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少女漫画と小説の感想ブログです

少女漫画あるある 途中参加のチャラ男 頭盛りがち 頭長くなりがち。「俺物語」田中「君届」健人。

君に届け リマスター版 9 (マーガレットコミックスDIGITAL)
椎名 軽穂(しいな かるほ)
君に届け(きみにとどけ)
第9巻評価:★★★★(8点)
   総合評価:★★★★(8点)
 

風早の好きな人について考えたり、どんどん自分の素直な気持ちが出せなくなってきた爽子。学園祭準備のさなか、お互いの気持ちを話す機会はあったが、それは2人とも誤解に基づいていて…。学園祭がスタートするが2人の距離は近づくの?

簡潔完結感想文

  • 周囲のお膳立てをちゃぶ台返しする健人。号泣する妻爽子の前に元旦那が現れ…。
  • ライバルに発破をかけられる爽子。誤解されても頑張ってきたのが爽子でしょ?
  • いよいよ第一部のクライマックス。想いが届いたら最終回でもいいんですけど…。


健人に対して怒り心頭、だけど彼の立場なら仕方がないよね、と思う9巻。

健人は自分が見聞きした情報から爽子の恋は一方的な片想いで、風早は別のすきな人がいると誤情報を流してしまう健人。
それによって爽子は号泣し、疑似失恋を味わう。
駆け付けた風早は爽子に迫ろうとしているようにも見える健人と泣いている爽子を目撃し、彼もまた誤解から怒りを発する。
その修羅場のような状況を同級生に見られ、爽子をからかわれた風早は彼女を守るためにも自分の気持ちをさらけ出すのだが…。

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号泣する爽子を見て 思わず激高してしまう風早
私の好きなミステリで例えれば、健人は本物の名探偵登場の前に推理を延々と開陳する名探偵になりそこねた者である。
これまで健人が見聞きした情報から爽子と風早の関係から導き出される答えは「望みなし」となっても不自然ではない。

なぜなら健人が初登場したバレンタイン回の時には爽子は風早への好意を、くるみに自分から伝えるぐらいに自覚しており、チョコを抱える爽子からその好意のにおいを感じ取った健人の鋭敏な感覚は褒められもする点である。

だがいかんせん彼は1年生2学期における「ときめきメモリ」あっている風早と爽子の姿を見ていないのだ。
健人は風早を意識してからの爽子しか見ていないので、彼らの間に流れる不自然な距離感や、相手を一定以上の距離に踏み込ませないような警戒心、すなわち「壁」の存在だけを嗅ぎ取ってしまったのだ。

そうして健人はミステリにおける中盤の50ページ延々と自説の推理を垂れ流す、メタ視点では読者にこいつの推理は絶対に間違っている!と思われる滑稽な人物となり果ててしまった。
後で女性陣から制裁も加えられているから彼の暴走は許そうじゃないか。

ちなみに「くるみ事変」の時のあやねは見事に名探偵を演じきったのになぁ…。

風早に失恋したと誤解する「なんならオレにする?」と聞く健人。
チャラ男あるあるですね。初手は軽かったが、この後にどんどん本気になるってのは定番の展開。
まぁ健人の場合は来るもの拒まず、博愛精神的な感じっぽいが。
健人はそこを絶妙に回避してくれて本当に良かった。
君は偽の探偵だし、制裁くらってるし、2人の関係知ったら入る隙ないもんね。そして健人の偽物感は今後も続くのだった…。


爽子が号泣した後のシーンは『前巻』ラストからは予想だにしない唐突な告白で腰を抜かした。
あの準備運動ばかりに余念がなかった風早が「ついに言った!」というある種の達成感を得たのも束の間、爽子はまた風早ブランドを傷つけないようにするため間違った釈明をする。
健人も誤解を重ねていたが、当本人たちも誤解を重ねるもどかしい展開。

風早もまた疑似失恋を体験する。
更に健人によって傷口に塩を塗りこまれるような爽子からの二度目の否定。
号泣した爽子と違い風早の方はさすがに落ち着いてますね。
確実に落ち込んでるでしょうが。

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風早を神聖視するあまり、一定の距離を置いてしまう爽子
そんな心境の風早が言う「憧れてたのは きっと俺の方だ」は本当にいい言葉だなぁ。
どちらが先に、どちらからすきになったのかという視点ではなく、爽子はもちろん風早も爽子に憧憬を抱いていたという新しい視点をくれた。
誤解のお陰で風早のこの言葉が引き出された。
その意味では感謝だ、健人。

風早短気説は作者も認める所なので、私の推す風早DV予備軍説を推し進めて欲しかったなぁ。
風早が「迷惑なら そう言えばいいんだ」と穏やかに言ったその直後「ってか、この1年すげー優しくしてきたのにそれかよ⁉」「誰のお陰で今の人気があると思ってんだよ!」「俺が貞子なんかに本気になる訳ねーだろ、ブス!」。
妄想は楽しいですね。
でもこれは流石に作品に対して失礼ですね…。


その容貌から誤解され続けてきた爽子の人生だもの。
それでも「あきらめずにずっと頑張ってきた」から友達やクラスメイトに囲まれる今がある。
爽子が1人で頑張ればきっと事態は好転するはず。届け、届け!

爽子の中で風早が神様から転落する構図も好きです。
多分、風早中学時代に作られた「風早みんなのもの協定」は風早を神として扱っていたと思う。
不可侵の領域に祀り上げることによって神を俗世の汚れから遠ざける。
ただし己の煩悩を排除する事が条件。

しかし爽子は今、煩悩まみれだろう。
どこまでも風早を崇めてしまったことによって出来た距離が今回の失敗の原因。
風早の優しさは慈悲なんかじゃない、それもエゴ。
今、爽子は対等に人として距離を詰めようとしている。

吉田の「鈍さに慣れるな」も本書有数の名言ですね。
私なんか、といつもネガティブ思考に陥ってしまう人には目の覚める言葉だ。
半年に一回ぐらいは思い出したい言葉ですね。
今の私は鈍さに慣れてはいないか?と問い続けよう。

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