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夢の守り人 (新潮文庫)

夢の守り人 (新潮文庫)

人の夢を糧とする異界の“花”に囚われ、人鬼と化したタンダ。女用心棒バルサは幼な馴染を救うため、命を賭ける。心の絆は“花”の魔力に打ち克てるのか? 開花の時を迎えた“花”は、その力を増していく。不可思議な歌で人の心をとろけさせる放浪の歌い手ユグノの正体は? そして、今明かされる大呪術師トロガイの秘められた過去とは?いよいよ緊迫度を増すシリーズ第3弾。


この「守り人」シリーズは日本を代表する秀逸なファンタジー小説だと思うが、ファンタジー小説の非現実的な空想世界は苦手と敬遠してしまう私の様な人も多いだろう。確かに本シリーズでも現実と重なる世界が存在し、世界の理も大きく違う。しかし斯く言う私たちにだって現実ともう一つの世界と行き来しているのではないか。それが「夢」である。そして夢があるから現実があり、ファンタジー世界だからこそ鮮明に現実が映るのである。
書名どおり本書のテーマは「夢」である。ある共通の体験から夢から醒めなくなってしまった人々が居た。更にその夢に皇太子・チャグムまで囚われてしまい…、というストーリーがメイン。そして本書での主人公といえる呪術師師弟・トロガイとタンダは、目覚めながら夢に生きる人々と言えよう。本書は2人の過去が、呪術師という役割が明らかにされるのだが、農村に生まれた彼らが畑を捨て生きる事は、他者からは夢に生きる者に見え、疎まれると同時に自由の象徴にも見え羨望と嫉妬を浴びる存在であるのだろう。
前2巻に比べるとバルサの活躍≒アクションシーンは少なめで、先の予測しやすい物語の展開としてはやや眠気を感じるかもしれない。しかし主人公・バルサにとって最悪の「敵」の存在、そしてシリーズとして大きく動き始める予感が胸を弾ませる。本書で1作目にも登場した若き星読博士・シュガがその知性で見抜いた影響し合う多重世界という壮大な構図が紹介された。これは小説世界の構図の他に、バルサと物語の距離も決めたように思う。物語の主人公という性格上、あたかもバルサが国の、世界の中心にいるという天動説のような錯覚に陥ってしまいがちだ。しかしこの構図によって、バルサやチャグムが生きるこの時代こそが、日食のような特殊なタイミングだという事が客観的に説明されたのである。これで行く場所、行く場所で殺人事件が発生するミステリ小説のような不自然さは解消されたのである(そんなミステリのお約束も大好きだけど)。
そして何と言っても嬉しかったのはチャグムの再登場とバルサとの再会。バルサに会いたいという強い願いにより夢魔に囚われたチャグムだったけど、災い転じて、いや自分の能力を駆使し知恵を巡らせて、その夢を現実にしていく過程に彼の成長を感じられた。なんか生意気にもなってるけど、バルサとの再会、そして再びの別離の場面では眼球がかなり潤った。
本書は「夢」という一文字が多義的に使われていた。願望、逃避、目的、憧憬、人生、過去、未来など、人は夢に自分の想いを映す。そして私たち読者は上橋さんの小説という素晴らしい夢により、その夢が醒めてしまっても現実を歩き出すエネルギーを与えてもらっている。それは本書の「花」とは真逆の存在である。私たちは作者の夢を食べている。お返しに現実で綺麗な花を咲かせよう。

夢の守り人ゆめのもりびと   読了日:2011年04月02日