅行の前日。
和央の修学旅行欠席はキス事件による謹慎だと噂され、そのキス事件の写真を撮影した女生徒が和央のもとに謝罪に来る。
罰として自分も修学旅行を欠席すると言い出す女生徒を改心させて、和央は父に空港までの運転をお願いする。

この場面、和央が糸真父を、お父さんを迷わず頼って車を出してもらうんですね。
以前は遠慮していたけど、今回は違う。こういう細かい描写とその発見が読者としても嬉しいですよね。
心の変移を適切に描けるのは、それだけ作者が登場人物の心に近づいてるからですかね。

自分がモテる裏で、気持ちに応えられないことで悲しむ人が出ることをちゃんと理解している和央。
貫くことで、その恋たちを「無駄にはしない」。
勢いあまって結婚とか言い出しちゃいましたけどね。
でも和央なら本当にするんでしょうけどね。お幸せにだよ。

和央が男性ということもあり、気づかなかったが、こう見ると和央は正統派の少女漫画のヒロインですよね。
たとえ結婚相手がいようとも一途な思いを支えにして待つ。
自分の成長と、相手の気持ちの整理を信じて待つ。

そして糸真が今回は無事に参加できたクリスマス女子会の裏で起こっていた和央と弦のクリスマスのエピソードは、二人ともらしからぬ行動ですね。
あの和央も緊張してるし、弦も協力者丸出しだし。嘘がつけない人なので演技も出来ないんでしょうね。


駆け足で回想される3年生の思い出として語られるのは王子さまたちと糸真のクラスが違うこと、そして糸真と弦と話すのが数か月ぶりなこと。

受験生になって顔に覇気がなくノーメイクのような表情の弦。髪もまた伸びてるし。
どうして生活が面白くないのか、その原因を卒業式の後で「人生でとにかく一番素直な言葉」で相手に伝える。

この場面に及んでも表層上の弦は強がっていて、そして和央にはお見通しで「がんばって」という関係性がいい。
糸真と和央の関係性も好きだが、和央と弦の関係性も好きだ。

糸真の弦は恋愛はもちろん、生き方や和央への手厚さなど似ているところが多い。
だからこそ「同志」なのだ。
私が糸真に好感を持つのはその頭の回転の速さとか立ち位置などの気配りができる性格とかもあるけれど、恋愛脳じゃないってところも大きい。
手痛い失敗をして自分も相手も傷つけたこともあって、だからこそ自制する力を獲得した。
これは糸真なりの反省なんだろう。作者の作品『潔く柔く』でも反省から交際をしないって展開ありましたね。
そこは和央ともやっぱり似ていて若い身空ながら、大切に持ち続けることも、いつまでも待つことも出来る子たちなのです。


最終話の冒頭は、糸真が実の母の家にいてびっくりしましたが、どうやら和央以外の一家で東京に引っ越した模様。
そういえば家は借家って言っていたような。
買ってないから自由に動ける。
ちなみに糸真父は脚本家で、お仕事も順調みたいですね。

時間が経過しているのに和央は、幼少のみぎり弦と出会った頃と同じようなわかめヘアーだ。なぜ??
弦が一層 和央のこと好きになっちゃうよ(笑)


本当に何度、読み返しても楽しい漫画ですよね。
完結後に読み返して分かる、登場人物の変わらなさと変わったこと。
最初からそこに「いる」登場人物たち、これまでの和央と弦の歴史や生活がちゃんとあっての初回なんです。
作者の画力も最初から高いし、構想と想像がしっかりされているので登場人物たちに違和感や誤謬がない。

時系列が入り乱れているわけではないけど、関係性は混線状態。
相関図は何度も書き直される展開が、一歩ずつ前進する彼らの成長が大好きです。

そして最後は嬉しいサプライズ。
糸真と和央は本当のお姉ちゃんとお兄ちゃんになります。
このための糸真ひとりっ子(義父兄弟が登場しない)設定だったのかな?