《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

恋愛の神様:雫の恋は波乱あり。作品の神様:ヤマケンは当て馬。

となりの怪物くん(4) (デザートコミックス)
ろびこ
となりの怪物くん(となりのかいぶつくん)
第4巻評価:★★★☆(7点)
  総合評価:★★★★(8点)
 

となりの席の超問題児・吉田春への恋心を封印した水谷雫。ギクシャクしたままの日々が続いたけれど、ハルの友達・ヤマケンのアドバイスもあって次第に雫はちゃんと人と向き合おうと変わり始める。しかし、ハルがそのヤマケンを意識しすぎて…!?

簡潔完結感想文

  • 上から目線のヤマケンの下克上。つまり漫画的には君は下の下の存在だお。
  • 歪な三角関係。両想いのはずの2人を結ぶ線が手書きのように波打っている。
  • 不器用な初恋がまた一つ生まれる。この2人か…、永遠の王国が崩壊しそうだ。


少し優しい言葉をかけると気持ちが揺れちゃうチョロい男たちの4巻。

でも現実もそんなもんかもしれませんね。
(例え無理矢理でも)褒められただけで舞いあがって、これは好意から出た言葉ではないかと邪推または誤解を重ねてしまう。
完全に社交辞令なのに。
だから特定の女性の接客業が儲かるんでしょうね。
チョロいんですよ男なんて。

もう一人、その鉄壁のガードの割にチョロく恋に落ちたのが夏目ちゃん。
何やら過去にトラブルのあった以前の同級生からの蔑視を救ってくれたのは偶然現れたバッティングセンターの店長・みっちゃん。
まさかハルのいとこでもある彼に夏目ちゃんが惚れるとは思いませんでした。

このみっちゃん、確かに悪い人ではない。
いくらハルが関わっているとはいえお子様たちを川へ連れて行ったり、バッティングセンターの受付前をたむろの場として提供したり温厚な人物だ。
ただずっとサングラスを掛けて素顔を見せないように、何か底知れない顔を持っていそうな雰囲気もある。
もし夏目ちゃんの好意を拒否する時は、彼女を再起不能なほど傷つけそうで怖い。
高校生同士の友人までは関係性が戻せそうな恋愛と違って遺恨が残りそうなんですよね。


雫とハルのなかなか進まない関係と並走して大島さんや夏目ちゃん、そして今巻からヤマケンの恋も始動する。
以前もいいましたが、ハルにたかる友人役として初登場した初回からは考えられない大出世。
作者もカバー下で言ってますがヤマケンは下克上ですよね。
既に当て馬とも言われてるのが涙を誘います…。

ツンデレ風味のヤマケンのチョロい恋愛も楽しいところ。
雫が無意識で発した言葉にいちいち喜んでる姿に萌えるといえば萌える。
今、気づきましたけど、塾でのヤマケンは「となりのヤマケンくん」なんですね。
もっと題名に即すなら「となりの俗物くん」だろうか。
「となりのセレブくん」もう「当て馬くん」「プライドくん」でもいい。
怪物の居ぬ間にどうにか雫に好意を持ってもらおうと、とてもそうとは思えない発言で彼女に近づこうとしてる。
不器用ですね、みんな。

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塾限定「となりのヤマケンくん」。打算のない雫の行動は意外にも男の心を撃ち抜く。
雫は男を手懐ける術でも持っているんですかね。
もしかしたら媚びたり持ち上げたりしないけど嘘がないから、プライドや幼児性をこじらせた男たちはその言葉に一喜一憂できるのかも。
今回も偶然とはいえ雫は、雨で嫌な記憶に引きずられそうなハルの救世主になっている。
一本筋の通ったところがハルにとっての蜘蛛の糸なのだろうか。


作中で、ハルがザリガニ釣りに興じると知ったヤマケンが「発想が小学生で止まって」ると指摘していたが、これは結構重要な言葉なのだろうか。
今回、暗示された兄・優山から存在を否定された小学生のハルは大いに傷つき、だから過去のある時点で精神的な成長が停止しているのか。
そのまま体が大きい子どもになったから暴力をふるう事にも、感情を抑制できないのにも理由がある。
そう読んでいくとこれまでのハルの言動も理解できますね。
我慢できない小学生と堅物の恋。
キンタマついて」るんでオスとして求めることもあるけれど、基本はそう読んだらいいんですかね。
作品への違和感や疑問が氷解した気分。
誤読かもですが。


今巻の冒頭で水谷家の事情が明らかに。
どうやら父は繰り返し事業に失敗しており、その損失補填を母の収入で行うという感じみたいだ。
このせいで働けど働けどなお我が暮らし楽にならざり、って感じなんでしょうか。
父に専業主夫を押し付けないのは母の好意ゆえでしょうか。
なぜこの2人が夫婦になったのか、いつかつまびらかにしてほしい。

勘違いしがちだが雫はテスト対策万全の秀才タイプではないんですよね。
様々な事柄に精通していて割と本物の天才っぽい。
ハルが簡単にその上をいくので忘れがちだけど。
この2人の子育てはどんな風なんだろう。
子供が勉強に関心を示さなかったらどう思うのだろう。
色々考えてしまう。


初詣で引いたおみくじの文言はなかなか示唆に富んでいる。
女性3人が凶で雫が「波乱あり」まぁそうでしょうね。
唯一大吉のハルが「言動をつつしめ」前に同じ。
大島さん「辛抱が必要」前に同じ。
夏目ちゃんは「すぐ傍に有り」傍とはどのあたりでしょうか。
確かに傍にいるよ。
作者の構想ではこの時点でもう夏目ちゃんの交際相手は決まっていたのでしょうか。

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狭い範囲で起こる恋の渋滞。恋の決着にも注目したい。
ササヤンの社交性は凄いですね。
この漫画は不器用な人たちが大集合しているので、彼の抜け目なさがそれだけ目立つ。
大島をクリスマスパーティーに2度誘って参加させてたり、ヤマケングループとも交流をしてるし、ハルにも勉強を教わってダメ出しまでしている。
怖いもの知らずなのか。

ずっと名前だけ登場していた大島さんの中学時代の友達ユウちゃんも初の顔出ししている。
一方で存在が明らかになってるのに雫の弟はまだ出てこず。
あまりいっぺんに登場人物を出さない親切設計なのかしら。