- 作者: 有栖川有栖
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2010/01/28
- メディア: 文庫
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友人の作家・有栖川有栖と休養に出かけた臨床犯罪学者の火村英生は、手違いから目的地とは違う島に連れて来られてしまう。通称・烏島と呼ばれるそこは、その名の通り、数多の烏が乱舞する絶海の孤島だった。俗世との接触を絶って隠遁する作家。謎のIT長者をはじめ、次々と集まり来る人々。奇怪な殺人事件。精緻なロジックの導き出す、エレガントかつアクロバティックな結末。ミステリの醍醐味と喜びを詰め込んだ、最新長編。
火村シリーズ久々の長編。ジャンルは所謂「孤島モノ」。大学助教授の火村が外部との接触を断たれ孤島と化した島で起きる殺人事件の謎、そして今回は孤島に集う人々の隠された目的・ミッシングリンクも推理する。
本書では殺人事件よりも「海老原会(勝手に命名)」の謎が長い間、論議されている。英文学者にして詩人・SF作家でもあるカリスマ・海老原瞬。その彼の下に集う「海老原会」。そのメンバーは医師と30代の男女と2人の子供。しかしコアなファンが多い作家の集いに子供も含まれている事に火村は違和感を覚え…。 この何らかの目的・信念を持って行動する集団(インサイダー)と火村たちアウトサイダーの対比は、孤立無援の孤島という世間と隔絶した空間とマッチしていた。
が、残念ながら大きく取り上げられている「海老原会」の真の目的は、途中で火村が指摘した推論と(私の中では)大きく変わらないように思えた。確かに全ての手札を使い切っての推理ではあるが、もったいぶった割に意外性がなかった事に落胆してしまった。海老原の自室にある鴉の剥製の話も思わせ振りな描写だけで終わっていたし…。私としてはもっと異常な動機・信念が隠されて欲しかった。
そう、殺人事件の動機も「孤島モノ」に相応しくない気がした。折角、俗世から物理的にも精神的にも孤立した気高き島というイメージだったのに、それを見事に破壊してくれた凡庸な背景。電話線切断の理由は「孤島モノ」の特徴を上手く捉えていたので尚更、残念だ。それに加えて犯人限定の条件が(ネタバレ:反転→)高所恐怖症(←)というのはどうだろう…。壮大な目的を完遂するため行動する為ならば個人的な恐怖は克服しそうだけど。犯人が合理的であろうとするなら尚更だ。
「孤島」と「鴉」がキーワードだが、鴉を多用する割には事件に血生臭いものはなく、孤島で殺人鬼に怯える人々の緊迫感だとか焦燥感の描写は少なかった。鴉でビビらせたいのか、無邪気な子供で和ませたいのかどっちつかずだ。全体的に厳粛な重い雰囲気に対して動機が軽い(ように思える)。目に見えない暗い欲望と鴉の黒を合わせればよかったのに。にしても「前口上」は何だったのだろうか。結局あまり関係なく必要なかった気もするのだが…。